自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

ワクチン接種後に殺処分した本当の理由は?

2013-02-23 23:46:27 | ワクチン

「ワクチン接種して殺処分」、なぜ?
誰もが思う素朴な疑問を、NHKのドラマ「命のあしあと」は次のように表現してくれました。
役場「ワクチンを打った牛は、肉牛としては出荷できんとですよ。」
修平「それはどういうことですか!ワクチン打つとでしょう!」
・・・
遥花「そんなのおかしいて!そしたら、これが人間やったらどうなるの?みんなにうつさないために、かかった人を殺すの?」

この素朴な疑問への答えを求めるために、ブログ「牛豚と鬼」では、これまで2本のNHK報道番組を書き起こし、
 2010年5月29日、「A to Z 口蹄疫 感染拡大の衝撃」
 2011年4月22日、「特報フロンティア なぜ”SOS”はとどかなかったのか」
それぞれの番組で語られた問題点を次のように指摘しました。
 「ワクチン接種したら、殺処分しかない」という非情な虚構
 「殺処分神話」を生んだ動衛研村話法

ここでは、農水省の審議会である家畜衛生部会と委員会の議事録を基に、わが国ではなぜワクチン接種して殺処分したのか、その経緯を追跡してみました。

1.口蹄疫防疫指針作成の経緯

 わが国は2000年、2001年と口蹄疫とBSEが発生し、これを契機として特定家畜伝染病防疫指針が作成されました。このうち口蹄疫防疫指針作成の検討を第1回牛豚等疾病小委員会 (2003年12月16日)で公式に実施した議事概要によりますと、ワクチンについては次の論議がなされています。

〇事務局(責任者:栗本衛生管理課長)
ワクチンについては、考え方は変わっていないか。摘発・淘汰(スタンピングアウト)が基本というのは世界の趨勢であることに変わりないか。
〇福所委員(動物衛生研究所海外病研究部長)
コード上、清浄化が遅れるという問題やキャリアとなる問題、発生後の調査における影響などがあり、スタンピングアウト(感染動物の殺処分)が基本という考え方は変わっていない。
〇事務局
イギリスでの牛の処分風景が流れたとき、そこまでするのかという話しもあったようだ。情緒的な意見なのかもしれないが。
〇福所委員
動物愛護の面から見ればそういったこともあるのかもしれないが、経済活動をするうえで処分はやむを得ない。将来的に感染防御が可能なワクチンが開発されれば別だが、現段階ではスタンピングアウト方式の考え方は変わらない。
〇寺門委員(元家畜衛生試験場長)
大量処分しなければならない場合、リングワクチネーション(感染地域の周辺にリング状にワクチン接種して感染拡大を防止する)などやらなければ・・・ワクチン、処分の話は考えないと。
〇柏崎小委員長(元家畜衛生試験場長)
要領の中には規定すべき

 この議事概要を解説しますと、事務局の「ワクチンを使わないのは現在も世界の趨勢か?」という質問に対し、福所委員は「国際ルール(OIEコード)上、 清浄国回復が遅れるという問題やウイルス保有動物( キャリア)が残り、清浄性確認のための抗体検査に支障があり、殺処分による防疫措置は今も変わらない」とし、寺門委員は「(感染動物の殺処分が基本だが、)大量処分の場合はリングワクチンと処分のことは考えないと(いけない)」とし、柏崎小委員長は「『口蹄疫防疫指針』に規定すべき」としています。なお、衛生管理課は現在、動物衛生課、家畜衛生試験場(家衛試))は現在、動物衛生研究所(動衛研)になっています。

 この論議は口蹄疫防疫指針(2004年12月1日:農林水産大臣公表)に次のように規定されました。
第1 基本方針
1 殺処分等
2 移動の規制及び家畜集合施設における催物の開催等の制限
3 ワクチン
1.現行のワクチンは、口蹄疫の発症の抑制に効果があるものの、感染を完全に防御することはできないため、無計画・無秩序なワクチンの使用は、口蹄疫の発生又は流行を見逃すおそれを生じることに加え、清浄性確認のための抗体検査の際に支障を来し、清浄化を達成するまでに長期間かつ多大な経済的負担や混乱を招くおそれがある。このため、ワクチンの使用については、慎重に判断する必要がある。
 このため、我が国における本病の防疫措置としては、早期の発見と患畜等の迅速な殺処分により、短時間のうちにまん延を防止することが最も効果的な方法である。
 万が一、殺処分と移動制限による方法のみではまん延防止が困難であると判断された場合であって、早期の清浄化を図る上で必要がある場合には、ワクチンの使用を検討することとなるが、ワクチンの使用に当たっては、農林水産省と協議し、計画的な接種を行うことが必要である。

 つまり、このワクチンの規定では、前段でワクチンについての問題点を指摘し、中段ではワクチンを使用しないで殺処分を基本とすることを示し、後段において殺処分と移動制限では感染拡大を阻止できなくなったときワクチンの使用を考えるが、使用に当たっては農林水産省と協議が必要があるとしています。

 このように福所委員の意見は、前段と中段に取り入れられ、ワクチンは使用しないことが基本とされていますが、ワクチンを使用する場合は農林水産省と協議するとあります。寺門委員と柏崎小委員長が指摘したリングワクチンと殺処分の規定は防疫指針には組み込まれなかったので、今回の「ワクチン接種して殺処分」したのは農林水産省の決定、すなわち動物衛生課長の決定と解釈できます。
 動物衛生課長はワクチン接種後に殺処分をしたいが、殺処分の補償を法的に決めていなかったために、ワクチン接種が大幅に遅れたということでしょう。

2.「ワクチン接種国は清浄国と認めない」という日本の論理矛盾

 動物衛生課長はワクチン接種後の殺処分を何を根拠に決定したのでしょうか。清浄国日本は輸入により絶対にウイルスを侵入、潜伏させないという強い信念と経済的理由からか、「ワクチン接種国は清浄国と認めない」という貿易の論理を生み、これが「ワクチンを接種したら殺処分する」という防疫の論理を派生させました。これら科学的でない論理は防疫指針に規定できなかったけれど、関係者にとっては当然の動衛研村の掟であったということでしょう。

 この「ワクチンと殺処分」についての非科学的な論議は、科学的に検討して規定された国際ルール(OIEコード)と矛盾し、関係者の間にさえ混乱をもたらしている状況が、2005年4月28日に開催された第3回牛豚等疾病小委員会及び第15回豚コレラ撲滅技術検討会の速記録(3.その他)に詳細に残されています。この速記録から口蹄疫ワクチンに関係する部分を抜き出して見ましょう。 詳細は速記録にリンクしていますので、ここでは簡潔に抜き出します。

池田国際衛生対策室長
口蹄疫につきまして、OIEのコードの中でもワクチンを接種して清浄な国・地域が認められているところでございます。 一方、我が国の口蹄疫に対する対応は、これまで一貫してワクチンを打っている国は清浄国とは認めませんという立場をとってきたわけであります。ワクチンも精製度が低いものであれば例えば非構造蛋白が含まれて、非構造蛋白が牛の中でも生産されてしまう。OIEでは、非構造蛋白の検出をもってウイルスを野外とワクチンと分けるというようなことを言っているわけですが、それは実態上なかなか難しいのではないか。その辺についてご意見を伺わせていただければと思います。

柏崎委員長(元家畜衛生試験場長)
事務局が欲しい回答は、ワクチンを接種しても、そういうところからウイルスの侵入、そのリスクはいかがなものでしょうかということだと思うのです。それは危険であるとか、そういう意見が言える根拠はあるやなしやということだと思うのですが。

藤田委員(OIEアジア太平洋地域代表:元農林水産省畜産局衛生課長)
OIEの立場からすると世界の科学的なコンセンサスを得ながら決めているということだと思うのですが。

寺門委員(元家畜衛生試験場長)
この間の高病原性鳥インフルエンザのときもお話が出たのですけれども、ワクチンは打っていても、それがOIEの基準であるならばとめることはできない。OIEでは、そこが清浄であれば、打っていてもよろしいと、そういう形になってくるわけですね。それに対して、それでは困るというのは、こちらとしては科学的な形でぶつけなければいけないわけでしょう。(こちらがワクチンを禁止しても)一方でワクチンを打っているものを入れてもいいよという国際的な話が出てくると、一体どうするのかということで頭が混乱してしまうのですよ。

池田国際衛生対策室長
混乱しないために科学的な根拠があれば一番いいのですけれども、ともかく日本の場合はバリバリの清浄国なわけで、その立場に立って何が言えるかということだと思うのです。少しでも危険性があるとすれば、そこを主張することによって我々の立場を表明できると思うのです。反論できるところを教えていただければ大変ありがたいということでございます。

寺門委員
そういう場合には科学的なものはデータをもってしないと、ただフィーリングの世界になってしまう。文献を探してきて文献をぶつけることもいいかもしれませんけれども、足らないところは、国内においても具体的なデータをつくっていくとか、そういうふうな形を考えないと具体的な対応案は出てこないのではないか。

柏崎委員長
藤田委員、何かありますか。

藤田委員
国際的なスタンダードで科学的に予防注射をしてオーケーだと決めているということになると、今も話がありましたように、それはこういう点でだめなのだという科学的根拠を一点つける。 もう一つの方法は、これはOIEが言うのがいいのかどうかですが、そういうことを証明する輸出国の我々でいうとベテリナリー・サービシス(獣医療組織)のエバリュエーション(評価)をして、果たしてその証明がきちんとしているかどうかという、それは後の方法として、あることはあるんです。

柏崎委員長
わかりやすく言いますと、ワクチン接種で発生していないといっても中身はいろいろありますよと。衛生のステータスで、危険な地域でもあり得る可能性はあると。

藤田委員
サーベイランスはこういうことでどうやっていますか、何はどうやっていますか、この証明はそれで正しいですかという輸出国の評価を輸入国はできるようになっていますので。

柏崎委員長
それはインターナショナルに認められるんですか。

藤田委員
認められます。

柏崎委員長
わかりました。貴重な意見をありがとうございました。

熊谷委員(東京大学教授)
少なくともヨーロッパで使っている口蹄疫のワクチンは精製がかなり進んでいるから、これは大丈夫だろうと。だから、エマージェンシー・ワクチネーションに繰り入れてやろうと(緊急ワクチン接種は認めようと)。ただ、危険性はまだありまして、さっき言ったような100%とか、完全に区別ができるかといいますと、それはまだ否定し切れない。ただ、少なくともヨーロッパでつくったワクチンは、今考え得る中でベストの鑑別試験をやれば、そういう危険性は非常に少なくなり、実用的だろうというふうに言われているように思うのです。

清水(実)委員
抗体識別の話はワクチンの話と抗体の検出系の話の両方にかかわることだと思うので、
動物衛生研究所では抗体アッセイ系の検討をしておりまして、
一部については台湾で野外試験等もやっているんです。
私は詳しいデータを知らないので話さなかったのですけれども、
ぜひ海外病研究部に相談していただければと思います。

