自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

牛 vs. 豚か、規模の戦いか(追加改定)

2020-08-18 23:22:31 | 牛豚と鬼
 口蹄疫の悲劇は、感染拡大を防ぐために現在の技術では殺処分しか方法がないことです。技術の発達により個体単位の検査が可能な牛なら殺処分を少なくする方法はありますが、豚は感染力が強く検査よりも殺処分の方が現実的だとする大規模経営では、殺処分を少なくする方法は机上の空論だと否定的です。

 また、個体管理が中心の牛の繁殖は、種をつけ、子を産み、その子が肥育して集荷されるまで最低3年、その子が繁殖のために残され、次の世代の子を産み、その子が出荷されるまで最低5年は必要であり、個体選抜で改良している牛は成果が得られるまで10年単位の仕事となり、繁殖牛や種牛は貴重な遺伝資源でもあります。

 一方、豚は8ヵ月齢から繁殖に供用し、年間分娩回数2.3回以上、年間子豚離乳頭数22頭以上、肥育豚の出荷は190日齢以下が経営指標とされるように回転が早く、個体選抜ではなく系統間交配などのハイブリッドシステムなので、豚を入れ替えて生産体制を立て直すのは容易です。鶏は口蹄疫には関係していませんが、生産体制そのものがオールイン、オールアウトですから、全殺処分に抵抗はないのでしょう。

 しかし、規模拡大によるコストダウンは経済学のドグマに過ぎず、農業は太陽エネルギーを循環的に活用するため資源を有効に組み合わせて食料を生産することが基本ですから、鶏でも小規模で太陽のもとに飼う方法もあれば、放牧養豚もあり、牛でも改良とコマーシャル生産を分離したハイブリッドシステムは可能です。
したがって、口蹄疫対策は牛 vs. 豚の戦いではなく、どちらかと言えば規模の戦いの側面が強いのかも知れません。

 しかし、この度の韓国の口蹄疫(O型)発生では、3km以内6回、500m以内5回の地区全殺処分、2回の農家全殺処分で、牛306農場10,858頭、豚37農場38,274頭、山羊、鹿を含めて合計395農場49,874頭が殺処分されました。リングカリングは畜種も規模も関係なく、感染も健康も関係ありません。しかも、1回の地区全殺処分では終息せず、11回も地区全殺処分を繰り返しています。

 私たちが共有しなければならないのは、「口蹄疫を終息させるための殺処分最小化問題」を解くことであり、このためにはいかに早くウイルス感染を見つけて殺処分するかが問われています。
 全殺処分を畜房単位、畜舎単位、状況によっては個体単位にする柔軟性と、地域で実施できる遺伝子検出の1次検査を組み合わせなければ、韓国のケースを繰り返すことになります。
 なお、ウイルス遺伝子の検出は必ずしも個体別採血を必要とはしません。鼻汁、唾液、糞便等にもウイルスは排泄されますので、個体別または畜舎の糞便や敷料等の検査でも検出は可能です。殺処分はウイルス検査をしながら、その検査の結果から次の対策を講じていく必要があり、感染の経路と拡大の可能性を調査する疫学調査も平行して実施されねばなりません。

 2000年の宮崎口蹄疫では、牛の移動か輸入ワラ等が感染源である可能性があり、その追跡調査で北海道の感染畜を確認することが出来ました。感染源は輸入麦ワラであったようです。
 今回(2010年)は初発確認の段階で10農場以上に感染が拡大していた可能性が認められています。ことに1例目、6例目、7例目の疫学的関係については緊急に調査する必要がありますが、口蹄疫の疫学調査に係る中間的整理について(農水省2010.8.25,PDF)には個々の調査は報告していますが、3例の関係についての報告はありません。また、わが国には疫学専門家が育っていないと言われますが、常識が育っていないように現場からは見えます。今回の口蹄疫対策においては委員会等の報告も含めて、素人でも考えることがなされていない杜撰さが目立ちます。

