大木昌の雑記帳

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植物の不思議な世界(3)-驚くべき植物の自衛戦略-

2013-01-18 08:56:13 | 自然・環境
植物の不思議な世界(3)-驚くべき植物の自衛戦略-



植物は,自分を餌として食べたり破壊したりする者が襲ってきた場合,逃げることはできません。

それでは,例えば草食動物や昆虫が植物の葉を食べに来た場合,何の抵抗もできずに,ただ食べられるにまかせているのだろうか?

もし,そうだとしたら,多くの植物は葉を食べられ尽くして枯れてしまいます。

しかし実際には,植物は地表を覆い,その生命力を誇っています。

この事実は,植物には植物の自衛戦略があることを示しています。

私たちがすぐに思いつくのは,子孫をたくさん生産して,生き残る一定の数を確保することです。

植物の多くは毎年,多数の数の種を作り,周囲にまき散らします。

とりわけ草の類は,あらゆる草食動物にとって格好の食料庫ですから,無数の種をまいて,子孫の継続を確実にしようとします。

しかし,全ての種が生長し次世代の子孫を残すことができるわけではありません。

種が着地した場所が発芽に不適当であったり,発芽しても根を張れなかったり,土の栄養が貧弱で成長できなかったりして,
子孫が命を継げない場合もたくさんあります。

また,植物は太陽光線によって光合成をしているので,隣り合う植物と太陽の光を,より多く得るために必死で空高く,
あるいは横に枝葉を広げます。

ここには植物同士の熾烈な生存競争があります。

こうした自然条件のほかに,植物は生存のために二つの大きな敵と戦わなくてはなりません。

一つは,草食性のほ乳類,鳥類,昆虫などです。葉を食べられてしまえば,栄養を作ることはできず,枯れてしまいます。

二つは,植物に病気をもたらす細菌,ウイルス,真菌類です。

植物がこれらの敵から身を守るためにいくつもの方法を持っています。

たとえばキリンやゾウのように大型の草食動物によっても葉が食べ尽くされないよう高くまで体を伸ばすことです。

しかし,それだけでは背の低い灌木や若い樹木の葉は食べ尽くされてしまいます。

植物には,自分を食べる捕食者や病原菌から身を守るために別の武器があるのです。

これまで,植物がどのようにして身を守っているのか,あまり研究されてきませんでした。

近年,動物行動学者,シンディ・エンジェルの『動物たちの自然健康法-野生の知恵に学ぶ』
(原著は2002年に発行,日本語訳は,紀伊國屋書店2003年)は非常に興味深い事実を伝えています。

本書は本来,動物の自然療法に関する本ですが,動物と植物との間には,何億年もかけて築いてきた関係があります。

この観点から本書は,植物の生態についても詳しく書かれています。

以下に,この本の紹介も兼ねて,植物の不思議な世界をみてみましょう。


動物は生きてゆくのに必要な化学物質を自分ではほとんど作ることができないので,
生存に必要なものを直接間接に緑色植物からもらわなければなりません。

これに対して緑色植物は,日光,大気,水など基本的な素材から炭水化物,タンパク質,脂質,ホルモン,ビタミン,酵素など,
成長,傷の修復,繁殖に必要なあらゆる物質,一次代謝物を作ります。

これらの一次代謝物に加えて,二次化合物を合成します。これまで見つかった二次化合物はおよそ10万種類にのぼります。

興味深いのは,これら二次化合物は,毒性と薬理性を備えていることです。

多くの二次化合物は病原体に対する防御物質で,植物が病気になると,人間の免疫反応にあたる特別な防御タンパク質を作ります。

このタンパク質は,人間の抗体と同様,長期的な抵抗力をもたらします。

それでは,植物の葉,芽や若い茎などを食べる捕食者たちから,どのように身を守っているのでしょうか。

物理的な方法として,サボテンのようにトゲやイガなどを身のまとう方法があります。

他の植物は,草食動物が植物を食べ過ぎないような第二次化合物を作るよう進化させてきました。

温帯の植物より熱帯の植物の方が一般に第二次化合物が多いようですが,エンジェルによれば,これは熱帯の方が草食動物が多いので,
それらを迎え撃つ化学戦の武器庫が大きい必要があるのだという。

もし匂いで草食動物が食べるのを諦めさせることができれば理想的です。

そうでなければ,最初の一口で嫌になる物質を準備し,それ以上の被害を食い止めようとします。

草食動物の摂食を防ぐ化学物質のうちもっとも古くからあるものは濃縮されたタンニンで,
古生代の植物はこれで恐竜から身を守ったと考えられています。

タンニンは非常に渋く,舌を萎縮させ,口内の粘膜と喉を乾燥させます。

また,渋みがいつまでも残り,腸内の重要な微生物や酵素を混乱させて消化を妨害します。

このため草食動物は普通,タンニンの多い植物は避けます。

しかし人間はタンニンを,下痢止め,化膿止め,抗菌剤,駆虫剤,坑真菌剤として,医薬品として利用してきました。

サポニンもよく知られた,植物が身を守る二次化合物です。これは苦い味で,細胞膜を通過する分子の動きに影響を与え,
赤血球を破壊することさえあります。

このため大部分の動物は少ししか食べませんし,サポニンは特にカタツムリ,昆虫,菌類,細菌の攻撃から植物を守ります。

この他,アルカロイドやニコチンも苦く,極少量でも動物にとっては有害で,バクテリアの成長と他の植物の発芽を抑制します。

二次化合物の中には草食動物の成長や生殖を妨げるホルモンを招いているものもあります。

このような植物の防御はまだまだたくさんありますが,個々の植物が行う防御を一つだけ紹介しておきます。

ブドウは菌類の攻撃を受けると,ある種の抗菌物質を放出します。

これは赤ブドウの果皮に多く含まれ,その生物活性効果はブドウがブドウ酒に変わった後も残ります。

赤ワインを日頃適量飲んでいると,心臓病やかんに罹りかりにくいのは,このためらしい。

これだけでなく,植物は「種」として草書動物から身を守る方法ももっています。

植物は食べられると,揮発性の化学物質を発散することが多いのですが,これが,他の植物への化学的警戒信号として働き,
それを感知した植物は,自分の葉に渋いタンニンをたくさん送り込んで防御対策を取ります。

草食動物の方も,これに対抗策をもっています。

キリンは植物の葉を食べ始めてしばらくするとアカシアの葉がまずくなりことを経験から知っています。

これは,警戒の警告を受けた植物が急いでタンニンを葉に送っているだめです。

そこで,キリンは警戒信号を受けていない,遠くの食植物を食べるために移動をし続けるのです。

しかし,草食動物と植物の間には敵対関係だけでなく,協力関係もあります。

植物は,受粉のために昆虫を惹きつけたり,美味しい実をつけて動物に食べてもらい,子孫を増やそうとします。

こうしてみると,何気なく見ている植物の絶え間のない生存闘争と協調の中で必死に生きていることが分かります。

地上で,自ら必要な栄養素を作って生きて行けるのは植物だけです。

その他の全ての生物は,直接間接に植物の生産物の消費者であることをしっかり胸に刻んでおく必要がありそうです。

そして,もっともっと植物について学ばなければならないと思います。
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