自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

宗教と政治~ローマ法王来日の意味

2019-11-29 22:38:31 | 物語

 宗教も政治もフィクションを信じることから生まれる。人類は集団で生きることで繁栄してきたが、平和を維持するためには、他者との関係においては他者を尊重することに原点がある。宗教は人の生きる道を示し、時には人を支配することもあった。政治は個人一人一人の権利を認め、世の中が平和であるための仕事を人々を代表して実践することを使命としていたはずだ。しかし今日では、一部の支持集団の利益を代弁し、他者より有利に立つことを誇りとするかの如く政治の劣化が始まっている。一方において、社会も劣化して希望の灯が求められる時代に、生きることの尊さを全身全霊で導いていただいたローマ法王の人格の素晴らしさ。生き方の違いを強く印象付けたのが、ローマ法王の来日と安倍首相の対応であった。

 11月18日に発せられた「ローマ法王 訪日前メッセージ」で、『訪日のテーマを「すべての命を守るため」としたうえで、「人類の歴史において核兵器による破壊が二度と行われないよう、皆さんと共に祈ります」と述べ、核兵器の使用は倫理に反すると訴えた。』しかし、政府はローマ法王来日直前に、それまで国民が親しんでいた「ローマ法王」を「ローマ教皇」に変更(2)した。なぜ、突然変更したのだろう。外務省の大鷹正人外務報道官は記者会見で、変更の理由を(1)カトリック関係者をはじめ、一般に「教皇」という呼称を用いる例が非常に多く見られる(2)日本政府の一般的な呼称として「教皇」を使用する場合、バチカン側として問題ないことが確認できた、などと説明している。それなら国民に早く発表し、ご高齢なローマ法王にゆっくりと日本に滞在していただき、謙虚にローマ法王の願いと祈りに耳を傾け、頭を垂れるのが礼儀というものだろう。

 しかし、令和元年11月25日 ローマ教皇フランシスコ台下との会談等(首相官邸)(外務省)によると、ローマ法王の重要な来日目的の一つ、安倍総理との対談でのローマ法王の挨拶(動画)の記録は短く、ローマ法王の願い『人類の歴史において広島と長崎に投下された原爆によってもたらされた破壊が二度と繰り返されないよう、阻止するために必要なあらゆる仲介を推し進めてください。』を安倍首相は無視し、美辞麗句を並べて本心を語らず、まるで日本の政治家のお手本を演じているようだった。当日のニュース番組(動画)は首相の発言を次のように伝えている。安倍首相『唯一の戦争被爆国として「核兵器のない世界」の実現に向け、国際社会の取り組みを主導していく使命を持つ国です。これは私の揺るぎない信念。核兵器国と非核兵器国の橋渡しに努める。』日本が核兵器禁止条約に参加していないのに、よくもシャ―シャーと言えたものだ。

 しかも、首相官邸記録,によると、その後諸国の外交官を前にして、安倍首相が主役のように長々と挨拶している。これは地球温暖化に対処するため9月に米ニューヨークの国連本部で開かれた「気候行動サミット」でも、日本政府が安倍晋三首相の演説を要望したが、「美しい演説ではなく具体的な計画」を用意するよう国連側から断られたことと類似している。日本政府の行事なら政府の思惑通りに実施できるが、安倍首相にはこれ以上、空虚な美辞麗句で美しい国日本のイメージを壊さないで欲しいものだ。
 参考:外務省、安倍総理大臣とローマ教皇フランシスコ台下との会談等
     毎日新聞『外務省、「ローマ教皇」に呼称変更 安倍首相と25日に会談』


 メディアによる「ローマ教皇」と「安倍首相」の対談の伝え方
  安倍首相、ローマ教皇と会談 拉致問題提起へ - 産経ニュース
   ローマ教皇との会談で安倍総理、核廃絶への決意訴え ANNニュース
   首相 ローマ教皇と会談「平和や貧困撲滅で協力拡大を」 NHKニュース
   ローマ教皇、安倍首相と会談 TBSニュース
   ローマ教皇、安倍首相と会談 AFP=時事 11/25(月) 22:34配信


