大木昌の雑記帳

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アメリカ大統領選(1)―なぜ、トランプの勝利を読めなかったのか―

2016-11-12 07:13:33 | 国際問題
アメリカ大統領選(1)―なぜ、トランプの勝利を読めなかったのか―

代45代アメリカ大統領選は、2016年11月8日(現地時間)、大方の予想に反してドナルド・トランプ候補が、ヒラリー・クリントン候補
を破って当選しました。

今回の選挙は、どちらも選択したくない、極端に言えば、嫌いな候補者同士の選択、とも言われていました。

アメリカの有権者も、日本をはじめ外国の政治学者、ジャーナリズムも、投開票が始まった8日朝まで、この結果を誰も予想していな
かったでしょう。

今回の大統領選に関して、なぜトランプが勝ち、ヒラリーが負けたのか、それは一体、何を意味しているのか、そして、今後アメリカと
世界、とりわけ日本はどうなってゆくのか、といった、考えるべき大切な問題がたくさんあります。

これらの問題については、これからじっくりと検討するとして、今回は、取りあえず、「なぜ、トランプの勝利を予想できなかったのか」と
いう点に絞って考えてみたいと思います。

トランプが勝つことを予想できなかった理由は幾つか考えられます。

最も代表的な理由付けは、「暴言王」の異名をもつトランプ氏が選挙運動中に公の場で発した暴言、とりわけ女性蔑視的暴言、ヒスパ
ニック系移民を犯罪者のように罵る人種差別的暴言、イスラム教徒の入国を禁止するなどの宗教的差別発言、などの差別的・排外主
義的暴言は、多くの女性、リベラルな人々、ヒスパニックや黒人の強い反発を招いていたからです。

次は、いわゆる「隠れトランプ」の存在を過小評価していた可能性です(『東京新聞』2016年11月10日)。

今回の大統領選挙では、メデイァの調査で大きな見損じをしたのは、調査の現場で、自分はトランプ支持であることを表だって言うと、
差別主義者であると思われるのがいやで、本当のことを言わなかった可能性があったからです。

さらに、政治経験も軍隊経験もないトランプがアメリカの大統領に就任したら、アメリカの経済や社会・政治がどうなってしまうのか、
という広範な不安があり、まさかトランプの勝利はあり得ない、と多くの人々が思い込んでしまったことです。

対するヒラリーは、長年、政治の表舞台で活動してきた、いわばベテラン政治家です。

多くの人は、常識的に考えれば、大統領候補として、どちらが的確かは明らかであると、これも一方的に思い込んでいました。

他にも、トランプ氏に対するいくつかの「思い込み」があったと思われます。

この「思い込み」は、漠然とした期待をも含んでいるのに、いつしか、それが現実であるかのごとく信じてしまうことです。

ただし、アメリカ内外のメディアやアメリカ国民が、こうした「思い込み」を持つにいたった原因の一つには、世論調査の結果があり
ます。

たとえば、アメリカのニュース専門の放送局CNNは10月27日、10月25日までに不在者投票と期日前投票を行い、35州730万人
分の調査結果を2012年の投票と比較して発表しました(注1)。

同メディアはその総合評価として「激戦州でクリントン氏に勢い」と表現し、とりわけ、「激戦が予想される12州では、民主党が共和党
を上回っている」、と分析しました(注2)。

CNNのような、アメリカでは権威があるメディアがこのような発表をしたことで、多くの有権者、そして恐らくクリントン陣営も、民主党の
勝利は間違いない、と考えたのも無理はありません。

確かに、不在者投票や期日前投票を行った人たちは、それだけ政治にたいする関心が高く、初の女性大統領の出現を期待して、クリ
ントンに投票した人も多かったかもしれません。

このような事前の予測があったため、最終結果でトランプの勝利を耳にしたとき、多くのアメリカ国内外の人々に、「予想に反して」とい
う驚きを与えたのでしょう。

しかし、問題は、選挙の終盤にいたるまで、確かな証拠もなく、漠然とした「クリントン有利」という全般的な評価や雰囲気が変わらなか
ったことです。

こうした評価を、『ニューヨークタイムズ』『ワシントンポスト』などの有力紙もずっと流し続けていました。

今回の選挙とメディアとの関係について、明治大学、研究・知財戦略機構総合研究所フェローの岡部直明氏は、今回の世論調査の予
測をくつがえしたトランプ氏の選出は、アメリカ・メデイアの責任が大きい、と指摘しています(注2)。

岡部氏は、メディアが予測を見誤っただけでなく、トランプを過小評価し、その暴言を許してきたのは大きな問題だ、と述べています。

普通なら、セクシャル・ハラスメント、ヘイト・スピーチの規制対象となる暴言に対して主要メディアは徹底的に批判するのではなく、むし
ろメディアを盛り上げる格好の題材、話題程度ですましてしまったのです。

メディアの問題に関して、岡部氏は、次のように論評していいます(注2)。
 
    主要メデイアは、大統領選の大詰めで一斉に反トランプで足並みをそろえたが、時すでに遅しだった。本来、共和党の大統領
    候補の選出段階でトランプ氏にノーを突きつけるべきだった。主要メディアには差別発言のトランプ氏の大統領選参戦で紙面
    が盛り上がれた、それでいいという姿勢がみてとれた。選挙ビジネスを優先して、言論報道機関の役割を後回しにした米メディ
    アの罪は歴史に残るだろう。

岡部氏の、「メディアの罪」という評価に、私も賛成です。さらに付け加えれば、「メディアの敗北」でもありました。

ここで、注目すべきことは、アメリカのメディアは、日本と違って、政治的立場を明確にしていることです。

日本では、「表現の自由」が憲法で認められているにもかかわらず、「メディアは中立的でなければならない」、という風潮があり、とりわ
け安倍政権は選挙の前などでは厳しくメディアを監視しています。

この点を別にして、アメリカにおいても、メデイァによる世論調査の方法に問題があり、それが有権者の投票行動を左右することがあり
ます。

今回の例で言えば、この記事の最初の方で引用したCNNの調査結果です。

CNNに限らず、メディアによる世論調査は通常、固定電話を通じて行われます。しかし、現実には、携帯電話で生活し、固定電話を持た
ない人も多くいます。

また、たとえば固定電話をもっていても、住人が家にいるとは限りません。

このような条件のもとでの調査では、有権者の投票行動を正しく把握することはできません。

これをインターネットでの調査に切り替えても、やはり全ての人がインターネットのサイトをチェックして答えるとは限りません。

以上の条件を考えると、このような選挙に関する世論調査には限界があることが分かります。

ひょっとすると、イギリスのEU離脱の時と同様、まさか本当にトランプが勝利するとは思わず、投票に行かなかったり、あるいはトランプ
に投票してしまい、あとでびっくりして後悔している人もいるかも知れません。

もっと憶測を含めて言えば、一番びっくりしているのはトランプ自身かも知れません。

(注1)http://www.cnn.co.jp/usa/35091219.html
(注2)(注2)http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/071400054/111000011/?i_cid=nbpnbo_tp

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