ウクライナ戦争の行くへ(2)―ゼレンスキー・トランプ会談の決裂―
ウクライナのゼレンスキー大統領(以下、「ゼレンスキー」と略)は、かすかな望
みをかけてトランプ大統領(「以下「トランプ」と略」との首脳会談に臨みました。
というのも、ゼレンスキーにはウクライナ戦争の停戦が、ウクライナの頭越しにア
メリカとロシアの主導の下で、ロシアに有利に行われてしまうかもしれない、とい
う疑念があったからです。
この流れを止めて、彼はロシア寄りに見えるトランプをウクライナの方に引き戻そ
うとする、国運を賭けた会談でした。
前回で紹介したように、ウクライナの鉱物資源に対する利権の50%をアメリカに
譲渡することを拒否してきました。
しかし、事態は切迫してきたため、ゼレンスキーは、最後のそして唯一の交渉カー
ドである鉱物資源の大幅譲渡を受け入れて、トランプとの会談に臨みました。
この2月28日にはアメリカとウクライナが鉱物資源の開発に関して合意し、調印・
署名し、ランチを共にし、そして記者会見までがセットされていました。誰もがこ
の件に関する協定には何ら問題もなく進むだろと思っていました。
ところがこの調印に先立って行われた、「頭撮り」と言われるテレビカメラと記者
団を入れての公開対談で前代未聞の事態が勃発してしまったのです。
この時の模様はテレビやユーチューブで繰り返し報道されたので、ここで繰り返す
必要はありませんが、結論から言えば、この会談は決裂し署名はおろか、共同声明
もないまま両者が会場を去る、という想定外の結末を迎えてしまったのです(注1)。
ゼレンスキーにとってこの会談の最の重要な目的は、鉱物資源の共同開発を一つの足
掛かりとしてアメリカの軍事的安全保障を何とか取り付けることでした。
しかし、トランプにとっては、地下資源の共同開発により得られる利益を確保するこ
と(これこそが「ディール」)が目的で、安全の保障とは全く別の事柄、むしろ触れ
たくない問題でした。
ゼレンスキーは何度も、話を安全の保障の方に持ってゆこうとしますがトランプは応
じませんでした。
同席した記者から、「安全の保障は提供されるのか」との質問に対してトランプは「ま
だ安全の保障について話したくない」と、きっぱり断っています。
ただしトランプの頭には、プーチンとの関係から、ウクライナの地下資源の開発にアメ
リカ企業が直接かかわるようになれば、プーチンはウクライナに侵攻しない、との自信
があったのだろう。
実際、トランプは「地下資源をめぐる協定は防衛策になる」と答えています。
共同開発となれば、その前提としてウクライナで戦争が少なくとも停戦状態になければ
なりません。トランプが急いでいるのは安全の保障ではなく、早急の停戦です。
とういうのも、トランプには、バイデン政権下で3年も続いたウクライナ戦争を停戦そし
て和平に持ち込むことができれば、その立役者として自らの国際的評価が上がり、ひょ
っとしたらノーベル平和賞も受賞できるかもしれない、という期待があるからです。
トランプは、ゼレンスキーとの会談の冒頭で、「ロシアとは非常によい話し合いを行って
きた。プーチン大統領と話し、この件(ウクライナ侵攻)について終わらせようとしてい
る」と述べ、ウクライナ戦争の終結についてプーチンと話し合っていることを述べます。
続いてトランプが、
この侵攻はすぐに終わるはずだったが、3年たった今もまだ、戦争は続いている。
だから私は、将軍たち、兵士たちそして皆さんを大いに評価する。非常に厳しい
戦いだった。すばらしい兵士たちだ。こうした観点からあなたは(ゼレンスキー
大統領は)彼らをとても誇りに思うべきだ」ウクライナの将軍や兵士はすばらしく、
あなた(ゼレンスキー)は誇りに思うべきだ、
との言葉に、ゼレンスキーは「誇りに思います」と短く答えます。
そしてトランプは、
でももう終わりにしたい。もう十分だ。もう終わりにしたい。だから聞いて頂いて
光栄だ。来てくれてありがとう。まもなくイーストルームで会議を開き、合意書に
