【一般券】『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』 映画前売券(ムビチケEメール送付タイプ) | |
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「生涯未婚」とか「親子破産」とか、辛気臭い話題が続いているので、ここで気分転換に、また別の話題を取り上げてみようと思います。それが、先日観た映画「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」の感想です。
マイケル・ムーアというのは米国の映画監督です。「ボウリング・フォー・コロンバイン」を初め、「華氏911」「シッコ」「キャピタリズム」など、米国の社会問題を取り上げた映画を次々世に送り出してきました。この「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」でも、ベトナム戦争にもイラク戦争にも勝利出来なかった米国の国防総省幹部が、マイケル・ムーアにある指令を出します。その指令とは、「戦争に勝てない原因を探るべく、世界各地を『侵略』し、米国に欠けている物を分捕って来い!」というものです。ムーアは、その指令を受け、星条旗を掲げて米艦船に乗り込み、一人で世界各地に「侵略」に出かける・・・という想定で始まります。
ムーアがまず最初に向かった「侵略」先はイタリアです。イタリア人の働きぶりを探ります。そこで判明したのが、米国とは「月とスッポン」のイタリアの労働環境です。イタリアでは有給休暇が充実している(8週間)事は私もおぼろげながら知っていましたが、その他にも、1日の昼休みが2時間とか、育児休暇は5ヶ月取得可能とか。
その中でも極めつけは、12ヶ月働いたらもう1ヶ月分の給与が余分に支給されるという点です。日本のボーナスに当たる制度ですが、大企業だけでなく中小企業も、正社員だけでなく派遣社員も例外なしに支給されるというのが、日本のボーナスとの違いです。普段の給与は生活費に消えてしまうので、もう1ヶ月余分に給与を払って、バカンスを楽しんでもらうという趣旨だそうです。そのお陰で、イタリアは世界でも最も生産性の高い15ヶ国の中に入っているのだそうな。「米国では有給休暇が1日もない」とムーアがぼやくと、イタリアの労働者も経営者も、一様に「信じられない」と驚いていました。
次に向かった「侵略」先はフランス。フランスでは、小学校の給食にフランス料理のフルコースが出ます。それも、別に裕福な地域だけでなく、移民の多い下町の小学校でも、そのような給食が出るのだそうです。食器も、松屋で使っているようなプラスチックのお皿ではなく、ちゃんとした陶器のお皿が使われています。自動販売機でジャンクフードしか販売しない米国の小学校とは大違いです。ムーアがコカ・コーラをフランスの小学生に勧めても、皆なかなか口にしようとはしませんでした。ムーアが、レトルトが中心の米国の小学校給食を、フランスで給食を作ってるコックさんに見せると、「人間の食べる物じゃない」と一蹴されてしまいました。
三番目に向かったのが北欧のフィンランド。「世界で学力ナンバーワンの国」として、最近とみに脚光を浴びるようになった国です。そこでムーアが、一体どんな教育が行われているのか調べたら。何と、宿題は一切なし、テストもほとんどないそうです。授業も週20時間、1日4時間程度。それでなぜ、学力ナンバーワンになれたのか?それは、単なる丸暗記の詰め込み教育を排し、自分の頭で考える力を身に付け、生きていくのに必要な真の学力を身に付ける事に、主眼を置いているからだそうです。そして、所得に関係なく、どんな子供でも平等に教育が受けられるように、学校はほとんどが公立校。そのせいか、どの子も、自国語だけでなく複数の外国語をしゃべれるようになっています。
四番目は、東欧のスロベニア。この国は、元々ユーゴスラビアの一部だったのが、90年代に独立して出来た国です。大学の学費が無料なので、米国を初め、世界各地から留学生がやって来ます。大学の方でも、外国人留学生の為に、英語の講義が100以上も設けられています。驚いた事に、学生が「借金」や「奨学金返済」の意味を理解出来ませんでした。学費がタダなので、そんな物必要ないのです。
方や米国では、奨学金を返済できずに、破産して学業をあきらめるしかない学生が大勢います。そんな人たちが、奨学金返済免除欲しさに、軍隊に志願し、イラクなどの戦地で傷つき、PTSDを発症して帰って来ます。形は志願でも実際は強制(徴兵)です。帰って来ても、障害者にはまともな就職口なんてありません。そして今や、奨学生が学生の半分にもなるとする日本も、戦争法(安保法制発動)で「戦争できる国」になりつつあります。スロベニアで実現した学費無償化が、なぜ米国や日本では実現しないのか?もう書いているうちに段々腹が立って来ました!
