モナーク蝶(学名:オオカバマダラ)はカナダからメキシコまでアメリカ大陸を4000キロ近く移動する「渡り蝶」として有名だ。
幼虫はカナダの草原で育ち、秋には成虫となって渡りを開始する。天候の変化や大気汚染と闘いながら、大陸をゆっくりと南下して、冬はアメリカの樅の森、群れで枝にぶら下がり、寒さが過ぎるのを待つ。木の枝に鈴なり状態の蝶というのもどこか不気味だ。
そして春が来ると、メキシコを目指して再び飛翔を始めるのだそうだ。羽を広げると10センチ近くになるマダラ蝶の大群。メキシコでは、死者の魂が戻ってきたものと信じられてきたというがさもありなんだ。
そんなモナーク蝶のことを思い出したのは、「海渡る蝶 アサギマダラ」という今日のNHKニュースの所為だ。モナーク蝶とアサギマダラは、アゲハチョウ科、マダラチョウ亞科のマダラチョウ族に属する兄弟種だ。だから羽も同じように10センチ以上あるおおきな蝶。こちらは陸上ではなく海上を渡るのだ。
寒い冬を避けて南へ旅立つアサギマダラが、渥美半島の蔵王山頂にある花壇でしばらく羽を休めているというニュースだ。飛翔の先は海を越えた沖縄や台湾、さらに中国の南部まで3000キロも先。これもモナーク蝶の渡りと同じだ。地球の裏と表でおなじような蝶の渡りが見られるというのも興味深い。
蔵王山の花壇に植えられたフジバカマの甘い香りに誘われた蝶たちは長旅の前の栄養補給をしようと花蜜を吸っているらしい。今年は台風の塩害があって花の咲き具合が悪く、アサギマダラの飛来も2週間ほど遅いのだという。
この蝶については研究もすすんでいるらしく、個体にマーキングをしてその飛翔を継続的に調べるのだそうだ。11月中旬まで滞留するという渥美半島の渡り蝶にもマーキングがされるのかもしれない。
「名も知らぬ遠き島より流れよる椰子の実ひとつ」
という島崎藤村の渥美半島を詠った詩のように、蔵王山のマーキング蝶がはるか南の島で見つかるなんてことがあったなら動物学者ならずともロマンチックで興奮しそうである。
ちなみに、アサギマダラの英俗名は「チェスナットタイガー」。栗の花が好きなのだろうか。秋らしい蝶だ。
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