深刻化する気候変動の影響―“異常気象”と機構の「極端化」―
ここ10年間、世界の各地で“異常気象”が頻発しています。
それは、ある地域では夏の異常高温であったり、また別の場所では異常豪雨でであっ
たり、逆に深刻な干ばつであったりします。
こうした現象の背景として「気候変動」、より具体的には「温暖化」が重要な要因と
して語られてきました。
しかし最近では、単純な「温暖化」というより「極端化」という表現も使われるよう
になりました。
私たちは漠然と、過去の平均的な状況とは異なる、“常の状態ではない”、 という意味
で“異常”と言いがちですが、これは少し違うかもしれません。
というのも、地球の気候は年々変化しており、人間にとって”異常“でも地球にとって
はごく当たり前の変化だからです。
しかし、「極端化」であれ“異常気象”であれ、長い間、ある範囲内の気候変動を前提
として組み立てられてきた人間社会にとって、その範囲を超えた変化は大きな問題を
引き起こします。
最近の出来事としては、8月8日に発生したハワイのオワフ島における大規模森林火
災と、人家や車への延焼により、確認されているだけで113人の死者がでており、
行方不明者が1000人以上もいる大惨事となっています(2023年8月20日現在)。
これは異常乾燥とハリケーンの強風が重なったための惨事でした。
オワフ島はかつてハワイ王国の王都があった島で、歴史的建造物なども燃えてしまい
ました。
今年の夏はヨーロッパ、とくに南ヨーロッパは異常高温(熱波)と干ばつに見舞われ、
イタリア、ギリシャ、スペインなどで山火事が頻発しています。
そして、高温と干ばつの影響でブドウの生育が非常に悪く、今年度のワインの生産が
危ぶまれているワインの産地がいくつもあります。
北米では先月よりカナダでも大規模大森林火災が発生しており、とりわけイエローナ
イフ地域では多くの住民が避難しています。
アフリカ東部では2022年より過去40年で最悪の干ばつに見舞われ、1300万人が
飢餓に直面しています(注2)。ところが、今年2023年9月末にはニューヨーク市が
豪雨に見舞われ、道路が川となり車が水没したり走行できなくなったり、地下鉄が運
航不能となるなどの被害が発生しました。
他方、北極や南極の氷が急速に溶け始めており、「氷の陸地」を意味し、島の大部分が
雪と氷が覆う「アイスランド」でも、雪と氷は近年急速に溶けて、陸地が露出しつつあ
ります。
現在では直ちに災害をもたらしたわけではありませんが、世界中の氷河も長期的には海
面上昇をもたらし、南太平洋のツバル諸島のように海面すれすれの小さな島を飲み込み
つつあります。
さらに、沿岸都市では次第に高波や海水による陸の侵食が考えられます。
これらの気候変動について国連事務総長のグテーレス氏は2023年7月28日のスピーチ
で、地球は「温暖化」から「沸騰の時代」へ突入した、と警告しました。
気候変動(とりわけ温暖化)への対策として、産業革命時より平均気温の上昇を1・5
度以内に抑えることが目標とされてきましたが、現在すでに1.1度も上昇してしまっ
ています。
そのためには、温暖化をもたらす主要因の一つである、大気中の温室効果ガス(二酸化
炭素、メタン、亜酸化窒素など)の排出を減らす必要があります。
温室効果ガスの中でも量的にも最も多く影響が大きいのは二酸化炭素で、石炭・石油・
天然ガスなど化石燃料を燃やすことで発生します。人類は産業革命以来、化石燃料を燃
やすことで経済を発展させてきました。
ある試算によれば、産業革命以降、現在までに大気中の炭酸ガスは40%も増加したと
推定されています(注3)。
こうした長期的な変化も反映して、世界気象機関(WMO)によると、暴風雨や洪水、干
ばつといった気象災害の発生件数が1970年から2019年の50年間で5倍近くに増加してい
ます(注4)。
気候変動にともなうこうした災害は、今後減ることはなく、世界的規模で加速度的に増え
ると思われます。
そこで、多くの国ではエネルギー源として、二酸化炭素を大量に排出する石炭・石油など
の化石燃料に換えて太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーの開発に力を入れてき