柏崎委員長
どうもありがとうございました。

 この速記録には、福所委員(動物衛生研究所海外病研究部長)の発言が記録されていませんから、会議は欠席していたのでしょう。しかし、福所委員は第1回牛豚等疾病小委員会 (2003年12月16日)で、「発生後の調査における影響がある」と抗体識別検出にも否定的であったことは先に説明した通りです。
 

3.「ワクチンを打っている国は清浄国とは認めない」という日本の掟の破たん

1) 日本でワクチン接種を認めないゼロリスク論の破たん
 「ワクチンを打っている国は清浄国とは認めない」という日本の掟は、ゼロリスクを求める願望かもしれませんが、ゼロリスクの証明は「悪魔の証明」と言って事実上不可能です。ワクチンを接種する、しないにかかわらず、清浄国に口蹄疫ウイルスが存在しないことを証明するのは、全頭検査をしない限り不可能です。また、全頭検査をしても、検査法が100%正確かどうかを疑いだすと、これは「悪魔の証明」というよりも、統計学を無視した論議です。そういえば動衛研村はBSEの疫学調査でも、代用乳が感染源とは考えられないと統計学を使って嘘をつき、BSEは微量の肉骨粉で感染するので、いつ、どこで発生してもおかしくないと講演し、NHKで解説していた教授を思い出します。
 国際ルール(OIEコード)は、清浄国で緊急ワクチンを接種した場合は、移動制限区域内に口蹄疫感染牛がいないことをNSP(非構造体タンパク質)抗体検査で証明すれば、ワクチン非接種清浄国の回復を認めるというもので、ワクチンもNSP抗体検査も実用化できていることを認めています。この国際ルールに日本はワクチン接種はキャリアを生むなどのゼロリスク論を持ち出して反論しようとしますが、科学的に証明できない問題なので、動衛研村自身が混乱している状況をよく速記録は残してくれました。しかし、あまりに非科学的な論議を公開するのは問題と自覚したのか、この速記録を最期に議事録は非公開となってしまいましたが。

2) 輸入国は輸出国の獣医療組織の評価ができる。
 ワクチン接種した場合の防疫体制や検査体制に信用が置けない場合は、輸入国は輸出国の獣医療組織等の評価ができます。OIEによる清浄国復帰が認められても、国際貿易では世界貿易機関(WTO)のSPS協定(衛生と植物防疫のための措置)にもとづいて、輸出相手国と個別に協議して清浄性を認めてもらわなければなりません。日本は2011年2月に清浄国に復帰しましたが、米国が日本からの牛肉輸入を認めたのは2012年8月でした。藤田委員(OIEアジア太平洋地域代表)は身内の議論ではこのことを指摘していますが、一般にはこのことは説明されていません。

3) OIEコードの清浄国認定とワクチン接種動物の輸出禁止規定
 OIEで清浄国回復が認定されてからアメリカへの牛肉輸出が認められたのに1年半必要でしたが、OIEの清浄国認定においても移動制限解除後6ヵ月、清浄国回復申請後4ヵ月必要でした。2000年にはワクチンを接種していませんので、移動制限解除後3ヵ月、清浄国回復申請後1ヵ月で清浄国に認定されています。
 緊急ワクチンを接種した家畜を全殺処分した場合もOIEコードでは3ヵ月で清浄国に復帰できるはずですが、OIEの清浄国認定においても申請国の防疫体制や検査体制が評価されますので、日本が移動制限を解除後に清浄性を確認したことが問題とされたのではないでしょうか。 「ワクチンを打っている国は清浄国とは認めない」とワクチンを打って全殺処分をしたのに、3ヵ月で清浄国回復できなかったことは、皮肉で不名誉なことです。
 さらに、OIEは日本のような国があるからでしょうか、ワクチン接種動物の輸出は禁止しています。したがって、「ワクチンを打っている国は清浄国とは認めない」ことは、恥ずかしいほどに根拠のない主張なのです。

4) 「ワクチンを打っている国は清浄国とは認めない」という掟が宮崎を破たんさせた
 「ワクチンを打つと口蹄疫に感染しにくくなります。ただ、完全に防ぐことはできません。感染 を確実に断ち切るためには、殺処分しなくてはなりません。」
 
動物衛生課長は「動衛研村の掟」を守るために、このような動衛研話法でワクチン接種後の殺処分を強行して、宮崎に口蹄疫の大惨事をもたらしました。このような動衛研村の人々を、最近、国際獣疫事務局(OIE)第80回総会は理事や委員に選出し、金賞で表彰するという不思議な決定をしています。OIEが国家間の政治的利害関係で運営されているためなのか、動衛研村の人々に目覚めてもらいたいためでしょうか。

4、日本に対する世界の信用を取り戻すために

 口蹄疫防疫指針は日本で口蹄疫が発生したとき、いかに被害を少なく早く終息させるかを考えて公表されたものですが、ゼロリスク論を持ち出して大惨事にしてしまいました。動衛研村にはその自覚と反省があるのでしょうか。動衛研村話法は日本のメディア、政治家、学者、行政の間を利害を伴いながら循環して”殺処分神話”として定着し、農家や獣医師を信じ込ませたとしても、世界の口蹄疫研究家は誤魔化せません。2010年6月7日に川島家畜衛生課長(現動物衛生課長)に届いた手紙では、ワクチン接種して殺処分しないように忠告しています。この世界からの忠告を無視して、健康な家畜を指定家畜として予防的殺処分することを合法化してしまいました。”殺処分神話”を守ろうとする動衛研村話法は世界の信用を失っていますが、お国のために働いた農家と獣医師の名誉(敗戦後のように?)を守ることで許されるのでしょうか。日本の恥ずかしい口蹄疫防疫指針は見直されようとしていません。

 旧防疫指針は殺処分を伴わないワクチン接種を想定していたと考えるのが普通ですが、改定された防疫指針は殺処分を想定したワクチン接種となっています。これは2010年の大惨事の原因となった「殺処分を伴うワクチン接種」を反省せず、明日発生するかも知れない口蹄疫に、殺処分の防疫措置で備えているということです。
 殺処分は「必要ない」というよりも、「してはいけない」理不尽な戦争と同じです。わが国は”大東和共栄圏”という神話で侵略戦争をしましたが、お国のために戦った国民の名誉(?)を守るためなのか、その戦争を真摯に反省しようとしていません。しかも、二度と戦争はしない(させない)ために作った憲法九条を、戦争の反省をしないまま改正しようという勢力が力を増しています。改憲村と動衛研村の体質は全く同じで、これが日本の体質だとすると、恥ずかしく、悲しく、悔しいことです。みなさん、騙されないように、若くて素朴な気持ちを持ち続けてください。

 美しい日本の山河を汚染し、住み慣れた土地から人々を追い出し、家族や地域社会を崩壊させた悲惨な原発事故を私たちは経験しました。しかし、”安全神話”と”経済成長神話”を守ろうとする原子力村話法で、原発事故に真摯に向き合おうとしない日本、その曖昧で隠ぺい体質の日本に対する世界の信用をいかに取り戻すかという強い危機感をもって、国会原発事故調査委員会は、インターネットで委員会の様子を英語の同時通訳付きで発信しました。
 口蹄疫対策に真摯に向き合おうとしない日本。口蹄疫の惨事は、「ワクチンを打って殺処分」することを、手当金に惑わされて合法化した国会にも責任があります。日本の口蹄疫対策に対する世界の信用を取り戻す危機感を持って、国会口蹄疫惨事調査委員会を立ち上げて欲しいものです。

初稿 2013年2月23日 更新1 2013年2月24日 更新2 2013年2月25日 更新3 2013年2月26日

 


 

 

 

 
 

 


「殺処分神話」を生んだ動衛研村話法

2013-02-21 21:15:34 | 牛豚と鬼

1.「ワクチン接種したら殺処分しかない」と思わせた動衛研村話法

 「ワクチン接種して殺処分」、なぜ? 誰もが思うこの素朴な疑問を、その道の専門家と言われる人たちは、皆口裏を合わせたように同じ説明をして、「ワクチン接種したら殺処分しかない」と、誰にも思わせました。NHK報道番組「特報フロンティア なぜ”SOS”はとどかなかったのか」も、農家の日記を引用して「海外では感染拡大を抑えるための、有効な手段の一つだとされている」としながら、その海外の状況を確かめていません。そして、「その道の専門家」の説明を無批判に受け入れて、「ワクチンを打つと口蹄疫に感染しにくくなります。ただ、完全に防ぐことはできません。感染を確実に断ち切るためには、殺処分しなくてはなりません。」と報道して、視聴者に誤解を与えています。

 日本で口蹄疫ウイルスを扱えるのは動物衛生研究所(動衛研)しかないので、口蹄疫対策に関係している専門家は動衛研の関係者で占められています。NHKの報道番組で口蹄疫対策について説明していた村上教授白井教授も動衛研出身の仲間ですが、一般講演においても、ワクチン接種には問題があるので貿易上不利にならないように、「ワクチン接種しない清浄国」に復帰するためには、ワクチン接種後に殺処分するしかないと思わせる説明をしています。最初の口蹄疫防疫指針(旧)は2004年につくられましたが、その当時から口蹄疫対策に責任を持つ明石教授も動衛研出身の仲間で、「口蹄疫は国際標準の対策が効果をあげない異例の事態」と説明しています。直接、「ワクチン接種したら殺処分しかない」とは言わないけれど、そう思わせる話法を彼らは使っています。しかし、小学生でもおかしいと思うことは、学者がどう説明しようがおかしいのです。
 

 口蹄疫という特殊な研究分野に関係する専門家が口をそろえて同じ説明をし、メディア、政治家、学者、行政の間を利害を伴いながら循環して神話として定着していく状況から、原発の”安全神話”を生んだ原子力村に例えて、口蹄疫の”殺処分神話”を生んだ動衛研村と言わせていただき、日本の常識(動衛研村話法)と世界の常識(科学的話法)を比較して見ましょう。
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2. 「感染動物を殺処分する」のが国際ルール

 宮崎で口蹄疫が発生したとき、県知事は「疑似患畜が確認された」と発表しています。国際ルールでは、感染していることを抗体検査や遺伝子検査で確認します。この患畜が確認されたとき口蹄疫が発生したとします。そして、発生地を中心にした移動制限区域を設けて、感染拡大が終息したとき、この地域に患畜がいないことを抗体検査で確認して、清浄国回復が認められます。感染の可能性があるものを疑似患畜として殺処分したら、殺処分の範囲に歯止めがかかりません。ましてや今回の家畜伝染病予防法の改正(第17条2)では、感染拡大を阻止するために指定した地域内の家畜を全殺処分(予防的殺処分)することが法的に認められてしまいました。
 口蹄疫は症状が出て2日以内に殺処分しないと感染阻止の効果はありません。個体別に遺伝子検査と殺処分と抗体検査の関係を説明しますと、牛1対1の同居感染では、感染してウイルス排出が増加して、もう1頭を感染させるのは症状が出て2日以内で、その後は抗体ができて感染力は消失します。感染した多くの牛が殺処分を待つ状況になりますと、ウイルス排出量が増加して感染が増加する一方で、治癒して抗体ができて感染力のない牛も増えます。したがって殺処分に2日以上必要な大量殺処分では、殺処分は感染を阻止するよりは拡大させ、感染力のない牛まで殺処分することになり、殺処分の労力と被害を急激に増加させてしまいます。ワクチン接種はこのような状況の時、殺処分しないために実施します。しかも、ワクチン接種か否かにかかわらず、感染の確認は簡易遺伝子検査やNSP抗体検査で簡単にできますので、この検査で感染を確認できた動物を殺処分すれば、緊急ワクチンを接種してもワクチン非接種清浄国に復帰できます。

 国の権限で殺処分するのですから、疑似患畜の範囲を安易に曖昧にすることは許されません。あくまでも、患畜の殺処分を原則とする自覚と緊張感と責任を持って、防疫措置に当たって欲しいと思います。なお、患畜と疑似患畜等については別に説明していますので参考にしてください。

3.なぜ、口蹄疫の発生確認が遅れたのか?