ローマ法王来日行事
ローマ教皇フランシスコの来日日程、バチカンが詳細を発表

【詳報】ローマ教皇「平和の巡礼者として」被爆地訪問 朝日新聞
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ローマ教皇 長崎で核廃絶へメッセージ(動画)
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ローマ教皇 長崎 広島でのスピーチ(全文)

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ローマ教皇 東京ドームで大規模ミサ 5万人が参加 NHK動画
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 バチカン市国は1929年に独立国家となったローマにある国家

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Pope Francis-Nagasaki-Holy Mass 2019-11-24 Vatican News 1:52:28
【LIVE】青年との集い/POPE IN JAPAN 2019【公式】(動画:1:39:52)
Pope Francis-Tokyo-Holy Mass 2019-11-25 Vatican News 1:53:14
Pope Francis-Tokyo-Meeting with Young People 2019-11-25 Vatican News 1:12:31
Pope Francis-Meeting with Authorities 2019-11-25 Vatican News 27:45 後半がローマ法王挨拶
教皇フランシスコからのメッセージ -「叡智の座の大学」で学ぶ者へ 上智大学(動画 1:20:56)
Pope Francis-Tokyo-Visit to Sophia University 2019-11-26 Vatican News 31:48


初稿 2019.11.29 更新 2019.11.30(デモクラシータイムス)



言葉から物語、そしてフィクションを信じた人類の歴史

2019-11-23 12:45:07 | 歴史

 イスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリ教授は著作『サピエンス全史』で、今から七万年前から三万年前にかけて、人類に言語から物語の想像力が生まれ、フィクションを信じる「認知革命(新しい思考と意思疎通の方法)」が登場したという。人類がフィクションを信じることで、お金や宗教や国を作ることができたが、フィクションに生きることで他者を支配する欲望が正当化もしくは美化されて、権力が生まれ、戦争や大量虐殺もしてきた。物語を生きる我々が幸せに生きる道は「他者を尊重して生きる」しかないと私は思うが、人類は何故、フィクションを生きるようになったのか?
 参考:『サピエンス全史』の著者に聞く「人類滅亡」の現実的シナリオ
     「人類の台頭はいかにして起こったか?」TED日本語
     ブログ「自然とデザイン」:我々は物語を生きている~他者を尊重し、幸せに暮らす。


 チョムスキーの言語学によると、世界各国各地で生まれた人々がそれぞれの国や地方の言葉が使えるようになるのは、我々は人類共通の文法を担う大脳の部位を持って生まれ、赤ちゃんからの学習によりその国や土地の言葉が話せ、理解できるとのことだ。その能力が7万年前の遺伝子の突然変異によって ヒトの認知能力(学習、記憶、伝達)に革命(的な変化)を起こした。それは「限られた数の音声 や記号をつなげて、異なる意味を持った文をいくらでも生み出せる(ハラリ(2016)上巻、37 頁)」柔軟な言語だ。10万年前にアフリカを出ようとしたヒトの集団がネアンデルタール人に敗れて引き返した証拠があるらしい。ところが7万年前からアフリカを出、各地で原人類を駆逐し、4万5千年前にはオーストラリアに到達している。これは突然変異による言語体系に基づくコミュニケーションとそれによって集団的協力体制を作ることができたからではないかと考えられている。
 参考:チョムスキー言語学とその周辺:入門のまたその入門
     脳は文法を知っている
     「言語は特別-文法を担う大脳の部位を発見」
     酒井優子教授の授業「言語学が世界を一つにする」(チョムスキー理論の入門)
     高坂章「私たちはどこから来て、どこへ行くのか -人類史から見た暮らしの変化-」


