自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

はじめに

2010-09-30 14:09:24 | 牛豚と鬼

宮崎口蹄疫の渦中
農家のお母さんは「戦争のようじゃ」とつぶやいた

そう、これはまさに戦争です
見えないウイルスという敵の侵入を防ぐために
味方の牛や豚を殺すという惨い戦争です
感染が拡大して人さまに迷惑をかけないために
お国のためにという思いが
お国への反抗と家畜への思いを殺しました

一方、ウイルスが増殖すると
豚も感染するので
大型経営の養豚家は
早く全殺処分しろと険悪な雰囲気になる

そう、これはウイルスとの戦ではなく
人と人の戦になる
いや、人の考えが戦争をつくりだすのです

戦争になるのは
お国が戦略を間違えるから
口蹄疫に対する正しい情報が得られないから
現実と真実を知り、それを共有できれば
被害を最少にして、口蹄疫を終息させることができたはず

地方紙の宮崎日日新聞は、現場から情報を伝えましたが
真実の追究に学者が協力しないので、それも限界がありました
全国紙やTVはいつものように
お国の情報からシナリオを書き
現場から真実を追究する姿勢は見られません

「全殺処分しかない」というのは20世紀のドグマ
2001年の英国口蹄疫の大惨事の反省から
そしてワクチン製造技術やウイルス検査技術の目覚ましい発達から
今、世界は全殺処分からワクチン接種へと動いています

口蹄疫の悲劇は、感染の拡大を防止するために
家畜を殺処分するしかないと考えることにあります
感染した家畜と健康な家畜を見分けるのが困難だからといって
全殺処分するのは
第二次大戦中に、高空からの軍事施設の爆撃は効率が悪いとして
都市の無差別爆撃を指揮したカーチス・ルメイ司令官と同じこと

科学技術の発達を促しつつ今の技術で
殺処分する家畜をいかに少なくして終息させるかが
口蹄疫対策の常識になる必要があります

ですから、口蹄疫の防疫対策については
現場の議論と理解が必要です
日頃から現場と行政と研究がつながり
最善の防疫対策が選択され
それをメンバーが理解しておくことは大切なことです

このネットは現場と行政と研究をつなぐための
一粒の種にすぎませんが
やがて芽を出し、大きく成長してくれることを祈っています

2010.9.30 - 2015.4.7 更新


家畜伝染病予防法と防疫方針の改善点

2010-09-29 16:46:22 | 牛豚と鬼

 動物の命を守るのが獣医の仕事ですが、口蹄疫は伝染性が強いという理由で殺処分によってまん延を防止しています。しかし、口蹄疫のようなウイルスによる伝染病はワクチンで感染拡大を阻止するのが世界の常識です。殺処分を最少にしてまん延を防止できるように、科学技術の発達に応じて速やかに、科学的な方法を防疫対策に導入する必要があります。

 わが国では家畜伝染病の発生を予防し、まん延を防止する方法の基本は、家畜伝染病予防法(1951.5.31)に定められていますが、口蹄疫(2000)やBSE(2001)の発生を機に、家畜防疫を総合的に推進するための指針(2001.9.6)防疫指針(口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針 2004.12.1)が追加され、口蹄疫の防疫指針が法的に示されました。これに伴い病性鑑定指針(2008.6.2)が改訂され、口蹄疫の防疫はこれらの指針に基づき対策が講じられています。

 しかし、全殺処分が口蹄疫防疫の基本であり続けていることこそが、口蹄疫を恐ろしい病気に仕立て、現場を殺処分と埋却という戦場の地獄に陥れたのではないでしょうか。

 患畜と疑似患畜を曖昧にし、疑似患畜が1頭でも出ればそこで飼育されている牛、豚は全頭殺処分とするのは科学的根拠がなく、ただ恐怖による殺処分にすぎません。今回の宮崎口蹄疫も、感染の確認を躊躇したことで防疫措置が遅れ、飼育頭数の多い畜舎密集地帯で全殺処分を実施したことが、被害を拡大させた可能性があります。密集地帯であるからこそ、早くワクチンを接種して感染の拡大を防ぐべきでした。

 摘発・淘汰(stamping-out)とは単なる淘汰(culling) ではなく、患畜および感染している疑いの濃い疑似患畜をウイルス検出のPCR検査または抗体検査により科学的に摘発して殺処分することであり、検査と殺処分は一体のものでなければなりません。

 今回、リングワクチン(ring vaccination)と称して実施された殺処分を伴うワクチン接種("supperssive" vaccination)は、2001年にオランダで実施されましたが、これは当時のOIE基準では、ワクチン接種した動物がいないことが清浄回復の条件とされていたため、仕方がなかったことです。2003年のOIE基準の改正により、ワクチン接種した動物に自然感染のものがいないことを証明すれば清浄回復が認められるようになり、オランダは今ではワクチン接種後殺処分に反対の方針を鮮明に打ち出しています。

 OIEは清浄回復の条件としてワクチン接種国としない国を区分していますが、これは口蹄疫発生前に予防的にワクチン接種をしているかいないかの区分であり、緊急ワクチン接種のことではありません。現在、予防ワクチンを接種して清浄国であるのはウルグアイのみですが、OIEは清浄回復の基準だけを示せば良いのであり、なぜ予防ワクチンをしている国を区分しなければならないのでしょうか。ワクチンの予防接種をしようがすまいが、清浄は清浄で違いはありません。貿易のためにOIE基準が重要視されることが、ワクチンの使用を拒む要因となっています。

 なお、ウルグアイは予防ワクチンで口蹄疫の発生を抑えていますが、このことはワクチンによるキャリアを心配する必要はないことを示しています。また、ワクチンを接種したら市場に出荷できないのであれば、ウルグアイで予防ワクチンを摂取するはずがありません。ワクチンの使用を躊躇することは、根拠もなくゼロリスクを求めて感染をかえって拡大することにつながります。 

 2001年の英国口蹄疫の大惨事を教訓に、ワクチンによる防疫が大きな流れとなりましたが、それを象徴する論文「殺処分とワクチン接種(2002)」をFAOが紹介しています。この論文では「口蹄疫ワクチンは病気を予防できるが根絶できない」という獣医界のドグマへの挑戦がなされ、殺処分の問題点を指摘し、全殺処分は感染を拡大する危険性が高いことを指摘しています。
 わが国は2000年の口蹄疫防疫対策を成功例として、全殺処分の見直しをしないまま英国の惨事を繰り返してしまったと言えましょう。 

 今回実施されたのはリングワクチンと言うよりもリングカリング(ring-culling, circle culling)による防火帯殺に近いと思いますが、これは摘発・淘汰(stamping-out)を摘発なしに殺処分するように拡大したものです。しかし、大規模な殺処分は多くの人、車、重機の移動を必要とし、口蹄疫の知識が乏しい人が多くかかわることにより、感染を防止するより拡大する恐れがあることは先に紹介した論文で指摘されています。今回、感染の拡大が止まったとすれば、その地域に家畜がいなくなったからであり、殺処分を最少限にして感染を食い止める防疫の基本に反しています。

 今回の宮崎口蹄疫の防疫対策の検証においては、防疫指針が科学技術の革新や世界の動向に応じた対策になっていたか、家畜防疫を総合的に推進するための指針がどう制度化されていたか、こそが問われるべきでしょう。

2010.9.27 開始 2010.10.7 2014.11.2 一部更新