 口蹄疫の発生が確認された1例目の農場は4月7日に異常に気がつき、4月9日に県の家畜保健所に口蹄疫の疑いについて届出ています。4月16日、2頭目に同じ症状が出たことで、県に再度届出たことで、17日、県は検体を採取し国に送っています。4月19日午前中に県は獣医師に往診を控えるように指示し、午後16頭全頭の検体を採取しています。県と国は16日から連絡を取り合い、口蹄疫発生を公表したのは4月20日ということになります。県の届出も遅かったけど、国の発表も遅く、公表までに何を調整していたのでしょうか。

   報道番組では口蹄疫の発生を2010年4月20日としていますが、感染を確認したのが4月20日であり、この時には感染はすでに広がっていました。最初に原因不明の病性鑑定を県の家畜保健所に依頼した獣医師(6例目)さんの報告によりますと、水牛農場からの診療依頼は3月25日でした。この農場へのウイルス侵入経路が宮崎県内からであるとすると、日本にウイルスが侵入したのは、4月20日の確認よりさらに1ヵ月以上前であったと推定されます。
   宮崎県口蹄疫対策検証委員会報告書(2011.1) では、「地元では、川南町の7例目の大規模な企業経営農場が初発ではないかとの意見が圧倒的に多かった(p.24)」とし、「国の疫学調査が発症日として推定した4月8日より前に、当該農場(7例目)で口蹄疫が発生していたと推定することが妥当であり、(6例目を初発農場とするのではなく、少なくとも)6例目あるいは7例目が初発農場の可能性があるという指摘にとどめるべきである(p.32)」としています。
 また、7例目に近い 2例目3例目は口蹄疫発生を国が4月20日に公表した日に届出ていること、いずれも中国産稲わらを使用し、3例目は敷料用に〇〇運輸から購入しています。7例目はわざわざ「*中国産の使用なし」としていますが、この安愚楽牧場の系列農場の使用した飼料については調査しながら、情報は隠ぺいしていること、等の事実とデータに基づいて初発農場と感染源について究明していく必要があります。
 地元では2月頃発生していたという大型農場(安愚楽牧場)の従業員からの内部告発があり、旬報宮崎が報道しています。この問題は 「宮崎・口蹄疫被害の真実 」でも取り上げています。しかし、この番組の最後には、顔を見せないでインタビューに応じた地元の獣医師(3例目)が「水牛農場で2月頃発生していた」という嘘の発言をしている不自然な場面があります。初発農場がどこであれ、発生確認の前から感染が拡大していたという事実が大惨事に至った第1の重要な要因ですが、疫学調査はこのことを無視し、初発農場を水牛農場とした報告をしています。

 このように、宮崎口蹄疫の大惨事は、「隠蔽とねつ造」と思われる点が数多くあり、科学的な真実が語られていない問題であることに注意が必要です。

4.口蹄疫の検査を遅らせた防疫システムを放置して良いのか?

 この報道番組では不問にしていますが、県は複数回の病性鑑定の依頼を受けながら、国の検査に検体を送らなかった重要な「口蹄疫防疫指針」の違反をしています。その理由に、口蹄疫であって欲しくないという心情があったとし、それを認めてしまうなら防疫指針の意味は全くありません。この問題の解決には、人間の判断に依存しない検査システムを確立することが必要です。県の病性鑑定で口蹄疫ウイルスの遺伝子検査を一次検査として実施すれば、自動的に検査するシステムを確立できます。宮崎大学で安価で早い簡易遺伝子検査法が開発されていますので、これとワクチンを利用した殺処分最小化対策を提案していますが、今のところ防疫指針を見直す動きはないようです。
 
 

5.なぜ、口蹄疫防疫措置の初動が遅れたのか?

1) 4月28日に開催された第11回牛豚等疾病小委員会では、すでに10農場に感染が拡大し、豚の農場での発生が報告されています。多分、豚の発生で急遽会議が開催されたのだと思いますが、「豚での発生は感染拡大につながりにくい事例と考えられることから、当面は・・・現行の防疫対策を継続するべきである。」としています。直ちにワクチン接種が必要な状況ですが、「豚での発生は感染拡大につながりにくい」と、とんでもない判断をしています。
 

2) それと同時に、このNHKの報道番組で明らかにされた、5月6日の第12回牛豚等疾病小委員会の議事概要には「4月29日に行った現地調査(は)、・・・防疫措置が完了した1例目のみを調査した。」とあります。疫学調査をこの時期に1例目のみ調査することはあり得ません。感染拡大の状況を把握する、疫学調査チームが本来の仕事をしていなかったことも、初動を遅らせた大きな要因です。このことは、初動が遅れた原因は県の責任というより、県と国が関係した責任であることを示していますが、その裏に何があるのでしょうか。

 なお、疫学調査チーム長の津田委員は、根拠も意味もない口蹄疫発生順を疫学調査チーム検討会の最終承認を得ないまま報告しています。これでは疫学調査チームは、口蹄疫の感染源と感染経路を隠蔽・ねつ造するために、でっち上げたチームと言わざるを得ません。なお、牛豚等疾病小委員会の議事概要は、平成17年4月に開催された第3回に速記録が公開されて以降は非公開とされています。NHKが報道した第12回の議事概要は、情報公開請求に対しては黒塗りの議事概要しか公開されていません。ここにもひどい隠蔽体質がありますが、殺処分の権限を行使した防疫措置を検討した議事概要が、非公開とされることは許されません。

6.なぜ、農家からのSOSは届かなったのか?

1) 一般車両の消毒の要望について

 県は、「1台当たり3秒以内で消毒しないと、渋滞が発生する。消毒液が車にかかっただけで苦情を寄せる人がるので、農家以外の人たちから協力を得るのは困難と考えていた」と、この番組では解説しています。それなら、車を迂回させる、道路に消毒マットを置く箇所を増やすのが普通でしょう。ただし、農家もこの報道番組も”殺処分神話”を科学的な口蹄疫対策と信じているので、本当にすべき対策を見失っています。この時期には牛豚の密集地帯で感染が拡大していたので、感染拡大を阻止するには消毒よりもワクチン接種が必要でした。しかも殺処分は後回しにすることを強く要求すべきでした。殺処分をしなくても感染拡大は終息し、被害も少なくなったはずです。そして終息後に、なぜ殺処分が必要なのか追及する戦略が必要でした。

2) 感染拡大を想定していなかったという県の言い訳

 2000年に宮崎県で発生した口蹄疫のウイルスは非常に弱く、感染した農場は3つに止まったと番組では紹介し、口蹄疫防疫措置の県の責任者である岩崎家畜防疫対策室長は、「これだけの口蹄疫の拡大を想定していなかった。たんたんと殺処分してまん延を防止できると考えた」と見解を述べています。これに対して、白井教授は「これは口蹄疫の認識不足であり、2000年の経験が甘い認識につながった」と指摘していますが、認識が甘かったでは済まされません。2000年の経験は、3月12日に10頭飼育していた農場を往診した獣医師が1頭の異常を確認、21日(10日目)に症状が広がったので県に届出ていますが、今回の16頭飼育していた1例目の農場では4月7日に症状が確認され、2頭目が4月16日(10日目)に確認されていますので、小規模の農場での感染拡大に差はなく、2000年に宮崎県で発生した口蹄疫のウイルスは非常に弱いとは必ずしも言えません。
 2000年には徹底的な抗体検査による疫学調査を実施して、宮崎県高岡町で2戸、北海道本別町で1戸の感染を確認しています。北海道の農場は宮崎県の農家が使用していた中国産輸入わらを使用した農場を全国的に疫学調査し、2頭の抗体陽性牛が確認されたものです。中国産輸入わらが感染源としても、輸入わらが口蹄疫ウイルスに汚染されていた程度の違いや、症状が出ているのに隠蔽した農場と違い、症状はないが同じ飼料を給与していたという理由だけで抗体検査をした結果では、感染拡大の程度が違うことは理解しておく必要があります。今回は中国産輸入わら等を使用した農場の疫学調査をしていませんが、使用した農場がなかったのか、感染しても確認されなかったかのどちらかでしょう。したがって、2000年はウイルスが弱かったから感染が拡大しなかったのではなく、獣医師から県への届出後の迅速で徹底的な疫学調査で感染を見つけ、殺処分できたことを忘れてはいけません。
 県が、一方では感染が確認されたら大変と国の検査を遅らせ、一方でたんたんと殺処分すれば、まん延を防止できると考るのは矛盾です。防疫対策のことに頭が回らないで、防疫責任者として何かを隠蔽することに一生懸命だったのでしょうか。いずれにしても、一般車両の消毒よりも、獣医師から県への届出後の迅速初動が必須であり、さらにワクチン接種を急ぐことも重要でしたが、これは県の権限では無理だったのでしょう。

3) 殺処分の犠牲を覚悟したワクチン接種の要望が拒否された件

 赤松大臣は口蹄疫対策への対応で厳しく批判されました。この番組も批判的に報道しています。しかし、健康な家畜を殺処分することへの理解がなかったことは、”殺処分神話”がおかしいという健全な精神の持ち主からではないでしょうか。批判されるとしたら、赤松大臣は立場上、殺処分をしないワクチン接種を考えるべきでした。しかし、これは手当金のために、ワクチン接種して殺処分する特別措置法を承認した国会議員全員に問われる問題です。

4) なぜ、町は発生農場の情報を教えなかったのか?

