ネコの知られざる世界(2)―ネコの進化と不思議な行動―
前回は、ネコが歴史の中でどのように扱われてきたかを概観しましたが、今回は、ネコ習性、
生態、そして人間と暮らすようになって起こった進化なども含めて生物学的側面から紹介し
ようと思います。
私たちはネコについておおよそのことは知っているつもりですが、実は知らないこと、不思
議なことがたくさんあります。
ネコの習性というか特徴はイヌと比べるとよく分かります。イヌは飼い主に忠実で、喜んで
飼い主と散歩をしますが、ネコは単独行動が基本で、飼い主と散歩することはありません。
イヌは約3500万年前に森から出て草原で暮らすようになり、群れを作ってリーダーの下で身
を守る道を選びました。つまり飼い主がリーダーとなったのです。これに対してネコの祖先
は安全な森と樹上に留まり、単独行動を基本として暮らしてきました。
ところで、前回の記事でも書きましたが、人間がネコを飼うようになったのは、今から1万
年ほど前、農耕が始まったことを契機に、穀物をネズミの害から守るためでした。
ネコが人間と暮らすようになったのは、ネコがネズミを捕食するのを見て次第に飼うように
なった(イエネコ化=家畜化)と考えられます。
ネコも、人間から食べ物を与えらえ天敵から守ってくれることにメリットを見出したと考え
られます。それ以来、ネコの方でも人間に大切にされ可愛がられるようにさまざまな変化を
してきたようです。
これらの変化について、『ネコ:奔放で気ままな謎の隣人』(ヒューマニエンス NHKBS
プレミアム 2024年3月20日 再放送)は最近の研究成果を取り入れてネコの謎に迫ってい
ます。
まず、下の写真から分かるように、野生のリビアヤマネコとイエネコを比べると、イエネコ
の鼻筋は短くなり(従って、顔は小さくなり)、ヤマネコの吊り上がった目は「たれ目」に
なっています。そして、耳はリビアヤマネコよりやや小さくなっています。

全体としてみると、リビアヤマネコは精悍な印象を与えますが、イエネコは小ぶりでまるっ
こい顔が温和で可愛げのある印象を与えます。
どうしてこのような変化が起こったのかは、遺伝や進化を考えるとき、それぞれ全く逆の推
定が成り立ちます。
一つは、イエネコは人間に可愛がられるように自らを進化させてきたと考える目的論的解釈
です。
もう一つは、人間の方で可愛げのあるネコを選択し繁殖し続けてきた結果、次第に私たちが見
るイエネコになっていった、という結果論的解釈です。
私は後者の方が正しいと思います。というのも、顔の形はネコ自信が意図的に変えられるもの
ではないからです。
しかし、人間と生活するようになってネコの方から意図的に人間の気を引くために変化させ行
動もあります。
上記「ヒューマニエンス」の『ネコ』が取り上げたのは イエネコ独特の“ゴロゴロ”という喉
を鳴らす音と、“ニャー”、という鳴き声です。
一般にネコが低音(20~50Hz)で喉を鳴らす“ゴロゴロ”は、ネコが撫でられたり抱かれた
りして満足しリラックスしきっている場合に出す音だと理解されています。
この低音のゴロゴロがとても癒しの効果を人に与えることはネコ好きの人は誰も知っています。
しかし、“ゴロゴロ”にはもう一つ高音(200~520Hz)の“ゴロゴロ”があることが分かり
ました。
これは、ネコがエサを要求しているときに発する音で、最近の研究によれば、この周波数は赤
ちゃんが母親の気を引く時の泣き声(300~600Hz)の周波数と重なります。
つまり、研究者によれば、この場合の“ゴロゴロ”は乳幼児の泣き声に似せて注意を惹いてエサを
要求するためにネコの方で適応したことが長い間に定着したと推定できます(注2)。
つぎに、ネコの鳴き声といえば、日本語では“ニャー”“ニャーオ”ということになります。実際、
私たちは無意識のうちに、ネコはいつも“ニャー”と鳴いていると勘違いしていますが、こうした
鳴き声はネコ同士で発しません。
この鳴き声も、ネコが人と暮らすようになって、人(特に飼い主)の注意を引くために、可愛い、
文字通り「猫なで声」を出しているようです。
ネコに関しては二つの興味深いナゾがあります。一つは、ネコは本当に魚が好きか、という問題
です。
結論から言えば、答えは簡単で“否”です。ネコは肉食動物なので、自然界ではネズミ、鳥、ウサ
