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日本郵政はいったいどうなるのか?

 日本郵政の西川善文社長が辞任を発表し、斎藤次郎氏が後任の社長に指名された。現内閣は実質的に小沢政権なので、どこかで斎藤次郎氏が登場するのではないかと思っていたが、日本郵政の社長とは少し驚いた。人材的にはなるほど思う面もあるのだが、「元大蔵次官」(しかも斎藤氏の場合は「一〇年に一度の大物次官」という下らないキャッチフレーズがつきまとう)をこのポストに充てるのは政治的にはいかにも拙い。鳩山内閣の支持率は下がるのではないだろうか。他に使える人材を見つけられなかったのだとすれば、民主党政権としては少々情けない。
 民主党や国民新党が郵政四事業を一体化したい、つまり、日本郵政の業態を郵政公社時代程度まで元に戻したいらしいことは総選挙中の両党の公約や言動から推測できたが、郵貯の資金がほぼ自動的に財政投融資に向かい「第二の予算」とされていた時代まで戻そうということなのだろうか。かつての大蔵次官を新社長に据えると聞くと、そこまで考えているのかと疑ってしまう。

 この件に関するコメントもそうだが、郵政民営化については、一言でシンプルに答えるのが難しい。先般、あるテレビ局から掛かってきた電話で「山崎さんは、小泉内閣の郵政民営化に対して反対のご意見をお持ちだと聞いたのですが・・・・」と言われて、当惑した。
 私は、郵貯と簡保の縮小・分割・売却などを含む「郵政のもっと素速い民営化」を支持していた。郵貯は規模を縮小し(たとえば)地域分割して民営化し、簡保は契約を分割して民間の保険会社に売却し、郵便事業は参入を自由にして速やかに民営化する、といったイメージだった。能力に見合わない規模の金融業を民営化しても暴走が心配だし(西川体制には暴走の危険があったと思っているので、西川氏の退任には賛成だ)、親方日の丸を背景に拡大してきたビジネスは政府が責任を持って縮小して始末すべきだ、と考えてきた。
 郵政民営化に関わってご苦労された方々には申し訳ないが、大きな図体のゆうちょ銀行をそのまま民営化するような民営化は不適当だと思っていたし、そもそも民営化を愚図愚図と進めるからこのようにひっくり返るのだ。
 今回の混乱のおおもとの原因は、「郵政民営化!」の掛け声だけで自分で責任を持って手を下さなかった小泉純一郎元首相のリーダーシップの不足にあったと思っている。面白くて魅力的だが、些か迷惑な人物だった。

 それにしても、日本郵政はどうなるのだろうか。「どうすべきか」と「どうなるのか」を一緒に考えると訳が分からなくなるので、先ず、「どうなるか」だけを考えてみるのが、これがサッパリ分からない。

 唯一想像できるのは、郵便・郵貯・簡保が「一体化」するだろうということだけだ。今後は、たとえば一人の郵便局員が、郵便と一緒に貯金や保険の面倒も見てくれる。地方の郵便局などでは便利になるのかも知れないが、都会暮らしをしていると、そのメリットは今一つピンと来ない。事業的に不採算になりやすい地方の郵便局のコストを都会のビジネスの収益でカバーしなければならないので、全体がどんぶり勘定になって、都会でも地方でも「一律」の価格・サービスが実現するということなのだろう。
 一つの事業体の判断として、どうしてもそうしたいならやっても構わないが、たとえば郵便については、完全に自由化して欲しい。ヤマト運輸でも年賀状を出せるという状況でなら、日本郵政がムダの多い経営をしていてもある程度は許せる気がする(政府が株主なので、納税者としては大らかに全てを許すわけにもいかないが)。
 もともと郵政民営化は、(1)郵貯と財投の結びつきを断つ、(2)実質的に国の保証が付いた郵貯・簡保の民業圧迫を解消する(少なくとも競争条件を揃える)、(3)郵便・運送事業の民間との競争条件をフェアにする、(4)特定郵便局制度など半ば利権化していた郵便絡みの非能率・不公平を解消する、といったことが目的だったはずだ。
 財投の問題に関しては、財投機関債が発行されるようになり、郵貯の資産運用が自由化された時点で、民営化を待たずに、制度的には問題が解決した。但し、ゆうちょ銀行に巨額の資金がある限り、これをどう運用するのかという問題は残る。ゆうちょ銀行が国債や財投機関債を大量に買い込んで実質的に国策銀行化する可能性はある。もっとも、ゆうちょ銀行が無理な資金運用(中小企業融資、株式投資、デリバティブ運用でカモになる、など)に走るのも、株主である国民にとっては迷惑な話だ。
 何れにせよ、新体制の日本郵政が郵貯の預け入れ限度額をどうするか、銀行としての業務範囲をどうするのかが最大の注目点だ。

 今の時点で、「どうすべきか」を論じるのはひどく虚しい感じがするが、一つだけはっきりしているのは、ゆうちょ銀行の資金量を縮小した方がいいということではないだろうか。利用限度額を引き下げるところまでやるならそれは望ましいが、国民新党が利用者の利便性を強調してきた手前、そうはなりそうにない。預貯金の利率を下げて、運用は国債に準ずるもの中心で大きなリスクを取らずに規模を縮小するという方向でもいいが、さてどうなるか。
 ビジネスとしては、日本郵政は、自分自身が小口の預貯金の扱い機関であると共に決済・送金の機能を持ちつつ利用者の利便性を確保し、同時に、投資信託・保険・あるいは他の銀行の預金などの良心的且つ廉価な手数料での総合的な販売者となればいいと思うのだがどうだろうか。金融界の現状を見ると、金融商品の販売手数料と販売倫理については、政府100%保有の日本郵政が民業を少々圧迫しても構わないような気がする。日本郵政は、自らが運用機能(従って運用資産を)を抱え込まない方がいいと思う。それで、「全国一律のサービス」も「顧客の利便性」も十分確保できよう。
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