気がつけばふるさと離れて34年

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

石沢麻依著 『貝に続く場所にて』 再読

2023-06-29 17:53:00 | 読書
この小説は書籍ではなく芥川賞受賞作が掲載された文藝春秋で読みました。





再読しようと思ったのは、ドイツを拠点に作家活動を行う多和田葉子さんと石沢麻依さんのトークイベントがYouTubeで視聴できると最近友人が教えてくれてからです。
「ドイツと日本のはざまにて」と題されたトークイベントは日独交流160周年記念行事の一環として2021年に行われました。
当時はコロナ禍だった事もあり、ドイツ人の翻訳者(日本語がとても流暢)が司会するオンラインでのトークイベントでした。
多和田さんには一度お目にかかったことがありますが、日独の膨大な語彙の持ち主で間断なく会話ができる人と、石沢さんのように(インタビューなどの印象ですが)沈思黙考型で言葉を選びながら話す対照的な二人の直接の対談ではなかったのでトークイベント自体はあまり印象に残るものではありませんでした。

それで再読した石沢さんの著作ですが今回も完読するのに苦労しました。
初めて飛んだ時は特に理解できない箇所があまりにも多くて読後感を記すまでには至らなかったのだと思います。

語り手は博士論文を書くためドイツのゲッティンゲンに暮らす美術史研究家。
そこへ東日本大震災時石巻で被災して行方不明のままの野宮(幽霊)が訪ねてくる。
野宮の目的のひとつは寺田寅彦に会うこと。
物理学者で名随筆家の寺田寅彦(1878-1935年)は1910年から11年にかけての4ヶ月間この街に滞在していたことが夏目漱石への書簡の「ゲッティンゲンから」に記されているそうです。

ということで日本とドイツ、過去から現在、生存している者たちと
彼岸の人物との対話という複雑さに加え、メタファー(比喩表現)満載でかなり読みにくいです。

ただ今回は時間がかかりましたが精読して読了したのは、
文藝春秋の「東日本大震災で生き残った者の罪悪感を文学として昇華」という紹介文のように、
震災の部外者である自分と真摯に向き合いたかったからなのかも知れません。

タイトルにある「貝」はホタテ貝のことです。
スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラにある聖ヤコブ大聖堂はエルサレム、バチカンと並ぶキリスト教三代巡礼地の一つです。
中世巡礼者にとって聖人ヤコブを象徴する(聖人の帽子がホタテ貝の形をしていたそうです)ホタテ貝には通行手形の意味があったそうです。
巡礼地への道はヨーロッパ中にあり、ホタテ貝が目印になっています。
我が家の近くにもあります。







小説にはゲッティンゲンにあるPlanetenweg(惑星の小径)が頻繁に登場します。
街中に太陽系の惑星オブジェが縮小された比率で配置されています。



物語の最後では語り手、野宮、寺田寅彦とドイツ人の友人たちが惑星から外されてしまった冥王星のオブジェを目指す場面が登場します。
石沢さんによると巡礼とはある場所へ祈りを込めて向かうことだそうですから、
この冥王星オブジェへの道も巡礼ということになるのでしょう。
ゲッティンゲンへは何度か訪れたのですが「惑星の小径」のことは知りませんでした。
いつか是非訪れたいです。


コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

古い絵葉書でコラージュ

2023-06-27 14:44:00 | 日記
絵葉書って旅の思い出に何となく購入してしまいたまってしまいますよね。
近所に住む友人が古い絵葉書を使ったコラージュの写真を送ってくれました。



エッフェル塔に抱きつく人とか、灯篭で充電(?)しようとする電気自動車とかなかなか面白い作品ができたようです。
絵葉書だけではなく新聞やチラシのイラストも使用したらしいです。
私も捨てる前にコラージュ用に使える絵葉書がないか探してみようと思います。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

門井慶喜著 『銀河鉄道の父』 再読

2023-06-22 18:18:00 | 読書
この本については既に拙ブログに記載済みです(2018年6月20日)。
あの時手にしたのは単行本でしたが今回は文庫本で読みました。
役所広司さんが宮沢賢治の父親役、菅田将暉さんが賢治役で映画化されるということを聞き再読したくなり単行本を探しましたがどうしても見つかりませんでした→整理整頓が不得手な自分を嘆きました(涙)。
それで4月の一時帰国時に文庫本を購入しました。
文庫本には2種類のカバーが掛けられていました。
オリジナル版と映画化後の新しいバージョンです。





賢治の父、宮沢政次郎は小学校時代とても成績優秀で上の学校(岩手中学校)に進学したかったのですが、
家業である質屋に学問は必要ないという祖父の命で小学校卒業後は生涯商人でした.。
でも知的好奇心を持ち続け、一時期は東京から浄土真宗の著名な僧侶や知識人を招いて
花巻西郊の大沢温泉で夏期講習会という知的合宿を開いたこともあったそうです。
大沢温泉は子供の頃家族でよく訪れた所なのでとても懐かしいです。

