第二期トランプ政権発足(2)―就任演説を読み解く―
1月20日の就任演説は、歴代の大統領や要人にたいする型通りの挨拶の後、トランプ
新大統領は、「そして国民の皆さん、米国の黄金時代がいま始まる。・・・私は非常
に明快に米国を第一に据える。」と宣言しました。
ここまでは予めトランプ氏が繰り返し言ってきたことなので、とくに新鮮味はありま
せんでしたが、続く言葉はほとんどがバイデン政権に対するかなり露骨な批判(とい
より攻撃―括弧内は筆者注 以下も同じ)でした。
すなわち、「われわれの主権と安全は回復される。正義の均衡は取り戻される。悪意
があり、暴力的かつ不公正な司法省と政府の武器化は終わる」と続く。
これは主として司法省について、2020年大統領選の結果に異議を唱えたトランプ氏
をバイデン政権時に起訴しようとしたこと、そして数々の法的な訴追を指していると
思われます。
また、「今日、政府は信頼の危機に直面している。(というのも)、長年にわたり急
進的で腐敗した既得権益層は、市民から権力と富を搾取してきた。社会の支柱は破壊
され、完全に荒廃したように見える」からだ、と、バイデン政権を非難します。
これ以後、自画自賛というか、自己アピールバイデン政権への批判とを交互に語る。
すなわち、「国家的成功のわくわくするような新時代の幕開けにいるという確信と楽
観と共に大統領職に復帰する。変化の波が国中を席巻している。陽光が全世界に注が
れ、米国にはかつてないほどこの機会を捉えるチャンスがある」と、まず自己アピー
ルします。
しかし、「(前バイデン政権の)政府は国内の単純な危機さえ管理できず・・・刑務
所や精神科病院から抜けだし、世界中から米国に不法入国した危険な犯罪者に保護と
聖域を与えている」とバイデンをこえでもか、とこき下ろします。
しかも、「(バイデン政権の)政府は外国の国境を守るために際限なく資金を投じな
がら、米国の国境とさらに重要な自国民を守ろうとしなかった」。ここで”外国の国
境”とはウクライナを指し、ロシアとの戦争に巻き込まれたことを意味します。
一方、「国内では何か月も前に起きたハリケーンで大きな被害を受けた人たちに基本
的なサービスを提供できていない」。
直近では、火災が続くロサンゼルスにおいて数週間前から続いていている山火事で多
くの住宅やコミュニティーが消失しているが、火災の収束の兆候さえない。
このようなことが起きてはならないのに、誰も何もすることができない。しかし(私
が大統領になったからには)「それは変わるだろう」と、自己アピールする。
われわれの公衆衛生システムには世界のどの国よりも多くの金が費やされているが、
災害時に何もできない。というのも、「われわれの公衆衛生システムには世界のどの国
よりも多くの金が費やされているが、(前バイデン政権では)何もできない。
アメリカが抱えている問題は多くあるが、
私の当選は、これら(バイデン政権による)全ての恐ろしい裏切りを完全かつ
全面的にひっくり返し、人々に信 仰と富、民主主義、そして自由を返すため
の(国民の)負託だ。この瞬間から、アメリカの衰退は終わる。われわれの自
由とわが国の輝かしい運命がもう否定されることはなく、直ちに米国政府の誠
実さ、競争力、忠誠心を回復する。
と、自分を礼賛し、この大事業を成し遂げることが使命で、その力を神が与えてくれた、
と訴える。
われわれの大義を阻止しようと望む人々は、私の自由、そして実際に命を奪お
うとした。
ほんの数カ月前、美しいペンシルベニアの地で、暗殺者の弾丸が私の耳を貫通
した。しかし、私の命が救われたのには理由があったのだとその時感じた。今
ではその確信を強めている。私はアメリカを再び偉大にするために神に救われ
た。
トランプ氏は、あらゆる人種、宗教、肌の色、信条の市民に再び希望と繁栄、安全、平
和をもたらすために目的意識とスピードをもって行動する、というのだ。
トランプ氏は、大統領選の勝利が示すように、「老若男女やアフリカ系、ヒスパニック系、
アジア系の米国人・・・などほぼ全ての社会の構成者からの支援が劇的に増加している」、
と述べていますが、こうした非白人の支援については、選挙での投票したという文脈だけ
で、それ以外には言及さえありません。
こうした自画自賛に続いて、演説は今後大統領令に署名する政策目標を挙げてゆきます。
第1に(以下の番号は筆者が付した)、南部国境における国家非常事態を宣言する。すべて
の不法入国は直ちに止まり、何百万もの犯罪的外国人を出身地に戻すプロセスを開始する。
わが国に対する破滅的な侵略を撃退するために軍隊を南部国境に派遣する。
この不法入国の阻止という従来から公言してきた目的の他に、外国のギャングや犯罪ネッ
トワークを駆逐する、という理由も付け加えています。
第2に、膨大な過剰支出とエネルギー価格の高騰によってインフレ危機が引き起こされた。
だからこそ今日、国家エネルギー緊急事態を宣言する。
「米国はどの国よりも大量の石油と天然ガスを持っている。それを活用して国内の石油価
格を引き下げ、米国のエネルギーを世界中に輸出する。米国は再び豊かな国になる。「掘っ
て 掘って掘りまくれ!」と、煽ります。
第3に、本日をもって、脱炭素を目指す「グリーン・ニューディール」政策を終わらせる。
電気自動車の普及策を撤回し、自動車産業を救い、偉大な自動車産業労働者に対する私の神
聖な誓いを守る。これにより再び米国で自動車を製造するだろう。
この点は、電気自動車テスラの所有者でもあるイーロン・マスク氏との対立の種になる可能
性もある。
第4に、米国の労働者とその家族を保護するため、貿易システム(具体的には関税政策)の
修復を直ちに開始する。それは、他国を豊かにするためにわれわれの国民に課税していたが、
米国民を豊かにするために外国に関税を課すことだ」。
この目的のため、「全ての関税および歳入を徴収する外国歳入庁を設立する。外国から巨額
の金が国庫に流れ込むことになる。アメリカンドリームはまもなく復活し、かつてないほど
栄えるだろう」。
ここには、単純な誤りがあります。というのも、関税はアメリカに輸出している外国の企業
が払うのではなく、米国内の輸入企業がはらうから「外国から巨額の金が国庫に流れ込む」
ことはありません。
しかも、輸入業者は増大した関税を販売価格に上乗せするから、米国内の輸入品価格が上昇し、
インフレを誘発し国民の生活を圧迫することになります。
第5に、政府の能力と有効性を回復するため、新しい政府効率化省を設立して、行政費用をカ
ットする。これは二人体制で、その一人がイーロン・マスク氏です。
第6に、連邦政府は長年にわたり、違法かつ違憲に表現の自由を制限しようとしてきたが、政
府のあらゆる検閲を直ちに停止し、米国に言論の自由を取り戻すための大統領令に署名する。
この背景には、かつてトランプ氏のSNSアカウントが削除されたことに対する反発、ツイッ
ター社を買収したイーロン・マスク氏らの、表現の自由への制限の撤廃を主張する人たちの意
向を反映していると思われます。
第7に、私(トランプ氏)は人種とジェンダーを公私生活のあらゆる側面へ社会的に持ち込も
うとする(バイデン)政府の政策も終わらせる。今日から性別は男女の二つのみとする、と述
べました。
性別(ジェンダー)は男と女だけとは、LGPTやトランスジェンダー、同性愛など性の多様
なあり方を否定するものです。
就任式会場の連邦議会議事堂に集まった大勢から熱狂的な反響を呼んだ。近くのスポーツ競技場
に集まった支持者らからも、激しい歓声が上がりました。こうした反応は、トランプ氏を支持す
る人たちの社会文化的な背景を表しています。
第8に、これからすぐに、メキシコ湾の名称をアメリカ湾に変更し、偉大な大統領ウィリアム・
マッキンリーの名前を復活させ、(デナリ山の名称を)マッキンリー山に戻す。
第9に、中国がパナマ運河を運営しているが、「われわれは中国ではなくパナマに運河を与えたの
だ。米国は運河を取り返す」。
第10に、「アメリカは再び、自国を成長している国だと考えるようになるだろう」、そしてアメリ
カの富を増やし、「私たちの領土」を拡大すると誓いました(後述参照)。
最後に、未来はわれわれのものであり、黄金時代は始まったばかりだ。「米国に神のご加護を。あ
りがとう」、という定形の言葉で締めくくっています。
以上が、演説で語られたことです。しかし、大統領選中からも公言していた世界全体に影響を及
ぼす重要な問題でありながら、就任演説では直接に触れられなかった事項がありました。
たとえば、気候変動に対処するための国際的枠組、通称「パリ協定」からの離脱には直接触れま
せんでしたが、就任演説のその日に大統領令にサインし、その瞬間に正式に離脱しました。
また「世界保健機関」(WHO)からの離脱も口にしていましたが、これについては、もしアメリ
カの拠出金が中国と同程度に減らすことができれば、今後も加盟国として留まる、と述べました。
これも、トランプ流の「ディール」(取引)の一つなのでしょう。
個別的な問題になりますが、就任前には中国製品への輸入関税は60%、メキシコとカナダから
の輸入品には25%の関税を課すと公言していましたが演説では触れませんでした。
しかし就任式後に、トランプ氏は中国からの輸入関税を10%にすると、トーンダウンし、カナ
ダとメキシコからの輸入関税25%については2月1日に決定すると発言しています。
もし、後者が実施されると、メキシコの工場で生産された日本車のアメリカへの輸出は大打撃を
うけることになります。
なお、中国企業が配信するTiK Tokの米国での配信を禁止する法律が通っていましたが、就任演
説ではこの法律の執行を猶予するとしています。これも、将来のディールの対象なのでしょう。
就任前には、ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)の振興策が重要施策に採用する、と語っ
ていましたが、これについては演説で言及されませんでした(注1)。
私が心配しているのはトランプ氏の領土的野心です。演説では露骨な表現はせず、「アメリカは
再び、自国を成長している国だと考えるようになるだろう」とトランプ氏は言い、アメリカの富
を増やし、「私たちの領土」を拡大すると誓いました。
この最後の部分について事前に、重要水路のパナマ運河を中国が運営していると、根拠のない主
張を展開し、パナマ運河を取り戻すと公言していました。
また、デンマーク自治領であるグリーンランドをアメリカに売り渡せ、など領土的な野心がむき
出しにしていました。その際、関税を武器に脅しをかける一方、軍事的な武力の行使もないわけ
ではない、というような表現で脅していました。
演説でこそ触れませんでしたが、トランプ氏はその後の執務室での記者団とのやりとりで、改め
てグリーンランドの所有と支配への意欲を示しました。
加えて、カナダをアメリカの51番目の州になったらどうだ、と発言していたことに、同盟諸国は
すでに懸念を抱いていましたが、トランプ氏がパナマ運河とグリーンランドへの言及を聞いて、一
層懸念を強めたのではないでしょうか。
『東京新聞』(2025年1月22日)は、こうしたアメリカの姿勢を、「自国優先の圧力外交」「他国主権
軽視 摩擦いとわず」との見出し記事で非難しています。
私も全く同感です。トランプ氏はおそらく日本に関税と防衛費増額の圧力をかけてくるでしょう。
その時政府は腰砕けにならず、しっかりと日本の主権と国益を守る姿勢を貫くべきです。
(注1)『JIJI COM』 (2025年01月23日18時30分 https://www.jiji.com/jc/v8?id=202501trumpceremony&utm_
source=piano&utm_medium=email&utm_campaign=8697&pnespid=p7aakI1Jv6bP.reyrRGgv_
cH7hIKr3NpmwJ2BUQrqxyV.E0nnPcTm6ofTCV3c86lDx
(注2)BBC NEWS (2025年1月21日 https://www.bbc.com/japanese/articles/c5yerl2003lo
1月20日の就任演説は、歴代の大統領や要人にたいする型通りの挨拶の後、トランプ
新大統領は、「そして国民の皆さん、米国の黄金時代がいま始まる。・・・私は非常
に明快に米国を第一に据える。」と宣言しました。
ここまでは予めトランプ氏が繰り返し言ってきたことなので、とくに新鮮味はありま
せんでしたが、続く言葉はほとんどがバイデン政権に対するかなり露骨な批判(とい
より攻撃―括弧内は筆者注 以下も同じ)でした。
すなわち、「われわれの主権と安全は回復される。正義の均衡は取り戻される。悪意
があり、暴力的かつ不公正な司法省と政府の武器化は終わる」と続く。
これは主として司法省について、2020年大統領選の結果に異議を唱えたトランプ氏
をバイデン政権時に起訴しようとしたこと、そして数々の法的な訴追を指していると
思われます。
また、「今日、政府は信頼の危機に直面している。(というのも)、長年にわたり急
進的で腐敗した既得権益層は、市民から権力と富を搾取してきた。社会の支柱は破壊
され、完全に荒廃したように見える」からだ、と、バイデン政権を非難します。
これ以後、自画自賛というか、自己アピールバイデン政権への批判とを交互に語る。
すなわち、「国家的成功のわくわくするような新時代の幕開けにいるという確信と楽
観と共に大統領職に復帰する。変化の波が国中を席巻している。陽光が全世界に注が
れ、米国にはかつてないほどこの機会を捉えるチャンスがある」と、まず自己アピー
ルします。
しかし、「(前バイデン政権の)政府は国内の単純な危機さえ管理できず・・・刑務
所や精神科病院から抜けだし、世界中から米国に不法入国した危険な犯罪者に保護と
聖域を与えている」とバイデンをこえでもか、とこき下ろします。
しかも、「(バイデン政権の)政府は外国の国境を守るために際限なく資金を投じな
がら、米国の国境とさらに重要な自国民を守ろうとしなかった」。ここで”外国の国
境”とはウクライナを指し、ロシアとの戦争に巻き込まれたことを意味します。
一方、「国内では何か月も前に起きたハリケーンで大きな被害を受けた人たちに基本
的なサービスを提供できていない」。
直近では、火災が続くロサンゼルスにおいて数週間前から続いていている山火事で多
くの住宅やコミュニティーが消失しているが、火災の収束の兆候さえない。
このようなことが起きてはならないのに、誰も何もすることができない。しかし(私
が大統領になったからには)「それは変わるだろう」と、自己アピールする。
われわれの公衆衛生システムには世界のどの国よりも多くの金が費やされているが、
災害時に何もできない。というのも、「われわれの公衆衛生システムには世界のどの国
よりも多くの金が費やされているが、(前バイデン政権では)何もできない。
アメリカが抱えている問題は多くあるが、
私の当選は、これら(バイデン政権による)全ての恐ろしい裏切りを完全かつ
全面的にひっくり返し、人々に信 仰と富、民主主義、そして自由を返すため
の(国民の)負託だ。この瞬間から、アメリカの衰退は終わる。われわれの自
由とわが国の輝かしい運命がもう否定されることはなく、直ちに米国政府の誠
実さ、競争力、忠誠心を回復する。
と、自分を礼賛し、この大事業を成し遂げることが使命で、その力を神が与えてくれた、
と訴える。
われわれの大義を阻止しようと望む人々は、私の自由、そして実際に命を奪お
うとした。
ほんの数カ月前、美しいペンシルベニアの地で、暗殺者の弾丸が私の耳を貫通
した。しかし、私の命が救われたのには理由があったのだとその時感じた。今
ではその確信を強めている。私はアメリカを再び偉大にするために神に救われ
た。
トランプ氏は、あらゆる人種、宗教、肌の色、信条の市民に再び希望と繁栄、安全、平
和をもたらすために目的意識とスピードをもって行動する、というのだ。
トランプ氏は、大統領選の勝利が示すように、「老若男女やアフリカ系、ヒスパニック系、
アジア系の米国人・・・などほぼ全ての社会の構成者からの支援が劇的に増加している」、