ギなどが好物です。ただし、アメリカの動物学者の実験によれば、飼いネコのエサとしては、好
物の順に羊肉、牛肉、馬肉、豚肉、鳥肉、魚という順だったようです(注3)
私は子供のころにネコを飼っていましたが、このネコはしばしばネズミやスズメ、さらにはヘビ
(青大将)を捕まえては、家の中にくわえてきて、畳の部屋であたかも戦果を自慢するように私
たちに見せびらかしていました。
他方、ネコのエサは飼い主の食生活に影響を受けます。日本人は歴史的に動物性蛋白質として魚
を食べてきたので、肉食のネコに魚を与えてきたのです。こんな事情から、ネコは魚が好きとい
う観念が根付いているのでしょう(注4)。

出典 (注4)
日本人のイメージでは、“お魚くわえたドラ猫が・・”というサザエさんの歌の文句が定着している
ように思います。
確かに、進化の過程でネコが魚と出会い、食べ物にしてきた歴史はありません。ただ、私には、例
外的にネコと魚との出会いがあったのではないかとの思いがあります。
私は以前、オーストラリアのシドニーにある動物園で、“フィッシュ・キャット”(文字通りの意味は
「魚ネコ」)のイラストの展示を見たことがあります。説明には、このネコは湿地などの浅瀬で魚を
捕らえてエサとしている、と書かれていました。ただ。これはあくまでも例外でしょう。
もう一つの興味深い問題は、いわゆる「ネコの集会」です。
決まった場所に数匹から数十匹のネコが集まっている状態のことを人間は“猫の集会”と呼びます。
どこからともなく現れた猫たちは一定の距離(2〜4mくらい)を保ち、ゆるやかな円を描いて座っ
ています(写真)。

出典 (注5)
特に何をするわけではなく、毛づくろいをしたり日向ぼっこをしたりとのんびりとした時間を過ご
しています。
喧嘩などの敵対的な行動はほとんどなく、基本的にはじっと座っていることが多いそうです。
集会は公園や駐車場、神社や空き地といった、見通しが良く開けた場所でよく行われています。頻繁
に人が出入りしないことも重要です。
地域によって場所はさまざまですが、ネコには縄張りがあるため、それぞれのネコの縄張りが重なっ
ているポイントで行われることが多いそうです。
本来単独行動を好むネコが、なぜ“集会”といわれるような行動をし、それは、何の目的で集まるのでし
ょうか?
私たちはネコに直接聞くことはできないので、想像するだけですが、これまでさまざまに考えられてき
ました。
たとえば、地域のネコ同士のコミュニケーションです。この集会いは飼い猫でも野良猫でもどちらも参
加でき、子猫から老猫まで、年齢もさまざまで、オス・メスのどちらも参加できるようです。
そのエリアで暮らしているネコ同士の顔合わせの場とも考えられています。私はこれが最も重要な目的
ではないかと考えます。
また、どのネコがこのエリアのボスなのか、猫同士の序列を確認するためという説もあります。
切実な問題として、餌場の情報交換、繁殖相手との出会いということも考えられます。
なお、「猫の集会」については1973年にドイツの動物学者が報告しており、世界中の猫で共通して行わ
れているそうです(注5)。
ただ結局のところ上記の理由は人間が想像しているだけで、今のところ決定的な理由は見つかりません。
謎に包まれているからこそ、ネコの世界、「猫の集会」がよりミステリアスで魅力的に感じるのかもしれ
ません。
(注1)『ネコ:奔放で気ままな謎の隣人』(ヒューマニエンス NHKBS 2024年3月20日 再放送)
(注2)ネコの“ゴロゴロ”音についての別の説明については
PC Watch (2023年10月13日 11:20 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/yajiuma/1538752.html)を参照。
(注3)Shippo (2018/10/27) https://sippo.asahi.com/article/11900237;
『猫壱』https://www.necoichi.co.jp/Blog/detail/id=4065#:~:text
(注4)『猫と暮らし大百科』(2021.06.39)https://www.anicom- sompo.co.jp/nekonoshiori/5890.html
(注5)Pretty Online https://www.pretty-online.jp/news/2645/