 「色んな誹謗中傷があるので、家から一歩も出られなかった。自殺者が出るような状態だけはつくりたくない。それが本町(本庁?)の取り組みでもあった。」 これは、川南町の農水産課長が感染阻止に必要な発生農場の情報を持ちながら、それを要望する農家に提供しなかった理由です。農家は誹謗中傷ではなく、感染を拡大させないために外出を自粛したはずです。感染が拡大している最中に、感染した農家を誹謗中傷するものがいるはずはありませんので、自殺防止のために情報を提供しなっかたという理由は成立しません。むしろ感染拡大の情報を伏せたのは初発農場を隠蔽するためではないでしょうか。いずれにしても、このような判断は課長独断ではできないと思いますが、町長(本町)の指示なのでしょうか、県(本庁)からの指示でしょうか。これも、今回の惨事の裏にある隠蔽体質と重なります。

7.ワクチン接種後に殺処分を決めていなかった防疫指針

 川島農水省動物衛生課長はワクチン接種が遅れた理由として、国の口蹄疫防疫指針(旧)では、感染が拡大した場合にはワクチンを検討することになっているが、接種したときの農家への補償について決められていなかったと説明しています。なぜ、補償が必要なのでしょうか、口蹄疫防疫指針には殺処分のことは明記されていません。
 また、ワクチンの備蓄はしていたけれど、使用は想定していなかったとし、世界的な発生状況等をよく分析し、準備万端にしておくべきだったとも説明しています。ワクチンは発生したウイルスに最も適したものが1週間以内に輸入できますから、口蹄疫発生確認後に直ちに接種しないのであれば、備蓄の必要はありません。ましてや、使用を想定していないワクチンの備蓄は悪質な税金の無駄遣いです。今回使用されたワクチンは輸入していますが、その説明はどこにもされていません。
 さらに動物衛生課長は、口蹄疫などの国際ルールを決めているOIEの日本の首席獣医官であり、OIEアジア太平洋地域事務所が東京にありますので、アジアの情勢には通じていなければなりません。川島課長は2012年からはOIE理事も務めていますので、世界の口蹄疫発生や防疫措置には通じている責任があります。NHKの報道番組における川島課長の「世界的な発生状況等をよく分析し、準備万端にしておくべきだった」という説明も、不誠実で動衛研村話法なのでしょうか。なぜ、”殺処分神話”と”動衛研村話法”が生まれたのでしょう。この問題については次回に詳しく検討させていただきます。

8.口蹄疫の大惨事は県と国の犯罪的事件であるが、なぜ農家に責任を転嫁するのか?

 町内の家畜が全殺処分でいなくなった川南町は、「畜産農家が同じレベルの防災意識を持ち、加害者・被害者という意識ではなく、みんなで口蹄疫を撲滅しよう」と研修会を開催し、出席する度にポイントが加算されるカードが配布され、ポイントが高くなれば表彰し、低ければ補助金を減らすなどの規定を設けていることを、この番組では報道していました。
 一方、国は科学的な見直しなく改正された口蹄疫防疫指針に基づいて、年1回の口蹄疫に関する全国一斉の机上防疫演習を実施しています。 今回の口蹄疫の大惨事の責任は県と国にあることを反省し、口蹄疫発生をいち早く見つけるために、家畜保健所で口蹄疫ウイルスの遺伝子検査を一次検査として実施し、口蹄疫発生が確認されたら直ちに生かすためのワクチン接種をする待機態勢にするなど、最新の科学的知見と新技術、そして世界の防疫対策に基づいた防疫指針に見直さないで、”殺処分神話”で農家に共通の認識を持たせることは、口蹄疫の誤った防疫措置を正しいものと思わせる犯罪的な行為です。
 この番組も、口蹄疫から畜産を「どのような姿勢で守っていくべきか」と、最後に白井教授の意見を求め、「水際で、まず口蹄疫を対策して、皆さんの意識づくりも、併せてやっていく 」と締めくくっています。水際でどのような対策で口蹄疫ウイルスの侵入を防ぐのかは国の責任です。水際で防ぐ科学的な方法を、いまだに国は採用しようとしていません。今、考えうる最善の防疫指針を基にして、”皆さんの意識づくり”をするのが、防疫措置の権限を持つ国の当然の責任ではないでしょうか。

 なお、番組では「口蹄疫の被害を受けた農家たちも動き始めています」とその一部を紹介していましたが、2011年4月20日に川南町で、「4月20日の口蹄疫発生1年を振り返るフォーラム」(PDFファイル)が開催されました。 私も講演を依頼され、「口蹄疫の被害最小化対策を考える」と題して、生かすためのワクチン接種を紹介しましたが、講演前後は小部屋の控室で待つように指示され、県や国と会う機会を与えられませんでした。 なぜ、県や国は真摯に口蹄疫対策と向き合わないのでしょうか。

 日本の口蹄疫対策については、”殺処分神話”を信じるか、それを科学的でないと判断するかで、今回の大惨事の問題点の考え方は大きく分かれるでしょう。ここまで説明しても”殺処分神話”を信じる方のために、次回は”殺処分神話”が作られた背景を説明したいと思います。

初稿 2013.2.21 更新1 2013.3.22 更新中 2013.4.19

 

 

 

 


追跡!A to Z  口蹄疫“感染拡大”の衝撃

2013-02-19 01:01:01 | NHK
 口蹄疫の感染拡大を阻止するため、健康な家畜を殺処分して空白地帯を作る「予防的殺処分」を法的に認める「口蹄疫対策特別措置法」が2010年5月28日、国会を通過しました。NHK番組「追跡!A to Z」は、翌日、これを「口蹄疫“感染拡大”の衝撃」として報道しました。この報道を文字記録に残すために、これは録画をもとにできるだけ忠実に書き起こしたものです。

 追跡!A to Z  口蹄疫“感染拡大”の衝撃(録画)
 

ナレーション(ナ):感染拡大が止まらない口蹄疫。宮崎県では牛や豚15万頭以上が処分される、過去に例のない事態となっている。・・・「追跡!A to Z」のタイトル


1.“被災地”は今(ナ):おととい、私は宮崎県の現場に向かいました。・・・最も被害の大きい川南町、町に入る車は念入りな消毒を受けます。・・・(車の消毒を受けながら)ニュースキャスター(司会)「全体を、・・消毒ですね。・・車両で感染するってことを、ものすごく、」「そういうことですね、気をつけているってことですね。」(ナ):もしウイルスが付着しても、他の場所に拡げないよう、靴に専用カバーをつけることにしました。司会「町役場?」・・「地震とか自然災害が起きた時、対策本部ができますけど、応援の車両とか、自衛隊の車両とかが集まっています。それと本当によく似ています。」(ナ):農家は今どうなっているのか、より慎重に車の中から伺うことにしました。・・川南町の隣、都農町。宮崎県を代表する畜産の町で、この町で口蹄疫の1例目が報告されました。・・本来なら沢山の牛がいる牛舎、・・しかし、その姿は見えませんでした。司会「ここも、もう処分、終わった訳ですね。」「はい、まあ、(通行止め?)・・あそこにまだらに白くなっている所、あそこに埋めたわけです。処分した、牛をあそこに埋めたわけですが。」(ナ):町のあちこちで、処分された牛や豚が埋められていました。・・口蹄疫が確認されてからおよそ40日、事態が終息する気配は見えません。・・・・・農家が撮影したVTRには悲痛な声が記録されていました。「見つけた瞬間びっくりして、携帯で嫁さんを呼んで、2人で“これ間違いないよね”と言いながら、2人でその豚の前でオイオイ泣きました。」


2.広がる危機感(ナ):感染力の強い口蹄疫、危機感は全国に及んでいます。・・・・(北海道):「こんにちは、口蹄疫にも効く消毒剤、畜舎まわりの消毒をお願いしたいと思いますので。」「はい」・・・畜産王国北海道では、万一に備え、JAの職員が消毒液を配る動きも出ています。・・・・ブランド牛にも不安が広がっています。・・肉質の良い牛をつくりだす宮崎の種牛「忠富士」が処分されました。・・宮崎の種牛をもとにつくられる近江牛や松阪牛など、ブランド牛の産地には激震が走っています。松阪牛生産農家「ショックで、(どうしていいか)分からない。新しいところを開拓しようとか、しないといけないかなと。」・・感染が広がる口蹄疫、その最前線を追いました。


3.なぜ感染は拡大した?(ナ):先月20日(4月20日)、宮崎県が緊急記者会見を開いた。知事「家畜伝染病である口蹄疫の疑似患畜が、県内で確認されました。」・・日本では、平成12年以来、10年ぶりとなる、口蹄疫の発生だった。・・実は、この11日前に、最初の異変が起きていた。4月9日、都農町の農家から獣医師の下に入った一本の電話、・・「熱があり、よだれをたらしている牛がいる。」・・診察にあたった獣医師がインタビューに答えた。・・この牛には、唇と舌に3mm程の皮がはがれた部分があったと言う。獣医師「ここ(唇)に2ヵ所、と後、ベロの先端にその脱落があって、色がかっている部分がここ(舌の中央部)にあった。それを見た瞬間に、ちょっとどきっとして、家畜保健所に連絡をして、これこれこういう牛がいるんですけども、まさか口蹄疫ではないと思うんですけども、私の行動は今後どうすればいいんでしょうか?」(ナ):すぐに県の家畜保健衛生所の担当者が駆けつけた。宮崎県が作成した「口蹄疫防疫マニュアル」(画面)・・、注意すべき症状として「口の中に水泡ができる」とあった。しかし、県の検査でも他の牛を含めて水泡は見つからなかった。獣医師「他の牛たちの口の中を全頭検査して、検査というか口を開けてみて、どこの牛にも他は異常はないと、安堵の空気が流れて良かったね、というような感じで」(ナ):その後3日間、獣医師は往診を続けた。(画面に診療記録) 4月10日、38.4℃ 口腔内、昨日とほぼ変化なし。食欲4分の1程度。  4月11日、38.5℃ 流涎減少。食欲半分。 4月12日、38.4℃ ほとんど流涎なし。食欲もほぼもよどおりにもどる。3日目には症状が治まり、他の牛にも異常は見られなかった。・・・ところが、異変から7日後(4月16日)、別の2頭に発熱やよだれといった同じ症状が現れた。・・そして先月20日(平成22年4月20日)、衝撃が走った。遺伝子検査の結果、陽性と出たのだ。口蹄疫の発生が確認された。獣医師「まあ、あの、嘘だろうというのが、だから何度か僕は、確か聞きなおしたと思うんですけども、“クロですか”というと“クロです”と。症状が、実はこんな軽い口蹄疫もあるということは、夢にも思わないで」(ナ):国内では、この10年発生していなかった口蹄疫、ほとんどの人が症状を見たことがない。専門家でも、初期症状を判断するのは、非常に難しいという。白井教授「診てもですね、同じような症状を出すような病気はあるんですよ。それで口蹄疫てめったに起こらないですからね、ですから症状だけでは、なかなか難しいかと思います。」(ナ):そして、先月28日(異変から19日後の4月28日)、爆発的な感染拡大の引き金となる事態が起きた。川南町にある県の畜産施設で、豚への感染が見つかったのだ。豚は牛と比べウイルスを一千倍も増殖するといわれ、関係者は感染を恐れていた。白井教授「いったん豚が感染すると、それがどんどん広がっていくということになりますから、豚の感染が認められる口蹄疫の発生は、かなり被害が大きいですね。」(ナ):不安は、現実にあった。28日に豚の1例目が発覚後、感染は急速に拡大、200ヵ所以上の農場で感染が確認され、処分される家畜の数は(5月28日には)15万頭を超えた。


