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大木昌の雑記帳

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第二期トランプ政権発足(1)―トランプにすり寄るIT幹部たちの「へたれぶり」―

2025-01-23 20:27:08 | 国際問題
第二期トランプ政権発足(1)
―トランプにすり寄るIT幹部たちの「ヘタレぶり」―


ドナルド・トランプ政権が現地時間1月20日正午(日本時間21日午前2時)に第47代
アメリカ大統領に正式に発足しました。

就任式前日19日の凱旋集会でトランプ氏は支持者を前に、

    4年間もの長期にわたる米国の衰退の幕が閉じられる。アメリカの強さ、繁栄、尊厳、 誇りに満ちた新たな
    時代がはじまる。

と、自信たっぷりに語りかけました。

トランプ氏は、“バイデン政権の4年間は、アメリカが衰退に沈んだ4年間であった”、と前政権を全面的に批判し、自分
が政権についたことで、新たな時代が始まると宣言しました。

その新たな時代についてトランプ氏は、翌日20日の就任式でのスピーチで、

    この日からこの国は再び繁栄を手に 世界中から尊敬を受けるようになる
    他の国の利益に応えるのはこれ以上ゆるさない
    私は政権を取り戻した後は アメリカ第一主義を取り戻す

と宣言しました。

就任式でのスピーチは30分にも及び、ここでその全文を紹介する余裕はありませんので、次回以降に譲ることにしま
す(注1)。

ところで、今回の就任式は異例づくめでした。まず、連邦議事堂という建物の中で就任式を行うのは、1985年1月にロ
ナルド・レーガンが大統領になって以来40年ぶりでした。これは、当日の気温がマイナス10度にもなるとの予測が出
ていたからでした。

つぎに、イタリアのメローニ首相やアルゼンチンのミレイ大統領ら、トランプ氏との関係が良好な右派の首脳も臨席し
たことです。

米大統領の就任式には各国の駐米大使が出席するのが慣例ですが、今回はその慣例を破って複数の首脳や外相らも招待
を受けて出席しました。日本からは岩屋外相が、中国からは韓正(ハンチョン)・国家副主席も出席していました。

また、米国のSNSなどでは、トランプ氏が宣誓の際に左手を聖書の上に置かなかったことが話題となりました。歴代大
統領は宣誓時に右手を挙げ、左手を聖書の上に置くのが慣例で、トランプ自身も1期目の宣誓ではこの慣例に従っていま
した。

トランプ氏が今回用意したのは、リンカーン元大統領が19世紀に使用した聖書と、子供の頃に母親から贈られた聖書の
2冊。いずれもトランプ氏のそばに立ったメラニア夫人が持ったままでした。

SNSではトランプ氏の信心深さを疑問視する声や、単なるミスだと推測する声などが挙がりましたが、気分が高揚して
単純に忘れてしまった可能性がないわけではありません。

アメリカでは就任の宣誓というのは、神に向かって自分の決意を述べるとともに、「神の御加護」を乞う非常に厳粛な
行為であり、就任式の一つのハイライトでもあるのです。

形式的には、これによって、政治的にも宗教的にも正式に大統領として認められたことになるのです。実際、トランプ
氏は一期目の就任にさいしては、左手を聖書の上に置いて宣誓しています。

ところで、就任式が行われたのは議事堂の大広間、「ロタンダ」でおこなわれたのですが、この部屋の収容人数は800
人ほどしかありません。

この限られた人数の中には、メラニア夫人らトランプファミリーや新政権の閣僚、トランプ氏に近い各国首脳らが出席
しました。

異彩を放っていたのが、トランプ氏の後方でファミリーなどが並ぶ「特等席」に米IT企業大手のトップたちが座ってい
たことでした。

IT大手トップたちの中でトランプ氏と近い席に座っていたのは、X(旧ツイッター)などを率いる実業家のイーロン・マ
スク氏(右端)。その近くにグーグルのスンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO 右から2人目)、アマゾン・コム創業
者のジェフ・ベゾス氏(右から3人目)、メタのマーク・ザッカーバーグCEO(左端)でした(以下の写真)。

     就任式に「特等席」に居並ぶIT幹部たち
     
     出典 (注2)


