自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

21世紀の人工知能(AI)は17世紀のスピノザを越えられるか?

2019-01-21 11:13:10 | 自然と人為

 17世紀、「神」の中に真理があると信じられていた時代に、スピノザは精神的にも身体的にも真理は「体得」するものであり、人間の成長と共に「変化する」とした。17世紀のデカルトは「真理」は正しい知識であるとする現代の考え方に受け継がれているが、「真理」を「体得」することで自己を成長させるスピノザの哲学、それは17世紀まで受け継がれてきた自己をレベルアップする「真理」の獲得を、神の力・「霊性」によってではなく、哲学として論理一貫性のある説明をしたものである。「真理」を知って自分が大きくなる、深まる感動を中世の人々は大切にしたが、スピノザもその感動を大切にしたのだろう。デカルトの「真理」に馴染んでいる我々は、「真理」を知るべき知識とは考えるが、「真理」が自分を変える感動に関係しているとは、日常的には思わない。中世の人々は「真理」を知った結果として感動するのではなく、「真理」を知るためには神の力、即ち「霊性」が必要と考えたのであろう。いずれにしても、デカルトの「真理」に馴染んでいる我々は、スピノザの「真理」を「潜在能力の開花」と解釈しておこう。

 フーコーによると、ピタゴラスからソクラテスプラトン等は哲学の真理にどう到達するかという問題と、真理に到達するためには、主体にどのような変身が必要かという霊性の問題が分離されたことはないとした。認識行為をも包含した「主体」の変形こそが、ソクラテス以降、およそ千年以上も古典古代に拡がりをみせた『主体と解釈』の関係であると言う。また、古代の哲学において「真理」への到達と「主体」の変形が分離された顕著な例外として、フーコーはアリストテレスを指摘している。アリストテレスにとっては「霊性」は関心の対象にならず、それ故に長く教会の教義と合致する、ただひとりの哲学者と認められていた。当時は「霊性」は教会の領域の仕事であり、「哲学」との棲み分けをしたのがアリストテレスともいえよう。『神学大全』を著したトマス・アクィナスが「哲学者」と呼んだアリストテレスが、西洋の哲学(2)の意味での哲学の基礎を確立したのである。ただし、フーコーはアリストテレスは古代哲学の頂点ではなく、ひとつの例外であることを強調した。

 しかし近代になると、主体が真理に到達する条件は認識だけであり、「主体」の変形は必要とされなくなった。フーコーが「デカルト的瞬間」と呼ぶのはこの違いを示すためであり、「真理の歴史において近代が始まるのは、真理に到達するために必要なのは認識であり、認識だけであるとされるようになった瞬間と言えよう」。近代は人間にとって進歩なのだろうか? 視点を変えれば人間の軽薄化への道とも言えよう。
 参考:フーコーの『主体と解釈学』読解  フーコーにおける「自己への配慮」
     近代科学の形成と還元主義的機械論科学の特質


 科学知は受験生の評価にとって重要視されているが、ノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑・京大名誉教授(2)(3)受賞会見1受賞会見2は、常識を疑え!教科書を信じるな!と、好奇心と「簡単に信じないこと」の重要性を強調。「(科学誌の)ネイチャーやサイエンスに出ているものの9割は嘘で、10年経ったら残って1割」と語り、自分の目で確かめることの大切さを説いた。科学は憶えるものではなく、とことん疑う好奇心が大切であり、そこに、これまでの常識を覆す「真理」と感動が生まれることを指摘されていると思う。

 「人工知能(AI)が人間の仕事を奪うか」が問題にされている。コンピュータは大量の情報を短時間で処理できるが、あくまで人間の仕事を手伝うために改良されてきた。しかし、コストダウンや利益最大化等の問題は、経済が人間を大切にしているかどうかの問題でもあり、AIが提起している問題も同じである。
 参考:「AIが仕事を奪う」はウソかもしれない
     オックスフォード大学が認定 あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」
     「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明
     イェール大学 経済学部 伊神 満 准教授インタビュー
     AIが奪う仕事 vs 少子化で減る人手
     圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 
     人工知能(AI)がもたらす社会やビジネスの将来像