ました。
その成果もあって、ドイツのように総電力消費に占める再生可能エネルギーの割合が52
%と半分以上を占める国もあります。そのドイツでさえ、石炭火力への誘惑を断ち切れて
いません。
しかし技術やコストや自然条件などの面でドイツのように再生可能エネルギーを活用する
ことができない国の方が多いだけでなく、世界的にみると残念ながら石炭炉は廃炉よりも
新設の方が多いのが実情です(注5)。
自動者は二酸化炭素の排出源となっており、世界的にはガソリン車から電気自動車(EV)
への転換が進んでいますが、問題は、その電気をどのように確保するかです。
そのために化石燃料から発電するのでは、何のためのEV化なのか分からなくなります。
専門家は、今からどんなに努力しても、もう温暖化は止められないし、その結果、気候の
極端化は避けようもなく進行するだろう、と予測しています。
そうだとすると、これまで述べてきたような、さまざまな弊害が発生しますが、つぎに食料
の問題を取り上げてみたいと思います。
いうまでもなく、食料といっても、農業産物だけでなく畜産物や海産物がありますが、何と
いっても農産物が最も基本的な食料です。
農業にとって絶対的に必要な条件は、①水、②一定以上の温度、③日照です。これらのうち、
どれが欠けても植物は成長せず農産物の生産はできません。
上記3点のうち、日照時間が少なくなることはあっても、太陽光そのものが消失してしまう
ことは考えられませんが、植物の成長に必要な温度も、低温で作物ができないというよりむ
しろ、温暖化の影響で高すぎることが問題です。
田畑や農園を冷やすことができないので、野菜や果物が“焼けて”通常の収穫ができなくなる高
温障害の方が深刻です。
しかも、高温障害が起きる時には、干ばつを伴うことが多いので、作物へのダメージは何倍に
もなります。
日本でも、今年は猛暑と干ばつで米をはじめ野菜や果物が大きな被害が発生しています。
世界的にみると、現在多くの食料不足に悩んでいるアフリカや中東などの多くの地域では、
干ばつによる水不足こそが食料不足にとって
干ばつが今年だけの特殊事情ならそれほど深刻ではないかも知れませんが、もし、これから
数年間も続くと、長期的には世界的な食料不足が深刻となるでしょう。
ヨーロッパでは今年の夏は異常な暑さに見舞われました。それでも、今年の夏は後に「最も
涼しい夏だった」と言われるようになるだろう、との見方もでています。
気候変動は、食料自給率がカロリーベースで39%、エネルギー自給率が11,8%の日本
の経済だけでなく、将来世代の生存そのものにとって大きな脅威となります。
そのためには、再生可能エネルギー技術の開発と、食料自給を目指す農業振興に今から真剣
に取り組むことが緊急の課題となります。
注
(注1)Yahoo News (2023年7月18日)https://news.yahoo.co.jp/articles/4bb116eeb4f87fb043bdc01893bee8d511d1862b
(注2)WFP(2022 年 2 月 8 日) https://ja.wfp.org/news/afurikanojiaowoxiuganhatsute1300wanrenkashenkenajienizhimian;
WMO(「世界気象機関」)(2023年2月22日) https://tenbou.nies.go.jp/navi/metadata/115452
•
(注3)Susteinable Brands (日本版 2023.06.26)
https://www.sustainablebrands.jp/article/story/detail/1215949_1534.html
(注4)『日本財団ジャーナル』電子版(2023.01.31)
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2023/84518/sustainable
(注5)『日本経新聞』(2023年8月20日 5:30) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCA012QW0R00C23A8000000/?n_cid=NMAIL007_20230820_A