4.感染拡大の衝撃宮崎県知事、非常事態宣言(2010年5月18日)の映像が挿入される。知事「断腸の思いでありますが、是非とも、ご理解と、ご協力をお願いしたいと思います。」司会「口蹄疫の感染が確認されてから40日、被害終息の見通しは未だ立っていません。こちら、感染被害の現状です。宮崎県内の7つの自治体で、牛や豚合わせて15万頭以上が殺処分の対象になっています。口蹄疫のウイルスがこちらです。口蹄疫と言いますのは、牛や豚、ヤギなどの間で広がる伝染病です。口の周りや、口蹄の蹄、つまりひずめに水泡ができることから、このように呼ばれているんです。一般的には、人にはうつらないんですけれども、感染力が極めて強いのが特徴です。このため世界的に恐れられている家畜の伝染病です。エー、ご覧ください。赤い部分、これが口蹄疫が今、発生している国です。一方、ピンクの部分、これが1年以内に発生したことがある地域です。ご覧のように世界的に広がっていることが、よく分かります。今回、国と県は感染拡大を食い止めるために、日本では過去に例のない対策に乗り出しました。その一つがこれです。感染源から10km以内の範囲については、全ての牛や豚を殺処分し、ウイルスを根絶させようという、そういう対策です。このえびの市については、こちら(川南町)から感染したと見られる牛が確認されたことから、移動制限などの対策がとられています。エー、しかしながら、昨日もこの地域(川南町周辺)で感染の疑いのある牛が新たに発見されるなど、感染拡大に歯止めが、かかっていないのが現状です。この地域、今どのような現状なのか、なぜ歯止めがかからないのか、まずこの点を追跡します。


5.10km圏内で何が?(ナ):宮崎県川南町、町の全域が10km圏内に入っている。・・感染が確認された先月20日以降、町の景色は一変した。・・川南町の基幹産業は畜産業、ウイルスの拡散を防ぐため、町民の多くは、外出を控えている。町の中心にある食料品店も客は途絶えたままだ。食料品店「やあもう、半減に近いです。全体がですね。」「経営的には、いかがですか?」「そりゃあ、もちろんきついですよ。ただでさえきついのに。ああ、だめだったら止めると、店をですね。・・うーん。」(ナ):日本料理店の宴会場。ここ一ヵ月、全く使われていない。・・店の女将、和田直子さん。和田さんの実家は、同じ町内で養豚業を営んでいる。この日実家では、口蹄疫に感染した豚の処分が、行われることになっていた。女将「もしもし、はいはい、・・・あーっ。」感染の拡大を控えるため、実家に行くことは控えている。電話で様子を伺うしかない。「はい、大丈夫?・・はい、あー・・。」「(処分が)始まったみたいで。・・・(豚の)声がすごいって。・・」(ナ):農家で一体何が起きているのか?その実態を知るため、私たちは、1軒の畜産農家から映像を提供してもらった。阿部芳治さん。この映像は阿部さんの家族が撮影したものだ。阿部さんが育てている牛は72頭、全て処分の対象になっている。しかし、未だに1頭も処分されていない。「最初に、異常が見つかった牛が、この牛です。」今月16日に、感染していることが分かった牛も、生きていた。「あー、えさをやって、消毒しての繰り返しです。なかなか複雑ですねーえ。」阿部さんは、処分は仕方ないと決めている。なのに、なぜ処分が遅れているのか。・・・最大の理由は、土地の問題だ。・・もし、阿部さんの牧草地に処分した家畜を埋めると、土地が汚染され、少なくとも3年間は使えなくなる。近くにある湧水は、農業用水として使われている。汚染が周囲に広がる恐れもある。「なかなか、埋却地の選定に苦労しております。」(ナ):きのう成立した口蹄疫対策の特別措置法。家畜を埋める土地の確保は、国が責任を持つと明記された。・・しかし、実際に土地を確保するのは容易ではない。・・(川南町農林水産課にて、課長が電話で語る)・・課長「今度掘るところがよね、人家からだいぶ、あの、離せるのかどうかが一番問題ですね。そこで住民が反対をしちゃると非常にいかんから。まあ、そこをちょっと気にしちょってよ。」・・(ナ):川南町では特別措置法の成立前から、土地の確保に悩む農家を役場の職員が手助けしている。・・候補となる土地が見つかると、職員が周辺の住民を訪ねて歩く。・・「牛が口蹄疫に感染したものですから、どうしても埋めないといけないんですよ。それで、何とかご了解をいただけないかと思ってですね。」・・土壌の汚染や悪臭を心配する住民を、粘り強く説得している。・・課長「やあ、なかなかやっぱりですね、エー、周辺の作物によってはですね、やっぱりいろいろ問題もありますので、そこの辺をいろいろご理解をいただきながら、埋める量とかを協議させていただきながら、それであの、両方との折り合いをつけて、それで埋却するという方向で。」(ナ):川南町では、さらに深刻な問題が起きていた。・・牛の一千倍もウイルスを放出すると言われる豚、その処分が一向に進んでいないのだ。・・養豚業を営む永友崇信さん。・・永友さんの豚舎には1300頭いるが、感染した豚を含め、まだ処分できていない。・・処分を待つ間にも、豚舎の中では感染が広がっていた。・・農家を悩ませているのは、次々と子豚が生まれていることだ。永友「この子は、きのうの夜、生まれた子です。15頭生まれました。へその緒がまだついております。」・・処分が決まってからも、50頭以上の子豚が生まれている。・・頭数は増えていくのに、出荷ができないため収入は全くない。・・エサ代と借金の返済で、1ヵ月の支出は400万円。・・「毎日毎日どんどん増えていって、かわいそうな豚が、たくさん増えています。きょうはこっち、今度は向こうの豚舎にもうつって、向こうの豚舎もどんどん感染している状態で、もう見るのもつらいです。かわいそうです。早く殺してもらいたいです。そんな気持ちです。豚のためにも。」(ナ):10km圏内の地域では、きのうも新たに3ヵ所の農場で、感染のある牛が見つかった。感染拡大は今も止まらない。


6.なぜ処分が進まない?司会「さて、スタジオには、ウイルスに詳しい帝京科学大学教授の村上洋介さん、お越しいただいています。よろしくお願い致します。そして、現場で取材に当たってきました科学文化部の藤原記者です。まず、藤原さん、あのー、処理した家畜をここでは埋める場所がないということ、これが一番大きな問題だ、ということなんですね?」藤原「はい、そうなんです。まず、これまでの法律では、処分した家畜を埋める土地を確保するのは農家の責任となっていました。県は、こうした事態が起こる前に土地をリストアップするなどの、対策をとることにはなっていましたが、最終的には農家の責任、農家が責任を負っていたのです。しかし、実際には口蹄疫が発生して、対応に追われる農家に、同時に土地の確保をさせるのは現実的ではありません。今回成立した特別措置法では、最終的に国が土地を確保することになりました。処分のスピードアップを図るためです。ただ、処分の対象になっているは15万頭以上、これとは別にワクチンを接種した牛や豚、以上も処分することになっています。これだけの数を処分する訳ですから、土地を探12万頭すのは大変です。実際に土地が決まるまでは、現場の不安が解消される訳ではありません。」


7.“感染拡大”の背景は司会「さて、村上さん、あのー、10年前にもですねー、口蹄疫というのが発生したんですけども、その時と比べて今回は被害が格段に大きいわけですね。これはどうしてなんでしょうか?」村上「あのー、一つは前回のウイルスもOタイプと言うことで同じなんですが、遺伝学的には少し違っている。さらに、広がりを見ますとですね、感染力が強いというふうに思える節、もございます。」司会「前より、感染力が強いのではないか、ということです・ね」村上「はい、はい、それからですね。よく、あの、口蹄疫に感染した動物のことを、機械に例えて言うわけであります。で、牛はですね、よく言われるのは乳牛なんですが、あのー、少しのウイルスで感染して、症状をはっきり見えるということから、感知器と呼ばれています。それから豚についてはですね、少し量はいるんですけども、いったん感染しますと大量のウイルスを放出すると、しかも、発病する前から出していると、いうふうに言われます。(豚は増幅器の図あり)そういったことで、前回はその豚に感染しなかった。」司会「前回は、牛だけだったということですね。」村上「はい、今回は豚に感染しているということですね。それから、もう一点は、前回に比べますと今回は、あの、畜産農家さんの多い地域に発生していると、いうことがあげられるかも、知れませんですね。」司会「その、多い地域だと、まあ言ってみれば、集中しているわけですから、これは広がりやすいというように、はっはー。」村上「はい、広がりやすい、ということになりますね。」司会「まあ、そういう理由が考えられるということですか。」村上「はい。」


司会「あのー、それにしても、今、あの見てきました、この10kmの範囲内については、全頭処分という対策なんですが、これどうなんでしょう、この大規模な対策、ま、農家の人の気持ちも分かるんですけど、これ、やっぱりやむを得ないということなんでしょうか?」村上「はい、はい、あのー、どうしても、この病気は、ワクチンをとりましても完全に感染を防ぐことはできないであるとか、そしてそのー、生きた細胞で増殖するウイルスだものですから、動物が生きていれば、そこでどんどん増殖してウイルスの濃度が高まるということがありますので、えー清浄国で、あのーこの病気がない国で発生した場合には殺処分するというのが、一つの国際的なルールになっている。」司会「国際的なルールということですか。」村上「はい。」司会「はあ、そうしますと今回のこの措置というのは、まあ言ってみれば、そういう国際的なルールに則って、・・ということですか。」村上「はい、そうですね。あのー、しかも最短コースで、早く元の口蹄疫がない国に復帰するということを目指していると思いますね。」