 文明の発達により、都市での生活を求めて人口の都市への集中が起きている。また、移民難民の問題が欧州や米国で問題となり、トランプ大統領はアメリカ第一主義を唱え、メキシコとの国境に壁を作ることに拘っている。しかし、「大陸衝突が生んだ“文明の十字路”」が教えてくれることは、人口の都市集中や自国第一主義は愚かなことだということだ。大陸は今も移動している。大陸移動を含む地球の活動と、それに伴う自然災害の被害を小さくするためには、人口分散と人類の共存しかない。今のまま行くと文明の発達を誇ることは、人類の不幸に繋がることになりかねない。大陸移動を単なる知識として持つだけではなく、身近な地震対策と自分を有利にすると思う「常識」を疑うことも必要であろう。
 参考:「大陸衝突が生んだ“文明の十字路”」
     大陸衝突と文明 スペイン アンダルシア グアダルキビル断層 大陸衝突の現場
     海底火山のマグマ 赤い川 地中海湖干上がり 文明の十字路
     世界のプレート運動



初稿 2019.1.21

美しいカリブ海から学ぶ~自然(宇宙)の力と人類の知恵②

2019-01-16 12:52:36 | 自然と人為

1.巨大隕石による恐竜絶滅
 美しいカリブ海とメキシコ湾の間に突き出ているユカタン半島はマヤ文明の発祥の地であるが、6600万年前に「恐竜絶滅」で知られている巨大隕石(直径12km)が落ち、ユカタン半島からメキシコ湾にかけて直径180km(四国の大きさもの巨大クレーターを残している。
  
  
  
 巨大隕石落下による衝撃波と大津波、さらに、砕けた隕石と地球表層が舞い上がって熱い粉塵となって大気圏を覆い、数時間後には比較的大きな破片が落下することで、摩擦熱による山火事を各地で引き起こし、続いて太陽光の遮断による寒冷化が数年続き、光合成も阻止した。その上、酸性雨が襲い、恐竜を含む99%の生物が絶滅したが、地中に暮らし、身体が小さく、雑食性の哺乳類は生き延びた。
 参考:驚き!地球!グレートネイチャー「地球事変 大量絶滅の謎」 動画一部
       
 巨大隕石としては、約20億年前に南アフリカ共和国に落ちた世界最古にして最大と言われる「フレデフォートドーム」(2)(3)やカナダ、オンタリオ州、グレーターサドベリー市にある、約19億年前の地球上で2番目に大きいとされる「サドベリー隕石孔」(地図)についで3番目に大きいとされている。20億年前とは6600万年前から遥か遠い昔のこと。しかも、人類の登場は700万年前のことだが、地球史から見ればつい最近のこと。地球、自然に謙虚に、そして人類同士の争いを止め、他者を尊重して生きたいものだ。
 参考:ヒスパニョーラの地質とテクトニクス
     先住民と入植者の協力示す壁画を発見、カリブの島


2.大陸移動(超大陸の出現)と気候変動
 5億4200万年前から5億3000万年前に、「カンブリア爆発」 (2)と呼ばれる生物の多様化が起き、突如として脊椎動物をはじめとする今日見られる動物界のほとんどの門 (分類学) が出そろう古生代が始まる。

 地球史年表の修正と大陸移動
  古生代(約5億4200万 - 約2億5000万年前) カンブリア記より
  中生代(約2億5000万 - 約6600万年前)
  新生代(約6600万年前 - 現代)
 6億年前から現在までの大陸の移動
 4億年前から現在までの大陸の移動
 2億年前から現在までの大陸の移動

 そして、古生代ペルム紀の終わりである2億5000万年前頃に、ローレンシア大陸、バルティカ大陸(ローレンシア・バルティカ両大陸は既にデボン紀には衝突し、ユーラメリカ大陸を形成していた)、ゴンドワナ大陸(ペルム紀初期にはユーラメリカと衝突)、シベリア大陸などすべての大陸が次々と衝突したことによってパンゲア大陸が誕生した。超大陸の完成時、地球内部からスーパープルームが上昇して世界各地の火山活動が活発になり、当時生きていた古生代の海洋生物種のうち、実に95%以上が大量絶滅した。