前回は、ネコが歴史の中でどのように扱われてきたかを概観しましたが、今回は、ネコ習性、
生態、そして人間と暮らすようになって起こった進化なども含めて生物学的側面から紹介し
ようと思います。
私たちはネコについておおよそのことは知っているつもりですが、実は知らないこと、不思
議なことがたくさんあります。
ネコの習性というか特徴はイヌと比べるとよく分かります。イヌは飼い主に忠実で、喜んで
飼い主と散歩をしますが、ネコは単独行動が基本で、飼い主と散歩することはありません。
イヌは約3500万年前に森から出て草原で暮らすようになり、群れを作ってリーダーの下で身
を守る道を選びました。つまり飼い主がリーダーとなったのです。これに対してネコの祖先
は安全な森と樹上に留まり、単独行動を基本として暮らしてきました。
ところで、前回の記事でも書きましたが、人間がネコを飼うようになったのは、今から1万
年ほど前、農耕が始まったことを契機に、穀物をネズミの害から守るためでした。
ネコが人間と暮らすようになったのは、ネコがネズミを捕食するのを見て次第に飼うように
なった(イエネコ化=家畜化)と考えられます。
ネコも、人間から食べ物を与えらえ天敵から守ってくれることにメリットを見出したと考え
られます。それ以来、ネコの方でも人間に大切にされ可愛がられるようにさまざまな変化を
してきたようです。
これらの変化について、『ネコ:奔放で気ままな謎の隣人』(ヒューマニエンス NHKBS
プレミアム 2024年3月20日 再放送)は最近の研究成果を取り入れてネコの謎に迫ってい
ます。
まず、下の写真から分かるように、野生のリビアヤマネコとイエネコを比べると、イエネコ
の鼻筋は短くなり(従って、顔は小さくなり)、ヤマネコの吊り上がった目は「たれ目」に
なっています。そして、耳はリビアヤマネコよりやや小さくなっています。

全体としてみると、リビアヤマネコは精悍な印象を与えますが、イエネコは小ぶりでまるっ
こい顔が温和で可愛げのある印象を与えます。
どうしてこのような変化が起こったのかは、遺伝や進化を考えるとき、それぞれ全く逆の推
定が成り立ちます。
一つは、イエネコは人間に可愛がられるように自らを進化させてきたと考える目的論的解釈
です。
もう一つは、人間の方で可愛げのあるネコを選択し繁殖し続けてきた結果、次第に私たちが見
るイエネコになっていった、という結果論的解釈です。
私は後者の方が正しいと思います。というのも、顔の形はネコ自信が意図的に変えられるもの
ではないからです。
しかし、人間と生活するようになってネコの方から意図的に人間の気を引くために変化させ行
動もあります。
上記「ヒューマニエンス」の『ネコ』が取り上げたのは イエネコ独特の“ゴロゴロ”という喉
を鳴らす音と、“ニャー”、という鳴き声です。
一般にネコが低音(20~50Hz)で喉を鳴らす“ゴロゴロ”は、ネコが撫でられたり抱かれた
りして満足しリラックスしきっている場合に出す音だと理解されています。
この低音のゴロゴロがとても癒しの効果を人に与えることはネコ好きの人は誰も知っています。
しかし、“ゴロゴロ”にはもう一つ高音(200~520Hz)の“ゴロゴロ”があることが分かり
ました。
これは、ネコがエサを要求しているときに発する音で、最近の研究によれば、この周波数は赤
ちゃんが母親の気を引く時の泣き声(300~600Hz)の周波数と重なります。
つまり、研究者によれば、この場合の“ゴロゴロ”は乳幼児の泣き声に似せて注意を惹いてエサを
要求するためにネコの方で適応したことが長い間に定着したと推定できます(注2)。
つぎに、ネコの鳴き声といえば、日本語では“ニャー”“ニャーオ”ということになります。実際、
私たちは無意識のうちに、ネコはいつも“ニャー”と鳴いていると勘違いしていますが、こうした
鳴き声はネコ同士で発しません。
この鳴き声も、ネコが人と暮らすようになって、人(特に飼い主)の注意を引くために、可愛い、
文字通り「猫なで声」を出しているようです。
ネコに関しては二つの興味深いナゾがあります。一つは、ネコは本当に魚が好きか、という問題
です。
結論から言えば、答えは簡単で“否”です。ネコは肉食動物なので、自然界ではネズミ、鳥、ウサ
ギなどが好物です。ただし、アメリカの動物学者の実験によれば、飼いネコのエサとしては、好
