大木昌の雑記帳

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クマの出没が増加―クマはなぜ人前に出るようになったのか―

2023-10-23 07:57:12 | 自然・環境
クマの出没が増加―クマはなぜ人前に出るようになったのか―

最近、クマと人が遭遇した、あるいは住宅地にクマが出没した、山の中でクマに襲われて
怪我をした、さらには死体で発見された、などの“事件”が毎日のようにメディアで報道さ
れています。

環境省の発表によれば、2012年4月から現在まで、クマの出没件数(の報告)は2万870
件、襲われた人が158人で、統計を取り始めた2009年以来、最高件数となっています。

とりわけ、9月から10月にかけてクマの出没が目立っています。

クマは、冬眠前に体に脂肪などの栄養を蓄える必要があってできるだけ多くの食べ物を摂
取しようとします。これは、季節でいえば秋ということになります。

クマの重要な食べ物は、本州のツキノワグマにとってはドングリなどの木の実、北海道の
ヒグマの場合は、木の実と産卵のため川を遡上するサケが重要な栄養源となっています。

本州でも北海道でも、なぜ最近になってクマとの遭遇が増えたのだろうか。これには、地
域によっても異なるさまざまな理由があった。

これに対して、今年はドングリが不作なため、という説明が最も一般的な説明です。

ただしこの場合、今年は気温が高くドングリが通常よりも早く実ってしまい、冬眠前の秋
にはもうなくなってしまったという事情もあるようだ。

いずれにしても、クマの出没や人を攻撃して怪我をさせたり命を奪ってしまう“事件”は報
道されるが、その割に人の家に入って食べ物を漁る姿はあまり報道されません。

ひょっとすると、クマが頻繁に出没するようになった背景には、ドングリなどの自然のエ
サが減少したことのほかに何か理由があるのかも知れません。

その一つの仮説はコロナ禍の影響です。つまり、ここ数年、コロナ禍のため人びとが山に
入る機会が減ったために、クマが山から人家のある里へ行動範囲を広げたのではないか、
というものです。

このほか、以下に紹介する宮城県における事情や調査結果は、クマの出没を考える上で参
考になる。

宮城県の場合、クマの生態に詳しい東北や性生物反故センターの宇野壮春代表は「耕作放
棄地」の増加が背景にあると指摘します。

図にあるように、以前はクマの生息域である山と人里との間には今よりも人が燃料や生活
資材を得るための「里山」や田畑が広がっていました。この状況ではクマは山の中を移動
し、木の実などを食べています。田畑が境界の役割を果たしていたため、人里まではあま
り近づいてきませんでした(図1)。

図1 従来の山と人との土地利用

(注1)を参照

しかし、過疎化や高齢化が進み、作付けされなくなった「耕作放棄地」が増加し、田畑だっ
た「耕作放棄地」に草木が生い茂ったやぶになってゆきました。

こうなると、クマにとって、やぶに身を隠しながら移動できる環境が整ってきたことになり
ます。

これに伴ってクマが生息できる場所がどんどん広がり、人里に迫ってきたとかんがえられま
す(図2)。

図2 最近の変化(耕作放棄の増加)とクマの進出の構図

(注1)を参照

そのうち、人を気にせず人里に出てこられるようになるうちに、クマのだんだんと慣れてき
て、安定してエサがある人里の近くに定着するクマも出てきたようです。

もう一つ、忘れてはならないのは、クマの生息数も急増していることです。

宮城県では昨年度、「カメラトラップ」という手法でクマの生息数を調べました。林の中に
カメラを設置し、その前にエサを仕掛け、エサにおびき寄せられたクマを撮影していく手法
です。エサを高い位置に置くことでクマが立ち上がり、映った胸元の月の輪模様で個体を識
別していきます。

県は昨年度、6月から9月にかけて南部の50か所にカメラを設置し、調査を行いました。
そして、撮影されたデータをもとに県内のクマの個体数を推定した結果、県内全体では3629
頭のクマが生息している推定されました。同じ方法で調査した、その7年前は1669頭。調査技
術の向上なども影響していますが、2倍以上に増えていました(注1)。

ここで注意すべきことは、クマが安心し得人里に出没するうちに、人を恐れず人に慣れてきて
しまったという事実です。

クマが山里から、さらに町の住宅街に出没するようになった背景には、上に示したようなクマ
の行動変容があった、ということで。

この傾向はおそらく、宮城県だけでなく東北や北陸。北関東などの山間地でも起こっていると
思われます。

これらの背景の他に、おそらく免許を持った狩猟者(実際には「猟友会」のメンバーなど)の
数が減っているという事情もあるのではないか。

狩猟免許の保持者は1975年には51.8万人でしたが、近年は21万人に減少し、実際に狩猟
者として登録している人は15万人と見積もられています(注2)。

しかも、狩猟者は年々高齢化が進んでおり、今後はさらに減少していくものと考えられます。

狩猟者は、一方でクマの駆除を公的に要請されながらも、環境保護団体などからは非難を浴びる、
というジレンマに陥っています。

このように考えると、クマが人前に出没したり人に危害を加える事例の増加は、大きな枠組みでい
えば、人と自然とのせめぎあいで生じている現象といえます。

ただ、今年のような状況は一時的な現象なのか、来年からも続くのか長期的な観点から見てゆく必
要があります。

(注1)NHK仙台 2022年10月07日
https://www.nhk.or.jp/sendai-blog/social/474374.html 
(注2)農林水産省 https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/h_kensyu/attach/pdf/R4/tukubakensyu-10.pdf

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