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我が社のブルシット・ジョブ

2023年08月23日 22時50分53秒 | 職場人権レポートVol.3
 
みんな、「ブルシット・ジョブ(Bulushit Jobs)」と言う言葉を知っているか?英国のデヴィッド・クレーバーという人類学者が2018年に言い出した言葉で、日本語では「クソどうでもよい仕事」と訳される。
 
こう書くと、みんなの中には「きつい、汚い、危険な」3K労働をイメージする人がいるかも知れない。確かに土方仕事やゴミ収集などはそんな仕事の典型だが、決して「どうでもいい仕事」なぞではない。何故なら、社会にとって必要不可欠な仕事だからだ。土方がいなければビルも建たないし、ゴミ収集車が来なければ町中ゴミで溢れかえってしまう。だから、これらの仕事は「シット・ジョブ(Shit Jobs)」(クソ仕事)と呼ばれ、「ブルシット・ジョブ」とは区別される。私達の勤める物流業界も、低賃金・長時間労働の3K労働という意味では、立派な「シット・ジョブ」だ。
 
また、マフィアや暴力団などのヤクザ稼業も「ブルシット・ジョブ」ではない。これらの稼業は反社会的な犯罪行為であり、その事は当事者であるヤクザ自身も十分理解している。だが「ブルシット・ジョブ」は違う。それに携わっている輩は、自分達の事を反社会的集団だとは、これっぽっちも思ってはいない。だから余計始末に悪いのだ。
 
では、3K労働でもヤクザ稼業でもない「ブルシット・ジョブ」とは、一体どんな仕事なのか?デヴィッド・クレバーはそれを次の主要5類型に分類している。但し、あくまでも主要5類型であって、細かく見ていけば更に色々分類出来るし、二つ以上の類型に属する仕事もあるらしい。
 
①取り巻き(受付の案内嬢や百貨店のエレベーターガールなど)。別になくても構わない仕事。実際、小さな会社にはそんな仕事はない。では何故、そんな仕事があるのか?「ここは大会社である」と来客に見せびらかす為である。
 
②脅し屋(企業の顧問弁護士や労務屋など)。内部通報者や組合活動家に対して、訴訟をほのめかしたり嫌がらせをするダーティーな仕事。でも非合法なヤクザとは違い、ギリギリ合法の範囲内で、法の網の目をかい潜って活動する。
 
③尻拭い(クレーム処理係など)。企業がクレーム起こすような不祥事を引き起こしさえしなければ、本来なら不要な仕事。
 
④書類穴埋め人(大して必要もない書類を作る人)。今までもお役所仕事の典型例として散々槍玉に挙げられて来た仕事。総務や庶務部門に多い。
 
⑤タスクマスター。上記①〜④の仕事を部下に割り振る人。
 
 
以上がその主要5分類だが、私はこれを見て、まるで自分の勤め先の物流請負企業にそっくりだと思った。
 
私の勤め先は大手スーパーの物流センター業務を請け負っている会社だ。スーパーの物流センターの中で、商品の検品や仕分け、積み込み、配送業務を請け負っている二次下請けの会社だ。その二次下請けの上に、経理事務を扱う一次下請け会社や、大手スーパーの正社員・役職者がいる。
 
実際に現場の業務を担っているのは二次下請けの我々なのに、一次下請けや大手スーパーの社員が、ろくに仕事もせずに構内をブラブラしていたり、偉そうな態度で我々に命令したりする事がよくある。これなぞ、私達から見たら典型的な①取り巻きではないか。
 
②も、今はいないが、以前はこんな人間が1人いた。同じ非正規のバイトなのに、一番年数がいっている事を鼻にかけ、他のバイトにあれこれ偉そうに仕事の指示をする奴だ。そいつは、改修工事中で見通しの悪い所で、私がうっかりそいつに荷物を当てて怪我させてしまった事を根に持ち、見通しの悪い中で作業させた会社の責任は棚上げして、私だけを悪者にして、治療費を請求して来た。しかも会社とグルになって、労災が下りないように仕組んで。幸い、外部の労働組合の尽力で、労災が適用されるようになったが。これなぞ典型的な②脅し屋ではないか。
 
③も、私達が仕分けする農産物を横で加工している別の下請け企業がいるが、その会社は仕事の段取りが悪く、いつも加工がダダ遅れになる。ただダダ遅れになるだけならまだしも、当日中に出荷しなければならない商品の加工を後回しにして、翌日出荷分の商品の加工を優先するから更に始末が悪い。翌日分の方が量が多いからそうしているらしい。でも先に出荷しなければならないのは、午後一番の便で配送車に積み込まなければならない当日分なのだから、あくまでそちらの加工を優先すべきではないか。その為に、私達は、加工遅延の状況をわざわざ毎日データに取って、会社に報告して会社の尻を叩かなければならない。これも本来ならやらなくても良い③尻拭い業務だ。
 
