goo blog サービス終了のお知らせ 

大木昌の雑記帳

政治 経済 社会 文化 健康と医療に関する雑記帳

少数与党下の日本政界(1)―国民民主党の減税案は「減税ポピュリズム」?―

2025-06-30 14:05:22 | 政治
少数与党下の日本政界(1)
―国民民主党の減税案は「減税ポピュリズム」?―

2024年の衆議院選挙では日本の政治の世界に激震がおきました。つまり、自民が247から56
減らして191議席へ、公明が32から8議席減らして24議席へ、自・公を足しても215議席で、
総数465の過半数に18議席足りない、少数与党の政権となってしまったのです。

あまり話題になりませんでしたが立憲民主党は98から148議席へと50議席増やし、名実と
もに野党第一党になりました。これで一応、数の上でも従来の自・公一極に対抗する第二極が
登場したことになります。

ただ話題性という点では、国民民主党が前回の7議席から28議席に4倍に増やしたことが世間の
の注目を集めました。維新は44から38議席へ6議席減らしましたが、それでも、38議席
もっていることは国民民主党よりは大きな集団であることには変わりありません。

こうして、選挙後の政界地図は、自・公の第一極、立憲民主党の第二極、そしてキャスティン
グボートを握っている国民民主党と維新の第三極という大きく3グループに分かれました。

この勢力地図を与党側から見ると、18議席以上をもつ第三極のいずれかの賛同を得ることが
できれば単純計算で何とか衆議院では過半数を確保することができることになります。

そこで自民党が当初頼りにしていたのは「自民党に親和性がある」(自民森山幹事長の言葉)、
自民党寄りとみなしていた国民民主党です。

選挙期間中、国民民主党は「手取りを増やす」をキャッチフレーズに支持を増やしました。そ
の具体的な主張として、現行の「「103万円の壁」という「年収の壁」を廃して基礎控除の非
課税枠を178万円まで引き上げることを訴えました。

国民民主党は、選挙でこれ以外の公約を抱えていましたが(たとえばガソリン税のトリガー条
項の凍結解除)、「103万円の壁」を前面に出したこのキャッチフレーズは分かり易いため、
国民民主党が議席を増やすうえで大きな役割を果たしました。

選挙後の報道では、自民党に非課税枠を178万円まで引き上げるべきだ、と激しく詰め寄る
国民民主党と、それを何とか温和な形で収めようとする自民党との駆け引きが連日報道され、
これがあたかも政治課題の中心であるかのような状態でした。

国民民主党が強気に出たのは、自分たちの要求を飲まなければ、「予算案に賛成しないぞ」(実
際にには「予算を通さないぞ」)という脅しをかけ続けていたからです。

国民民主党は、キャスティングボートを握っていることの「うま味」を存分に味わうことがで
きる「我が世の春」を謳歌していました。

しかし、時間が経つにしたがって、状況は次第に変化してきました。それは、国民民主党が掲
げる「手取りを増やす」政策の根拠となる財源問題が示されておらず、自民党からだけでなく
世論も真剣にのその現実性を考え始めたからです。

『東京新聞』の社説(2025年12月14日)も、「財源確保避ける粗雑さ」と国民民主党を批
判しています。まさしく、国民民主党の「手取りを増やす」減税論は、“粗雑”そのものです。

自民党が、いつの時点で方針を変えたのか分かりませんが、自・公と国民民主党との折衝のさ
中に、財源の裏付けのない話には乗らない、という姿勢を鮮明にし始めました。おそらく政府
は、国民民主党の主張には財源論で反論できることに自信を持ち、国民民主党に見切りをつけ
たのでしょう。

私は、自・公政権と国民民主党との折衝をメディアを通してみていて、国民民主党の主張とそ
の姿勢にかなり違和感をもっていました。

一つは、国民民主党案では、所得が多い人ほど減税の恩恵が大きくなります。民間の試算によ
れば年間の減税額は年収200万円の人で約8万円だが、年収500万円で約13万円、年収800万~
1000万円では約22万円と大きな開きがあります。玉木氏も同様の試算をXで公開しています。