 フィクションを信じることは、人類と他の動物の闘争関係ではなく、人類同士の共同・競争社会によって構築された現代につながるソフトの問題で、これまでの「骨と石の遺跡」からだけでは説明できない。
 ロビン・ダンバー「人類進化の謎を解き明かす」(2)(3)(4)では、『人類進化の鍵は、「社会脳」と「時間収支」が握っていた』としている。「社会脳」とは「自己と他者、そして社会を結ぶ脳の働き」のことで、現代でも重要な研究課題になっている。「時間収支」とは「摂食、移動、強制的休息、社交」の時間の割り振りの問題で、社交は群れ(集団)維持のために必須の行動だった。この人類の社交の歴史が、7万年前からどう変化してきたのか?7万年前というと、7万4千年前のトバ火山の爆発(2)(3)(4)により、気候の寒冷化を引き起こし、その後の人類の進化に大きな影響を与えたという。衣服を着始めたのもこの時期と言われる。トバ火山の爆発が認知革命にどのような影響を与えたのか、もう少し時間をかけて勉強をしたい。
 参考:人類の知能の進化

 現代の我々にとっての大きなフィクションは、危険な仮想敵国である。ローマ教皇の来日を控えて、教皇のことを学ぼうとする動きがあるようだが、被爆国日本の広島と長崎を訪問され、「すべての命を守る」核廃絶を訴えるために訪日される。ローマ教皇の強い願望である核兵器禁止条約の締結にむけて全国民が声を高める方がはるかに大切だし、教皇も喜ばれる。日米韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)についても仮想敵国の問題であり、仮想敵国というフィクションは、アメリカを中心にした支配者層にとって都合が良い物語であり、国の主人公である国民の力を分断し、軍事産業等の支配力を高めるだけだ。徴用工問題についても、司法、行政、立法の3権が分立し、国民の声を大切にする韓国の態度が正常であり、国同士の約束を守れと言う姿勢の、独裁国家へ向かいつつある安倍政権は危険だ。「すべての命を守る」ためにも、劣化した日本の政治とマスメディアに惑わされてはいけない。


初稿 2019.11.22

我々は物語を生きている~西田哲学とホーキングの宇宙論

2019-11-10 12:20:07 | 歴史

 前回、「我々は物語を生きている~他者を尊重し、幸せに暮らす。」で紹介したように、約3~7万年前に人類は言葉から物語を生んだ。その物語は主観的なフィクションと客観的な科学に分けられる。
 「西田哲学」では物語の根源を「無」とし、主観と客観が一体になって、「一即多」とか「多即一」として表れる現象を「絶対矛盾的自己同一」とした。そのように、今の私は理解している。「西田哲学」の「一即多」とか「多即一」に相当する客観的な科学の言葉として「対生成(粒子と反粒子)」がある。私は生きる物語の根源として西田哲学を、客観的な科学の物語の根拠として「ホーキングの宇宙論」を考えたい。
 私は物理学数学も苦手なので宇宙論を解説をするつもりは毛頭ないが、NHK BSプレミアム番組「宇宙の“冒険者”~ホーキング博士ラストメッセージ~」の録画の一部を紹介し、もっと勉強したい点の資料を残しておきたい。

File 1 世界を驚かせた天才ホーキングの誕生(動画16分)
File 3 ホーキング博士 最後の冒険(動画14分)

 宇宙は138億年前以前は137億年前とされていたに生まれた。素粒子の生成と消滅を繰り返し、無と有の間の「ゆらぎ」の状態にあった素粒子よりもはるかに小さかった特異点(2)が、瞬時に直径1cm以上に膨張した宇宙のインフレーション(2)により、大爆発のビッグバンを引き起こして宇宙は生まれ、その後も膨張を続けている。
 参考:宇宙は138億歳、従来説より1億年高齢 欧州機関が解析 2013年3月22日
     村山斉講演「宇宙の特異点、ビッグバンとブラックホール 2009年4月25日
     裸の特異点
     スティーブン・ホーキング  ブラックホール研究の第一人者
      アルバート・アインシュタイン以後の宇宙論に決定的な影響をあたえる
     宇宙のインフレーション
     宇宙創生を解明する「インフレーション理論」
     宇宙誕生の起源となった138億年前の大爆発「ビッグバン」
     相対性理論を破綻させる「裸の特異点」は存在可能 - ケンブリッジ大
     神はサイコロを振らない?――宇宙はなぜブラックホールを造ったのか(4)