 私がブログ(牛豚と鬼)を書き始めたのは、牛をワクチン接種後に殺処分したことへの怒りからでした。私は獣医ではなく、システム論の立場から現場を研究していた立場からの怒りであったかもしれません。しかし、ワクチン接種後の牛の殺処分の理由は専門家からは丁寧な説明がされなかったように思います。現在(2020年)はコロナウイルスによる経済へのダメージが問題にされていますが、その対策への国の的確な指示が示されているように見えません。私のブログ「自然とデザイン」に書いた口蹄疫につて検討しながら、コロナウイルスとの関係についても、もう少し考えて見たいと思っています(2020.8.18)

牛 vs. 豚か、規模の戦いか 2010-10-14 | 牛豚と鬼
 最後の部分を追加し、改行の指示を削除した。

NHK宮崎放送局制作ドラマ「命のあしあと」 2013-02-02| | NHK
追跡!A to Z  口蹄疫“感染拡大”の衝撃 2013-02-09 | NHK
特報フロンティア なぜ”SOS”はとどかなかったのか
2013-02-16 | NHK


2010.10.14  開始 2010.10.15  更新1 2010.10.16  更新2  2010.10.18  更新3 2010.10.22


追加 2020.8.18




プロフィール~いつも私を見守っていた愛犬「ジョーイ」

2017-12-14 20:57:39 | 牛豚と鬼
吾輩は犬が大好きだ!だが犬は私をどう思っているのか?

 最初に同居したのが「ジョーイ」、セルティーの男の子。2代目は「愛」で、初代に良く似た女の子。いずれも私を子分と思いたいらしい。「目と目を合わる」ことには、「愛(eye)コンタクト」とか「眼付ける」とかいろいろ意味があるだろうが、犬は言葉が喋れなくても、アイコンタクトや私の声や動作で私のことを理解しようとし、吠えたり泣いたりも声の質で意思を伝えてくれる。移り気も早いようなので誤解することも多いが、もっともっと理解し合いたいと思っている。

初代  ジョーイ
2代目 愛ちゃんと初孫3歳(誕生日:2014年12月14日)


 ところで、私はブログでも個人の責任のもとに発言していることを示すために住所などを明記していた。だが、どうもネット社会の風習では姿が見えない方が親近感が湧くらしい。そこで住所、氏名などをこの場からは消去することにした。
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 プロフィールの写真には、わが家の家系にはない「美男子」に代役をお願いした。「ジョーイ」と言う。字画が良いのだそうだ。散歩すると「綺麗ね!」と見知らぬ人からも声がかかる。カメラを向けるとポーズも取る。しかし人に媚びは売らない。初めて家の中で3人一緒に生活をした犬だが、いつも私と家内を見守る遠い位置にいて、頭をなでるとブルブルとイヤイヤして逃げてしまう。道路を通る人にまで吠えるが、門扉を開けて入ってくる人への警戒は異常な程だった。一間モノの窓ガラスを割って外に飛び出たことが2度もある。その一方で、散歩で自分が歩いた道以外は絶対に行かない。リードをつけないで、さっさと散歩に出かけることもあり、そういう時はおとなしいので許してもらった。家の裏に、山際に添って曲がって中学校につながる坂がある。その坂道はいつもの散歩コースだが、先にさっさと走って行ったジョーイが耳を小さくして戻ってくる。どうしたのかと思ったら学校から帰宅する中学生の集団が下りて来た。来客に吠えるのとは立場が違うのであろう。

 私が57歳の時、忘れられない事件が起きた。私は冬の朝、風呂でしゃがんで朝シャンをしていた。ジョーイは私が風呂やトイレに行くと必ず様子を見に来る。しゃがんでお尻は床に着けないで洗っていたが、次第に体が傾いて姿勢が保てなくなる。どうしたのかなと思っていたら、左手がだらりとして力がない。これは「脳卒中だ!」と思って、様子を見に来ていたジョーイに「お母さんを呼んで来て!」と言ったら、家内に「ワン!ワン!」とけたたましく吠えて風呂に先導したそうだ。家内が来てくれ私と話をしていると、ジョーイが鼻先で私を起こそうとする。お蔭で救急車が早く来てくれたので手術をしなくて済んだ。左半身マヒで歩行からリハビリを始め、少しびっこが残ったが職場復帰することができた。当日はドタバタしていて気が付かなかったが、あの来客に吠えるジョーイが救急隊が来ても静かにしていたことに、そこまで私のことを見守ってくれていたのかと、今も思いを寄せている。