署名する。昼食後に。私たちは、これからランチをとる。また、ほかのことについ
ても話し合う。
と述べました。
ここまでは、表面的には和やかに話しが進行し、誰もがその日のうちに地下資源開発に関す
る協定の締結が完了するだろうと考えていました。
しかし、ロシアとの話し合いで戦争を終わりにする(停戦)、というトランプの言葉にゼレン
スキーは反発します。
トランプ:ウクライナは兵力が不足している。いいことかもしれない。あなたは「停戦はい
らない、停戦はしたくない。まだやりたい。あんなものがほしい」と言う。もし
今すぐ停戦できるなら、銃弾を止め、兵士が殺されるのを止められるよう、受け
入れるべきだ。
ゼレンスキー:もちろん戦争を止めたいと思っている。
トランプ:だが停戦はいやだというのか。
ゼレンスキー:保証込みの停戦が必要だと言っている。
トランプ:「いかなる合意よりも停戦が早い。
ゼレンスキーは、「停戦についてだけでなく安全保障について話したい。プーチンは過去に25
回も停戦を破った。安全保障についてこれらの協定だけでは不十分だ」と、あくまでもアメリ
カの安全保障の約束を取ろうとします。
トランプとゼレンスキーの見解が平行線をたどったことの背景には、プーチンにたいする評価
が全く逆だったからです。
記者から、「もしロシアが停戦を破ったら、和平交渉を中断したらどうなるのか、どうするのか」
との問いに、トランプは次のように答えました。
(プーチン氏は)私のことを尊敬している。プーチン氏は私と一緒に多くの苦難を経験し
た。うそっぱちの魔女狩りに遭って、彼とロシアは利用された。ロシア、ロシアと。聞
いたことがあるか。詐欺師のハンター・バイデン、ジョー・バイデンのペテンだった。
ヒラリー・クリントン、ずるいアダム・シフ、民主党のペテンだった。彼(プーチン氏)
はそんな目に遭った。われわれは戦争に至らなかった。
つまり、トランプはプーチンと共に苦労を経験してきたので、私も彼を信用し、彼も私を尊敬し
ている、だからプーチンが停戦を破ったりすることはあり得ない、と言外に言っているのです。
これに対してゼレンスキーはプーチンを全く信用しておらず、上に引用したように、たとえ停戦や
和平協定を結んでも、プーチンは無視して侵攻してくると思っています、
こうした両者の立場の違いを抱えたまま、お互いの気持ちが次第にエスカレートし、ののしり合い
のような口論になってしまいました。
トランプとヴァンス副大統領は、アメリカはウクライナの死者をなくすために停戦に努力している
のに、ウクライナはそれに感謝すらしないことにいら立ちを感じていたようです。
トランプは突然「さあ、もう十分ではないか。すばらしいテレビ番組になるだろう」と言い放って
席を立ってしまいます。
会談は決裂に終わったのですが、こうなってしまった要因について、慶応大教授の廣瀬陽子氏は研
究者仲間と話し合いで、3つの原因が挙げられたと語っています。
一つは、ゼレンスキー氏は通訳なしで直接英語でやりとりしていたが、もし、自身はウクライナ語
で話し、それを通訳が英語に翻訳して伝えれば、そこの「間」が生じ、言葉と言葉が直接ぶつかり
合うことは避けられたのではないか、というものです。私も同感です。
二つは、ゼレンスキーは対談に臨んで、もっと戦略を練りシナリオを考えておくべきだったという
見方です。
三つは、トランプのような人物と話し合うためには、図や表を用意して、相手を説得する方が良かっ
たのでは、という意見です(注2)。
二つ目の要因に関して廣瀬氏はとくに説明していませんが、例えば戦略として、まずは資源開発協定
について合意することを確認し、最後に安全全保障について要望する、という戦略が考えられます。
それにしても、歴代のアメリカの大統領がロシアによるウクライナ占領に関連して何もしてくれなか
ったことをゼエレンスキーが非難する際に、
彼(プーチン)はウクライナの東部とクリミアという大きな部分を2014年に占領した。それ
から何年も。バイデン前大統領だけでなく、当時のオバマ大統領、トランプ大統領(1期目)、