 ユカタン半島に巨大隕石が落下し、恐竜等の生物の99%が滅亡した6600万年以前の中生代は、地球全体が温暖で、北極や南極を含めて地球上に氷床が存在しない温室時代だった。1億8千万年前頃になると、パンゲアは再び北半分のローラシア大陸と南半分のゴンドワナ大陸に分裂し、ゴンドワナ大陸から分裂したインド亜大陸がテチス海を高速で北上し、北半球でユーラシア大陸に衝突した後、ヒマラヤ・チベット山塊を誕生させた。また、赤道近くにあった現在の南極大陸は分裂して南へと移動を始め、3500万年前に今の地点に孤立した。その結果、ドレーク海峡で南極環流が生じ、南極への海洋熱輸送が遮げられ、南極氷床が成長するとともに、その周りの南極海の水温が下がったことで、冷たい深層海洋大循環が生じ、それが地球全体の寒冷化をもたらし、北半球の氷床形成に結びついたとも言われている。
 超大陸が出来ると地球内部からの熱の流れを閉鎖するため、下層のアセノスフェア(岩流圏)を過熱させる。結局、上層のプレートを成すリソスフェア(岩石圏)は上向きに押されて割れてゆく。マグマが上方へわき出て、超大陸の破片が別々の方向へ押されることになる。
 参考:動画「全地球史アトラス」
     2.プレートテクトニクス  8.カンブリア紀の生命大進化  9.古生代
   海洋リソスフェアの生成と破壊 地球の中心"コア"への旅 「北極」と「南極」の違い
   大陸移動 超大陸の形成と破壊 氷河時代 パンゲアの分裂から現在までの大陸移動
   Terraの科学 原生代1 マントル対流の変化 原生代1 大陸の成長
            原生代2:海水のマントルへの逆流 原生代2:全球凍結


3.白亜の断崖~英仏海峡の地質学的歴史
 カリブ海と同じ白亜の断崖がある英仏海峡。どのようにしてイギリスとフランスは地質学的に分断されたのであろうか。
 南北に細長いグレートブリテン島はティーズ(Tees)川とエクス(Exe)川とを結ぶ斜めの線(Tees-Exe Line)を境にして、西のアイルランド側は2億年以上も前の古い地層であるが、東の英仏海峡トンネル側は、巨大隕石がユカタン半島に落下して恐竜が絶滅した6600万年までの白亜紀(約 1億4500万年前から約 6600万年前)は、今より10℃以上も温暖化が進み、海水面は250mも高くなり、フランスとともに海底であり、アンモナイトやサンカクガイなどの特徴的な貝類が繁栄した。
  
  
 白亜と呼ばれる石灰岩の台地(チョーク ヒル)は、コッコリソフォアという原生生物が化石化した堆積物で、この化石は今なお生成されていて、毎年およそ1400万トンものコッコリソフォアが堆積している。
 参考:グレートブリテン島の地質
     イングランド  ウェールズ  スコットランド


  
  
 45万年前、かなり急速な温暖化があって、北海を覆っていた全ての氷河が解けて、最初は大きな湖となったが、それをせき止めていたチョークヒルを溢れて滝となり、ついには崖が決壊し、海峡が出来た。
 45万年前というとミンデル氷期(478,000年~424,000年前)であり、40万年前から現在までの5回の温暖期を見ても、何故、この時期に急速な温暖化があったのか不明であるが、北欧は長い氷期を経て、地球史的には海峡が出来たのは最近のことの様だ。
 参考:体感!グレートネイチャー「圧巻!白亜の大断崖を行く~“英仏”海峡の秘密~」
     セント・マイケルズA  セント・マイケルズB  チーズリング
     チョーク断崖・英   チョーク断崖・仏  英仏・地質学的分断
     1000万年前以降の気温変化 氷河期 氷河時代の日本列島



初稿 2019.1.14