「エクソフォニーとは、母語の外に出た状態一般をさす言葉である」とリービ英雄さんはこの本の解説で記しています。
長年ドイツに暮らしドイツ語と日本語で創作活動をする多和田さんと同じく、
海外から日本に来られて母語の英語ではなく日本語で本を記すリービさんも「エクソフォニー作家」です。
エクソフォニー作家については須賀敦子さんも書評集『塩一トンの読書』の中の『魅惑的な「外国語」文学』の中で二人の作家をとりあげています。
ひとりは1987年にフランスのゴンクール賞を受賞したモロッコ生まれのタハール・ベン=ジュルーン、
もうひとりはスリランカ生まれでイギリスを経てカナダ在住という経歴の作家マイケル・オンダチーチェです。
1992年イギリスのブッカー賞を受賞したオンダーチェの『イギリス人の患者』は映画化され私も観ました。
とても良い作品でした。
須賀さんは宗主国と言われた国々が物語を失ったかにみえる今、難民、弱者の文学の魅力を綴っています。
多和田さんはもちろん難民でも弱者でもないのですが、以前はしばしば不幸な状況下で起こった民族移動でしたが、
グローバル化の今日国境を越える「人の移動」はほとんど日常的になっています。
そのことがどう文化や文学に影響するか興味を持つと
現代ドイツ文学の翻訳者(ベルンハルト・シュリンクの『朗読者』など)松永美穂さんは語ります。
松永さんは多和田さんの『エクソフォニー』は言語横断的な視点で言葉を考察したエッセーで翻訳者必読の書として挙げています。
この本はニ部に分かれていて第一部「母語の外に出る旅」ではダカール、ベルリン、パリ、ロスアンジェルス、北京、モスクワなどワークショップの講師などで訪れた都市での種々の言語体験が綴られています。
私は第二部実践編の「ドイツ語の冒険」を特に興味深く読みました。
普段何気なく使用している単語を日本語とドイツ語から比較考察しているのですが、
これは両方の言語を熟知していないとできませんし、何より母語である日本語と同量のドイツ語の語彙力があり駆使できることに感服しました。