5522の眼

ゆうぜんの電子日記、2021年版です。

踊り下駄の変拍子

2010-08-08 23:28:47 |  文化・芸術
最寄り駅より一駅前で電車を降りて夜道を歩く。途中にある公園は浴衣姿の連中でいっぱい。地域主催の盆踊りである。暫く路端に立ち止まって様子を眺めた。浴衣組は子供たちと主婦連。男衆はどうやら、会場設営と交通整理役のようだ。しばらくするとアナウンスがあって踊りが始まった。

中央には小さな櫓があるが、囃子方が乗っていないのはひょっとすると縮小予算のせいだろう。PAから流れだしたのは「炭坑節」。我々がこどもの頃にも盆踊り定番だったこの音頭、どうやら半世紀後の今も、盆踊りのスタンダードの位置は譲ってはいないようだ。

炭鉱の訳など知らない子供たちの打つ素人太鼓はテンポがずれて、自然のシンコペーションになっている。こちらもPAに合わせて口ずさんでみたが、途中で1拍ずれて来る。子供の頃の盆踊りで覚えた歌い方と違うのだ。なにせ半世紀も前のこと、昔と今とでは節回しも変化したというのだろうか。

「炭坑節」が終わるとこんどは「郡上節」。「郡上のな~八幡でてゆくときは」という、郡上おどりの代表曲「かわさき」である。踊り手の手足が自然に動いて、踊の輪がゆったりと回る。

ところで、その郡上八幡の話題を、今日昼のローカルバラエティ番組(東海TV・スタイルプラス)で取り上げていた。今日の《東海仕事人》は郡上八幡にある履物屋「杉本履物店」の女将。

郡上八幡の盆踊りは7月10日~9月4日までの各週末開催というロングランだが、8月に入ると連日となり、さらいに13日から16日までは、徹夜踊り(午後8時から翌朝4時過ぎまで)のクライママックスを迎える。

『ゆれる提灯 浴衣の影 響く手拍子 下駄の音』とは、WEBにある郡上のPR句だが、踊り手の下駄の音も、お囃子に合わせて鳴るオスティナートである。いわば足に履く楽器だ。

この「踊り下駄」を商うのが杉本履物店。履物というが店の扱うには下駄だけだから、「下駄屋のおばさんです」と女将の横枕は謙遜するが、都会にはもうこんな店は皆無だろう。もちろん、八幡町で唯一の下駄専門店だ。

見本下駄から形状・材質を決めて鼻緒を選ぶと、その場で鼻緒を締めて履きやすい下駄を作ってくれる、セミオーダー型である。女将は、ここで一旦、客を踊りにゆかせ、鼻緒のすれはないか、下駄の履き具合はどうかをチェックさせる。履き心地がわるければ、店に戻ってくる客の満足できる「踊り心地」が出るまで、何度でも無料で鼻緒を締めなおしてやるのが横枕流のこだわり。

ヒノキの踊り下駄は2150円~というから、無料アフターケアを含めた料金なら安い。物静かな態度と面倒見の良さで町内外の顧客はしっかり握っていると見た。定番のヒノキ以外でも、飛騨の山林から採れるネズコやシナノキもなかなかによさそうである。

踊りの期間は杉本履物店も忙しい。朝は9時から夜は踊りが終わる11時過ぎまで。徹夜踊りの間はもちろん、夜明けまで店を開けたままだ。「自分は客対応で踊りには行けないが、下駄が代わりに踊ってくれる」という横枕の言葉からも、郡上おどりを《足元から》支える下駄屋の女将の密かなプライドが伝わる。

郡上おどりにいってみたくなった。ひさしぶりに下駄を履くのもいい。






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