つまり、年収が多くなればなるほど減税の恩恵を受ける金額が大きくなるのです。もし、「手
取りを増やす」のであれば、とりわけ低所得層のその恩恵が行き渡る制度にするべきです。

山田久・法政大学経営大学院教授は、次のように述べています。
    基礎控除等の非課税枠を103万円から178万円に引き上げることは、労働力不足を短
    期的に緩和する効果はあるかもしれませんが、ただ女性の経済的自立を促進すると
    いう社会的な動きからは逆行する可能性さえあると言います。
    というのも、「年収の壁」それ自体をなくし、女性が労働時間を気にすることなく、
    就業調整を強いられることなく働ける環境を構築していくことの方が重要だからで
    す。しかも、非課税枠を引き上げたところで、賃金が上がっていけばまた別の壁に
    直面することになります。社会保険料が発生する106万円や130万円の壁も残ってい
    ます。国の税収は大幅に減りますし、高所得者ほど減税の効果が大きいという指摘
    もあります。

最後に山田教授は、こうした課題を国民民主党はどうするのでしょうか、と疑問を投げかけ、
「少なくともストレートに賛同できる施策ではありません」と結論しています(注1)。

また八代 尚氏(経済学者/昭和女子大学特命教授)は、「国民民主党の目先の手取りアップ
策では、国民の暮らしは一向に上向かない。所得税減税で大喜びするのはバイト三昧できる学
生」という辛辣な論考を発表しています。

この背景には、学生のアルバイト収入が103万円を超すと、世帯主が扶養控除を受けられなく
なる。これは増税となるだけでなく、扶養控除とリンクしている会社の子ども手当も失うとい
う事情があるからです(注2)。

学生アルバイトを除いて、非課税枠を178万円に引き上げることの疑問のたいする国民民主党
の返答はどう贔屓目にみても整合性がなく、説明になっていません。

二つは、財源ですが、仮に同等の主張するよう非課税枠を178万円に引き上げると、それ
だけで国庫への減収は7~8兆円となります。その減収分をどうするのか、という問題です。

玉木氏は最初、昨年の税収が増えたので、その上振れ分で賄うと言っていましたが、これは全
く的外れです。というのも、非課税枠の引き上げは「制度」の変更ですから、当然、恒久財源
を示さなければならないのです。昨年の上振れ税収を充てるという単年度の話ではありません。

この点を指摘されると、今度は「財源は政府・与党が考えることだ」と、まるで他人事のよう
に無責任に開き直りました。この時点で私は国民民主党が第三極の一端を担う資格があるのか
非常に疑問に思いました。

これに関連して尾中香尚里(ジャーナリスト、元毎日新聞編集委員)は、
   「103万円の壁」問題など、党の目玉政策を自民、公明両党に次々と突きつけ、政権の政
   策として取り入れるよう求めておきながら、財源については「政府・与党が考えること」
   と丸投げした。
   要求だけ突きつけて、財源を探す責任を政権与党に押しつける無責任さには、さすがに
   筆者もあ然とした。
と、驚きを隠しません(注3)。筆者も全く同感です。

ところが、政府・与党への丸投げ論も批判されると玉木氏は、「堂々と赤字国債を発行すればい
い」と、いとも簡単に言い放ったのです。

借金(赤字国債)をしてそのお金を、減税という形で豊かな層の「手取りを増やす」なら、そ
れは政策というよりたんなるバラマキにすぎません。赤字国債の借金は将来、国民全体が払わ
なければなりません。

こうした事情を反映して、国民民主党の政党支持率は今年に入って徐々に下がり、今年5月の
世論調査では10.2%から6.8%へ急落し、8.2%の立憲民主党に逆転を許しました(注4)。

