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ダン・ブラウン著「ロスト・シンボル」

2015年04月24日 | 斜読

b393 「ロスト・シンボル」上・中・下 ダン・ブラウン 角川文庫 2012  斜読・海外の作家一覧

 2000年の「天使と悪魔」、2003年の「ダ・ヴィンチ・コード」に続くラングドンシリーズの第3作になる。
 ラングドンはハーヴァード大学教授、専門は宗教象徴学の設定である。宗教象徴学は聞き慣れない学問だ。宗教に関する象徴の研究と考えてもまだピンと来ない。
 象徴をそのまま英語に直せばシンボルsymbolとなり、この本のタイトルThe Lost Symbolとつながってくるが、まだ意味がつかめない。
 インターネットで調べると象徴学を記号学、記号論に置き換えて解説している。厳密なことを棚上げにして、ある人Aが仲間Bだけに何かを伝えたいとき、言語を使うと同じ言語を使うCにも知られてしまう。AやBたちの仲間だけの秘密にしておきたいときは仲間だけで通用する記号=暗号を用いれば、知られたくないCには秘密にできるし、時代を超えて後世にも秘密を伝達することができる。
 そういった象徴=記号=暗号は確かに私たちの周りには無数に存在しているが、解読法は仲間だけにしか伝わっていないし、ときには解読法が忘れ去られてしまうこともある。
 ラングドンは、象徴=記号の解読法を解き明かし、象徴に秘められた意味を読み取る専門家と考えればいい。確かに、第1作「天使と悪魔」も第2作「ダ・ヴィンチ・コード」も象徴が重要なキーになっていた。

 第3作では、フリーメイソンに伝わる石のピラミッドに記された象徴=記号=暗号がキーになっている。フリーメイソンも、日本などの木造建築の国では馴染みにくい。
 ヨーロッパの石工職人をメイソンといい、城塞、聖堂、居館などが盛んにつくられた時期に石工職人の組合が連携し、フリーメイソンと呼ばれた。
 そのフリーメイソンが社会の表舞台から姿を隠し、秘密裏に、厳密な規範のもとで活動が続けられた。会員組織も厳格な位階性があり、この本では最高位が33位階となっている。
 この本の冒頭で、マラークと呼ばれる男がフリーメイソンの秘儀参入式・・33位階のフリーメイソンが剣でマラークに触れ、マラークは誓いの言葉を述べたあと、ドクロに注がれた赤ワインを飲む・・の秘密めいた様子が描写されている。
 実はこのマラークが事件の張本人で、フリーメイソンに伝わる石のピラミッドに隠された象徴をラングドンに解き明かさせようと綿密な計画を練っていて、ラングドンが巻き込まれていく展開になっている。

 舞台はアメリカ・ワシントンDCで、下巻に地図が添付されている。その地図によると、ワシントンDC中心部は格子状の道路で区画されていて、右手に連邦議会議事堂、議会図書館、中ほどやや左にワシントン記念塔、左端にリンカーン記念堂、上巻冒頭に登場するテンプル会堂はワシントン記念塔の真北に位置する。
 事件は、ラングドンが親友のピーター・ソロモンから緊急の講演を依頼されて会場の連邦議会議事堂に着いたところ、講演はでっち上げで(あとでマラークの仕組んだ罠と分かる)、会場にピーターの右手首が指を折り曲げられ、入れ墨されて置かれていたところから始まる。
 ピーターは代々資産家で、スミソニアン協会会長を務める歴史学者であり、あとで分かるがフリーメイソンの第33位階であった。息子がいたが、父に反抗して家を飛び出し、イスタンブルの刑務所に服役中に撲殺されてしまう。
 子どもを助けられなかったことで妻は離縁し、ピーターは母と一緒に暮らしていたが、大男が侵入してきて母を撃ち殺してしまう。
 狙いは、ピーターが保管していた石のピラミッドだった。ピーターは犯人を追いかけ、拳銃を撃ったところ、大男に命中し、大男は氷の張った川に落ちて流されていった。ところがこの大男は生きていて、この大男がマラークであることが分かってくる。

 ラングドンが連邦議会議事堂でピーターの右手首にびっくりしていたところへ凄腕のCIA保安局長サトウが現れ、ラングドンに、国家の安全にかかわることだから石のピラミッドに隠された秘密を解き明かせと迫る。
 ピーターをなんとか助けたいと思ったラングドンは、ピーターの折り曲げられた指や入れ墨が象徴になっていることに気づく。その入れ墨のSBBⅩⅢとは、通常は人が出入りしない議事堂の地下2階の部屋を指していて、ラングドンとサトウはSBBⅩⅢの壁にかけられた帆布の奥に隠されていた石のピラミッドを見つける。
 ピーターには純粋知性科学を研究する妹キャサリン・ソロモンがいる。純粋知性科学によれば、意識や思考には質量があるばかりでなく、意識や思考が肉体から離れて働きかけをすることができるらしい。そのキャサリンにもマラークの魔の手が忍び寄ってくる。危険を察知したラングドンの知らせで間一髪、キャサリンは助かり、ラングドンと議会図書館で落ち合う。

 後半になって、アメリカ建国にかかわるジョン・アダムス、ベンジャミン・フランクリン、トマス・ペインらはフリーメイソンであったことが紹介される。
 彼らはワシントンDCのどこかに「古の神秘=古の英知」の秘密を隠していて、石のピラミッドの象徴は「古の神秘」に至るための地図だったことが分かってくる。
 マラークはこの「古の神秘」を手に入れるため、宗教象徴学が専門のラングドンをおびき寄せたのであった。
 ピーターの命は危ないと脅しをかけてくるマラーク、一刻も早くピーターを助けようと石のピラミッドに隠された象徴を解き明かそうとするラングドンとキャサリン、国家の安全を守るためにはピーターの命をあきらめて石のピラミッドに隠された象徴を解き明かせと迫るサトウが三つどもえで絡みながら、ワシントンDCを舞台にスリリングな展開を見せていく。  

 後半に大どんでん返しが用意されていて、事件はあっけなく幕を閉じてしまう。が、その後、助け出されたピーターとラングドンにより「古の神秘」に至る地図の謎解きや、「古の神秘」とはいったい何を意味するかが述べられていく。
 ラングドン、ピーターとキャサリン、マラーク、サトウらの主演者によるスリリングな展開はさすがダン・ブラウンであるが、私には、ダン・ブラウンがフリーメイソンによるアメリカ建国の秘話や、宗教とくに聖書が行間に隠している意味を読者に伝えようとしているように感じた。(
2015.4読)

 

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