8.”10~20km圏内” 早期出荷の苦悩司会「はい、さて、この強い感染力を持つウイルス、これを封じ込めるために、国が行っている対策の、これは2つ目なんですけど、それが感染して・・感染が出ていない地域を対象としたものです。この10kmの範囲内の外側ですね、この20kmの、この範囲内では牛や豚全て、これ食肉などに加工して出荷してしまおうというものなんです。つまり、この範囲で生きている家畜をゼロ、つまり空白の地帯にして感染拡大を食い止めようという対策です。ではこの対策、進んでいるのか、続いてこの点を追跡します。(ナ):口蹄疫の発生地から、およそ13km離れた日向市塩見。・・三代にわたって畜産業を営む黒木敬二さん。・・飼育している牛への感染を防ぐため、最新の注意を払ってきた。農場には家族以外の人を近づけないようにしている。・・今回、消毒した靴やカメラを使い、敷地の外から撮影することを条件に、取材を申し込んだ。黒木「ここからが牛舎になりますので、できればこの外から。」「はい、撮影はこの外からですね。」「はい、お願いします。」「はい、わかりました。」(ナ):黒木さんは、毎朝30分以上かけて、農場の出入り口などに、消毒用の石灰をまく。・・さらに、殺菌効果があるとされている竹をいぶして作った液体を、1日2回、牛の鼻や口に吹きかけている。・・こうした必死の対策で、黒木さんの農場では、感染の疑いがある牛は出ていない。・・飼育しているのは、雌牛73頭、上質の子牛を産ませたいと、手塩にかけて育ててきた。・・生まれた子牛も、セリに出すまでのおよそ9ヵ月間、大切に養ってきた。・・しかし、今月19日、早期出荷の決定を受け、雌牛も子牛も全て、食肉に処理して、出荷しなければならなくなった。黒木「家族同然、子ども同然みたいに、育ててきた牛ですから、ましてや感染もしていない牛ですから、その牛を早期出荷してくれ、て言われても、いやー、それは無理ですと、最初は思いました。思いましたけど、まずは、そのー、終息に向けて、協力をするのが1番ではないじゃろうかと。」(ナ):ところが10日たった今も、黒木さんの牛を含め、早期出荷の対象となっている1万5千頭は、。まだ1頭も出荷されていない。なぜなのか。・・理由の一つは、食肉処理場が足りないことだ。この地域に牛の処理場は一つしかない。その上、口蹄疫が発生した10km圏内にあるため、現在、閉鎖されている。仮に処理場が開催されたとしても、1日に扱えるのはせいぜい60頭、全ての牛を処理するには8ヵ月以上かかると見られている。黒木「そんなに待ってたら、緩衝地帯ていう意味がないですよね。出荷するスピードも早めて、早く緩衝地帯をつくらないと、(10km圏内の)中で殺処分されていった牛や豚、それを、あのー、了承した農家さんの行為が、無になるというか、意味ないですよね。」9.危機に直面 ブランド牛(ナ):口蹄疫は畜産業の将来にも、大きな不安を与えている。(TVニュース:5月24日 宮崎牛 種牛49頭 副大臣“特例を認めず、宮崎県に処分を求めていく方針に、変わりがないことを改めて示しました。”)(ナ):県が管理してきた貴重な種牛が、エース級の5頭を除いて、処分されることになったのだ。・・・・黒木さんは、エース級の種牛と雌牛を掛け合わせ、高品質の宮崎牛を全国に送り出してきた。黒木「お父さんが忠富士ですね。でぇー・・福之国ていう牛もおりますし、」(ナ):県はエース級の5頭を避難させている。しかし、これらの種牛も、もし感染すれば処分の対象となってしまう。宮崎県の農家たちが、何代にもわたってつくりあげてきたブランド牛が、危機に直面している。黒木「やる気はあると。うん、続ける気持ちはあるし、牛しかない!と、思ってます。家には、自分には、私には。このやる気もそうは長くは続かないと思います。・・・生活、が成り立っていかなければ、どうしても違う仕事を探さないといけなくなりますし、違う仕事を始めれば、もうその仕事で生計を立てようかという気にもなりますから。うん、時間がたつとやる気がなくなり、他のところに、行かざるを得ない!状況になりますよね。うん。」10.早期出荷 なぜ進まない(スタジオで)司会「藤原さん、あの、空白地帯、今の農家の人は緩衝地帯とも仰っていましたけど、この方針はつくることが、方針は決まったんですけども、実際にはこの早期出荷、うまくいっていないようですけどもね。」藤原「はい、まず、ここで早期出荷される牛や豚は、そもそも感染も、感染の疑いもないんです。けれども、この地域の家畜たちは、万が一にもウイルスを外へ広げないためにも、20kmより先に生きたまま持ち出すことはできません。牛の処理場がないという問題については、国は現在閉鎖されている10km圏内の処理場を、特例で再開して対応しようとしていますが、ここでも牛は1日に60頭程度しか加工できません。農林水産省では、このままでは全てを加工するのに、8ヵ月以上かかる可能性もあるとしています。司会「村上さん、この対策ですね。これどのようにご覧になりますか?」村上「あのー、食肉処理場が少ないということで、なかなか進まない、大変苦労をなさっていると思います。その背景には、まあ、統廃合だとかも、あるかもしれませんね。」司会「処理場の統廃合とか?」村上「はい、ただ、あの、感染の拡大を防ぐと、いうその緩衝域を作ると、いう意味は、大変、あのー、良いことだと思うんですね。そのー、これまでに、あまり例のない、エー、方策ではあると、思いますけども、うまく感染を防いで、そして、そのためにもむつかしいかもしれませんけども、早く出荷が進むと。いうことを期待致します。」11.口蹄疫 畜産業への影響は司会「藤原さん、あのー、もう一つこれ、種牛にも感染が広がっているという現状。これ地域のですねー、畜産業全体に与えるダメージ、これも大きいと思うんですが。」藤原「エー、そうですね。あのー、早期出荷で対象になっているのは、もともと出荷を控えた牛や豚だけではありません。本来、食肉処理されるはずではなかった、例えば母牛や母豚なども含まれているんです。種牛のことが話題になっていますけれど、こうした母牛や母豚、についても、これまで農家が苦労して苦労して築き上げてきた、彼らにとっては、まさに宝物なんですね。国では、早期出荷による損失を補てんするとはしていますけれども、単純にお金で評価できないものが、数多くあります。これまで築き上げてきたものを全て失うことになってしまう、ことにつながりかねないんですね。畜産の町に、牛や豚が1頭もいなくなるわけですから、本当に復活できるのか、という不安は募っています。司会「はい、今回の感染を受けて、きのう、口蹄疫対策特別措置法が成立いたしました。こちらをご覧ください。」・・ (パネル1の提示)Vaccineno_4 司会「エー、感染が広がる恐れがあった場合には、国が予防的な殺処分を行うことができる。エー、これまで農家が行ってきた、処分した家畜を埋める場所の確保、これも国が責任を持って行う。さらに、農家への損失、これを全額補償する、まあ、1千億円の見込みという。こういう法律なんですが、では、この法律によって、被害の拡大、感染拡大を防ぐことができるのでしょうか。現地対策本部本部長の山田農林水産副大臣に、きのう宮崎でインタビューしました。


 12. 農林水産副大臣に問う司会「私も現場に行って取材してきたんですが、あのー、まだ今も処分すべき家畜、どんどん増えていって、感染の拡大の恐れというのは、まだ、今でもあるわけですが、国としてですね、具体的にどういうかたちで、土地を確保、していくとお考えなんでしょうか。」山田「依然として危機的状況が続いてますんでね。だから、埋却地の確保を一刻も急がなきゃいけない。」司会「つまり、スピードがまず第一ですね。」山田「まず、スピードです。今回もそのスピード感を持って、あのー、やっとけば! 私は、ここまでの拡大はなかった、と。」司会「やはり、そこは、スピード感に欠けたようなところがある、というのは課題として、やはり浮かび上がっている、ということ、なんでしょうか?」山田「残りますねエ。県の農業振興公社が、国の基盤整備特別会計のお金でもって、あのー、そういう埋却地を買えるように、すぐ大臣とも了解をもらって、そういうシステムをすぐ、お願いしましたのでね。だから、もうすでに、自分で土地を見つけて買った人の分も、場合によったら県の方で、あの県の公社の方で買い上げていただければ、まあ、不公平感のないような形で、埋却地を早く見つけないと、処分が、埋却処分が遅れてしまう。遅れれば、それだけクラッシュしていく。」司会「10kmから20kmの範囲の、家畜については、まあ、食肉等々に加工して出荷して、まあ、この範囲をいわば空白地にするという対応で、感染拡大を防がれているということなんですけど、ここについても取材に行ったところ、今のままだとですね、加工に、もう半年以上もかかってしまうと。で、これもやっぱり、急がなければいけないことですけども。」山田「まあ、私としては、その、豚がね、豚1頭が牛千頭に匹敵するぐらい、ウイルスを発散していますんで、この10km20kmも、豚を、処分してしまいたいな、と思っていましたがね。牛は、本当に追いつかないんですけど、豚だけでも、先に、という気持ちがありましてね。」司会「これ、今、感染の拡大、収まったわけではない訳ですから、その、これ、もちろん県外に広がらないようにという、そういう対応も、とっていかなければいけない、と思うんですけど、例えば、あのー、熊本県ですとか、周辺の自治体の方にも、これこれ働きかけていくという、そういうことも考えて?」山田「そうですね。心配しています。だから隣接の県で、あのー、一つしっかりと、その防御ライン、消毒を徹底していただきたい。で、私が見るところ、やはり人を、介して、接触感染の疑いがいちばん濃厚だと思うと。いつ、県境を超えて、飛び火するかも分からないし、これは本当に日本の畜産の危機的状況ですから、まず、この口蹄疫を根治させること、これに全力を、総力を、みんなであげましょうと。」


(スタジオにて)司会「はい、あのー村上さん、山田副大臣は感染拡大に対して、きわめて強い危機感を持っていらっしゃったんですよね。この点は、どのようにお考えですか?」村上「はい、宮崎では、大変厳しい情勢が続いていると思います。エー、ワクチンで感染拡大を防ぐという方策も打たれました。エー、それが、もうしばらくしないと、まだ効いてこないかもしれませんけども、あのー、まだまだ依然として厳しい情勢が続いてると、いうふうに思います。」司会「まあ、そのー、やっぱり安心するわけには、決していかないということ、ですね。もう一つ、エー、20km圏内の早期出荷についてなんですけれども、あのー、豚については急ぐ、というふうに言っているんですけど、牛についてはですね、これなかなか追いつかないですね、難しいという認識だったんですが、これについては、どのようにお考えですか?」村上「あのー、豚の方から、エー、早期に出荷するというのは、先ほど申し上げましたように、ウイルスを大変たくさん放出する動物ですので、あのー、大事なことだと思いますね。だが、牛については、なかなか、そのー、食肉処理場の不足であるとか、現実上、皆様方が大変苦労なさっていると思います。が、なんとか早く、そのー、緩衝地域を作って拡大防止をするという方策が、うまく機能することを、祈っておりますね。」司会「ですから、牛についても、やっぱり、対策は、とっていかねばいけない、・・ということですね。」


