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日本企業が、外国企業に買収されるとどうなるか

 三角合併との関係なども含めて、オーマイニュースの連載(17日火曜日に配信予定の「山崎元の経済用語の新常識」)に書いた話題なので、ご興味のある方は、そちらも参照して頂けると幸いだが、外国企業に日本企業が買収されると何が起こるだろうか。
 
 たとえば、時価総額1兆円の上場事業会社があるとする。発行株数10億株、株価は1000円としよう。この企業が外国企業の買収提案を受けて、買収されると、どうなるか。
 
 経営権を取得しようとするとき、コントロール・プレミアムという上乗せを加えた株価で買収を提案することが多い。幾ら、という理論があるわけではないが、3割くらいが多いという。一株、1300円株価で換算した交換比率で、外国の市場に上場されている株式を対価として渡す、というような、提案があったとしよう。(株式対価の場合は、現金対価の場合よりも、より大きなプレミアムが必要かも知れないが)

 既存の株主は、上場企業同士が株式を持ち合っている採算度外視の株主(本当は、「腐れ株主」と呼んでやりたいが)を除いて、「有り難い!」と思うだろう。株主総会で、これが可決されて、外国企業の在日子会社との合併が決まる。これが、三角合併だ。最終的に、日本企業の株式の全てが、外国企業の株式と交換されて、この株が、もともとの価値の3割増しで換金できたとしよう。

 株主が100%日本国の居住者だとすると、彼らの富は、1兆円から、1兆3千億円に増える。これは、3千億円の一時所得に相当し、マクロ的には、3千億円の減税があったようなものだ。いや、減税の場合は、将来の増税がなにがしか予想されるから、この効果は、景気対策として、減税以上に強力かも知れない。(なるほど、安倍政権が、「イノベーション」と共に「オープン」を掲げ、対内直接投資を数年で2倍にしたいと言うわけだ)

 ここまでのところは、株主が喜んで、景気にもプラスに働く。買収大歓迎と言っていい話だが、なぜか、メディアは、この側面を取り上げようとしない。「日本企業が買収されると、大変だ!」という文脈以外のコンセプトが思いつかないようだ(たぶん、編集長、プロデューサー・レベルで)。

 では、この日本企業は、今や、外国企業の子会社となった。社内では、何が起こるだろうか。

 たぶん、社長は即刻クビになるか、形ばかりの会長に一時棚上げされてからしばらくした後に廃棄される。役員・執行役員もそうだろう。買収した時点では、「現在の組織を尊重する」といったことを買った連中は言うだろうが、半年か1年で「成果」を求められて、大半の役員が脱落するだろう。

 会社の組織形態にもよるが、部長クラスくらいまでは、しばらく残して貰えることが多いだろうが、重要なポストには、本国から来るか、日本で新たに雇われた、本社の息のかかった人物が共同マネジャーとして並立する形になり、やがて、多くの部署で、後者が主導権を取るだろう。

 統治する側からすると、自分の信頼できる人物を重要ポストに置く方が、そこにいる人物を信頼するよりも、普通の行動だし、権限を具体的に行使してみせることが必要だという側面もある。
 
 社長・役員・執行役員・部長といったクラスの経営者及び幹部社員は、そこそこに恵まれた収入と、威張って暮らせて、経費も使える、社会的地位を失うことになるので、買収されることには、徹底的に抵抗したいと思うだろう。当然といえば、当然だが、何だか、寂しい話ではある。買収したい側としては、収入と、社会的な地位をセットにして、しかし、経営には関わらせないといった(たとえば、子会社の副会長のような)、日本的ゴールデン・パラシュートをアレンジして、取締役会の枢要メンバーを蔭で買収することができれば、スムーズかも知れない。この辺りは、インベストメント・バンカーなども含めて、小悪党さん達の腕の見せ所だ。

 課長以下の多数の社員はどうなるだろうか。大まかには、外資に買収されて、得をする人が半分、損をする人が半分、という感じではないか。年功序列のDNAが残っている日本企業の人事制度では、長い時間待ちが必要だった社員が、早く重要なポストに登用され、収入も増えるかも知れないし、逆に、外資流のマネジメントに適応できなくて、リストラされる以前に、尻尾を巻いて自己都合退社というようなケースも多く出るだろう。
 
 ざっくり言って、仕事が出来て(客かノウハウを「自分で」持っていて)、自己アピールが上手い社員は得をするだろうし、ポストほど仕事が出来ない社員には不利だろうし、自己表現が下手で変化に対応する事が不得手な社員は損をするだろうし、ゴマスリの上手い奴はここでも出世するだろう!

 社員にとっての損得・幸不幸は、本社の方針により、業績によっても、様々だろうが、単純に、リストラされたり、労働強化されたり、というわけではなかろう。外資とて、多くの場合は、成長性に期待して事業を買うわけで、直ちに規模を縮小する方向には走るまい。

 ところで、残念ながら不幸な目に遭う旧経営陣、幹部社員、そして不器用な社員たちが去った後は、どうなるのだろうか。トップや枢要なポストには、本国から監督者的なマネジャーが、いわば植民地の統治にやって来るだろうが、大多数のポストは、日本国内で、外部から、改めて雇われることになるだろう。新しい統治者にとっては、どちらも深くは分からない相手なら、元から居た人物よりも、新しく自分が雇った人物の方が、信用できる。古い幹部社員の解雇は、外部に居るやる気のある人々にとって、新たな雇用のチャンスなのだ(ヘッドハンターにとって、手数料稼ぎのチャンスでもある)。

 全体としてみると、買収された直後に、先ず何パーセントかの人員を整理するとしても、後から別の人を雇う公算が大きいし、外資の買収によって、雇用が失われる、ということではなさそうだ。

 こう考えると、社内では明暗が分かれるとしても、日本全体で見ると、外資による日本企業買収は、トータルにはプラスの効果の方が大きい場合が多いのではなかろうか。多数の株主がハッピーになるし、社内では、経営者を除くと、損得半々だろうし、買収のプレミアム分は日本経済にとって、返済不要のホットな有効需要だ。
 
 こんなことを言うと、某夕刊紙(長年の愛読紙だったりもするのだが)的には、「アメリカかぶれの市場原理主義者のたわごと」などと評されるのかも知れないが、外資による日本企業買収を、ひたすらネガティブな面からしか見ないことの方が異常に思える。

 日本企業を買っても、経営はそんなに上手くは行かないだろう、と一方では思うわけだが、それなら、後から、安く売ってくれればいい。市場で付く株価よりも高く日本企業を買ってくれるという人がいるなら、ありがたく買って貰えばいいと思う。
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