バイデン大統領・・・・
と、目の前にいるトランプ大統領の名前を挙げてしまいました。これにたいしてトランプは直接的に
は反論しませんでしたが、心の中では怒っていたにちがいありません。
二人の大統領が直接会談での決裂を避けるために、トランプと同じ共和党重鎮のグラム上院議員は首脳
会談に先立ち、ゼレンスキー氏と面会し、「感謝の気持ち」を持ってトランプ氏に接し、鉱物資源交渉
以外の話題(特に安全保障)は避けるよう忠告していました。
決裂という最悪の事態を受けグラム氏は「ゼレンスキー氏は辞任するか、態度を変える必要がある」と
記者団に述べ、怒りをあらわにしました。
下院民主党トップのジェフリーズ院内総務は声明で、米ウクライナ間の亀裂が露呈したことはロシアを
利するだけで「トランプ氏は世界で米国の恥をさらし続けている」と指摘しました。
また同党のマーフィー上院議員はX(旧ツイッター)で「トランプ氏はロシアのプーチン大統領の愛犬と
化し、民主主義ではなく独裁者を支持している」と糾弾しました(注3)。
大統領補佐官のウォルツ氏によると、記者団の退出後、トランプ政権側は幹部で対応を協議し、ほぼ全会
一致で「大統領執務室でのあのような侮辱を受けた後で、物事を前進させることは不可能であり、これ以
上の関与は逆戻りするだけだ」とトランプ氏に協議打ち切りを進言したという。
その後、ホワイトハウスから去るように伝えると、駐米ウクライナ大使やゼレンスキー氏のアドバイザー
は何が起きたかを認識し、涙ぐんでいたという。
ただ、ゼレンスキー氏は何が起きたか認識せず、引き続き議論したがっていた。ウォルツ氏は最後に「時
はあなたに味方していない。(米国の)寛容さは無限ではない」などと述べたという(注4)。
ゼレンスキーを除くウクライナ側のスタッフは、ゼレンスキーが本当にトランプを怒らせてしまったこと
にショックをうけて涙ぐんでいたのにたいして、ゼレンスキー自身は全くそのようなことは考えておらず、
また、議論を続けられると考えていたようです。
このことは、決裂のあとにFOXテレビに出演したゼレンスキーは、ニュースキャスターから「謝罪する気
はあるか」と問われて「何か悪いことをしたとは思わない」し、修復は可能だと答えていることからも分か
ります。
ゼレンスキーが言ってきたことは「正論」ですが、外交の舞台では必ずしも「正論」が「正解」とは限りま
せん。少なくとも「損か得か」という点では、今回のケンカ別れはウクライナにとって「損」な結果でした。
次回は、アメリカとウクライナとの決裂が、その後のウクライナ戦争と国際関係全般にどのような影響を与
えるのかを検討します。
(注1)会談でのやり取りは以下のサイトで見ることができます。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250302/k10014737411000.html(前編)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250302/k10014737431000.html(中編)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250302/k10014737471000.html(後編)
(注2)BS朝日『日曜スクープ』(2025年3月1日)
(注3)Yahoo NEWS 3/1(土) 21:34配信https://news.yahoo.co.jp/articles/ee245cd8d1a758feecc349bb1575394abc4ac6fa
(注4)『毎日新聞』電子版(2025/3/3 11:54(最終更新 3/3 15:53)https://mainichi.jp/articles/20250303/k00/00m/030/066000c?utm_
source=article&utm_medium=email&utm_campaign=mailyu&utm_content=20250303