④も挙げればキリがない。例えば各種の作業日報がそうだ。私達、二次下請け企業の労働者は、毎日退勤時に、作業日報を提出する事になっている。何時から何時まで、どこでどんな作業をしたか、時系列にまとめて日報に書いて出して帰らなければならない。でも、実際の現場作業はそんな単純な物ではない。自分の作業が終わっても、A→B→Cと、遅れている部門の応援に入らなければならない。また、忙しい時はA→B→A→C…と、あちこちたらい回しにされる事もあれば、AとBの作業を同時に進めなければならない時もある。しかし、そんな時でも、作業日報には、何時から何時まではA作業、何時から何時まではB作業と、履歴書みたいに時系列に書かなければならないのだ。
 
そうすると、作業終了後に、後でまとめて書き直さなければならない。しかし、何時から何時までどこで何をしていたか、いちいち覚えていられない。だから、もう適当に書くしかない。そんな適当な作業日報なら、付ける意味がない。
 
そもそも、バイトに作業日報を毎日書かせるのは、そんな無駄な作業のたらい回しや作業の偏りを無くし、業務改善を図る為ではないのか?だが実際は、日報をバイトに書かせて、それをパソコンに入力するのが仕事になってしまっている。目的と手段が完全に逆転してしまっている。
 
⑤は、二次下請けのうちの社員だ。確かに私達は二次下請けで、大手スーパーや一次下請け企業から仕事をもらう立場だ。でも、そもそも何の為に我々は仕事をしているのか。スーパーの商品を買ってくれる消費者の為に、安全な商品を少しでも安い価格で提供出来るようにするのが我々の仕事だ。
 
あくまでも主体は消費者だ。その前には大手スーパーも一次下請けもない。消費者の事を思うなら、時には大手スーパーや一次下請けにとっては耳の痛い事も言わなければならない。
 
そう考えると、作業場がゴミまみれなのに目先の仕事を回す事だけ考えて、清掃をなおざりにして良いのか?自分達の都合だけで、当日出荷分の加工を後回しにして、翌日出荷分の加工を先にやるのが本当に望ましい姿なのか?誰でも分かるだろう。
 
でも、社員の誰もが、それを大手スーパーや一次下請けに言おうとはしない。ひたすら上の命令を下に降ろすだけだ。そんな社畜みたいな社員なら、単なる伝書鳩、ただ仕事を割り振るだけの⑤タスクマスターに過ぎない。
 
資本主義の下では自由競争が原則だ。「より良い商品を、より安く。そうして少しでも良い商品を、より安く提供出来る企業が、競争に勝ち残って大きくなっていく」というのが、自由競争の建前だ。
 
ところが実際はそうはなっていない。幾ら業務改善を図ろうとしても、上がウンと言わなければ物事が全然進まない。上がまともならまだしも、現実はそうではない事は、ビッグモーターの不祥事を見れば明らかだ。
 
二次下請けは一次下請けに頭が上がらず、一次下請けも大手スーパーには頭が上がらない。もう21世紀になるのに、いまだにこのような、江戸時代の士農工商の身分差別みたいな事がまかり通っている。これをデヴィッド・クレーバーは「経営封建制」と呼んで、「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」という著書の中で、槍玉に挙げている。
 
今の日本では、いまだに新自由主義が猛威をふるっている。昔は国がやっていた国鉄や郵便局の仕事も、「どんどん民営化して、資本主義の競争原理を取り入れる事で、サービスは良くなる」。これが新自由主義(ネオリベラリズム)の考え方だ。
 
その「新自由主義」の考え方で、大手スーパーも自社の正社員をリストラし、物流センター業務も一次下請けや二次下請けに丸投げして来た。下請け同士を競争させる事で、より良い商品をより安く消費者に提供出来るようになると考えて。
 
ところが実際の現場では、「経営封建制」が幅を利かせて、正論が通らなくなってしまっている。「より良い商品を、より安く」ではなく、「安かろう悪かろう」になってしまっている。
 
何故そんな事になってしまったのか?新自由主義の下では、役所や公務員だけでなく、労働組合も旧勢力として叩かれた。リストラに反対する抵抗勢力と名指しされて。
 
そうして、労働組合が弱体化させられ、労働基準法もどんどん骨抜きにされていった。労働組合内部でも、自民党や財界に尻尾をふる輩が力を持ち、組合の御用化が進んだ。
 
労働組合も公務員や大企業の正社員が中心で、二次下請けの私の会社には組合すらない。その結果、物言わぬ労働者ばかりになってしまい、正論が通らなくなってしまったのだ。
 
私達の会社が物流センター業務を請け負っている大手スーパーでも、事情は同じだ。より大きな百貨店の傘下に組み込まれ、その百貨店系列の物量センターで使われている備品の使用を事実上強制されている。物流改革の名の下に。
 