 そのジョーイとは退職後1年は毎日一緒に暮らせたが、11年も生きて獣医さんのお世話になったのはガラスを割って怪我をした時と、最後の1週間だけだった。可愛いので私たちと同じものを与えていたら腎臓を悪くして食事ができず、最後には水も飲めなくなった。点滴しかないので、少し遠いが毎日点滴をしていただける坂本獣医科病院に通っていた。その最後の日、ジョーイは私の腕の中で背伸びをした。そして診察の順番が来たので診察台に下すともうこと切れていた。あの背伸びは最後の排糞だったのだ。坂本獣医師は患者が待っているのに、時間と愛情をかけてジョーイの身体を清めて埋葬の準備をしていただいた。その優しさはありがたく、今も感謝している。

 私のこのブログに何をキーワードに来られているのかアクセス解析を見ると「三谷克之輔」が最も多いとある。へー何で?と名前で検索すると確かにある。私の知らなかったブログがあり、写真まである。名前を公表することは発言に責任を持つためだが、ある意味では個人情報をさらけ出すことでもあり、国に監視されていることもあろうし、知らない人が私の発言を取り上げていることを知ることにもつながる。両刃の剣だ。住所、氏名などを明記して始めたブログだが、本日から削除させていただく。

 私の名前で検索して、坂本獣医師のその後の活躍「宮崎口蹄疫-獣医師からの手紙」を知ることになる。手紙の主は宮崎の池亀獣医師で、坂本獣医師の酪農大学の先輩になるそうだ。OB会で同席し池亀獣医師の話を聞いたことでブログに大きく取り上げていただいた。今はもう池亀先生も亡くなられ、ジョーイが死んでから坂本先生ともお会いしていないが、池亀先生の手紙に私の名前があったことで、坂本先生のブログに辿り着くという不思議な縁でつながっている。

 「犬馬難鬼魅易」は韓非子の有名な言葉だ。研究者は現場の問題を軽く見て、実験室で鬼魅の研究をし、難しいことをしているように見えるが、現場の研究ほど難しく大切なものはない。私はBSEや口蹄疫に対する国の原因究明や対策、そして専門の学者の対応に我慢ができずブログ「牛豚と鬼」を公開した。アレックス・カーの「犬と鬼」があるが、ここでは犬馬に替えて犠牲になった牛豚とした。そのブログもここに引っ越す必要があるので、ここに「牛豚と鬼」というカテゴリーを設けて、このプロフィールを最初のページとしたい。

2017.12.20 更新 2020.5.7

科学とワクチン接種を拒絶し続ける「日本の口蹄疫防疫指針」

2015-09-07 12:07:10 | 牛豚と鬼
 このブログ「口蹄疫(FMD)情報検索の理由」 (2015.7.15)で、「韓国は2015年6月19日にOIEに発生が終息したことを報告し、緊急輸入したワクチンの効果が明確に認められたこと、ワクチンを接種しているので症状の認められた家畜の殺処分だけで感染拡大が阻止できたこと」を指摘し、日本の口蹄疫発生の原因をまとめましたが、それまでも「日本は「生かすための緊急ワクチン」を拒否し続けるのか」と「韓国における口蹄疫発生とワクチンの効果について」等を発表し、早期発見とワクチン接種が口蹄疫対策で最も大切なことをいろいろ主張してきました。