ウクライナのゼレンスキー大統領(以下、「ゼレンスキー」と略)は、かすかな望
みをかけてトランプ大統領(「以下「トランプ」と略」との首脳会談に臨みました。
というのも、ゼレンスキーにはウクライナ戦争の停戦が、ウクライナの頭越しにア
メリカとロシアの主導の下で、ロシアに有利に行われてしまうかもしれない、とい
う疑念があったからです。
この流れを止めて、彼はロシア寄りに見えるトランプをウクライナの方に引き戻そ
うとする、国運を賭けた会談でした。
前回で紹介したように、ウクライナの鉱物資源に対する利権の50%をアメリカに
譲渡することを拒否してきました。
しかし、事態は切迫してきたため、ゼレンスキーは、最後のそして唯一の交渉カー
ドである鉱物資源の大幅譲渡を受け入れて、トランプとの会談に臨みました。
この2月28日にはアメリカとウクライナが鉱物資源の開発に関して合意し、調印・
署名し、ランチを共にし、そして記者会見までがセットされていました。誰もがこ
の件に関する協定には何ら問題もなく進むだろと思っていました。
ところがこの調印に先立って行われた、「頭撮り」と言われるテレビカメラと記者
団を入れての公開対談で前代未聞の事態が勃発してしまったのです。
この時の模様はテレビやユーチューブで繰り返し報道されたので、ここで繰り返す
必要はありませんが、結論から言えば、この会談は決裂し署名はおろか、共同声明
もないまま両者が会場を去る、という想定外の結末を迎えてしまったのです(注1)。
ゼレンスキーにとってこの会談の最の重要な目的は、鉱物資源の共同開発を一つの足
掛かりとしてアメリカの軍事的安全保障を何とか取り付けることでした。
しかし、トランプにとっては、地下資源の共同開発により得られる利益を確保するこ
と(これこそが「ディール」)が目的で、安全の保障とは全く別の事柄、むしろ触れ
たくない問題でした。
ゼレンスキーは何度も、話を安全の保障の方に持ってゆこうとしますがトランプは応
じませんでした。
同席した記者から、「安全の保障は提供されるのか」との質問に対してトランプは「ま
だ安全の保障について話したくない」と、きっぱり断っています。
ただしトランプの頭には、プーチンとの関係から、ウクライナの地下資源の開発にアメ
リカ企業が直接かかわるようになれば、プーチンはウクライナに侵攻しない、との自信
があったのだろう。
実際、トランプは「地下資源をめぐる協定は防衛策になる」と答えています。
共同開発となれば、その前提としてウクライナで戦争が少なくとも停戦状態になければ
なりません。トランプが急いでいるのは安全の保障ではなく、早急の停戦です。
とういうのも、トランプには、バイデン政権下で3年も続いたウクライナ戦争を停戦そし
て和平に持ち込むことができれば、その立役者として自らの国際的評価が上がり、ひょ
っとしたらノーベル平和賞も受賞できるかもしれない、という期待があるからです。
トランプは、ゼレンスキーとの会談の冒頭で、「ロシアとは非常によい話し合いを行って
きた。プーチン大統領と話し、この件(ウクライナ侵攻)について終わらせようとしてい
る」と述べ、ウクライナ戦争の終結についてプーチンと話し合っていることを述べます。
続いてトランプが、
この侵攻はすぐに終わるはずだったが、3年たった今もまだ、戦争は続いている。
だから私は、将軍たち、兵士たちそして皆さんを大いに評価する。非常に厳しい
戦いだった。すばらしい兵士たちだ。こうした観点からあなたは(ゼレンスキー
大統領は)彼らをとても誇りに思うべきだ」ウクライナの将軍や兵士はすばらしく、
あなた(ゼレンスキー)は誇りに思うべきだ、
との言葉に、ゼレンスキーは「誇りに思います」と短く答えます。
そしてトランプは、
でももう終わりにしたい。もう十分だ。もう終わりにしたい。だから聞いて頂いて
光栄だ。来てくれてありがとう。まもなくイーストルームで会議を開き、合意書に
署名する。昼食後に。私たちは、これからランチをとる。また、ほかのことについ
