
この本は池澤さんの『スティル・ライフ』を読んだ後にタイトルに魅かれて電子書籍を購入しました。
「旅情」と聞くとちょっとメランコリー漂う感じですが、そこに敢えて「明るい」と付けているところが何ともニクいです。
普通の紀行文とは違い風景描写はそれ程多くなく、主に旅先で出会った人々とのふれあいが綴られています。
この本に登場する旅行地のいくつかは既に訪れたことがありますが、既に訪れた所も含めて、この本を持って登場する旅行地全てを巡りたいと思わせるような不思議な魅力に溢れています。
「ジュバへ行く船」のように、決して快適とは言えない旅でもスーダンの南にあるジュバへ行くナイル河を航行する連絡船に乗り地平線までパピルスがそよぐ湿原を眺めてみたいですし、
「アジアは汽車がいい」のようにタイの田舎からバンコックに行くローカル線に乗って見たいです。
(池澤さんのようにタイ人の女の子3人組と一緒になり食べ物や飲み物をご馳走にならなくても良いので)
「おじさんの宝貝」も心あたたまるエピソードでした。
映画の仕事でニューカレドニアに行ったスタッフから聞いた話しだったかと思うのですが、毎日ロケの見物に来ていた現地のおじさんはロケ最終日に宝貝のお土産を持ってきました。日系2世のおじさんは親の故郷である日本の人たちに親近感を持ち、自分で潜って採取した宝貝を贈ったのだそうです。
「ヴァージン・アイランズの休暇」も心に残りました。
池澤さんはアメリカ領の方に訪れたのですが、私たち夫婦は以前、英領の方をセーリングしました。
池澤さんはそこで奴隷制度に関する本を見つけ、それについて記されています。
「蜂の旅人」では「幸福のトラウマ」というユニークな言葉がありました。
池澤さんは以前ギリシャに住んでらしたことがあり、そこでの生活がとても幸福だったので、日本に戻ってからの一年はとても辛い思いをしたのだそうです。それでギリシャ生活後、12年間一度もギリシャを訪れなかったのは、また傷つくことを恐れていたからで、これを池澤さんは「幸福のトラウマ」と呼んでいます。
もっと色々ご紹介したい箇所があるのですが、以下に共感した文章を2つだけ書き留めておきます。
− だいたいこちらが知りたいことが書いていないのがガイドブックというものである
− 旅先で本を読むのは何となくもったいない気がする。その暇があったら、ただぼんやりしているのがいい
ということで、村上版紀行文と池澤版紀行文では池澤版に軍配を挙げます(別に比較する必要などないのですが)。
世知辛いことなのですが、村上版書籍は池澤版書籍のほぼ2倍の値段です。
これは村上春樹というネームヴァリューのためでブランド品のような料金設定なのでしょう(笑)。