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イスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリ教授は著作『サピエンス全史』で、「人類の台頭はいかにして起こったか?」(動画:日本語TED)を問い、七万年前から三万年前にかけて、人類に言語から物語の想像力が生まれ、フィクションを信じる「認知革命(新しい思考と意思疎通の方法)」が登場したという。
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1. 認知革命
何故、「認知革命」が7万年前から3万年前に起きたのか?この時期は最終氷期と重なり、今から7万年前から7万5千年前に、「インドネシア、スマトラ島にあるトバ火山が大噴火を起こして気候の寒冷化を引き起こし、その後の人類の進化に大きな影響を与えた」という「トバ・カタストロフ理論」も関係しているのかもしれない。
フィクションを信じて、物語を生きる動物は人類のみだと思う。洞窟壁画は、想像力の誕生を説明できる一つになるだろうが、「認知革命」の遺伝学的証明に期待したい。「われわれ現生人類(ホモ・サピエンス)はアフリカに起源し、寒冷化にもかかわらず、本格的に他の大陸への拡散を開始したのは約5万年前」と考えると、出アフリカは「認知革命」によって起きた移動かもしれない。
ただし、今、ホモ・サピエンスのアフリカ起源説など人類史の常識が次々と覆されている(2018年10月19日)ので、原因を断定するよりは、認知革命したホモサピエンスの集団的行動力が他を圧し、人類を繁栄させて来たという程度に考えておきたい。
一方、このことはフィクションによって敵を作る人類の戦争が、人類を滅亡させる危うさをも持っていることを示している。戦争やテロは、「正義」という言葉のもとに正当化される。集団での支配欲は、動物的本能の蠢きによるもの。腕力(暴力)によって、あるいは知力によってさえも他者を支配するのではなく、他者と支え合いながら生きることが、サピエンスとして求められる将来の理想と責任だと、私は思う。
NHK番組「衝撃の書が語る人類の未来」は、「人類の技術の発達」に対する警告ではあるが、「人類の幸福への道の物語」ではない。
人類進化をどう考えるか・・・。この番組を紹介し、「物語を生きる」ことの意味を考えてみたい。
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衝撃の書が語る人類の未来~サピエンス全史 ホモ・デウス
TED日本語:人類の台頭はいかにして起こったか?
参考:認知革命を振り返る / 書評『サピエンス全史』
人類の誕生とその進化:人間と動物の境界をめぐって
アジアにおけるヒトの拡散―近年の研究成果と動向― p.76-89
総説 現代人の起源―研究の現状と将来の展望― 海部陽介
ブログ「雑記帳」:海部陽介「現代人の起源―研究の現状と将来の展望―」
2.農業革命
フィクションを現実と考える認知革命を経て、人類は1万2千年前から食物の栽培(農業)を始めた。
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「人類はなぜ農耕と牧畜を始めたのか」?
「大陸氷河の後退が始まり、気候が次に温暖化してくると、寒冷地を好む大型獣は北上して人間の住んでいるところから遠ざかって行った。狩りが困難になると人々は食用にできる植物を探すより選択肢がなくなった。しかし、大きな集団が採集生活で暮らせる土地は限られている、だとすれば、人類は一か所に定住して食料を調達する新しい方法を探さなければならなくなり、そこで考え出された新しい食料調達の方法が農耕と牧畜であった。」
参考:農業起源の考古学―農耕牧畜はどのように始まり、世界に広まっていったか?