 しかし、「口蹄疫に関する資料」を下記のように追加訂正したように、
 6. 新しい口蹄疫対策防疫指針(2011.10.1)
  口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針(変更案)
  食料・農業・農村政策審議会 第24回家畜衛生部会 配付資料一覧 議事録(2015.6.16)
平成27年(2015年)6月16日に開催された第24回家畜衛生部会では、英国口蹄疫発生(2007年)で示された「ワクチン接種待機態勢」を全く無視した口蹄疫防疫指針の変更案が提案されています。
 なお、牛豚等疾病小委員会は第20回(平成24年6月21日)以来開催されていませんでしたが、
新しい委員
の下で次の通り開催されています。
 第22回(平成27年4月30日) 配布資料 議事録
 第21回(平成27年3月 2日) 配布資料 議事録
第21回での検討は、村上小委員長「口蹄疫の防疫訓練などを通して、問題点や改善点などが見えてきている。プランを立て、実行、検証し、そして改善していくというサイクルの一つとして、本日以降議論を深めていただきたい。」とし、都道府県での「口蹄疫早期発見検査システムとワクチン接種待機態勢の準備」については検討の課題にされていません。また、川島動物衛生課長「ワクチン接種はできるだけ打たないようにするというのは基本で、ワクチン接種家畜を生かしていくという方針はなかなか難しい。」とし、殺処分のためのワクチン接種をいまだに前提にした防疫指針を提案しています。

 第15回家畜衛生部会(2011.7.26)では、山崎委員「殺すためのワクチンではなく、生かすためのワクチンを考えてほしい。(p.25~26)」に対して川島課長「殺処分だけではない対応をしている韓国の事例ももう少し研究したい。(p.27)」と答えていますが、その後、韓国が緊急輸入したワクチンにより口蹄疫が終息したことは全く検討されていません。韓国の報告が今回の提案に間に合わなかったのなら、再検討すべきでしょう。なお、今回の宮崎口蹄疫事件で某大型経営の問題を隠ぺいした研究者は所長に昇格していますが、当時の行政責任者である動物衛生課長も大臣官房審議官に昇進しているようです。口蹄疫対策の権限と責任は国にあるにもかかわらず、30万頭の家畜の処分の損害に誰も責任をとらず、権限と責任で準備すべき検査やワクチン接種体制を検討せず、防疫訓練に見られるように農家や現場の方々に責任を押し付け、責任者は昇進するこの国の常識のおかしさを感じます。

 養豚は規模が大きく回転が速いので、健全な口蹄疫対策よりは殺処分による補償を求めるために、ワクチン接種をしないで、あるいはワクチン接種して全頭殺処分する防疫指針を支持しているのでしょう。
 しかし、日本の飼養環境から豚が初発例となることは考えにくく、また外国からの訪問客が感染源になることも考えられません。これまでも中国から安く輸入されたワラ類が感染源として疑われてきましたが、感染源と感染経路の究明は科学的に可能であるにもかかわらずなされていません。さらに、口蹄疫の備蓄ワクチンには国内に備蓄されているワクチンと英国に保管されている濃縮抗原がありますが、その使い方については国民に一切説明されていません。国内で口蹄疫が発生したら、そのウイルス株に最も近い濃縮抗原からワクチンを製造し1週間もあれば輸入できることは韓国の例が教えてくれます。
 日本の獣医学は科学ではない何者かで動かされているようで、英国を含むEUの口蹄疫の防疫体制も無視し続けています。

 豚の口蹄疫発生を予防するためには、牛の飼育密集地帯と離れた場所で飼育し。ウイルスの増殖を抑えるために早期発見の検査システムを都道府県単位で実施できる体制を準備すべきです。牛は里山管理のために放牧し、そこに多くの方が見学等で出入りすることが地域の活性化にも獣害対策にも必要です。しかし、現在提案されている口蹄疫防疫指針では、地域の資源活用、環境と共同体を守るための放牧による里山管理に人が集まることを拒絶しているのと同じことです。

 獣医学では経済とは利益の追求のみだという確信があるのでしょうか。利益の追求とは経営の利益や国益の追及であり、研究費や人員やポストの追及も考えられます。しかし、組織や国に主体はありません。経営も国も、研究費や人員やポストもそれを支配する者が必ずいます。その支配者になる欲望と権限は国民主権に従う謙虚なものでなければ国は腐敗してしまいます。現在提案されている口蹄疫防疫指針では、個々の経営の利益にも国益にもなりません。今、時代に求められている人間を含む自然を重視した経済発展にも全く逆行した考え方です。地域や自然を大切にする獣医学であって欲しいと思います。

