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亀井大臣は鳩山内閣を救うか?

 この人くらい名が体を表さない人も珍しい。ここのところ大いに目立っている亀井静香郵政問題・金融担当大臣だ。「静香」とは一体何を間違えたのか。

 亀井氏は、なかなかに複雑な人だ。前々回の衆院選では堀江貴文氏が刺客として彼の小選挙区に向かったような古き自民党の代表的な「抵抗勢力」出身でありながら、ご本人は革命家チェ・ゲバラが大好きらしい。かつてアメリカの要人が彼の事務所を訪れて、ゲバラの写真を見て仰天したという。また、警察に影響力を持ち、かつて許永中氏とも親交があったというような普通の人は怖くてとても付き合えないような強面かと思うと、実は、死刑廃止を訴えている代表的な政治家でもある。
 親しくなりたいかどうかは別として、興味の湧く人物だ。

 この亀井氏が、大臣に就任早々にぶち上げた返済猶予構想(「亀井モラトリアム」)は大いに物議を醸し、批判を呼んだ。私は幾つかのメディアでこの問題について書いたので、詳しくは繰り返さないが、(1)銀行に損をさせるような制度にはならないだろうし(そうなると貸し渋り・貸し剥がしが深刻化するから)、(2)民主党との落とし所は大まかには最初から準備されているだろうが(もともと政策集に載っている)、しかし、そうなっても(3)金融のプライシング機能を停止させ、不正な利用が相当に紛れ込み、「出口」も難しく、制度として弊害は極めて大きいのではないか。
 本来はやるべきでない政策だというしかないが、しかし、日銀が金融緩和を十分に行わずにデフレが進行する現状では、この亀井モラトリアムが、政府による「信用の緩和」となって、金融緩和がやっと大きく進む可能性があるという意味で、悪いことばかりではないかもしれない。長期連用した場合に明らかに毒性は強いが、一時的には良薬かも知れないのだ。政策を単体で評価すると、政府が保証してコストの面倒を見るとしても、そうでなくても、「経済の仕組みを無視した愚策」と言わざるを得ないのだが、今この時点では、民主党政権を救う政策になるかも知れない(財政的にも、次年度予算は、財務省に実質的に丸投げしそうなので、不景気誘導型の緊縮予算になる心配がある)。
 この関連で言うと、日銀が社債・CPの買い取り停止を検討するとの報道に対して、亀井大臣は「日銀にはときどき寝言を言う人がいる」と言うヒットを飛ばし、これもニュースの見出しになった。

 政権発足後三週間経って、民主党の閣僚たちの動きには、物足りなさが目立つようになってきた。国家戦略室の「局」への格上げ法案も、子ども手当も臨時国会には上がらないらしいと報じられており、その通りだとすると、政権が変わったことによる政策の「変化」を国民は感じることが出来ない。今回の選挙で民主党に投票した人の何割かは、早くも民主党政権に飽きてしまうだろう。
 また、鳩山代表の「故人献金問題」の処理が遅い点も気がかりだ。「捜査中だから何も言えない」というのは小悪党がやむを得ずに行う言い逃れであり、自覚のある政治家なら自分の不始末なのだから、全力を尽くして自分で調べ、分かったことを一日も早く公表するべきだ。捜査への協力は「当たり前」であり、自分の調査とは独立の問題だ。一般論としても、やってしまった不始末は、早く認めて、他人の期待よりも大袈裟に潔く謝るのが、通常は正しいトラブル・シューティングだ。問題を長引かせると、より大きな謝罪をしなければ許して貰えなくなることが多いからだ。鳩山氏は、陳謝して、頭でも丸めたらどうか。国民もこの種の追及には些かうんざりしているから、「許してやろうよ」という話になるのではないか。
 八ツ場ダムも急には話が進みそうにないし、新型インフルエンザのワクチンも厚労省が大量輸入を渋っている。国民のイライラが募りそうな状況だ。

 こうした中、亀井大臣はニュースになる発言を連発している。
 西川氏をはじめとする日本郵政の経営陣への退任要求も、いったいこれから日本郵政をどうするつもりかという肝心の問題がサッパリ見えてこないとしても、それなりに世間の耳目を集めそうだ。
 「日経平均先物廃止」(今更そんなことをしても無意味。不便になるだけ)、「銀行の時価会計無期限停止」(時価評価を隠蔽しても実体は良くならないから情報効果上は無意味・有害)、「ペイオフの停止」(銀行も預金者も自立しない)といった亀井・国民新党の政策は滅茶苦茶であるが、これらを法案としては実現しない程度にぶち上げると、やはり世間の注意を集めそうだ。

 亀井氏が、自分自身の相対的なポジション(代表的守旧派)を意識しつつ、実際には手加減しながら、暴言・暴走的なニュアンスの発言を繰り返すことが、実は、愚図でのろまに見えている鳩山内閣の仕事ぶりから国民の注意を逸らす一種のアシストなのだとすると、これはなかなか大した役者なのかも知れない。
 「鶴は千年、亀は万年」。亀は鶴よりも10倍立派らしいが、鳩に対してはそれ以上の差がありそうだ。鳩の任期が10カ月、などということにならなければいいが・・・。

(読者へ: 私は、亀井氏の政策や行動を、大真面目に評価し、賛成している訳ではありませんので、その点は誤解無きように。亀井氏の人物は面白いし、魅力的だとも思いますが、政策は好意的には評価しません)
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