と述べていますが、こうした非白人の支援については、選挙での投票したという文脈だけ
で、それ以外には言及さえありません。
こうした自画自賛に続いて、演説は今後大統領令に署名する政策目標を挙げてゆきます。
第1に(以下の番号は筆者が付した)、南部国境における国家非常事態を宣言する。すべて
の不法入国は直ちに止まり、何百万もの犯罪的外国人を出身地に戻すプロセスを開始する。
わが国に対する破滅的な侵略を撃退するために軍隊を南部国境に派遣する。
この不法入国の阻止という従来から公言してきた目的の他に、外国のギャングや犯罪ネッ
トワークを駆逐する、という理由も付け加えています。
第2に、膨大な過剰支出とエネルギー価格の高騰によってインフレ危機が引き起こされた。
だからこそ今日、国家エネルギー緊急事態を宣言する。
「米国はどの国よりも大量の石油と天然ガスを持っている。それを活用して国内の石油価
格を引き下げ、米国のエネルギーを世界中に輸出する。米国は再び豊かな国になる。「掘っ
て 掘って掘りまくれ!」と、煽ります。
第3に、本日をもって、脱炭素を目指す「グリーン・ニューディール」政策を終わらせる。
電気自動車の普及策を撤回し、自動車産業を救い、偉大な自動車産業労働者に対する私の神
聖な誓いを守る。これにより再び米国で自動車を製造するだろう。
この点は、電気自動車テスラの所有者でもあるイーロン・マスク氏との対立の種になる可能
性もある。
第4に、米国の労働者とその家族を保護するため、貿易システム(具体的には関税政策)の
修復を直ちに開始する。それは、他国を豊かにするためにわれわれの国民に課税していたが、
米国民を豊かにするために外国に関税を課すことだ」。
この目的のため、「全ての関税および歳入を徴収する外国歳入庁を設立する。外国から巨額
の金が国庫に流れ込むことになる。アメリカンドリームはまもなく復活し、かつてないほど
栄えるだろう」。
ここには、単純な誤りがあります。というのも、関税はアメリカに輸出している外国の企業
が払うのではなく、米国内の輸入企業がはらうから「外国から巨額の金が国庫に流れ込む」
ことはありません。
しかも、輸入業者は増大した関税を販売価格に上乗せするから、米国内の輸入品価格が上昇し、
インフレを誘発し国民の生活を圧迫することになります。
第5に、政府の能力と有効性を回復するため、新しい政府効率化省を設立して、行政費用をカ
ットする。これは二人体制で、その一人がイーロン・マスク氏です。
第6に、連邦政府は長年にわたり、違法かつ違憲に表現の自由を制限しようとしてきたが、政
府のあらゆる検閲を直ちに停止し、米国に言論の自由を取り戻すための大統領令に署名する。
この背景には、かつてトランプ氏のSNSアカウントが削除されたことに対する反発、ツイッ
ター社を買収したイーロン・マスク氏らの、表現の自由への制限の撤廃を主張する人たちの意
向を反映していると思われます。
第7に、私(トランプ氏)は人種とジェンダーを公私生活のあらゆる側面へ社会的に持ち込も
うとする(バイデン)政府の政策も終わらせる。今日から性別は男女の二つのみとする、と述
べました。
性別(ジェンダー)は男と女だけとは、LGPTやトランスジェンダー、同性愛など性の多様
なあり方を否定するものです。
就任式会場の連邦議会議事堂に集まった大勢から熱狂的な反響を呼んだ。近くのスポーツ競技場
に集まった支持者らからも、激しい歓声が上がりました。こうした反応は、トランプ氏を支持す
る人たちの社会文化的な背景を表しています。
第8に、これからすぐに、メキシコ湾の名称をアメリカ湾に変更し、偉大な大統領ウィリアム・
マッキンリーの名前を復活させ、(デナリ山の名称を)マッキンリー山に戻す。
第9に、中国がパナマ運河を運営しているが、「われわれは中国ではなくパナマに運河を与えたの
だ。米国は運河を取り返す」。
第10に、「アメリカは再び、自国を成長している国だと考えるようになるだろう」、そしてアメリ
カの富を増やし、「私たちの領土」を拡大すると誓いました(後述参照)。