初稿 2015.9.7

口蹄疫(FMD)情報検索の理由

2015-07-12 15:01:14 | 牛豚と鬼
これまで作成していた畜産システム研究所ホームページ「口蹄疫(FMD)情報検索の理由」を更新しました。文字化けして読めない方のためにここに紹介し、今後はこのページに差替えさせていただきます。



 なお、「韓国における口蹄疫発生とワクチンの効果について」、韓国はこの6月19日にOIEに発生が終息したことを報告し、緊急輸入したワクチンの効果が明確に認められたこと、ワクチンを接種しているので症状の認められた家畜の殺処分だけで感染拡大が阻止できたことを示しています。そこで上記ブログを更新し、農水省は口蹄疫防疫指針を早急に見直すべきことを末尾に指摘しておきました。



 口蹄疫は獣医の領域なので発言は控えていましたが、黙っていられなくなりました。そして口蹄疫に関する情報を集めて勉強した結果、やはり日本の口蹄疫の防疫対策には大きな誤りがあることを確信いたしました。情報検索リストは今ではりリンク先の変更や削除、さらに文字化けで読めないものもあり、その一部をこのブログに「口蹄疫に関する資料」として移転していますが、ここに情報検索を始めた理由と、これまでに明らかになってきた問題点をまとめておきたいと思います。

 口蹄疫の感染を防ぐという理由で移動制限区の全ての牛と豚が殺処分されました。病気にかかっていない重要な遺伝資源である種牛までも、生かすことは殺処分のルールに反するという理由で強制的に殺処分されました。この家畜や農家の地獄絵巻は、日本にBSE が発生したとき、また鳥インフルエンザが流行したときも目にしました。日本に家畜が居なくなれば感染の心配はなくなりますが、それと同じ発想での防疫体制に怒りを覚えます。

 現場を守るために現場で活躍されている日本の獣医さんは優秀です。しかし、日本の畜産行政に対する獣医の影響力は大きく、ことに防疫対策には大きな責任と権限を持っていますが、いつもながらの現場を知らず、現場に責任を持たない研究職や行政職の合理的でない判断が現場に悲劇をもたらしています。ことに殺処分する疑似患畜の範囲指定は家族の一員である家畜に対する死刑宣告に等しいので、その科学的根拠を明確に示すとともに範囲指定する者の権限と責任の所在を明確にして欲しいものです。少なくとも日頃よりそれだけの覚悟を持って防疫体制の準備をしておく必要があります。

 「口蹄疫は感染力が強く、感染が確認されたときにはその農家の家畜はすべて感染していると判断すべき」としても、感染しているか否かを血清学的検査で確認したうえで感染畜を殺処分することを原則とすべきです。最近の研究では症状が出る時期が感染させる時期であることが明らかにされていますので、少なくとも症状が認められたものだけを殺処分すべきであり、全てが感染していることを想定して殺処分することは獣医として許されざる行為ですし、国際的に求められている血清学的発生動向調査(疫学調査)をおろそかにすることにもつながります。

 ワクチン接種して抗体が産生されるまで時間がありますので、現場の対応策としては、口蹄疫発生確認後直ちに国内に備蓄しているワクチンを接種し、症状の出ているものを殺処分するのが現実的でしょう。備蓄ワクチンについては曖昧な説明しかされていませんが、韓国と同じ混合ワクチンと思われますので、ウイルスの遺伝子解析により効果の高いワクチンを英国のワクチンバンクに保管している抗原から選択して製造し、1週間以内に緊急輸入して危険地帯に接種すべきです。今回のように感染の拡大を防止するために緊急ワクチン接種をした場合でも、接種した家畜を速やかに殺処分するならワクチン接種の必要はなく無茶苦茶な論理矛盾であり、国際的にも求められていません。むしろ緊急ワクチンを使用して殺処分を最小限に抑えつつ口蹄疫清浄化をめざす方向が国際的な流れでもあります。