実に、彼らが座っていたのは、閣僚の席より同氏との距離が近く、新政権における厚遇ぶりが明確に示されました。

米議会紙『ヒル』は、これらIT大手がトランプ氏陣営に巨額の献金を行ったことが「特等席に座る理由だ」と伝えてい
ます。

中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の周受資CEOも、少し離れた席で出席していました。

トランプ氏は第1期政権時も今回の選挙運動中も、ティックトックを売却するよう要請するなど、厳しい立場をとって
いました。

しかし、今回の大統領選では若者世代に声を届けるための手段として活用していたこともあって、この要請は先伸ば
しすることにしました。

柔軟といえば柔軟ですが、いかにもトランプらしい「露骨なご都合主義」であることは否定できません(注2)。

トランプ氏にすり寄るビッグ・テック大富豪の中でも、イーロン・マスク氏は突出していて、大統領選の選挙運動中
に日本円で112億円という途方もない献金をしています。おそらくその対価・報酬(?)として「政府効率化省」
のトップという要職と権力を与えられました。

イーロン・マスク氏は、最初にトランプに「抱きついた男」でした。これを契機に、各国の首脳や要人が、我先にト
ランプへの「抱き着き合戦」に奔走するようになりました。

トランプ氏の大統領就任式の基金には、イーロン・マスク氏の他に、グーグルやマイクロソフト、アマゾン、メタな
どのビッグ・テックがそれぞれ100万ドル(日本円で1億5000万円ほど)を寄付し、IT・テック業界全体では
310億円相当に上ります。

TikTokもその例に漏れません。トランプ氏は一期目の時にTikTokに対して米国事業の売却を要求しようとしたが、億
万長者のTikTok投資家ジェフ・ヤス氏が最大の寄付者の一人になったことで考え、それを先延ばしすることを決めま
した。

マスク氏は就任式の後のイベントではしゃぎまくっていました。まさに彼にとって「怖いものなし」の「我が世の春」
を爆発させているようでした。

マスク氏は、宇宙開発を目指すスペースXのオーナーでもあり、トランプ政権に取り入って国家的な補助を期待して
いると思われます。

ほかのビッグ・テックのトップたちも大統領就任式に先立ち、権力に媚びる動きを見せていました。

メタのCEOマーク・ザッカーバーグ氏は2021年、トランプ氏が前回の大統領選での敗北を認めず、支持者らによって
連邦議会が襲撃された際、偽情報拡散防止のためトランプ氏をフェイスブックとインスタグラムから排除しました。

しかし今年の1月7日に突如ファクトチェックを廃止すると発表しました。これは、明らかにトランプ氏と、今や一体
となって行動しているマスク氏が主張する、通信や言論に対する規制緩和にザッカーバーグ氏が迎合したことを意味
します。

昨年の大統領選の際には、アマゾンの創業者で有力紙『ワシントン・ポスト』オーナーのジェフ・ベゾス氏は、昨年
の大統領選では同紙編集委員会によるカマラ・ハリス氏への支持をきめていたのに、それを取り下げています。

トランプ氏が大統領選に勝利した後は、ビッグ・テックのトップらは こぞってフロリダ州にあるトランプ氏の別荘
に“トランプ詣で”に出向きました(注3)。

ついでに付言しておくと、就任式の朝、トランプ夫妻が教会のミサに赴くと、そこには娘のイバンカ氏をはじめトラ
ンプファミリーがすでに参列していたが、なんと、上記のビッグ・テックのトップがトランプ氏を迎えるかのように
まっていたのです。

こうした、彼らの見え見えのトランプへの媚・へつらいに対して、楠 佳那子氏(フリー テレビ・ディレクター)は
「トランプ大統領にすり寄るテック大富豪、あきれる『ヘタレぶり』の理由は?規制強化の欧州にNATOすら人質に
共闘か」という鋭い論考を寄稿しています。

楠氏は、ジェフ・ベゾス氏とザッカーバーグ氏に焦点をあてて、アメリカのテック企業のトップのトランプ氏に媚を
売る「ヘタレぶり」を痛烈に批判し、なぜそのような行動をとったのかを明らかにしています。

