埼玉県産木材利用推進の一環として、2004年度埼玉県木づかい夢住宅デザイン事業「埼玉の木を使った家づくりの夢」に続き、2005年度は埼玉木の家デザイン事業「埼玉の木の家・設計コンペ」を募集することになった。建築設計を志す学生や木造住宅に興味を持つ一般の方を対象としたデザインコンペで、「埼玉県産木材を使用し木の良さを生かした木造住宅」が設計課題である。
設計課題の趣旨は、「日本では古くから木材が主要な建築資材として使用されてきた。木で囲まれた生活は私たちにぬくもりや安らぎを与えてくれる。また、木材は地球温暖化の原因である二酸化炭素を閉じこめるとともに、森林で再生できる循環素材でもある。埼玉県産の木材を使うことは県内の森林の整備を促し、森林による水源涵養や土砂災害防止に有効で、大工、職人に伝承される木を使う匠の技を活かすことができる」ことである。
埼玉県産木材の利用の観点からは、県西部の山岳丘陵地に広く分布する山林の特性や課題をいかに読み取るか、多様な県民のニーズを踏まえつつ家並みや景観をどのようにリードするか、木の良さ、木の家の魅力を県民に広くPRするにはどうしたらよいか、が問われてこよう。
応募条件をそろえるため、家族構成を夫婦と子ども二人、敷地を南面道路で10×15mなどに設定したうえで、多様なアイデアを募るため、応募者が家族構成・敷地条件を自由に設定できるようにし、住宅形式も戸建てを原則としながらも、二世帯住宅、グループホーム、併用住宅、古民家再生、古材再利用などの提案も可とした。
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学生の部最優秀賞「木の薫りが時を」
旧杉戸宿に残る、古い町並みの特徴である短冊形敷地に建つ古民家再生のアイデアである。古い町並み・古民家再生の着眼点に、応募者の力量を見つけることができる。それは、えいえいと日本人が築きあげてきた自然と住みあう暮らし方=住文化を素直に受け止め、再生住宅の基本にしていること、通り土間を現代的なだいどこに発展させていること、中庭=吹き抜けを介して1階の寝室、居間食事室、だいどこ、2階の東西の子ども部屋の視線が連結され、家族の輪=和をつくり出していること、土蔵づくり風の町屋を若々しい感覚で再生していることに表れている。町のいたるところに暮らしの記憶が刻み込まれた古い町並みは各地に数多く残る。町のたたずまいと暮らしの記憶を引継いだ民家再生は県民に馴染みやすいアイデアであり、秀逸な作品である。
学生の部優秀賞「Saiの家」
この作品は木材の新たな可能性を追求したことが高く評価された。木材は繊維の束によって組織されているため、圧縮・引っ張りや曲げに強い。これは、熱加工して木材をカーブさせてもほとんど損なわれない。応募者はこの特性に着目し、これまでの住宅構法が木材を直線材として使っていることによる意匠の限界を、曲げ加工した木材使用による曲面の大空間をつくることで克服しようと試みている。さらに、住宅全体を間伐材を用いた格子やルーバーで覆い、柔らかな光で包まれた室内空間を演出しようとしている。曲げ加工材、格子、ルーバーによる外観も手際よくまとめられている。個室を1階におき、2階を南面採光の広々とした家族空間とした間取りも評価できる。階段動線・浴室まわり、1階と2階のつながりなどへの細心の配慮があればさらに良かった。
学生の部優秀賞「墨家~書道教室併用住宅~高床式と地下室のコラボレーション」
応募者の思いが、墨家=すみか=住み処、墨=書道教室、墨=炭=活性化炭素のようにタイトルに込められている。いうまでもなく住み処は家族の生活の場であるが、既存の町並みには併用住宅も少なくない。応募者はこうした併用住宅を課題とし、ポーチを挟んで書道教室と住宅部分を分離させ、解決している。活性化炭素の効果は一般によく知られているが、応募者はこれを通風のための高床とした部分の束材塗布として用い、耐久性を高めようとしている。日本には、ベンガラのように耐久性の向上に加え、風格を醸しだす意匠として用いる技術があり、活性化炭素塗布もそうした可能性を追求しても良かったと思う。さらに燻煙乾燥法により杉材を乾燥させ、外装に使うアイデアも盛り込まれている。これによって外観の意匠性が高められている。アイデアがユニークなだけに、間取りの難点が惜しまれる。
一般の部最優秀賞「埼玉の木の家・設計コンペ(間伐材三方取りパネル)」
良材を得るためには山林の間伐が必須であり、言い換えると間伐材の有効利用が良材を育てることにつながる。埼玉県の山林には桧・杉が多い。間伐材は成長段階の木材であり、強度や大きさは成木に比べ劣る。そこで、応募者は桧の間伐材の三方を加工してパネル化し、外壁材として利用することを提案した。外装材とすることで耐力不足は解決され、さらに間伐材を一本おきに間引きするパネルを併用することで、採光・通風を確保し、変化のある外観をつくり出している。応募者は、間伐材パネルを道路側の塀や門扉にも使うことで住宅の外観との調和をつくり出し、隣地の塀・門扉にも連続して使うことで家並み景観を整える効果も提案している。自然共生への配慮や手堅くまとめられた間取りは高く評価できる。ただ1点、南側採光への工夫が惜しまれる。
一般の部優秀賞「創造@910」
910mm=3尺は日本の伝統的なモジュールであり、建築にかかわる部材・製品は910を寸法体系の基準にしてきた。応募者は、この910を基準にした住宅であれば、主要な部分を大工さんなど専門職人に頼み、住み手が自分でできるところを作るといった分業ができるはずであり、自分で作ることを通して木に触れ、木に親しみ、ひいては木材活用につながると提案する。その例として、キッチンカウンター、オープンデッキ、床下収納、バルコニーの造り方を分かりやすく図解している。こうした例を通して木の性質に馴染めば、住み続けるあいだに必ず起きる補修や簡単な増改築にも挑戦できるようになる、と思う。そして、そのことが住まいへの愛着を育て上げ、家族総出の共同作業が家族の輪を強めることにも発展しよう。間取りもよくまとめられている。ダイニングキッチン上部の吹き抜けもいい。主動線となるらせん階段、鋼板外壁は再検討を期したい。
一般の部優秀賞「木格子の家」
間伐材については前述した。応募者は杉の間伐材に着目し、木格子として活用するアイデアを提案している。小さい敷地の欠点をカバーするために中庭をとり、採光・通風を工夫したうえで、南道路側の塀・門扉から駐車場を兼ねた南庭を囲む西側の塀、さらに南庭・中庭の上部の覆いに、木格子あるいは市松状にくりぬいた格子を用いている。これによりプライバシーを守るとともに、強い日差しを和らげている。間取りや外観も無理なくまとめ上げているが、木格子の活用を住宅外観、さらには家並みの景観に及ぶ配慮があればさらによかった。
一般の部審査員特別賞「埼玉の木材を使用した100年、200年住宅」
タイトルにあるように、応募者のアイデアは耐震性、耐久性に優れた100年200年住宅にある。振り返ってみれば、かつての日本の伝統的な民家は100年200年に十分耐えられる強さを持っていた。適切な補修を重ね、時代の変化に応じた改修、増改築を加え、住み続けられていて、今も多くの古民家が残されている。応募者は、50cm角の大黒柱を中心に立て、四隅に耐力壁を配置した構造により耐震性を高め、2階床を吊り構造とすることで間取りの可変性をつくり出している。100年200年住宅のアイデアに富んだ作品だが、間取りの欠点や表現の粗さで審査員特別賞となった。