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民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「思考のレッスン」 その6 丸谷 才一

2017年03月25日 23時11分02秒 | 文章読本(作法)
 「思考のレッスン」 その6 丸谷 才一 文藝春秋 1999年

 「書き出しから結びまで」 その4 P-277

 次に終わり方。これは書き出しと同じです。

 「終わりの挨拶は書くな」

 「はなはだ簡単ではあるが・・・」とか、「長々と書いてきたが・・・」とか、これはやめる。パッと終わればいい。誰もそんな結びの挨拶なんか読みたくないんです。結びの挨拶がないと格好がつかないという感覚を、えてして人は持ちがちだけれども、そんなことはない。すっきりと終わればいいんです。

 繰り返しますよ。書き出しに挨拶を書くな。書き始めたら、前へむかって着実に薦め。中身が足りなかったら、考え直せ。そして、パッと終れ。

 そこにもう一つ、全体にかかわる心得を付け加えます。それは、「書くに値する内容を持って書く」ということ。

 書くに値する内容といっても、別に深刻、荘重、悲壮、天下国家を論じたり人生の哲理を論じたり、重大な事柄である必要はない。ごく軽い笑い話、愉快な話、冗談でもいい。重い軽いは別として、とにかく書くに値すること、人に語るに値すること、それをしっかりと持って書くことが大事なんですね。

「思考のレッスン」 その5 丸谷 才一

2017年03月23日 00時05分03秒 | 文章読本(作法)
 「思考のレッスン」 その5 丸谷 才一 文藝春秋 1999年

 「書き出しから結びまで」 その3 P-276

 丸谷 次は、文章の半ばのコツ――。

 「とにかく前へ前へ向かって着実に進むこと。逆戻りしないこと。休まないこと」

 話があっちこっちへ飛ぶ書き方というのもあるけれども、これは玄人の藝であって、また別。

 (中略)

 もう一つ、書いてる途中で、「ちょっと中身が足りないなあ」ということがある。そのときに、どうすればいいか?

 僕なんかそれで暮らしを立ててる身だから当たり前だけれど、人の文章を読んでいて、「あ、ここからここまでが水増しだ」とわかる。ことに随筆なんか、如実にわかっちゃう(笑)。随筆って、具合の悪いことに枚数が指定されているでしょう。10枚書いてくれとか。あんまり書くことがなくても、決まった枚数は埋めなきゃならないからたいへんなんですね。
 でも水増しというのはなにか興ざめするものでね。読んでいて急に味気ない気持ちになる。
 では、水増しとわからないようにするための書き方は何であるか?実に簡単です。水増しをしないこと(笑)。

 まず自分の書く中身を考えて、どうもこの枚数には、これじゃ足りないぞと思ったら、もう一度、考え直す。この内容で何枚書けるかということは、たくさん書くとわかってくるんです。ところが、この考え直すことをみんなしたがらないのね。

 ――せっかく考えたんだから、なんとかそれで間に合わせたいんです(笑)。

 よく、「原稿用紙が埋まらない」とウンウン言いながら書いている人がいるじゃない。一体に、考える時間が短いから、書く時間が長くなるんです。たくさん考えれば、書く時間は短くてすむ。


「思考のレッスン」 その4 丸谷 才一

2017年03月21日 02時00分42秒 | 文章読本(作法)
 「思考のレッスン」 その4 丸谷 才一 文藝春秋 1999年

 「書き出しから結びまで」 その2 P-272

 まず出だしの所。
 「挨拶は不要である。いきなり用件に入れ」

 (中略)

 われわれは、村落共同体のなかに何千年も生きてきて、言葉を使うことはお辞儀をしたりお茶を勧めたりすることによく似ている、と思ってしまった。中身のない挨拶をすることが言葉を使うことだと思いこんでしまった。この思い込みが日本語の文章の敵なんです。お愛想ではなく、中身を語ること、中身を相手に伝えることが文章の目的なんです。

 プロの文筆業者が書いている随筆でも、「のっけから私事で恐縮だが・・・」といった挨拶で始まるものがけっこうある。恐縮なんかする必要はない。私事であっても、必要だと思ったら書けばいい。こういう前置きがあると、もう読むのがいやになってしまうんですね。
 書くべき内容がないから挨拶を書く。挨拶はダメだという基本の文章心得を知らないから書く。「挨拶は書かない」、これを現代日本人の文章心得にすべきなんです。

 (中略)

 次は、少し高等技術です。書き出しを考えるときに、他の人ならどう書くかなあ、何の話から始めるかなあと考える。その上で、他の人がやりそうなものは全部捨てるんです。

 じゃあ、嫌気をささせないためにはどうすればいいか。それは紋切り型をよすことです。で、その紋切り型の書き出しの最たるものが、さっきの挨拶なんですね。

「思考のレッスン」 その3 丸谷 才一 

2017年03月19日 00時03分10秒 | 文章読本(作法)
 「思考のレッスン」 その3 丸谷 才一 文藝春秋 1999年

 「書き出しから結びまで」 その1 P-271

 丸谷 文章で一番大事なことは何か?それは最後まで読ませるということです。当たり前のようだけど、これがむずかしい。

 (中略)

 だから、文章で一番大事なことは、とにかく最後まで読ませることなんです。憤慨しながらだって、最後まで読むことになれば、ある意味で及第点なんです。

 「文章の最低の資格は、最後まで読ませることである」
 これを強調しておきたい。

 さあ、ではそのためには、どうすればいいか?
 アリストテレスの『詩学』にならって、書き出し、半ば、結びのそれぞれについて考えて行きましょう。


「思考のレッスン」 その2 丸谷 才一

2017年03月17日 00時26分29秒 | 文章読本(作法)
 「思考のレッスン」 その2 丸谷 才一 文藝春秋 1999年

 「レトリックの大切さ」 P-262

 丸谷 今回はものを書く上での心構えから始めましょう。
 当たり前ですが、ものを書くというのは、何か言いたいことがあるから書くわけですね。そのせいで、つい自分の思いのたけをひたむきに述べる、訴えるという書き方になりがちです。でも、どうもこういう書き方はあまりうまくいかない。

 趣味の問題かもしれないけれど、僕はむしろ「対話的な気持ちで書く」というのが書き方のコツだと思う。自分の内部に甲乙二人がいて、その両者がいろんなことを語りあう。ああでもない、こうでもないと議論をして、考えを深めたり新しい発見をしたりする。そういう気持ちで考えた上で、文章にまとめるとうまく行くような気がします。