大木昌の雑記帳

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脱炭素は待ったなし―海洋酸性化の脅威―

2022-07-23 20:59:06 | 自然・環境
脱炭素は待ったなし―海洋酸性化の脅威―

「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の第6次評価報告書(2021)によれば、
世界平均気温は工業化前と比べて、2011~2020で1.09℃上昇しています。

また、陸域では海面付近よりも1.4~1.7倍の速度で気温が上昇し、北極圏では世
界平均の約2倍の速度で気温が上昇します(注1)。

温暖化については、科学的な根拠はない“フェイク”だと主張する人々もいますが、
北極圏の氷の面積が縮小していることや、氷河が溶けて後退していることなどか
ら、否定できない事実(“ファクト”)です。

さらに、南太平洋の島国(ツバル)のように、海面が上昇して島が水没の危機に
直面している国もあります。これは、極地の氷が溶けて海面が上昇しているから
です。

私の個人的な経験でも、1974年の9月中頃にオランダに行った時、人びとはすで
冬のコートを着ていました。

その後、何回かオランダに行きましたが、行くたびに気温が上昇しているのを感じ
ました。

日本においても、1980年ころには8月の最高気温が30度を超える日はめったにあ
りませんでしたが、最近では今では35度を超す日は珍しくありません(注2)。

ところで、温暖化をもたらす気体は「温室効果ガス」とよばれ、それには二酸化炭
素のほかにもオゾンやメタンなどがありますが、これらのうち二酸化炭素(炭酸ガ
ス)の影響が75%を占め、最大の要因となっています。

このため、温暖化防止策の象徴として「脱炭素」が合言葉になっています。

「温室効果ガス」はあたかも温室のガラス屋根のように地球の上空を被い、地表に
降り注いだ太陽の熱は宇宙に放出されることなく地表に滞留します。

ところで、二酸化炭素が地球環境にもたらす影響のうち、温室効果についてはよく
知られていますが、海洋酸性化についてはあまり注目されていません。

しかし、海洋酸性化の問題は、温暖化とも関連しているだけでなく、海の生態系の
攪乱と、貴重な食料資源を減少させる事態をも引き起こしつつあります。

こんな折り、2022年8月17日にNHKBSプレミアムが放送したNHKスペシャ
シャル 「海の異変 しのびよる酸性化の脅威」は、非常にタイムリーなドキュメン
タリーです。

まず驚くのは、海と二酸化炭素との関係ですが、海は、大気中の50倍もの二酸化炭
素を吸収し、蓄積しているという事実です。

通常、大気中の二酸化炭素を吸収するのは地上の植物だけだと思っていましたが、海
も吸収していたことは知りませんでした。

これ自身は大気中の二酸化炭素を減らすという点ではとても心強いのですが、それに
よる海洋酸性化という厄介な問題を引き起こしています。

二酸化炭素は海水に取り込まれると、化学反応を起こし、海水を酸化させます。すると、
海中にいる生物を死滅させたり減少させてしまうのです。

中でも、クリオネに似たミジンウキマイマイ(つまり巻貝の一種)と呼ばれる翼足類プ
ランクトンは炭酸カルシウムの殻をもっているのですが、酸性の海水の中で殻が溶けて
やがて死んでしまいます。

日本の調査チームがベーリング海から北極海にかけて調査を行ったところ、翼足類の個
体数は2004年には23.9個いたのに、2019年に採取したサンプルには4・3
個/1㎥へと5分の1以下に激減していました。

しかも、その個体の殻には所々溶けて穴が空いていました。

翼足類のプランクトンは、大きな魚のエサとなっているため、この個体数が減少すると
いうことは、食物連鎖を通して、より高度の生態系に影響を与える可能性があります。

日本近海で獲れるサケの胃の中を調べると、その8割は翼足類です。

日本近海のサケの不漁はこれまで温暖化が原因ではないかと考えられてきましたが、
それだけではなく、エサとなる翼足類プランクトンの減少も関係している可能性もあ
ります。

もし、この種のプランクトンが消滅してしまうと、海の生物の5分の1が消えてしま
う、と推測されています。

海洋酸性化と、それに伴うプランクトンの減少は、日本チームが調査した北極圏にお
いて特に顕著でした。

というのも、北極圏においては近年の温暖化の影響で氷が融けて、空気と接する面積
が氷に覆われた面積が大きくなっています。

この際、海水は温度が低い方が多くの二酸化炭素を吸収するので、北極圏の海水はま
すます酸性化しています。

日本の調査チームが採取した翼足類の殻にもやはり穴があいていました。

北極圏だけでなく、南極の周辺でも、海水緒の酸性化と、それによる生物界への影響
が確認されています。

すなわち、クジラのエサとして知られている南極オキアミの生態を調べた結果、酸性化
すると卵の孵化率が激減することが分かっています。

以上みたように、温暖化が北極圏や南極圏の氷を溶かし→空気と海面が接する面積を拡
大し→それが海洋酸性化を引き起こし→翼足類などのプランクトンを減少させる、とい
うサイクルが出来上がってしまっています。

こうした現象は、北極圏だけではありません。アメリカ西海岸では、ダンジネスクラブ
というカニの体の一部が溶けてしまっていて、このようなカニは成長できないまま死ん
でしまっています。

現地の研究者の間では、将来的には、食材として人気があるこのカニは獲れなくなって
しまうのではないか、と心配しています。

さらに、東京湾においても、エビや貝などの底生生物に異変が起こっていました。東京
湾では毎年夏になると、海底の汚泥が熱で分解し、二酸化炭素が発生するため、海水は
賛成を示しています。

世界全体の海水は、pHの8.1ですが夏の東京湾では7.5~7.75という酸性の値
を示しています。

このため、ゴイサギ貝の表面はデコボコになっていますが、断面をみると貝の表面が融
けて厚さが薄くなっていることが分かります。

東京湾に関しては、そこの流入する河川の水が生活水を含めて有機物を多量に含んでいる
ため、このような現象が起こるものと考えられます。

世界全体の海洋水のpHは現在のところ8.1ですが、2050年には7.9、2080年には7.8、そし
て2100年には はっきりと酸性を示す7.7になると予想されています。

すでに述べたように、プランクトンの消滅によって海洋生物の5分の1が消滅してしまう上
に、海洋水の酸性化によって、さらに5分の1の海洋生物が消滅する恐れがあります。

こうして考えると、今起きている翼足類の減少と溶解、海洋水の酸性化という現象は大きな
危機の兆候なのだ、と考えなければなりません。

それでは、二酸化炭素が海洋水を酸性させる状況を少しでも食い止める方法なないのでしょ
うか。もちろん、まずは、地上での脱炭素を徹底的に推し進めることです。それに加えて、
自然界での脱炭素メカニズムを積極的に活用することです。

自然界では、海の海草が光合成で炭素を取り込み、それを動物プランクトン、魚が食べ、そ
のフンが海の底に沈殿します。

こうして、二酸化炭素が海底に蓄積します。このメカニズムは「生物ポンプ」と呼ばれ、毎
年92億トンと見積もられています。これは人間が輩出している二酸化炭素の2割に相当す
るのです。

これに着目した、岡山学芸館高校のある女子学生が2年前から、海草の一種、アマモを育てる
活動に取り組んでいます。

これが地球規模でどれほどの影響力をもつかは別にして、まずは身近なところで実践している
ことは、とても意義のあることだと思います。

また、熱帯や亜熱帯地域に形成される、マングローブ林は、その面積の40倍の熱帯雨林の面
積に相当する二酸化炭素を吸収します。

マングローブの葉は分解せずにそこに問いこまれた二酸化炭素は数百年も、海の泥の中で閉じ
込められます。

海の植物は、日本が排出する年間の二酸化炭素の14億トンに相当するり酸化炭素を削減するこ
とができる。

このように考えると、一方で海草を育てる活動を進めると同時に、今あるマンググロープ林の伐
採を止めるべきです。

いずれにしても、二酸化炭素の問題は温暖化の他にも、海の生態系をも壊してしまうという深刻
な問題をはらんでいることを十分理解しておく必要があります。


(注1)気象庁のホームページ https://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/index.html;
    地球温暖化防止活動推進センターのホームページ  https://www.jccca.org/global-warming/knowleadge01
(2)『Goo 天気』 https://weather.goo.ne.jp/past/662/19800800/ 




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