 英国は殺処分による口蹄疫の感染拡大阻止を100年以上続けてきました。しかし、2001年に650万頭以上の殺処分という大惨事となって以来、ワクチンを精製してNSP(非構造体蛋白)を除いたワクチンを開発し、ワクチン接種で感染拡大を阻止する道が開かれました。この新しいワクチンではNSP抗体は産生されませんが、感染した動物ではNSP抗体が産生されますので、NSP抗体が陽性であれば感染動物、陰性であれば感染していないということになます。すなわち、NSPが含まれていない点をマーカーとして、マーカーワクチンと言っていましたが、現在は全てマーカーワクチンを使用していますから、ワクチン=マーカーワクチンとなり、わざわざマーカーワクチンとは言わなくなっています。

 口蹄疫感染国か清浄国かを判断する国際ルールである国際獣疫事務局(OIE)口蹄疫に関する陸生動物衛生規約(Article 8.7.9.)では、口蹄疫清浄国の資格を回復するためには、感染牛の摘発淘汰と血清学的サーベイランス(抗体検査)が実施されていることが基本的に必須でありますが、これに緊急ワクチンを接種した場合には全てのワクチン接種動物が食用を含めてと殺されてから3ヶ月か、と殺しない場合でも残っているワクチン接種集団に感染がないことをNSP抗体検査で証明すれば、最終症例または最終ワクチン接種のいずれか遅い方から6ヵ月後に、口蹄疫清浄化資格回復を申請できるように2003年版から改定されています。感染畜以外の家畜をすみやかに殺処分することをOIEは求めていないのです。

 そもそも国際獣疫事務局(OIE)は家畜伝染病を防止し家畜の健康を守る世界組織でしたが、WTO/SPS協定がなされて以来、自由貿易の推進を背景にした組織となり、OIEが伝染病の発生を認め清浄化の認定がなされてもそれは一つの基準に過ぎず、2国間での交渉で輸出入を決定できることになっています。今回の宮崎口蹄疫発生においてOIEの清浄化認定がなされても、アメリカは日本からの輸入を直ちには許可していません。すなわち、OIEによる伝染病発生の認定国は輸入を拒否する材料に利用されるだけで、国際貿易による伝染病の蔓延防止は口実に過ぎません。現在の口蹄疫ワクチンであれば、ワクチン接種清浄国とワクチン非摂取清浄国を区分する科学的な根拠はありません。大切なことは清浄化(ウイルス排除)を確認することであり、OIEによる清浄化の認定を急ぐことではありません。
 家畜の移動制限の解除もそれぞれの国で清浄化を確認して決定すべきであり、貴重な遺伝資源である種雄牛や繁殖牛については、少なくとも血清学的検査で感染が認められなければ殺処分すべきではありません。種雄牛の殺処分反対には理があり、理を法で踏みつぶすことは2度と繰り返してはなりません。

 OIEはWTOとの協定以来、家畜の健康よりも貿易の自由化の道具として使われるようになってしまいました。WHOIAEAとの協定以来、人間の健康よりは原子力の利用を優先するようになってしまったのと同じです。命よりも経済を優先する組織の論理、大資本の論理が露骨な暴力を世界で公然と振舞う時代になったとも言えます。OIEによる口蹄疫清浄国をワクチン接種国と非接諸国に分ける理由は、現在の精製したワクチンでは科学的理由はなく、アメリカ、欧州、日本などのワクチン非接種国がワクチン接種国からの輸入を拒否する経済的エゴに過ぎません。

参考:グローバルリスクと国際法~SPS協定を中心に
    WHOとIAEA間の協定

 それにこれほどの犠牲を払ってまでOIEによる清浄化認定を急いで、牛肉輸出再開を急がねばならない状況は日本にはありません。むしろ、口蹄疫が発生していようがいまいが、抗体検査で陰性のものを輸出することにすれば、口蹄疫発生は輸出になんら影響を与えません。それよりも血清学的検査をしないで、目視検査や電話での聞き取り調査だけで清浄化できたとOIEは認定するのでしょうか。