五番目はドイツ。ドイツの鉛筆工場を「侵略」します。ドイツのどこにでもある普通の工場です。その工場の労働者が、ムーアの侵略(取材)に対して、口々に応戦し(インタビューに答え)ます。いわく、1週間の労働時間は36時間。毎日14時には仕事が終わる。従業員が退社した後は、上司は従業員に電話もメールもしてはならない。そんな事をすれば、プライバシー侵害で法律違反に問われる。職場のストレス防止策として、3週間スパに滞在できる無料券が会社から支給される・・・。
(実は、この時にトイレで一時退室した後、座席に戻る際に、間違えて他の映画を上映している別の小部屋に入り込んでしまい、その事に気づくまで、約15分間、別の映画を観てしまいました(;^_^A)。なので、この部分については、映画パンフレットの記述から拝借します。)
六番目はポルトガル。かつて、この国には麻薬患者があふれていました。2000年の時点で、約1千万の総人口のうちの約1%がヘロイン患者だったと言われています。麻薬・覚せい剤撲滅の為に、大量の予算と人員が動員され、薬の販売者や使用者が次々、刑務所にぶち込まれました。でも、麻薬患者は一向に減りませんでした。
そこで、ポルトガル政府は、2001年に方針を大転換します。何と、全ての麻薬・覚せい剤を合法化してしまったのです。1930年代の米国禁酒法と同じで、下手に禁止するから陰で広まるのだ。一層の事、合法化してしまった方が、麻薬の広がりを防げるだろう・・・という、「逆転の発想」です。
しかし、そんな事で麻薬撲滅の効果が上がるのか?それが上がったのです。何と5割も犯罪発生率が低下しました。かつては、欧州一麻薬がはびこったポルトガルが、今ではEUでも最低ランクにまで麻薬使用を抑える事に成功しました。最後に、ポルトガルの刑務官が言った言葉が印象に残りました。「人間を冒涜してはいけない」と。
そのポルトガルと対照的なのが、米国の麻薬対策です。それも、黒人だけをことさら狙い撃ちして、麻薬患者の黒人から選挙権をはく奪する事が強行されました。麻薬対策を口実に、南部諸州の黒人から2~3割の黒人が選挙権がはく奪されたそうです。これはもう、麻薬対策に名を借りた人種差別です。60年代の黒人公民権運動の広がりに対して、白人支配層がいかに危機感を抱いていたか分かります。
七番目にムーアが「侵略」したのは、ノルウェーの刑務所です。ノルウェーでは、2011年に、極右のネオナチ青年による史上最悪のテロ事件が起こりました。このネオナチの蛮行によって、77名もの人々が惨殺されました。でも、ノルウェーには死刑制度がないので、このネオナチも21年後には刑期を終えて刑務所から出て来ます。
ところが、この事件が起こった後も、ノルウェーでは死刑復活の動きは見られませんでした。それどころか、「犯人と同じレベルに落ちてしまってはいけない。そんな事で、ネオナチを悲劇のヒーローに祭り上げてしまってはいけない」と、かえって死刑廃止存続を望む声が高まりました。
ノルウェーの刑務所も、日本とは全然様子が違います。収監されるのは監獄ではなく別荘です。囚人には一軒家の別荘が与えられ、家の鍵も自分が持つ事が出来ます。服装も自由で、テレビやインターネットも自由に視聴できます。調理用のナイフも自由に持てます。「それでまた人を殺したくならないか?」と聞くムーアに対して、「ここでは全然そんな気にならない。ナイフは調理する為にあるのであって、人を殺す為にあるのではない」と、服役囚がきっぱりと答えていたのが、非常に印象に残りました。
八番目に訪れたのが、中東のチュニジア。北アフリカのイスラム国家で、アラブ諸国で最初に独裁政権打倒の革命(通称「ジャスミン革命」)が起こった事でも知られています。日本では、まだまだ遅れたイスラム国家のイメージが強いチュニジアですが、実は昔から、中絶費用も政府が負担するほどの、女性解放の先進国で、女性の社会進出も非常に進んでいました。
そのチュニジアで、革命後、イスラム勢力が復活し、男女平等を定めた憲法が改悪されそうになります。「女性は男性の補完物で、女性の権利もこの原則の下で初めて保護される」という条文が、憲法に書きこまれようとしたのです。それに対して、女性や民主勢力が一斉に立ち上がって、この企みを押しとどめる事が出来ました。