最後に、未来はわれわれのものであり、黄金時代は始まったばかりだ。「米国に神のご加護を。あ
りがとう」、という定形の言葉で締めくくっています。
以上が、演説で語られたことです。しかし、大統領選中からも公言していた世界全体に影響を及
ぼす重要な問題でありながら、就任演説では直接に触れられなかった事項がありました。
たとえば、気候変動に対処するための国際的枠組、通称「パリ協定」からの離脱には直接触れま
せんでしたが、就任演説のその日に大統領令にサインし、その瞬間に正式に離脱しました。
また「世界保健機関」(WHO)からの離脱も口にしていましたが、これについては、もしアメリ
カの拠出金が中国と同程度に減らすことができれば、今後も加盟国として留まる、と述べました。
これも、トランプ流の「ディール」(取引)の一つなのでしょう。
個別的な問題になりますが、就任前には中国製品への輸入関税は60%、メキシコとカナダから
の輸入品には25%の関税を課すと公言していましたが演説では触れませんでした。
しかし就任式後に、トランプ氏は中国からの輸入関税を10%にすると、トーンダウンし、カナ
ダとメキシコからの輸入関税25%については2月1日に決定すると発言しています。
もし、後者が実施されると、メキシコの工場で生産された日本車のアメリカへの輸出は大打撃を
うけることになります。
なお、中国企業が配信するTiK Tokの米国での配信を禁止する法律が通っていましたが、就任演
説ではこの法律の執行を猶予するとしています。これも、将来のディールの対象なのでしょう。
就任前には、ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)の振興策が重要施策に採用する、と語っ
ていましたが、これについては演説で言及されませんでした(注1)。
私が心配しているのはトランプ氏の領土的野心です。演説では露骨な表現はせず、「アメリカは
再び、自国を成長している国だと考えるようになるだろう」とトランプ氏は言い、アメリカの富
を増やし、「私たちの領土」を拡大すると誓いました。
この最後の部分について事前に、重要水路のパナマ運河を中国が運営していると、根拠のない主
張を展開し、パナマ運河を取り戻すと公言していました。
また、デンマーク自治領であるグリーンランドをアメリカに売り渡せ、など領土的な野心がむき
出しにしていました。その際、関税を武器に脅しをかける一方、軍事的な武力の行使もないわけ
ではない、というような表現で脅していました。
演説でこそ触れませんでしたが、トランプ氏はその後の執務室での記者団とのやりとりで、改め
てグリーンランドの所有と支配への意欲を示しました。
加えて、カナダをアメリカの51番目の州になったらどうだ、と発言していたことに、同盟諸国は
すでに懸念を抱いていましたが、トランプ氏がパナマ運河とグリーンランドへの言及を聞いて、一
層懸念を強めたのではないでしょうか。
『東京新聞』(2025年1月22日)は、こうしたアメリカの姿勢を、「自国優先の圧力外交」「他国主権
軽視 摩擦いとわず」との見出し記事で非難しています。
私も全く同感です。トランプ氏はおそらく日本に関税と防衛費増額の圧力をかけてくるでしょう。
その時政府は腰砕けにならず、しっかりと日本の主権と国益を守る姿勢を貫くべきです。
(注1)『JIJI COM』 (2025年01月23日18時30分 https://www.jiji.com/jc/v8?id=202501trumpceremony&utm_
source=piano&utm_medium=email&utm_campaign=8697&pnespid=p7aakI1Jv6bP.reyrRGgv_
cH7hIKr3NpmwJ2BUQrqxyV.E0nnPcTm6ofTCV3c86lDx
(注2)BBC NEWS (2025年1月21日 https://www.bbc.com/japanese/articles/c5yerl2003lo