おとらのブログ

観たもの、見たもの、読んだもの、食べたものについて、ウダウダ、ツラツラ、ヘラヘラ書き綴っています。

長編小説 芥川龍之介

2008-11-05 00:37:36 | 読んだもの
 小島政二郎さんの「長編小説芥川龍之介」を読みました。本屋さんの店頭で見つけ、帯に「芥川の人と文学の秘密を赤裸に暴く」とあり、元・文学少女としては、何となく買わないといけない気分になりお買い上げです。

 小島さんは若かりし頃芥川に師事し、芥川が亡くなるまでその交流が続いたそうで、芥川の小説家としての生活をすぐそばで見てこられました。この本は小島さんが82歳の時に書かれたものです(小島さんご自身は100歳の天寿をまっとうされました)。青年時代に身近に接してきた芥川を、82歳という年齢になって書いた、またそういう年齢になったからこそ書けたんでしょう。

 題名が「長編小説」となっています。親族(あるいは身近な人)が書いた伝記でもなく、文芸評論家が書いた評論でもなく、小説です。そこが“ミソ”です。

 直接接したこられた方なのでいろいろなお話が散りばめられています。

 最初は芥川の出生と複雑な家族構成について書いてらして、「生みの母がいて、育ての叔母がいて、・・・云々」というのは、芥川研究の論文には必ず出てくることで、大学時代にも何度も目にしましたが、小島さんは、芥川の自殺の原因はこういう複雑な家族構成のせいだと、叔母たちに気を遣いすぎて疲れたのだとおっしゃっています。これは、実際にそういう場面に何度も遭遇されたからこそ、書けることですね。

 芥川の才能の素晴らしさについても、いくつもエピソードが出てきます。英語の原書は1日1200ページ以上読めたとか、3,4人を相手にしながら本が読めたとか、とにかく半端じゃない凄さです。

 ただ、小島さんに言わせると、芥川は小説家ではなく“物語作家”だそうです。芥川は、自分が持っている知識を目いっぱい使い、文章は推敲に推敲を重ね、ありとあらゆる形式の作品を書いたにもかかわらず、それには人生が感じられない、ノビノビとした流露感が感じられないとバッサリと書いていらっしゃいます。確かに、芥川の作品の完成度は非常に高いと思います。非の打ち所がない、どこからも突っ込むところはありません。それが面白くないんでしょうね。本の中で、何人かの小説家の文章を引用して、どう違うのかを書いてくださっているんですが、本当にそれを読むと“違い”がよくわかります。

 だからって、小島さんは芥川を貶めようとしていらっしゃるのではなく、自殺をせずに、もっと生きて書き続ければ・・・という無念さが行間に滲み出ていて、それだけ愛情を持って芥川のことを見てらしたんだと思います。

 「もう少し生きてらしたら・・・」というのは、全く関係のない私でも思います。芥川の中・短編の素晴らしさはもう十分わかっているので、ぜひ上・中・下くらいに分かれた長編小説を書いてほしかったです。どんな小説になっていたんでしょうね?

 小島さんには『眼中の人』という、やはり芥川とその周りの人たちのことを書いた本があって、長らく絶版になっていたのがもうすぐ復刊するらしいので、今度はそっちも読んでみたいと思います。
 
 
コメント
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