11. “感染拡大” どう防ぐ?司会「ふーっ、藤原さん、今回の問題ですけれども、まあ、初動の動き、といったことも含めてですね、今回の対応について、課題もあると思うんですけど、この点はどうでしょう。」藤原「はい、これまでの取材の中で、三つのポイントが浮かんできました。エー、こちらに、まとめました。ご覧ください。 (パネル2の提示)  まず、一つ目が、早期発見。今よりも、もっと早期に発見できなかったのか、ということです。今回の最初に見つかった牛よりもさらに前に、別の農場で感染が起こっていた、ことが分かってきています。次は、埋める場所の確保、エー、処分するまでにウイルスが外に広がる恐れがあるので、その処分をできるだけ早く、スムーズに行うことができなかったのか、ということです。最後が、消毒などの初期の対応についてです。発生の、ごく初期ですけれども、当初から農家の間では、懸命の消毒が行われていました。一方で、地域全体の消毒などの取り組みについては、本当に十分だったのか。検証する必要があるとの指摘も出ているんです。」司会「この三つ、やっぱり、これから考えなければいけない点、ということになるんですね。」藤原「はい。」司会「村上さん、あのー、感染、もちろん、あの、今も拡大が続いている、ということなんですが、先ほどもこれ(パネル:世界の口蹄疫発生状況)、紹介しましたが、エー、日本だけでなくて、アジアでも蔓延しているということです。この口蹄疫について、では今後、防いでいく、私たちがこれを防いでいくためには、どのようにしていけばいいのか、この点についてはいかがでしょうか?村上「あの-、結論から申し上げますと、危機意識を持つと、いうことが大事だと、いうふうに思います。アジアでは、最近、非常にそのー、Oタイプだけではなくて、ですね、非常にそのー、活発な口蹄疫の、さまざまなタイプの流行が続いています。そういったことから、グローバルな視点を持つ、ということも大切であろう、というふうに思います。宮崎では、また、あのー、厳しい情勢は続いておりますけれども、それでも、今回の教訓をですね、エーもとに、また水際であるとか、初期の対応の問題点があれば、もしあればそれを見直す、あるいは将来につなげる、ことということが必要であろうと、いうふうに思いますね。外国では、まあ、こういった口蹄疫などが、大変重要な感染症として、エー、病気のレベルでも最高ランクに位置付けて、誰がそのー、あっ、家畜の感染症としてはですね、誰が主体となってやるのか、情報の共有をどのようにするのか、明確にしている国もあります。エー、家畜の感染症というのは、地域経済を崩壊に、あのー、おとしかねない、と言うこともありますし、口蹄疫は容易に国境を越えて広がって、そして、発生した国全体に、社会あるいは経済的な影響を及ぼすという、代表的な家畜の病気であります。そういった意味で、テロ対策の病原体にも、指定されている」司会「テロ対策の病原体に指定されている?」村上「はい、指定されている病原体でございますので、エー、皆さんが、ともにその危機意識を持つということが大事だろうと、いうふうに思います。」司会「あのー、もちろん、これ、感染、これで終わった訳ではないということですから、やっぱりこう、安心するのは、まだ早いと。」村上「はい、あのー、いろんな方策で、ワクチンで、ウイルスの量を落として、そして拡大するのを防ぐ、そして緩衝域をつくる、さまざまな手当てを打っています。それが、まもなく効いてくるだろうと期待しております。」司会「はい、分かりました。さて、ワクチンの接種も進み、新しい法律もできました。しかし、これで問題が解決した、と言うわけではありません。今も、感染拡大は続いているのです。で、一刻も早く拡大を食い止めることに、最大限、取り組まなければなりません。そして、なぜ、今回、感染拡大を防ぐことができなかったのか。システムの問題も含めて検証することも、今後、求められているのです。「追跡! A to Z」、今夜は、この辺で失礼いたします。」終


【文責/解説】 三谷克之輔


 今回の口蹄疫対策では、感染の可能性がある牛が、早くから家畜保健所に届けられていた。それなのに、遺伝子検査で感染を確認しなかった。感染が広がっている大型農場は感染の疑いさえ届けなかった。このため、口蹄疫の発生が確認された際には、すでに感染は拡大していた。しかし、直ちにワクチン接種をしなかった。しかも、感染拡大の阻止を殺処分だけに頼ったために、感染をむしろ拡大させてしまった。さらに、10km圏内の牛と豚は健康な牛までワクチン接種して殺処分した。また、10km~20km圏内の牛と豚は、肉用に殺処分するという非現実的な早期出荷の計画を立てた。これらの感染拡大をさせた口蹄疫防疫措置と防御システムの問題点については、ブログ「牛豚と鬼」で指摘してきた。 この視点が、この報道番組では決定的に欠けている。それは口蹄疫に責任を持つ専門家達が、真実を語らなかったためである。この番組で、村上教授は「危機意識を持て」という。しかし、感染を確認する遺伝子検査も、ワクチン接種も、殺処分の可否も、民間にその自由はない。すべて国の責任と権限で実施されている。危機意識を持たねばならないのは、国の権限を持つ専門家達ではないか!村上教授は口蹄疫対策等に責任を持つ「牛豚等疾病小委員会」の現在は委員長であるが、日本の口蹄疫対策を見直そうとしていない。そこで、この報道番組をもとに、村上教授の説明の欺瞞について、次回のブログでは追跡!してみたい。


初稿(録画書き出し) 2013年2月9日 更新1 2013年2月11日
最終稿(録画追加)2020年8月18日



特報フロンティア なぜ”SOS”はとどかなかったのか

2013-02-16 20:28:38 | NHK
 NHK報道番組「特報フロンティア」は、口蹄疫の発生確認から1年を節目に、現場の記録から口蹄疫防疫措置の問題点について検証したものです。この報道を文字記録に残すために、これは録画をもとにできるだけ忠実に書き起こしたものです。
 NHK報道番組「特報フロンティア なぜ”SOS”はとどかなかったのか」 2011年4月22日放送 (動画)
 宮崎川南町 4月20日ナレーション(ナ:) 口蹄疫の発生から1年を迎えた4月20日、宮崎県では、農家たちが、犠牲になった牛や豚に手を合わせていました。大切な家畜を失った悲しみと、経済的な痛手から、多くの農家は、まだ立ち直れていません。

 2010年4月20日 宮崎県東国原知事の記者会見知事「家畜伝染病である口蹄疫の疑似患畜が県内で確認されました。」(ナ:) 口蹄疫で殺処分された家畜は、およそ30万頭、1300を超える農場から、牛や豚の姿が消えました。そして今、口蹄疫は韓国や中国など、東アジアで猛威を振るい続けています。いつまた、畜産王国、九州を襲ってもおかしくありません。

撮影:畜産農家 去年5月豚農家「次から次に感染して、かわいそうな豚がたくさん増えています。」(ナ:) 感染拡大を防ぐ手がかりはないか、私たちは当時の記録に注目しました。豚農家「エサはほとんど食べません。この子たちも、もうすぐ殺されます。」牛農家「(ワクチン接種を手伝いながら)かわいそー、あっ、あっ、あっ、・・・」(ナ:) 被害の一部始終を記録していた農家たち、その映像や日記から、感染が広がった背景に迫りました。・・明らかになってきたのが、農家たちの叫びが行政に届かず、対応が後手に回った実態でした。農家「いくら言ってもね、やっぱり、県にも国にも届かなかった。」