 7月20日、山田大臣は会見で殺処分終了についての感想を求められ、「これで胸を張ってOIEに対しても日本はリングワクチンを打ったけど口蹄疫清浄国になれるんだと言える」と答えました。日本で口蹄疫清浄化(沈静化)を急ぐ問題と、OIEに清浄化を認めてもらうことを急ぐ問題とを政治的に混同しないでいただきたいものです。血清学的検査(抗体検査)なくして殺処分あるのみでは、世界に範たる口蹄疫の防疫体制を確立するにはほど遠い後進国と見なされるでしょう。

 宮崎口蹄疫発生の時は民主党政権でしたが、官僚は古くから深い関係がある自民党議員と連絡を取りながら政権を動かしていました。地元の国会議員が発信源となり当時の赤松農林大臣の責任を問うていたのは、その国会議員と官僚の犯罪を隠蔽するためでした。その「犯罪」とは次の通りです。 

1.口蹄疫発生の早期発見システムを都道府県に現在も準備していません。国に与えられた権限行使には、常に国民への説明と責任の義務が伴います。その責任と義務の不履行を未だにしています。
2.備蓄ワクチンを国内に準備しながら、それを直ちに使用していません。口蹄疫発生確認後1週間以内にワクチンを使用しないのであれば国内に備蓄する意味がなく、これは防疫上怠慢である責任と予算の不正使用の責任が問われます。
3.口蹄疫発生確認後1週間以内に直ちにウイルスの遺伝子解析をし、英国のワクチンバンクに保管してある抗原から最も効果のあるワクチン製造し緊急輸入して使用しなかったことも、防疫責任と予算の不正使用の罪が問われます。
4.口蹄疫発生の感染源と感染経路を解明する疫学調査の義務を農水省は完全に放棄し、むしろ権限を利用して、感染源を隠蔽し捏造する冤罪事件に関わっています。しかもその疫学調査の責任者は現在、動物衛生研究所所長になっています。
5.口蹄疫に関する科学的知見を国民に知らせず、嘘によりワクチンを接種して殺処分をしたことと、健康な家畜まで予防的殺処分と称して合計30万頭の牛豚を殺処分し、2000億円以上の損害を与え、埋却で環境を破壊・汚染し、殺処分しなければ必要なかった補償に528億円(見込み)、内ワクチン接種殺処分240億円の税金を使用しています。
6.口蹄疫発生を検査で確認する事前に、打ち合わせをして結果を公表した痕跡が残されています。宮崎口蹄疫事件は10年前にも発生していますが、感染源の可能性がある中国からの安い稲わら類の輸入を続けていたことが、今回も感染源となった可能性が高く、その意図的な隠蔽を目的とした防疫対策が今回の被害を大きくさせました。
7.10年前からの中国から輸入してきた藁と今回の宮崎口蹄疫の初発農場の可能性が高いA牧場は、いずれも地元国会議員江藤拓)の親子と強い関係があり、意図的な隠蔽はこれと行政が関わったことが原因です。
8.宮崎口蹄疫事件に関わった官僚、研究者、学者は誰も責任を問われることがなく、今回の農水省の責任者はOIEの理事の「1期目の実績や日本の貢献が評価され、アジア太平洋地域委員会(32か国・地域)の推薦を受け、2012年に続き、理事に再選」され、関係した研究者は村上洋介氏を含め動物衛生研究所の所長となり、学者は学会での要職についています。

このように日本の獣医界は官僚、学舎、研究者の癒着により真理の探究ができないほどに矛盾を深めていますが、これは戦争を止められなかったかつての日本と同じ体質や構造と重なり、獣医界だけでなく日本の構造腐敗を露呈した事件の一つに過ぎないと思います。

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2010.9.22 初稿 2015.7.14 更新

日本は「生かすための緊急ワクチン」を拒否し続けるのか

2015-04-19 23:23:13 | 牛豚と鬼
 日本は口蹄疫に感染していなくても感染の恐れがある地域の牛、豚を「予防的殺処分」し、殺処分のためのワクチン接種を防疫指針としている。