ても話し合う。
と述べました。
ここまでは、表面的には和やかに話しが進行し、誰もがその日のうちに地下資源開発に関す
る協定の締結が完了するだろうと考えていました。
しかし、ロシアとの話し合いで戦争を終わりにする(停戦)、というトランプの言葉にゼレン
スキーは反発します。
トランプ:ウクライナは兵力が不足している。いいことかもしれない。あなたは「停戦はい
らない、停戦はしたくない。まだやりたい。あんなものがほしい」と言う。もし
今すぐ停戦できるなら、銃弾を止め、兵士が殺されるのを止められるよう、受け
入れるべきだ。
ゼレンスキー:もちろん戦争を止めたいと思っている。
トランプ:だが停戦はいやだというのか。
ゼレンスキー:保証込みの停戦が必要だと言っている。
トランプ:「いかなる合意よりも停戦が早い。
ゼレンスキーは、「停戦についてだけでなく安全保障について話したい。プーチンは過去に25
回も停戦を破った。安全保障についてこれらの協定だけでは不十分だ」と、あくまでもアメリ
カの安全保障の約束を取ろうとします。
トランプとゼレンスキーの見解が平行線をたどったことの背景には、プーチンにたいする評価
が全く逆だったからです。
記者から、「もしロシアが停戦を破ったら、和平交渉を中断したらどうなるのか、どうするのか」
との問いに、トランプは次のように答えました。
(プーチン氏は)私のことを尊敬している。プーチン氏は私と一緒に多くの苦難を経験し
た。うそっぱちの魔女狩りに遭って、彼とロシアは利用された。ロシア、ロシアと。聞
いたことがあるか。詐欺師のハンター・バイデン、ジョー・バイデンのペテンだった。
ヒラリー・クリントン、ずるいアダム・シフ、民主党のペテンだった。彼(プーチン氏)
はそんな目に遭った。われわれは戦争に至らなかった。
つまり、トランプはプーチンと共に苦労を経験してきたので、私も彼を信用し、彼も私を尊敬し
ている、だからプーチンが停戦を破ったりすることはあり得ない、と言外に言っているのです。
これに対してゼレンスキーはプーチンを全く信用しておらず、上に引用したように、たとえ停戦や
和平協定を結んでも、プーチンは無視して侵攻してくると思っています、
こうした両者の立場の違いを抱えたまま、お互いの気持ちが次第にエスカレートし、ののしり合い
のような口論になってしまいました。
トランプとヴァンス副大統領は、アメリカはウクライナの死者をなくすために停戦に努力している
のに、ウクライナはそれに感謝すらしないことにいら立ちを感じていたようです。
トランプは突然「さあ、もう十分ではないか。すばらしいテレビ番組になるだろう」と言い放って
席を立ってしまいます。
会談は決裂に終わったのですが、こうなってしまった要因について、慶応大教授の廣瀬陽子氏は研
究者仲間と話し合いで、3つの原因が挙げられたと語っています。
一つは、ゼレンスキー氏は通訳なしで直接英語でやりとりしていたが、もし、自身はウクライナ語
で話し、それを通訳が英語に翻訳して伝えれば、そこの「間」が生じ、言葉と言葉が直接ぶつかり
合うことは避けられたのではないか、というものです。私も同感です。
二つは、ゼレンスキーは対談に臨んで、もっと戦略を練りシナリオを考えておくべきだったという
見方です。
三つは、トランプのような人物と話し合うためには、図や表を用意して、相手を説得する方が良かっ
たのでは、という意見です(注2)。
二つ目の要因に関して廣瀬氏はとくに説明していませんが、例えば戦略として、まずは資源開発協定
について合意することを確認し、最後に安全全保障について要望する、という戦略が考えられます。
それにしても、歴代のアメリカの大統領がロシアによるウクライナ占領に関連して何もしてくれなか
ったことをゼエレンスキーが非難する際に、
彼(プーチン)はウクライナの東部とクリミアという大きな部分を2014年に占領した。それ
から何年も。バイデン前大統領だけでなく、当時のオバマ大統領、トランプ大統領(1期目)、