賢治の生涯に関する本は多数あるかと思いますが、
この本は父親の視線で国民作家となる天才・宮沢賢治の誕生時から亡くなるまでが描かれています。
賢治の三回忌の準備に里帰りした次女シゲの子供たちに政次郎は「雨ニモマケズ」や「銀河鉄道の夜」を読んで聞かせるのですが、
子供たちは興味深そうに聞いていたものの「さあさあ、ごはんだじゃ」とちゃぶ台に盥に入った素麺が出されると一目散にちゃぶ台の方に行ってしまう場面が最後に描かれています。
エキセントリックで金の無心ばかりする困った息子に手を焼きながらも最後は甘やかしてしまう子煩悩な父親の姿に読者は自分の父親のことを思い出すのではないでしょうか。

5月5日の映画公開前に帰独したので残念ながら映画はまだ観ていません。
いつかDVDで視聴したいと思っています。

読後は今回も賢治の詩集に目を通しました。





コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

久しぶりのプールとサイクリング

2023-06-17 16:26:00 | 日記
このところ日中の気温が28度前後の夏日が続いています。
湿度が低いので爽やかですが陽射しが強くなるお昼ごろからテラスのガラス戸は閉めてシェードもおろします。
久しぶりにマンション付属のプールに行きました。
我が家から徒歩5分です。
林を通り抜け幼稚園を過ぎて直ぐのところです。





早朝だったので私ひとりだけでした→ラッキー!





今日は昼食後にサイクリングにも出かけました。
週末森の中の車道は車の通行が禁止され自転車専用道路になります。





動物公園(ノロジカとイノシシとバイソンしかいませんが)まで自転車で20分ほどです。
この日も暑くてノロジカは木陰で休んでいました。
子鹿は食欲旺盛です。






イノシシは見かけませんでしたが、相変わらず大きい図体のバイソンは一生懸命草を食んでいました。



木陰の涼しそうな小川で水浴びしたかったです。













コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

サイグル•サウトバイ著 『重要証人』

2023-06-12 18:23:00 | 読書


著者は現在の中国新疆ウィグル自治区(以前の東トルキスタン)で生まれ育ったカザフ人女性。
本の初めには遊牧民族として平和に暮らしていた子供時代の思い出が綴られています。
新疆ウィグル自治区はドイツやフランス、スペインの三国を併せた面積より広大な地域で、
周囲を7000メートルを超える山々に囲まれた雄大な風光明媚な所だったそうです。



この地域に1980年代前半から中国人が大挙して押し寄せるようになったのはこの地の膨大な地下資源が理由です。
原油、ウラニウム、金鉱、鉄鉱石、そして世界最大級の石炭鉱床が地下に眠っています。
そして綿花栽培の労働力としてもウィグル人が動員されました。
90年代になると無制限に鉱石を採取し続けたため泉は枯れて環境汚染も進みました。
2009年には東トルキスタン出身のウィグル人少女が複数の中国人にレイプされた事件があり、
その後騒乱や数千人のウィグル人が大規模なデモを行います。
そして中国政府によるウィグル人の中国への同化政策がますます熾烈になります。
それはナチがユダヤ人を大量虐殺したような殺戮は行われないものの中国政府が行なっているのは
「生かしたままウィグル民族を消滅させること」と著者のサウトバイさんは語っています。
現在この地域の強制収容所には120 万人から180 万人が拘束されていると言われます。
収容所で行われているのは強制労働だけではなく、「再教育」の名の下での思想教育、民族アイデンティティの否定、漢族と中国文化への同化強制、従わないものへの虐待、拷問、性犯罪です。
成人女性への強制不妊手術については文藝春秋の記事があります。



当時幼稚園の先生をしていたサウトバイさんは突然「再教育収容所」に連行されてしまいます。
その後強制収容所に拘束されてしまうこともなく何故厳しい監視体制の新疆ウィグル自治区から脱出できたかというと
「再教育され漢民族に同化した」と当局が認め再び幼稚園で働くことを許されたからです。
夫と二人の子供がいる隣国のカザフスタンに逃れ家族と再会出来たのは2018年のことでした。
医者で教師の資格を持つサウトバイさんは公務員で2016年7月には全ての公務員のパスポートが没収されてしまいました。
そのためご主人が二人のお子さんを連れてカザフスタンに一足早く逃れていたのです。
現在この地域に住むウィグル人は全てパスポートを没収されてしまっています。

本の中で1番戦慄を覚えたのはサウトバイさんが収容所で取り調べを受けていた時に目にしたという中国政府の三段階計画です。
第一段階(2014−2025)
新疆において同化する意思を持つ者は同化させそうでない者は排除
第二段階(2025–2035)
中国国内での同化完了後、近隣諸国の併合
(キルギス、カザフスタン、ウズベキスタン)
第三段階(2035-2055)
中国の夢の実現後はヨーロッパの占領
(本の224ページに記載)

この本は友人の所有で明日お返しするので、その前に読後感を記す事にしました。
長文になり恐縮です。






コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする