この本を再読しようと思ったのはこの間のショパンコンクールの様子をYouTubeでフォローしたためです。
日本人ピアニストが2位と4位に入賞したこともあり、今回のコンクールは日本ではかなり話題になったようですね。
ピアノコンクールが描かれたこの長編小説のモデルは浜松国際ピアノコンクールで
著者の恩田陸さんは執筆にあたり2006年の第6回大会からほぼ全参加者の演奏を聴き、
執筆終了後の第10回大会も引き続き演奏を聴き続けたそうです。
(以上ウィキペディアからの情報)
今年の11月には第11回大会が開かれる予定だったのですが、コロナ禍のため中止になったということで残念でした。
海外からの参加者が多く、その方たちに入国後2週間(現在は10日間まで短縮されましたが)の自主隔離を要請するのは難しいとの理由からだそうです。
もし開かれていれば、ショパンコンクールのあとだけに注目されたことでしょう。
浜松の第9回大会で優勝したイタリアのアレクサンダー・ガジュヴィは今回のショパンコンクールでは日本の反田恭平さんとともに2位になっています。
前回読んだ時と同じように第1次予選から本選までの主人公4人の演奏に関する詳細な描写に驚きました。
主人公のひとり「ジュリアードの王子様」と呼ばれるマサルの第1次予選の演奏描写はショパンコンクールでの反田さんの演奏で私も同じような感想を持ちました。長いのですが引用します。
「・・・なんて楽そうに弾くんだろう。どこにも余計な力が全く入っていない。鍵盤を撫でているかのようなのに音の粒は明確だし、隅々までピアノが鳴っている」
この本の後は宮下奈都著『羊と鋼の森』も再読したいと思っています。
調律師について描かれたこの本もショパンコンクールに触発され再読したくなりました。
数年前「もうひとつのショパンコンクール〜調律師たちの闘い」というドキュメンタリーを視聴しました。
ショパンコンクールのコンテスタントが選べる4つのピアノメーカーの日本人調律師にスポットが当てられています。
シュタインウェイの調律師は日本人ではなかったので、このメーカー以外のヤマハ、カワイ、ファツィオリの調律師のコンクール中の厳しい仕事ぶりが描かれていました。
このドキュメンタリーで初めてファツィオリというピアノメーカーのことを知りました。
そして今回のピアノコンクールで一位になったピアニストが選択したのがファツィオリでした。
それで入賞者のガラコンサートでも皆さんファツィオリのピアノで演奏しました。
『羊と鋼の森』ではピアノという楽器が奏でる音に真摯に向き合う調律師たちが描かれています。
ファツィオリ社の日本人調律師、越智さんのようです。
この小説では調律師に成り立ての主人公がコンサート用ピアノの調律をするベテランの調律師に
彼が調律で目指す音について尋ねる所があります。
それに対して彼は原民喜の文体に関する言葉で答えています。
これも長くなりますが引用します。
「明るく静かに澄んで懐かしい文体。少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体。
夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」
ここで描写されている文体を音にかえるとどのような音色になるか想像もつきませんが、
とても素敵な音の世界のような気がします。