自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

テイラー博士の”復活した脳”と赤ちゃんの脳

2015-08-22 15:19:17 | 自然と人為
 NHKには復活した“脳の力”~テイラー博士からのメッセージ~のような素晴らしい番組もある。受信料を支払っている人には、情報公開を原則にしていつでも観れるようにして欲しいものだ。ここではその一部を文字起こし、論理の世界の弊害と自然に生きる子供の世界の大切さについて紹介したい。参考:脳卒中になった脳科学者の本

復活した“脳の力”~テイラー博士からのメッセージ~(動画)

 今年(2008年)タイム誌は世界で最も影響のある100人に彼女を選びました。ジル・ボルティ・テイラー博士(49歳)、通称ジル。彼女は数奇な運命を辿ってきました。かつてハーバード大学で脳を研究する科学者でした。優れた論文を発表し、花々しい研究者生活を送っていました。しかし、今から12年前(1996年12月)、37歳の時、脳卒中に陥りました。突然言葉が話せなくなり、体の自由も失いました。脳の中の左側で起きた出血は論理的な思考も奪いました。彼女の生活を支えたのは、影響が及ばなかった右側の脳でした。しかし、深刻な症状とは裏腹に彼女はこの時、不思議な幸福感を味わっていました。

 ジルはその後リハビリを続け、8年もの歳月をかけて再生を果たしました。彼女の中では奇妙な変化が起こっていました。ステンドグラスの絵や色彩は脳卒中の前と後で別人のように生まれ変わりました。森の中では触った木の葉の感覚や聞こえる音など、五感が研ぎ覚まされるようになりました。


 病に陥った時に感じた不思議な幸福感を今も持ち続けています。彼女は自分の体験を多くの人びとに語り始めました。ジルが脳卒中の体験を綴った本は50万部に達するベストセラーとなりました。言葉や論理的な思考を失った時に感じた幸福感の大切さ。彼女のメッセージは脳卒中の患者だけではなく、広く多くの人々に希望を与えています。

 日本を代表する生命科学者の中村佳子さん、DNAや細胞の研究など生命の不思議について研究を行ってきました。中村さんもジルの本を読んで感銘を受けました。「現代社会はここ300年ぐらい論理の社会を作って来たじゃないですか。あまりに論理でやったために抑えられて来たのが環境であり、心だと思うんですけど、本当に人間が人間らしくバランスを獲得して行くプロセスがこの本で語られている。」

 テイラー博士は左脳の論理や数学の機能を失ったとき、涅槃にいる幸せな気持ちになり、右脳の感性が研ぎ澄まされたと言う。そしてゆっくりした感性の生活を大切にするために、毎日森の散歩を楽しんでいる。森の散歩は体力の維持だけでなく脳の健康にも大切なのだ。

参考:大切にしたい自他同一の感性~ジル・ボルト・テイラー

 毎年、アマゾンの熱帯雨林保護活動でシングー地域・インディオ保護区に入っている南研子さんもアマゾンに行くと五感が研ぎ澄まされると言う。論理より感性で生きていると、いつもは東京で生活する人間も感性が研ぎ澄まされるようだ。そしてインディオには眼が輝く子供の世界があり、全てが一つの世界がある。
 クリックすると拡大します。

 また、ネルソン・マンデラの行動哲学「信念に生きる」 (2)に、マンデラは次の序文を寄せている。
 アフリカには「ウブントゥ(Ubuntu)」という概念がある。これは「私たちは他者を通してのみ人間として存在する」という意味だ。「他の人々の功績や貢献のお陰で、自分はこので何かを成し遂げることができる」という考え方である。
 
 どうも我々は競争に勝つために子供の頃から熱心に教育をしているが、そのことが我々を不幸にしてきているのではなかろうか。児童心理学者のアリソン・ゴプニックの講演「赤ちゃんは何を考えているか」と重ねると、テイラー博士は左脳出血で言葉を失い、母親に抱かれながら8年で回復、と言うよりは37歳の乳幼児が生まれ変わって育ったように思う。子供の時間が長いほど学習能力も大きくなる。大人になっても子供に戻ることが脳科学的にもできることをテイラー博士は伝えてくれる。子供は考えながら学習しているのに、大人の考えを子供に押し付けて育てることは、子供の将来にとっても、人類にとっても大きな不幸だと思う。


初稿 2015.7.22 更新 2018.9.8

最新の画像もっと見る

コメントを投稿