物の順に羊肉、牛肉、馬肉、豚肉、鳥肉、魚という順だったようです(注3)
私は子供のころにネコを飼っていましたが、このネコはしばしばネズミやスズメ、さらにはヘビ
(青大将)を捕まえては、家の中にくわえてきて、畳の部屋であたかも戦果を自慢するように私
たちに見せびらかしていました。
他方、ネコのエサは飼い主の食生活に影響を受けます。日本人は歴史的に動物性蛋白質として魚
を食べてきたので、肉食のネコに魚を与えてきたのです。こんな事情から、ネコは魚が好きとい
う観念が根付いているのでしょう(注4)。

出典 (注4)
日本人のイメージでは、“お魚くわえたドラ猫が・・”というサザエさんの歌の文句が定着している
ように思います。
確かに、進化の過程でネコが魚と出会い、食べ物にしてきた歴史はありません。ただ、私には、例
外的にネコと魚との出会いがあったのではないかとの思いがあります。
私は以前、オーストラリアのシドニーにある動物園で、“フィッシュ・キャット”(文字通りの意味は
「魚ネコ」)のイラストの展示を見たことがあります。説明には、このネコは湿地などの浅瀬で魚を
捕らえてエサとしている、と書かれていました。ただ。これはあくまでも例外でしょう。
もう一つの興味深い問題は、いわゆる「ネコの集会」です。
決まった場所に数匹から数十匹のネコが集まっている状態のことを人間は“猫の集会”と呼びます。
どこからともなく現れた猫たちは一定の距離(2〜4mくらい)を保ち、ゆるやかな円を描いて座っ
ています(写真)。

出典 (注5)
特に何をするわけではなく、毛づくろいをしたり日向ぼっこをしたりとのんびりとした時間を過ご
しています。
喧嘩などの敵対的な行動はほとんどなく、基本的にはじっと座っていることが多いそうです。
集会は公園や駐車場、神社や空き地といった、見通しが良く開けた場所でよく行われています。頻繁
に人が出入りしないことも重要です。
地域によって場所はさまざまですが、ネコには縄張りがあるため、それぞれのネコの縄張りが重なっ
ているポイントで行われることが多いそうです。
本来単独行動を好むネコが、なぜ“集会”といわれるような行動をし、それは、何の目的で集まるのでし
ょうか?
私たちはネコに直接聞くことはできないので、想像するだけですが、これまでさまざまに考えられてき
ました。
たとえば、地域のネコ同士のコミュニケーションです。この集会いは飼い猫でも野良猫でもどちらも参
加でき、子猫から老猫まで、年齢もさまざまで、オス・メスのどちらも参加できるようです。
そのエリアで暮らしているネコ同士の顔合わせの場とも考えられています。私はこれが最も重要な目的
ではないかと考えます。
また、どのネコがこのエリアのボスなのか、猫同士の序列を確認するためという説もあります。
切実な問題として、餌場の情報交換、繁殖相手との出会いということも考えられます。
なお、「猫の集会」については1973年にドイツの動物学者が報告しており、世界中の猫で共通して行わ
れているそうです(注5)。
ただ結局のところ上記の理由は人間が想像しているだけで、今のところ決定的な理由は見つかりません。
謎に包まれているからこそ、ネコの世界、「猫の集会」がよりミステリアスで魅力的に感じるのかもしれ
ません。
(注1)『ネコ:奔放で気ままな謎の隣人』(ヒューマニエンス NHKBS 2024年3月20日 再放送)
(注2)ネコの“ゴロゴロ”音についての別の説明については
PC Watch (2023年10月13日 11:20 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/yajiuma/1538752.html)を参照。
(注3)Shippo (2018/10/27) https://sippo.asahi.com/article/11900237;
『猫壱』https://www.necoichi.co.jp/Blog/detail/id=4065#:~:text
(注4)『猫と暮らし大百科』(2021.06.39)https://www.anicom- sompo.co.jp/nekonoshiori/5890.html
(注5)Pretty Online https://www.pretty-online.jp/news/2645/