その為に、商品を運ぶ備品も、今まで使っていたカゴ車から、より小回りの利くカートに一斉に切り替えられた。でも、商品の荷姿はそのままなので、非常に積載効率が悪くなった。作業の手間が余計にかかるようになってしまったのだ。そして今や、ドーリーまでもがカートに切り替えられようとしている。今はまだ実験段階だが、これもゆくゆくはカートに一本化されるだろう。
 
左から順に、カゴ車、カートラック、ドーリーの例。
 
何種類もある備品が整理統合され、作業がやりやすくなるなら、それでも良い。ところが実際は、商品の形状や荷姿はそのままで、器だけ無理やり変えようとしている。しかし、今まで全く別個の経営体だった百貨店とスーパーでは、同じ物流センターの野菜でも、売っている物が全然違う。客層が違うのだから当然だ。備品の形状が違うのも、致し方がないだろう。
 
同じ流通業でも、業務スーパーと普通のスーパー、コンビニでは、同じ生鮮食料品を扱っていても、発注単位や商品規格が異なる。店内に常備している買い物カゴ一つ取っても、サイズが全然違うではないか。出来れば規格を統一して、同じ備品を使えるように出来れば、作業もはかどるだろう。でも、スーパーを吸収合併した百貨店が、「俺の方が格が上なんだから、俺の備品を使え」と強要したら、一体どうなる?
 
業務スーパーに置いてあるようなバカでかい買い物カゴを、狭いコンビニの中に置いたりしたら、身動きが取れなくなる。逆に、コンビニに置いてあるようなちっこい買い物カゴに、箱売りの商品なぞ入れる事は出来ない。そうであるにも関わらず、百貨店の方が格が上だからと、備品までそちらに合わそうとする。それではまるで「帝国主義」だ。
 
かつてのアメリカも、そうやって先住民のインデアンから土地や固有の文化を奪い、白人の文化を先住民に押し付けた。かつての日本も、アイヌや琉球、朝鮮や台湾を植民地化し、土地や固有の文化を奪い、日本人の文化を押し付けた。
 
くだんの百貨店は、外向けにはやれ「SDGs」だの「平和・人権・環境保護」だのとキレイゴトを言いながら、中ではまるで封建領主のように振る舞っている。職場で「仕事の為の仕事」すなわち「ブルシット・ジョブ」が蔓延し、上の顔色ばかりうかがう前述「主要5類型」の人種が幅を利かすようになったのも、ひとえにこの百貨店「帝国主義」のせいだ。
 
今や欧米では、「行き過ぎた新自由主義を見直そう」という考え方が主流になっている。国鉄を民営化した英国でも、その後、保安軽視で鉄道事故が続発する中で、再び国営に戻そうとしている。水道を民営化したフランスでも、民間会社が儲けにならないからと浄水場の整備を怠り、濁った水が水道から出て来るようになった事で、再び公営化に戻してしまった。
 
日本だけだ。江戸時代さながらの封建制が今も残り、いまだに時代遅れの新自由主義にしがみ付き、それがあたかも時代の流行であるかのように錯覚している、自民党や維新(実は第二自民)なぞという政党をもてはやしているのは。
 
その結果、大阪府や大阪市からコロナ関連業務(給付金支給、ワクチン接種予約受付など)を請け負った竹中平蔵のパソナが、行政からの交付金を中抜きし、給付金支給が全国一遅く、コロナ死者数も全国最多で、コロナ療養食も全国一不味かった(喉を痛めたコロナ患者にレトルトカレーを強要)にも関わらず、マスコミの宣伝に騙され、いまだに「吉村知事、頑張っている」と信じる府民が大勢いる。これではブルシット・ジョブがなくならないのも当然だ。

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私もブルシットジョブに心を折られた (ぶた猫ぶーにゃん)
2023-08-26 19:55:31
プレカリアートさん、こんばんは。
ぶた猫ぶーにゃんの社会的マイノリティ研究所です。

>みんな、「ブルシット・ジョブ(Bulushit Jobs)」と言う言葉を知っているか?

ここ、「おかあさんといっしょ」のうたのおにいさん・おねえさんの声で再生されちゃった(笑)
というか、「ブルシットジョブ」という文言は以前の記事に綴ったコメントで私が言及してるし(笑)
https://blog.goo.ne.jp/afghan_iraq_nk/e/dca030580b6cabf5f33504d436981dbb

こちらのコメントではブルシットジョブのことを「やってる感だけ出したい仕事」と私はしていますが本記事での分類だと①と④にあたるのかな?

まあ私も当該過去記事に綴りましたように「ブルシットジョブ」に心を折られて退職したんですよね…
コロナ感染対策をしてますよという「感」を出したいために必要以上に消毒装置を取り付けたりね…いちいち電池チェックもしなければならないし。

そうそう、わたくし、来月から「ポリテクセンター」の職業訓練を受けることになりました。それではまた。
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