民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「碧鈴」 第14号 「雨」

2013年01月16日 02時01分23秒 | マイ・エッセイ&碧鈴
 「碧鈴」 第14号 「雨」 風来 武(かざき たけし)

 「碧鈴」とはオレが学生時代、入っていた同人雑誌の名前。
そこでオレが書いたモノ。(読みやすいように改行した)
風来 武はオレのペンネーム。

 「雨」

 昨日はほとんど一日中、雨が降っていた。
俺はぼんやりと、窓から外を眺めていた。
無意思に降る雨は、俺を無抵抗に受け入れてくれた。
俺にはそれが快かった。

 明るいような、暗いような、どっちともつかぬ空の色。
実際は明るいのかも知れない。
雨に恥じて暗くなっているのだろうか。
中途半端な空。
間断なく降る雨。

 俺は空虚な眼を雨の前に晒していた。
眼の前が雨だれでポツリポツリと刺激される。
それでも俺は何にも考えずに、空虚な眼をひらいて、外を眺めた。

 前の家の物干し竿に靴下が五、六足死んだようにぶら下がっていた。
まだ持ち主が起きていないのだろうか。
しかし昼はとっくに過ぎている。
たぶん起きているはずだ。
部屋にはかすかな明かりが見える。
あの明かりは電燈の明かりに違いない。

 朝早くから降り出した雨は、既に十分、靴下に水を含ませていた。
持ち主はもう取り込んでも仕方がないと諦めたのだろう。
その自暴自棄の犠牲になった靴下。
可哀想な靴下。

 だがそんな感傷を超えて、俺はその靴下を見るのが、今の自分を見るようで、
たまらなく嫌だった。

 が、俺は執拗にその靴下を凝視し続けた。
まるで自分に、今の俺の姿はあんな風なんだぞ、と思い知らせるように。

 終わり