ここ10年間、世界の各地で“異常気象”が頻発しています。
それは、ある地域では夏の異常高温であったり、また別の場所では異常豪雨でであっ
たり、逆に深刻な干ばつであったりします。
こうした現象の背景として「気候変動」、より具体的には「温暖化」が重要な要因と
して語られてきました。
しかし最近では、単純な「温暖化」というより「極端化」という表現も使われるよう
になりました。
私たちは漠然と、過去の平均的な状況とは異なる、“常の状態ではない”、 という意味
で“異常”と言いがちですが、これは少し違うかもしれません。
というのも、地球の気候は年々変化しており、人間にとって”異常“でも地球にとって
はごく当たり前の変化だからです。
しかし、「極端化」であれ“異常気象”であれ、長い間、ある範囲内の気候変動を前提
として組み立てられてきた人間社会にとって、その範囲を超えた変化は大きな問題を
引き起こします。
最近の出来事としては、8月8日に発生したハワイのオワフ島における大規模森林火
災と、人家や車への延焼により、確認されているだけで113人の死者がでており、
行方不明者が1000人以上もいる大惨事となっています(2023年8月20日現在)。
これは異常乾燥とハリケーンの強風が重なったための惨事でした。
オワフ島はかつてハワイ王国の王都があった島で、歴史的建造物なども燃えてしまい
ました。
今年の夏はヨーロッパ、とくに南ヨーロッパは異常高温(熱波)と干ばつに見舞われ、
イタリア、ギリシャ、スペインなどで山火事が頻発しています。
そして、高温と干ばつの影響でブドウの生育が非常に悪く、今年度のワインの生産が
危ぶまれているワインの産地がいくつもあります。
北米では先月よりカナダでも大規模大森林火災が発生しており、とりわけイエローナ
イフ地域では多くの住民が避難しています。
アフリカ東部では2022年より過去40年で最悪の干ばつに見舞われ、1300万人が
飢餓に直面しています(注2)。ところが、今年2023年9月末にはニューヨーク市が
豪雨に見舞われ、道路が川となり車が水没したり走行できなくなったり、地下鉄が運
航不能となるなどの被害が発生しました。
他方、北極や南極の氷が急速に溶け始めており、「氷の陸地」を意味し、島の大部分が
雪と氷が覆う「アイスランド」でも、雪と氷は近年急速に溶けて、陸地が露出しつつあ
ります。
現在では直ちに災害をもたらしたわけではありませんが、世界中の氷河も長期的には海
面上昇をもたらし、南太平洋のツバル諸島のように海面すれすれの小さな島を飲み込み
つつあります。
さらに、沿岸都市では次第に高波や海水による陸の侵食が考えられます。
これらの気候変動について国連事務総長のグテーレス氏は2023年7月28日のスピーチ
で、地球は「温暖化」から「沸騰の時代」へ突入した、と警告しました。
気候変動(とりわけ温暖化)への対策として、産業革命時より平均気温の上昇を1・5
度以内に抑えることが目標とされてきましたが、現在すでに1.1度も上昇してしまっ
ています。
そのためには、温暖化をもたらす主要因の一つである、大気中の温室効果ガス(二酸化
炭素、メタン、亜酸化窒素など)の排出を減らす必要があります。
温室効果ガスの中でも量的にも最も多く影響が大きいのは二酸化炭素で、石炭・石油・
天然ガスなど化石燃料を燃やすことで発生します。人類は産業革命以来、化石燃料を燃
やすことで経済を発展させてきました。
ある試算によれば、産業革命以降、現在までに大気中の炭酸ガスは40%も増加したと
推定されています(注3)。
こうした長期的な変化も反映して、世界気象機関(WMO)によると、暴風雨や洪水、干
ばつといった気象災害の発生件数が1970年から2019年の50年間で5倍近くに増加してい
ます(注4)。
気候変動にともなうこうした災害は、今後減ることはなく、世界的規模で加速度的に増え
ると思われます。
そこで、多くの国ではエネルギー源として、二酸化炭素を大量に排出する石炭・石油など
の化石燃料に換えて太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーの開発に力を入れてき
ました。