人類はなぜ農業を始めたのか
3.人類の統一
人類が戦争をしながらも世界的に繋がっている(人類統一)の扉を開く鍵は、「貨幣」、「宗教」、「帝国」の3つのフィクションです。
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3-1. 貨幣
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3-1B. 資本主義
それまで同じ大きさのパイを分け合っていた人類は、パイを大きくできるようになると、増えた分から、また資本を投入して、パイをどんどん大きくしていったのです。資本主義です。「資本主義」はハラリさんが指摘する3つ目の鍵「帝国」と結びつき、人類を統一へと導いていきます。
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3-2. 宗教
社会秩序はすべて想像上のものだから、みな脆弱であり、社会が大きくなればなるほどさらに脆くなる。宗教が担ってきたきわめて重要な歴史的役割は、こうした脆弱な構造に超人的な正当性を与えることだ。
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3-3. 帝国
この本では「帝国は境界線を自在に変え、無尽蔵の欲を持つ」と特徴づけています。帝国は自らの基本的な構造もアイデンティティも変えることなく、次から次へと異国民や異国領を飲み込んで消化できる。現在のイギリスの国境はかなり明確だが、一世紀前には地球上のほとんどどんな場所でも、大英帝国の一部になりえた。
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人類の統一は「資本主義」と「帝国のビジョン」が結びつき、経済成長を追い求めることで成し遂げられたというのです。
4.ホモ・サピエンスからホモ・デウスへ
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人間至上主義の下で育った生物工学、人体拡張技術、AI技術等、テクノロジーの進歩は、人類に何をもたらすのか。「人類は昨今の素晴らしい業績に背中を押されて、人間を神にアップグレードし、ホモ・サピエンスをホモ・デウス(神の人)に変えることを目指すだろう。」
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自分のことしか考えない人類は、地球環境を破壊するだけでなく、仕事の効率を優先して、人間関係も破壊するだろう。
「21世紀は進歩の列車に乗る人は、神のような想像と破壊の力を獲得する一方、後に取り残される人は、絶滅の憂き目に遇いそうだ。『ホモ・デウス』になれるのは、一部のエリートだけ。社会的な価値を持たない「無用者階級」になる。」という。
しかし、「生産方式」はテクノロジーの進歩によって変化するだろうが、「生産」は消費によって維持され、「消費者は神様だ」とか「消費者は王様だ」とも言われる。テクノロジーが独り歩きする心配はない。
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人類は真理を探究する道として「科学」を発達させてきた。しかし「物語」では戦争やテロでさえ「正義」と主張する。人間至上主義は自己至上主義につながる。自己を主張することは、他者との関係を破壊しかねない。例えば、「日本の自衛隊は、日本を守るためにある」と考えるのは、戦争を肯定した大きな間違いだ。戦争を否定する立場から考えれば、世界の軍隊は人類の幸福を守るためにある。地球の陸上環境を守るだけでなく、熱帯低気圧の勢力を拡大させないように、海水を撹拌して冷却する等、海洋環境も世界で協力して守る。お互いに他者を尊重して生きるしか、人類の生き残る道はない。
『理性の物語』で正義を主張することは苦しい。耳の遠い人にもテクノロジーで『感性の物語』「ストラディバリウスをこの手に!若き音楽家たちの挑戦」(22分)を聞かせてあげたい。
参考:人類の暗い未来への諸対策
これからは「消費者が王様」の時代に
消費者は王様
消費者は王様?
なぜ人は消費するのか : 他者という視点
5.「物語を生きる」ことを「無」から考えた西田哲学
『理性の物語』を考えるのが哲学だと思う。日本の哲学者「西田幾多郎」は、禅の研究から「物語を生きる」意味を「無」から考えた。
参考:西田幾多郎記念哲学館”哲学の世界”を体験! 2019.3.27放送
京都大学 西田幾多郎 無の哲人:禅の思想から日本哲学へ Kyoto-U OCW
西田幾多郎哲学論集 松岡正剛
6.ユヴァル・ノア・ハラリ著「サピエンス全史と「ホモ・デウス」の解説
Forbs Official Columnist 首藤 淳哉氏は、『「ホモ・デウス」が描く、私たちが想像もしなかった未来』(2018/09/06) で、「人類の歴史を振り返ると、飢饉や疫病、戦争によって人々の生存は脅かされてきた。ところがいまやこれらは克服されつつある。もちろんこれらの問題が根絶されたわけではないが、実際には飢饉で死ぬよりも肥満で死ぬ人の方が多く、疫病よりも老化で、戦争よりも自殺で死ぬ人のほうが多いのが現実だ。ハラリは、この3つの問題を克服しつつある人類は、次のステージに向かうのではないかと見ている。次なるステージで人類が目指すのは、不死と幸福と神性の獲得だ。サピエンスは自らを神(デウス)にアップグレードさせ、ホモ・デウスになるのではないかというのが、本書の予見する未来である。」と解説している。
NHK おはよう日本(2018年10月18日)でも、人間は神になる!?『ホモ・デウス』とはを紹介し、「歴史上にない変革の時代だからこそ、『ボーッと生きていてはいけないよ』ということ」としている。
次の若い世代に求められるのは、競争的世界で生き残る力を磨くことではない。2万年前の人類よりは幸福になるためには、『ボーッと生きる』よりも、感性を感動させて生活を楽しめる時代を、大人が率先して準備していく必要があろう。他者との競争ではなく、他者を尊重することが生活の質を向上させる、と私は思う。
初稿 2019.10.30 表示ズレ修正 2020.5.6
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