バイデン大統領・・・・
と、目の前にいるトランプ大統領の名前を挙げてしまいました。これにたいしてトランプは直接的に
は反論しませんでしたが、心の中では怒っていたにちがいありません。
二人の大統領が直接会談での決裂を避けるために、トランプと同じ共和党重鎮のグラム上院議員は首脳
会談に先立ち、ゼレンスキー氏と面会し、「感謝の気持ち」を持ってトランプ氏に接し、鉱物資源交渉
以外の話題(特に安全保障)は避けるよう忠告していました。
決裂という最悪の事態を受けグラム氏は「ゼレンスキー氏は辞任するか、態度を変える必要がある」と
記者団に述べ、怒りをあらわにしました。
下院民主党トップのジェフリーズ院内総務は声明で、米ウクライナ間の亀裂が露呈したことはロシアを
利するだけで「トランプ氏は世界で米国の恥をさらし続けている」と指摘しました。
また同党のマーフィー上院議員はX(旧ツイッター)で「トランプ氏はロシアのプーチン大統領の愛犬と
化し、民主主義ではなく独裁者を支持している」と糾弾しました(注3)。
大統領補佐官のウォルツ氏によると、記者団の退出後、トランプ政権側は幹部で対応を協議し、ほぼ全会
一致で「大統領執務室でのあのような侮辱を受けた後で、物事を前進させることは不可能であり、これ以
上の関与は逆戻りするだけだ」とトランプ氏に協議打ち切りを進言したという。
その後、ホワイトハウスから去るように伝えると、駐米ウクライナ大使やゼレンスキー氏のアドバイザー
は何が起きたかを認識し、涙ぐんでいたという。
ただ、ゼレンスキー氏は何が起きたか認識せず、引き続き議論したがっていた。ウォルツ氏は最後に「時
はあなたに味方していない。(米国の)寛容さは無限ではない」などと述べたという(注4)。
ゼレンスキーを除くウクライナ側のスタッフは、ゼレンスキーが本当にトランプを怒らせてしまったこと
にショックをうけて涙ぐんでいたのにたいして、ゼレンスキー自身は全くそのようなことは考えておらず、
また、議論を続けられると考えていたようです。
このことは、決裂のあとにFOXテレビに出演したゼレンスキーは、ニュースキャスターから「謝罪する気
はあるか」と問われて「何か悪いことをしたとは思わない」し、修復は可能だと答えていることからも分か
ります。
ゼレンスキーが言ってきたことは「正論」ですが、外交の舞台では必ずしも「正論」が「正解」とは限りま
せん。少なくとも「損か得か」という点では、今回のケンカ別れはウクライナにとって「損」な結果でした。
次回は、アメリカとウクライナとの決裂が、その後のウクライナ戦争と国際関係全般にどのような影響を与
えるのかを検討します。
(注1)会談でのやり取りは以下のサイトで見ることができます。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250302/k10014737411000.html(前編)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250302/k10014737431000.html(中編)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250302/k10014737471000.html(後編)
(注2)BS朝日『日曜スクープ』(2025年3月1日)
(注3)Yahoo NEWS 3/1(土) 21:34配信https://news.yahoo.co.jp/articles/ee245cd8d1a758feecc349bb1575394abc4ac6fa
(注4)『毎日新聞』電子版(2025/3/3 11:54(最終更新 3/3 15:53)https://mainichi.jp/articles/20250303/k00/00m/030/066000c?utm_
source=article&utm_medium=email&utm_campaign=mailyu&utm_content=20250303