b394 霧に消えた約束 ジュゼッペ・ペデリアーリ 二見文庫 2005 斜読・海外の作家一覧
原題はCamilla Nella Nebbia=霧のなかのカミッラである。カミッラは、主人公となるモデナ市警察少年課警部の名前である。
読み終えても、約束らしいことはどこにも登場しなかった。訳題は、カミッラの思い、カミッラの願い、カミッラの期待が消えたといった意味合いを込めたのかも知れない。
天候としての霧も本のなかではとくに出てこない。これも曖昧なまま、不鮮明なまま、分かっていてもどうにもならないといった、霧でぼんやりとしか把握できない状況を意味しているようだ。
モデナはイタリア北部の歴史的な町である。2014年のイタリアツアーで訪ねていて、本に出てくる大聖堂や柱廊は記憶に新しい。しかし、わずか半日の見学だからカミッラが誘われたレストランには寄っていない。モデナはバルサミコ酢の本場で、これは市場で購入した。本には市場は出てこないが、バルサミコ酢の料理が紹介されている。そうした体験と物語が重なると親近感がわいてくる。
冒頭、カミッラらは巡回中に娼婦の格好をさせられた死体を発見する。モデナの上流階級の裕福な家庭の娘で近く結婚する矢先だった。カミッラは、被害者の足もとにコンフェッティ(結婚式で配られる砂糖菓子)が落ちていたのに気づく。
モデナは歴史のある都市で、裕福な家系もある一方、外国人の娼婦がたむろする地区もあるそうだ。カミッラは・・つまり著者は・・、表舞台の晴れやかな社会の裏にはかげりを帯びた社会があり、正義感を持ち続けるものの力が及ばない現実に途方する。
次の殺人事件が起きる。ここで犯人が登場し、犯人の目線で殺人の展開が記述される。事件現場あたりは麻薬中毒がたむろする場所で・・これも裏社会のかげりである・・、被害者は麻薬中毒者の格好をさせられて発見される。
この被害者もモデナの上流階級に属し、新婚だった。やはり足もとにコンフェッティが落ちていた。
カミッラは少年課だったが、最初の事件の発見者だったことから連続殺人事件を担当することになる。二つの事件の共通点を考えながら聞き取りをしていて、二人が同じ高校の同じグループに所属していたことに気づく。
カミッラが聞き取りをしていたとき、偶然、マルコという資産家に出会う。間もなく、マルコの妻が高級車のなかで娼婦の格好をさせられて殺されているのが発見される。マルコ夫人もモデナの上流階級で資産家だった。しかも二人の被害者と同じ高校の出身だった。
新聞は、3つの事件が同じ犯人によ連続殺人と報道し、町なかは戦々恐々となった。カミッラは、この事件現場にはコンフェッティが落ちていないことに気づく。
ここまで読んでくると、始めの二つの事件の犯人像がおぼろげながら浮かんだり、マルコの怪しさが気になり出したりするが、なんとカミッラはマルコに引かれてしまい、再三、ベッドをともにすることになる。
カミッラは同じ高校の同じグループの仲間に聞き取りを重ねていく。どうやら高校時代のパーティが動機になったらしいことに気づき、犯人の目星をつけるが、証拠がない。そこでおとり作戦に出る。目星をつけた人物が現れるが気づかれ、逃げられてしまう。マルコに気を許していたカミッラはその顛末を話してしまう。
証拠が見つからず犯人検挙に手詰まりになっていたとき、犯人がウエディングドレスを着て、首吊り自殺をする。室内から証拠も見つかり、3つの連続殺人事件が一挙に解決し、カミッラは有名人になる。
ところが、マルコが姿を消してしまう。一方で、自殺した犯人と同居していた足腰の弱い叔母が、犯人は虫が嫌いなので必ず窓は1cm以上開けたことがないのに自殺したときは大きく開けられていて不思議だ、とカミッラに告げる。
カミッラは事件を一つ一つ思い出して整理しているうち、事件の全容がおぼろげながら浮かび上がってくる。ヒントはコンフェッティである。おぼろげな全容だから「霧のなかのカミッラ」なのであろう。
モデナの近くにサンマリノGPが行われるサーキット場があり、1994年、アイルトン・セナがレース中に命を落としているそうだ。本のなかでも路上レースが登場する。
マルコはフェラーリの運転がうまくプロ並みだそうだ。本の最後で、マルコはフェラーリに乗り、路上レースに挑戦する。そして消えていく。
訳題の「消えた」はフェラーリに乗ったマルコが消える、あるいは事件解明が消えてしまうといったことを暗示しているのかも知れない。 (2015.3)