まずベゾス氏ですが、年明け早々にトランプ氏への起こった、風刺画掲載拒否問題です。年明け早々に物議を醸した
1枚の風刺画がある。ふくよかな下腹部をさらしたトランプ氏を思わせる銅像を前に、数名の男がひざまずき、嬉々
として金を差し出す様を描いたものだ。男の一人は、アマゾン創業者で米『ワシントン・ポスト紙』オーナーでもあ
るジェフ・ベゾス氏(61)だ。

    図 ベゾスと思われる男がトランプ氏に金を差している
    
出典 CNN Japan (2025.01.05 Sun posted at 17:00 JST 
    https://www.cnn.co.jp/showbiz/35227839.htmlhttps://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1502705)

この作品を手掛けたのは、当時ポスト紙の風刺漫画家でピュリツァー賞の受賞歴もあるアン・テルネス氏でした。彼女
はこの件をきっかけに『ワシントン・ポスト紙』を離れました。

ところでベゾス氏には、トランプにすり寄る事情がありました。実は、ベゾス氏は宇宙開発企業「ブルーオリジン」の
所有者でもあります。

報道によれば、ベゾス氏はテルネス氏の風刺画の掲載を拒否する決断が公表されたわずか数時間後、「ブルーオリジン」
の幹部がトランプ氏と会談していました。

「ブルーオリジン」は、トランプ氏の“ファースト・バディ(第一の相棒)”を自称するイーロン・マスク氏の宇宙開発企
業スペースXと競合関係にあり、連邦政府との契約をめぐって火花を散らしてきました。

この点でも、ベゾス氏は、先行されたイーロン・マスク氏に少しでも巻き返しができれば、と考えたに違いない。

さらにベゾス氏は2019年、国防総省とアマゾンの子会社が結ぶはずだった100億ドルの契約をトランプ氏の「私怨」に
よって反故(ほご)にされたと主張したこともある。

こうした苦い経験から、ベゾス氏は、どうしてもトランプ新大統領に取り入ろうとしたのだろう。

それでは、メタもアマゾン同様、大統領就任基金に100万ドルもの寄付をしています。メタのCEOザッカーバーグ氏
はなぜ、トランプへ媚を売るようになったのだろうか。

ザッカーバーグ氏は2020年、大統領選で選挙の運営支援を行うNPO(非営利団体)に4億ドルもの寄付をしました。ト
ランプ氏はこの寄付が当時の敗因の一つだとザッカーバーグ氏に繰り返し難癖をつけ、昨年出版した自著で、今回の大
統領選で同様の「違法行為」が行われれば、ザッカーバーグ氏を生涯投獄すると脅迫もしていた。

こうした脅迫の下で、ザッカーバーグ氏は、生き残るためにも大統領となったトランプ氏との関係修復をする必要があ
ったのです。

事実、ザッカーバーグ氏には刑務所暮らしを免れることとは別に、トランプ氏にすり寄らざるを得ないビジネス上の深
刻な事情もありました。

メタはヨーロッパにおけるデジタル市場法(DMA)違反の疑いで、5件の調査対象になっています。ザッカーバーグ氏
によれば、この20年でメタはEUから200億ドル以上もの罰金を科せられたという。

EUの法的・経済的圧力に対抗するため、ザッカーバーグはトランプ大統領が力を貸して”共闘“してくれることを期待
しているのです。

このように見てくると、富豪らによるトランプ大統領への寄付は、もはや「トランプ教」に入信することで自らの魂
(と会社)の救済を求めるお布施のようだ(注4)。

ここではベゾスとザッカーバーグだけを取り上げましたが、IT業界全体、あるいはほかの分野でも同様の事態が進
行していたと想像できます。

華やかなトランプ大統領就任の裏側では、ご都合主義と保身とが交錯する汚いディールが行われていたのです。

次回から、トランプ政権の発足により、アメリカ、世界、そして日本のはどのような影響をうけるのかを、多角的
に検討したいと思います。


(注1)就任式のスピーチの全文は、いくつかのメディアで掲載されています。たとえば、『東京新聞』(2025年1月22日)
(注2)(『産経新聞』(電子版)(2025/1/21 08:26 
    https://www.sankei.com/article/20250121-VZSBWQEMCBLVFMRT5XIMQ4HEOY/
(注3)『Yahoo ニュース』(2025 1/21(火) 7:07
    https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/27b881f8ca3ee8447de376324e7965a1a3c853de
(注4)『JBpress』(2025.1,22 https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/86118
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