 『2010年宮崎口蹄疫発生当時からOIEの日本の首席獣医官(CVO: Chief Veterinary Officer)であり、欧州家畜協会から届けられた「生かすための緊急ワクチンを!」の緊急声明を無視した川島農林水産省動物衛生課長は、2012年5月に行われた第80回OIE総会において理事に選任されました。理事会はOIE総会が開催されていない期間に総会に代わって業務を遂行する機関ですが、川島理事はOIEで「生かすための緊急ワクチン」を拒否し続けるのでしょうか。』

 これは先に、13.口蹄疫と原発、そして戦争の類似点で指摘したが、この対談(10.ワクチン接種と国際貿易と国内流通問題)で山内一也先生は「OIEコードでは、清浄国で口蹄疫が発生した場合の清浄国復帰の条件として、、(a)感染・疑似患畜をすべて殺処分した後3ヶ月、(b)感染・疑似患畜とワクチン接種家畜をすべて殺処分した後3ヶ月、(c)感染・疑似患畜とNSP抗体陽性家畜をすべて殺処分した後6ヶ月という3つの選択肢があり、今回の宮崎の場合は(b)の条件を選択しましたが、重要な点は、政府が(c)という選択肢のあることを国民に伝えず全頭殺処分しか方法がないといった対応を行ってきたことです」と指摘されている。鹿児島大学 岡本嘉六教授のブログでも「第8.5.8条 清浄資格の回復」として、「ワクチン非接種清浄国に復帰するには全頭殺処分が前提とされている」と解説している。獣医・専門家は、なぜ「ワクチン接種後に殺処分の必要はない」ことを紹介しないのか、獣医界は「名誉の殺人」のように「予防的殺処分」を常識とする異常な世界なのだろうか。

OIE連絡協議会の開催状況(平成26年度 第2回)によると、2014年9月にOIEは「口蹄疫」に関する章の改正案(農水省まとめ)を提出しワクチン非摂種清浄国に復帰する条件として、c)感染・疑似患畜とNSP抗体陽性家畜をすべて殺処分した後6ヶ月という選択肢について下記の2つの条件が満たされた場合は、防疫措置完了後の経過期間を3ヶ月に短縮する改正案の検討を求めている。*参考 OIE Code-FMD(2014)
第7条清浄性復帰(1) Recovery of free status(2014)
① OIEマニュアルに準拠したワクチンを使用し、
② 反芻獣の場合はワクチン接種動物とその子畜全頭、他種の動物については抽出により、ワクチン接種効果を確認し、NSP抗体検査陽性畜が残っていないこと。

これに対して日本は以下の理由で反対している。
1)NSP抗体検査の感度や特異度の制約に懸念があること
2)ワクチン接種畜の全殺処分と同じ待機期間とするリスクが同じとは考えられないこと
3)ワクチン接種清浄性については短期間での再発が考えられること

緊急ワクチンを接種して殺処分を少なくし、清浄国への復帰をできるだけ早くしようとする世界の口蹄疫専門家の改正案に対して、日頃から海外の情報や真実を隠蔽し、ワクチン接種と殺処分をセットにしようとする日本の態度は、科学の進歩や国民や家畜に対して誠実ではないと思う。ワクチンを接種したら感染源となる家畜が残る、いわゆるキャリアー問題は「ゼロの証明(悪魔の証明)」であり、前提条件を明確にした範囲でしか実証できないし、実験的に証明しない限りは科学とは言えない。日本に今、口蹄疫ウイルスは存在しないことを証明するには、遺伝子検査と抗体検査を全頭検査し、その範囲でいないことを証明出来るだけである。また、キャリアーを主張するなら抗体陽性家畜と健康畜を同居させて感染実験をして感染の実態を明らかにすべきだ。

キャリアー問題は実験的に証明されるべきだし、ワクチンを信用しないのは家畜を救いたいのか、それ以外の何を大切にしたいのか明らかにして欲しい。もっとも家畜を救うために家畜を殺すというのは科学が発達している今日、大規模経営を推進させた農水省としては論理矛盾であろう。

参考 キャリアが感染源になる可能性はゼロに近い
    NSP抗体検査を問題にしてワクチンを否定する根拠はない

初稿 2015.4.19