『朝日新聞』(電子版)2025年5月16~17日に行われた世論調査によれば、減税に関して
は財源を示すべきだとの答えが72%となっていました。

この結果をみると、多くの国民は、耳ざわりの良いスローガンではなく、もっと現実を見据え、
根拠がしっかりした提案を望んでいることが分かります。

中北浩爾氏(政治学者・中央大学法学部教授)は、この世論調査の結果を踏まえて、国民民主
党のさまざまな減税案に関して以下のような批判的なコメントしています。
    国民民主党は昨年の選挙の際には、消費税の5%への引き下げ、「103万円の壁」の178
    万円までの引き上げ、公費投入増による後期高齢者医療制度に関する現役世代の負担
    軽減、トリガー条項の凍結解除、教育無償化、給食費と修学旅行費の全国一律無償化、
    奨学金債務の負担軽減など、てんこ盛り。財源は総額で30兆円を超えるのではないか
    といわれています。
    国民民主党の支持率の陰りには、参院選での山尾志桜里氏らの公認が大きく影響して
    いる可能性があります。しかし、消費税減税の財源を示すべきだという回答が72%を
    占めたこととも関係している可能性があります。財政規律を重視する財務省を「ザイ
    ム真理教」などと攻撃し、赤字国債によって消費税減税を行おうという「減税ポピュ
    リズム」に対して、有権者が警戒感を持ち始めたのかもしれません。

中北氏は、国民民主党の減税案を「減税ポピュリズム」と断じています(注5)。

2025年度の国会の序盤では、衆院選で議席を伸ばした野党第3党の国民民主党が、立憲や野党
第2党の維新を差し置いて、石破政権を振り回しました。

国民民主党の態度に嫌気がさしたのか、石破政権はやがて維新との連携にかじを切りました。

政権の目論見通り維新の賛成によって2025年度予算の年度内成立が実現すると、維新と国民民
主党との間で「邪魔をしたのは維新」「他党のせいにするな」と醜い批判合戦が展開される場面
もありました。

さらに、国会も中盤になると自民党と野党第1党の立憲民主党が直接協議する場面が目立ち始め、
国民民主党の活躍は次第に低調になってゆき、政党支持率も下がってゆきました(注6)。

こうしてみてくると、多くの国民も専門家も、国民民主党の「手取りを増やす」というスロー
ガンには現実性と裏付けがない人気取りのスローガンに過ぎない、とみなしていることが分か
ります。

次回は、税制や財源の問題とは別に、第三極としての国民民主党と維新が政治や国会の場でど
のような位置を占め、どんな役割を果たしているのか、あるいはいないのかを検討します。


(注1)『日経ビジネス』電子版( 2024年11月1日) 2024年11月5日閲覧
    https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00636/103100016/?n_cid=nbpnb_mled_m
(注2)PRESIDENT Online (2024/11/02 8:00)2024年11月2日閲覧
    https://president.jp/articles/- /87795?cx_referrertype=mail&utm_source=presidentnews&utm_medium=
    email&utm_campaign=dailymail
(注3)JBpress (2025.6.20)同日閲覧
    https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/89022?utm_source=editor&utm_medium=mail&utm_campaign=link#google_vignette
(注4)『東洋経済 ONLINE』(2025/06/05 6:00) 2025年6月6日閲覧
    https://toyokeizai.net/articles/-/882157?display=b
(注5)『朝日新聞』デジタル版 (2025年5月18日 21時50分) 2025年5月25日閲覧
    https://digital.asahi.com/articles/AST5L2TS8T5LUZPS002M.html?linkType=article&id=AST5L2TS8T5LUZPS002M&ref=
    commentplus_mail_20250524&comment_id=34391#expertsComments
(注6)JBpress 2025.6.20(金)2025年6月20日閲覧
    https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/89022?utm_source=editor&utm_medium=mail&utm_campaign=link#google_vignette


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 激動する世界と日本再生の道... | トップ | 少数与党下の日本政界(2)―... »
最新の画像もっと見る

政治」カテゴリの最新記事