ひるがえって日本ではどうか。せっかく政権交代で自民党を下野させても、民主党政権がダメだったからと言って、またすぐに自民党を政権に復帰させてしまい、今や憲法改正で「男女平等よりも家族の絆の方が大事だ」という意見が出るまでになってしまっているではないですか。チュニジアと日本の、一体どちらが本当に意味で先進国なのか?これで、果たして日本が先進国と言えるのか?はなはだ疑問に感じます。
そして、最後に「侵略」したのが、北極圏の大西洋上に浮かぶ島国アイスランド。北海道に九州を合わせたぐらいの火山島に、33万人が暮らしています。女性大統領の下で、漁業・観光・金融の三大産業で国を動かしてきました。ところが、リーマンショックによって、銀行が軒並み破たんし、国は経済崩壊の瀬戸際まで追い込まれました。70名近い銀行家が、背任容疑で起訴されました。その中で、女性が経営する銀行だけが、唯一危機を免れる事が出来ました。男性が、得てして出世欲からバクチ的な経営に走りがちな中にあって、「生活に役に立つ物にしか手を出さない」という、女性ならではの視点によって、堅実な経営を行ってきたからこそ、金融危機を免れる事が出来たのです。
その女性経営者の発言も、私の中で非常に印象に残っています。「米国に住みたいとは思わない。飢えた人も大勢いるのに、誰もそれを顧みようともしない。そんなエゴイストだらけの国に住みたいとは思わない」と。
以上の九か国をムーアが「侵略」し、侵略先に星条旗を立てて、その国のアイデアを「侵略」の証として、本国に持ち帰りたいと、ムーアが申し出ます。最初は面白がって、「是非、米国に持ち帰って下さい」と応じていた相手も、「侵略」先が広がるにつれて、また別の反応を示すようになります。
「有給休暇も男女平等も、何もわざわざ我が国に『侵略』に来なくても、全て元から米国にあった物ではないか。」
「フィンランドの個性尊重、人間尊重教育も、米国のやり方を見習ったものだ。」
「労働者の祭典メーデーも、別に旧ソ連の共産主義から生まれた物ではない。19世紀に米国シカゴの労働者が、世界で初めて8時間労働制を要求して立ち上がったのを記念して、行われるようになったのではないか。」
そうなのです。自由も人権も民主主義も、全て元々米国にあった物ばかりです。それが世界に伝わり、チュニジアやアイスランドやその他の国で、更に進化・発展を遂げて行きました。ところが、お膝元の米国では、いつのまにか後退し、次第に「お題目だけの物」に成り下がってしまったのです。
ひるがえって日本ではどうでしょうか。せっかく戦後の民主化で、戦争の犠牲と引き換えに、平和主義や民主主義、人権尊重を定めた憲法を勝ち取りながら、多くの日本人は、その果実を受け取る事だけに汲々とし、自分から積極的にそれを擁護・発展させようとはして来ませんでした。だから、今の米国のように、ただの「お題目」に成り下がってしまい、「生涯未婚」や「親子破産」の心配をしなければらないような国に成り下がってしまったのではないでしょうか。
改憲派の右翼が「伝統的家族」のモデルとして引き合いに出すサザエさん一家も、実は戦後の民主化・高度経済成長によって初めて生まれた物でした。戦前の貧しい生活、軍国主義・家父長制の抑圧の下では、婿養子のマスオさんがサザエさんと共に伸び伸びと暮らせるような、そんなモデルなぞ存在しませんでした。そして今、サザエさん一家のような中流家庭を親子破産の淵に追いやっているのも、福祉削減・消費増税・格差拡大を進める自民党などの右翼改憲派です。
「親子破産」などの話題を取り上げる際も、日本では得てして悲惨さだけが強調されがちです。でも、「親子破産」は自然現象でも何でもありません。それが証拠に、たとえ少子高齢化が進んでも、フランスのように出生率が上向きに転じた国も少なくありません。その違いは一体どこから来るのでしょうか。
もちろん、物事には両面があります。例えば、失業率が日本では3%なのに引き換え、フランスやイタリアでは10%を超えます。でも、これも、失業しても最低限度の生活が保障され、別に急いで求職活動に精を出さなくても、その間にスキルアップが図れるからではないでしょうか。そういう点も含めて考え、求職者が、名ばかり正社員の求人に騙され、ブラック企業の餌食になる事の多い日本と、一体どちらが幸福なのか?
「親子破産」などの話題を、決して「奴隷の貧乏自慢、不幸自慢」だけで終わらせてはならないと思います。悲惨な現実は変えられるし、変えなければなりません。チェ・ゲバラやムハマド・アリがそうした様に。打倒自民・格差社会❗️