その成果もあって、ドイツのように総電力消費に占める再生可能エネルギーの割合が52
%と半分以上を占める国もあります。そのドイツでさえ、石炭火力への誘惑を断ち切れて
いません。
しかし技術やコストや自然条件などの面でドイツのように再生可能エネルギーを活用する
ことができない国の方が多いだけでなく、世界的にみると残念ながら石炭炉は廃炉よりも
新設の方が多いのが実情です(注5)。
自動者は二酸化炭素の排出源となっており、世界的にはガソリン車から電気自動車(EV)
への転換が進んでいますが、問題は、その電気をどのように確保するかです。
そのために化石燃料から発電するのでは、何のためのEV化なのか分からなくなります。
専門家は、今からどんなに努力しても、もう温暖化は止められないし、その結果、気候の
極端化は避けようもなく進行するだろう、と予測しています。
そうだとすると、これまで述べてきたような、さまざまな弊害が発生しますが、つぎに食料
の問題を取り上げてみたいと思います。
いうまでもなく、食料といっても、農業産物だけでなく畜産物や海産物がありますが、何と
いっても農産物が最も基本的な食料です。
農業にとって絶対的に必要な条件は、①水、②一定以上の温度、③日照です。これらのうち、
どれが欠けても植物は成長せず農産物の生産はできません。
上記3点のうち、日照時間が少なくなることはあっても、太陽光そのものが消失してしまう
ことは考えられませんが、植物の成長に必要な温度も、低温で作物ができないというよりむ
しろ、温暖化の影響で高すぎることが問題です。
田畑や農園を冷やすことができないので、野菜や果物が“焼けて”通常の収穫ができなくなる高
温障害の方が深刻です。
しかも、高温障害が起きる時には、干ばつを伴うことが多いので、作物へのダメージは何倍に
もなります。
日本でも、今年は猛暑と干ばつで米をはじめ野菜や果物が大きな被害が発生しています。
世界的にみると、現在多くの食料不足に悩んでいるアフリカや中東などの多くの地域では、
干ばつによる水不足こそが食料不足にとって
干ばつが今年だけの特殊事情ならそれほど深刻ではないかも知れませんが、もし、これから
数年間も続くと、長期的には世界的な食料不足が深刻となるでしょう。
ヨーロッパでは今年の夏は異常な暑さに見舞われました。それでも、今年の夏は後に「最も
涼しい夏だった」と言われるようになるだろう、との見方もでています。
気候変動は、食料自給率がカロリーベースで39%、エネルギー自給率が11,8%の日本
の経済だけでなく、将来世代の生存そのものにとって大きな脅威となります。
そのためには、再生可能エネルギー技術の開発と、食料自給を目指す農業振興に今から真剣
に取り組むことが緊急の課題となります。
注
(注1)Yahoo News (2023年7月18日)https://news.yahoo.co.jp/articles/4bb116eeb4f87fb043bdc01893bee8d511d1862b
(注2)WFP(2022 年 2 月 8 日) https://ja.wfp.org/news/afurikanojiaowoxiuganhatsute1300wanrenkashenkenajienizhimian;
WMO(「世界気象機関」)(2023年2月22日) https://tenbou.nies.go.jp/navi/metadata/115452
•
(注3)Susteinable Brands (日本版 2023.06.26)
https://www.sustainablebrands.jp/article/story/detail/1215949_1534.html
(注4)『日本財団ジャーナル』電子版(2023.01.31)
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2023/84518/sustainable
(注5)『日本経新聞』(2023年8月20日 5:30) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCA012QW0R00C23A8000000/?n_cid=NMAIL007_20230820_A