 ここで、特異点を単なる「ゼロの点」と考えると話は簡単だが、膨張している宇宙の始まりをアインシュタインの「一般相対性理論」で計算すると「ゼロ」ではなくて、重力や密度が無限大になってしまう。1966年、ホーキングはこの「一般相対性理論」の欠陥を指摘し、宇宙には「時空」が破綻する「特異点」があるとした。この論文は1970年に、ロジャー・ペンローズとホーキングにより報告されているが、この年はホーキングが「ブラックホールは暗黒ではなく、熱を持っていて赤く光るはずだ」と閃いた年でもあった。これは、1974年に「ホーキング放射」として報告された。ホーキングは「我々の親しんでいる空間や時間の概念が、どのようにして量子状態にあった宇宙から出現できるのか」と量子理論と古典物理学をうまく統合させることを考え続けた。そして、「時空の過去には境界が存在しなかった」とする「無境界仮説」(2)の最新版を、亡くなる10日前の2018年3月4日、コーネル大学が運営する論文投稿サイト「arXiv(アーカイヴ)」に最後の論文(無限に続くインフレーションからの解決法)が掲載されていた。
 参考:ホーキング博士、最後のセオリー:彼が多元的宇宙について考えていたこと
     Before the Big Bang 5: The No Boundary Proposal Before the Big Bang 1-10
     ホーキング vs. ペンローズ - 時空の本質をめぐる論争
     ホーキング博士、ブラックホールはやはり「ブラック」ではなさそうです
     ブラックホールは黒でなく、やがて消える。「ホーキング放射」実証の本命現わる
     7年かけて作った「人工ブラックホール」でホーキング放射を初観測
       ブラックホールが完全にブラックではない証拠になるか


 我々が住んでいる時空の4次元世界が膨張しているというが、その4次元の外側はどうなっているのだろう?このことは先に触れたように、ホーキングは無境界仮設で説明しようと努力していた。「無境界仮説」の要となっているコンセプトは、真空の「ゆらぎ」の小さな特異点は、粒子のようにも波のようにも振る舞うことができるという量子論的な概念だ。「無境界仮説は量子重力を基にしたビッグバン・モデルなのです」とホーキングは言う。私の理解では、我々の時空の情報は、宇宙空間の表面積(2次元)に写真のように瞬時に保存され、宇宙の外側にホログラム映像のような幻影があると仮定すれば、マルチバースの中でこの宇宙が生き残ったプロセスが計算できる。それが、『ホログラフィック理論(holographic principle)』のようだ。ここでは我々の空間の瞬間の情報が2次元の写真に記憶されるのに似ていると考えておこう。最近は、3Dホログラムの技術が開発され、「宙に浮かぶ映像」が見れるそうだ。この原理については、理解不足なのでもう少し勉強したい。
 参考:「ホログラフィック原理」わかりやすく奇妙な宇宙理論
     宙に浮かぶ映像 最新の技術を展示 デジタルサイネージジャパン2018
     意外と知らない「ホログラフィック・ディスプレイ」カンタン解説
     ホログラムとは?3Dホログラムの仕組みと活用方法
     3Dホログラムの作り方
     宇宙の加速膨張は「プランクスケールでの時空の伸び縮み」の蓄積か - UBC
     膨張宇宙では粒子は減速する
     重力は幻なのか? ホログラフィック理論が語る宇宙
     ホログラフィック宇宙



初稿 2019.11.10