 (タイトル表示)なぜ、SOSは届かなかったのか~口蹄疫・感染拡大の実態~(ナ:) なぜ、SOSは届かなかったのか。口蹄疫発生から1年、現場からの報告です。
 ニュースキャスター(司会)「特報フロンティアです。宮崎を襲った口蹄疫の発生から1年です。大切な牛や豚を失った農家の方々の精神的な痛手は、計り知れないほど大きく、未だに半数以上の方が、農場の再開に踏み切れていません。そして、被害額の試算はおよそ2350億円と、地域の経済に重くのしかかっています。私たちは、この未曾有の被害をもたらした口蹄疫について、宮崎の365人の農家の方に、アンケートにご協力いただきました。それが、こちらです。中には、このような声がありました。和牛繁殖農家代40女性『まだまだ不安な気持ちがあります。毎日涙を流し、牛舎にいることができません。』、和牛繁殖農家代50女性『もし、わが家から病気が出たらという恐怖心が先にたって、農場再開に踏み出せずにいます。』、など、心に深い傷を残しています。こうした声と一緒に、行政の当時の対応に対する怒りの声もありました。養豚農家50代男性『幹線道路の消毒ポイントが少ない。』、酪農家60代男性『どこで発生したかわからず、役場に電話しても教えてくれず、不安だった。』、などです。さらに、当時のブログや日記などを通じて取材を続けていきますと、実は、口蹄疫発生後、かなり早い段階から、農家自らが感染拡大を防ぐために、町や県、さらには国に対して、さまざまなSOSを発信していたことが、分かってきました。それなのに、なぜ叫びは行政に届かなかったのでしょうか?」(ナ:) 口蹄疫で最も大きな被害を受けた宮崎県川南町、すべての家畜が犠牲となり,牛や豚の鳴き声が溢れていた畜産の町は、一変しました。彌永「この場所に埋めていただいたんです。まあ、天国の花畑っていう感じやろけんね。」(ナ:) 30年間、酪農を続けてきた彌永睦雄さんです。牛、39頭が感染し、殺処分されました。「かわいいよな。」殺処分の前日、彌永さんが撮影した映像です。牛は大切な収入源であるとともに、かけがえのない家族でした。彌永「こんだけ、牛と一緒にいない時間、が、一生で初めてやね、牛がかわいそう、牛に申し訳ない、ちゅう気持ちが一番、強かったわね。」(去年4月21日)(ナ:) 川南町で、口蹄疫が立て続けに発生した、去年4月末、彌永さんは、県に対し、消毒の徹底を訴えていました。口蹄疫ウイルスは、靴底や車のタイヤなどについて広がるほど感染力が強いことを、インターネットで知ったからです。・・感染した2つの農場から、彌永さんの農場は、2kmしか離れていませんでした。・・「こうして、車が通るからね、一般の。」・・しかも、彌永さんの農場は、発生地区から国道に通じる道路上にあるため、車がウイルスを運んで来る可能性がありました。しかし、県が消毒を行っていたのは、家畜のエサ等を運ぶ畜産関係の車だけでした。・・彌永さんは、一般の車も消毒するよう、県に繰り返し求めました。県の回答は、検討するというもので、直ちには動きませんでした。・・その頃、彌永さんが書いたブログです。「あれほど、一般車両の消毒をお願いしてたんだけど、昨日も電話でお願いしたんだけど、受け入れられなかった。」・・(4月26日)その後、日を追うごとに、感染は次々と周辺の農場に広がりました。・・発生から1週間で、およそ2000頭の牛が殺処分されました。彌永「もっと抑えられちょった可能性もあっちょとかよ。・・初期に徹底した消毒体制がとれちょけばね。それだけは今でも、思う。」(ナ:) NHKが被害を受けた農家を対象に行ったアンケート。半数近くの人が、行政の消毒体制に不満を感じていました。繰り返し、消毒の強化を訴えていた人も、少なくありませんでした。何故、県は農家たちのSOSに応えなかったのか。・・(宮崎県畜産課)・・・一般車両の消毒を求める声が高まる中、畜産課では対策を協議しました。しかし、実施は困難という結論に達しました。全ての車を消毒するには、交通量が多すぎるからです。国道を通る車は、1日、2万台以上。県は、1台当たり3秒以内で消毒しないと、渋滞が発生するとみていました。さらに県は、農家以外の人たちから協力を得るのは、難しいと考えていました。消毒液が車にかかっただけで、苦情を寄せる人がいたからです。県室長「今でこそね、口蹄疫、皆さん理解されていますんで、仮にあした(口蹄疫が)起きて、全車(消毒)対応ちゅうことになれば、多分スムーズに、あのー、協力してもらえるかもしれませんけども、初期から、あるいは、いきなりネ、あのー、一般関係車両まで、対応ということになれば、まあ、相当な混乱があったのではないか。」(ナ:) さらに、県の判断を後押ししたのは、防疫マニュアルでした。消毒の対象としていたのは畜産関係の車両だけ。一般車両は含まれていませんでした。マニュアルは11年前(2000年)に、宮崎県で発生した口蹄疫の経験をもとに作られました。しかし、当時のウイルスは非常に弱く、感染した農場は3つに止まりました。今回も、早期で終息すると、県は考えていたのです。県室長「これだけの、その、なんですか、口蹄疫を、まあ想定していなかったのは事実なんですね。たんたんと、その、殺処分して、まん延を防止すると、いうことで収まるんじゃないかという考え方と・・。」(ナ:) 口蹄疫の発生から8日、感染爆発につながる事態が起きます。県の畜産試験場で、豚が感染したのです。「1万6千(頭)ちょっとですものね。かなり、おりましたね。」そうした中、ひときわ危機感を強める農家がいました。町で、最大規模の養豚場を経営する、河野宣悦さんです。河野「それだけの、やっぱり、頭数、おりますんで、ウイルスの発散量ていうのは、ものすごいもんだろうな、うん。だから、やっぱり入れたくない。」(ナ:) 飼育頭数が多い上に、豚が放出するウイルスの量は、牛のおよそ3000倍、感染すれば、被害はたちまち周りの農場にも広がりかねません。河野さんは、JAを通じて発生農場の情報を集め、地図で確認していました。従業員に、その場所に近づかないよう指示するためです。しかし、感染は続発し、次第にすべてを把握しきれなくなっていきました。誤った情報まで飛び交う中、農家たちは町に対し、発生農場を明らかにするよう、繰り返し求めました。しかし、町は応じませんでした。(宮崎 川南町役場)(ナ:) なぜ、町は情報を教えなかったのか。農林水産課の押川課長は、発生農場を全て把握していました。しかし、詳細は伝えずに、農場がある場所の学区名だけを、知らせていました。当時、牛や豚が感染した農家の中には、周囲から加害者のように責められる人がいたからです。かつて別の県で、家畜伝染病が発生した際、農家が非難を苦に自殺したケースもありました。課長「色んな、誹謗中傷が、あるということでですね、家から一歩も出られなかったというとこが、非常に強かったもんですから、自殺者が出るような状態だけは、つくりたくないというのが、やはり本町(本庁?)の取り組みでもありました。」(ナ:) 発生農場の情報が入らない中、ついに、河野さんの農場でも、口蹄疫が発生します。河野さんの懸念は現実になります。豚の1例目の確認後、感染の疑いがある家畜の数は急増、町で最大規模の河野さんの農場が感染してしまった結果、3倍に増えました。一方、殺処分することができた家畜は、わずか3分の一。その後、殺処分は大幅に遅れだし、感染はさらに広がっていきました。発生農場に配慮する町の立場を理解しながらも、河野さんは、被害を拡大させないためには、正確な情報が欠かせないと考えています。河野「情報が伝わらずに、実害になってしまったら、もう何もなくなるわけですわ。感染拡大を防ぐという大前提のもとでは、(情報は)必要なんじゃあないかなあて気はしますね。」(スタジオにて)司会「スタジオには、家畜伝染病の感染防止対策に詳しい、東京農工大学教授の白井淳資さんにお越しいただきました。よろしくお願いいたします。そして、発生当初から取材を続けてきました本木記者です。まず、本木さん、あの、畜産農家はSOSを出していたのに、県や町は応じなかった。これは、なかなか腑に落ちない対応ですねえ。」本木「そうですね。私たちも最初の1か月間は、やはり感染を広げてはいけないということで、農場での取材を控えて、主に電話で農家に話を伺ってたんですけども、その時に、農家の人たちは、見えないウイルスの侵入に怯えて、もっと徹底した対策をとらないと感染の拡大を止められないと、県や町に必死に訴えていました。しかし、実際の対応は、やはりVTRに見たように遅いものでしたので、自分たちがもう見捨てられているのではないかと漏らす農家さえいたんです。結局、発生から3週間以上たってから、川南町は発生した場所を大まかに記した地図を、農家にFAXするようになりました。また、県も道路に消毒マットを敷いて一般車両の消毒を始めたんですけども、しかし、それはいずれも感染が爆発的に広がった後だったんです。」司会「白井さん、初動の段階で、県や町という立場にある人たちがですね、SOSに応じなかったということ、白井さん自身はどのようにお考えですか?」白井「えーっとですね、まあ、県の立場ですけども、そのー、感染拡大を想定していなっかったと、責任者が言っているんですけども、それは口蹄疫自体の認識不足ということですね。それは、過去2000年のときにですね、宮崎で口蹄疫が発生したんですけども、あのー、その時に3軒だけで、あまりにも、そのー、なんというんですかね、小さな発生だけで収めてしまったという、その自信がですね、勘違いにつながったんだろう。」司会「その勘違い、認識不足と仰られたところ、その甘さの理由というのはなんだったんですか?」白井「甘さの理由というのが、その、あの、過去の例がですね、それがそのまま口蹄疫そのものだ、ということですね。」司会「あてはまると思うこと、それが認識の甘さですか。」白井「当てはまると思う、はい、認識の甘さということですね。」司会「一方で、ですね。町の人の話ですけども、自殺者が出てしまうのではないか、そのために情報を出せないということで、かなり葛藤があったことは事実だと思うんですが、こういった判断は正しかったんでしょうか?」白井「いや、正しくないと思います。とにかく口蹄疫というのは感染が、すごく拡大しやすい病気であるということ、その前提に立って、どこで発生しているのかということが、一番重要なことなので、あの、とにかく、その発生農家も被害者である、ということをですね、とにかくそういう前提に立ってですね、それで正確な情報を伝えていって、これ以上感染が広がらないようにする、という認識が、自治体も非常に必要だったんではないかと、私は思います。」司会「とにかく、初発、発生された農家の方は被害者であるという認識が前提である。そのあとで、正しい情報を知らしめる。」白井「それで、最初に、あの、出たところ、初発というわけではないと思う。初めに報告があっただけで、そこで言われた(報告された)だけですから、そこから病気が広がった訳ではないので、みんな被害者だという認識を持っていただきたいと思います。」司会「さて、最初の発生から2週間、地元の行政の対応が遅れたことで、感染は拡大し、さらに殺処分が追いつかない状況になっていました。そんな危機的な状況の中で、農家は今度は国に向けてSOSを発信していました。」(発生から2週間、宮崎 川南町 養豚農家)(ナ:) 最初の発生から2週間、口蹄疫に感染する家畜は急増し続けていました。感染するとウイルスを放出し続けるため、ただちに殺処分しなければなりません。しかし、作業はいっこうに進まず、農家たちは焦りをつのらせていました。養豚農家「毎日、毎日、かわいそうな豚が、たくさん増えています。早く、殺してもらいたい。そんな気持ちです。豚のためにも。」・・・このころ(5月4日~9日)、発生地域も少しずつ広がり始めていました。町を南北に隔てる平田川のすぐ南には、数千頭が飼育されている大きな養豚場が集まっていました。一つでも感染すれば、川の南側一帯に広がりかねません。(養豚農家 遠藤宣威さん「こんもりとした山の向こうが、・・・」)自分たちの町だけで、感染を食い止めたい。地元のJAで、当時、養豚の部会長を務めていた遠藤たけのりさんは、仲間と思い切った作戦を立てます。大型農場の家畜全てを、感染が及ぶ前に殺処分して、空白地帯をつくることで、感染に歯止めをかけようと考えました。しかし、このころ感染の疑いがある家畜が増え続け、殺処分は大幅に遅れていました。・・当時、遠藤さんが書いた日記です。打開策としてワクチン接種がしるされていました。海外では感染拡大を抑えるための、有効な手段の一つだとされていたからです。ワクチンを打つと口蹄疫に感染しにくくなります。ただ、完全に防ぐことはできません。感染を確実に断ち切るためには、殺処分しなくてはなりません。しかし、ワクチンはウイルスの増殖を抑えることができるため、殺処分までの時間稼ぎとして使えるのです。・・感染していない自分の家畜を犠牲にする。つらい決断に13人の農家が、国の補償を条件に同意しました。遠藤「なんにもね、感染していない。ただ、当時、我々が、あのー、防波堤になってね、みんなが生き残ればいいと。そういう思いしかなかったですね。うん、・・つらかったよ、つらかったですよ。やっぱりその時はつらかった。」(発生から3週間)(ナ:) 口蹄疫発生から3週間あまり、初めて宮崎県を訪れた赤松(農林水産)大臣に、遠藤さんたちは作戦を提案しました。しかし、・・大臣「まあ、予備的に、それを(家畜を)殺傷して、殺して、で補償金をください、という話でしょ? 病気でもないのに、殺傷して、殺処分して、しかも税金であるそれを、補償金として払っていくと、いうことはこれはもう、法的にそもそも認められませんから。」(ナ:) 遠藤さんは、日記(5月11日)に、国への強い苛立ちを綴っていました。「これだけお願いをしても届かないのか。」・・・なぜ国は、農家たちの提案を拒否したのか?・・・数日前、農水省は口蹄疫の地策を考える会議を開きました。・・集められたのは家畜の伝染病やウイルスに詳しい専門家たち。その時の発言を記録したメモを、私たちは入手しました。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー第12回 牛豚等疾病小委員会 メモ  (1ページの映像)場所:本館4階 第2特別会議室日時:平成22年5月6日(木)11:00~13:00(〇〇調整官) ただいまより牛豚等疾病小委員会を始める。本日の会議は非公開とする。田原委員長に進行をお願いしたい。(〇〇委員長) それでは議事に入る。事務局より発生状況、防疫対策についてご説明いただき、ご意見ご検討をいただきたい。議事(1)宮崎県における口蹄疫の現状及び防疫対策についてご説明をお願いしたい。(〇〇補佐) (資料1を用いて説明。豚での発生が増加していること、小規模農場であれば、作業動線により近い房で初発している傾向が認められるが、大規模農場では必ずしもその傾向は認められないことに言及。)(〇〇調整官) 津田委員に、資料2-1(疫学チーム現地調査風景)と3-1(口蹄疫ウイルス日本分離株)についてご説明願いたい。(〇〇委員) 資料2-1は4月29日に行った現地調査の写真である。防疫措置が完了した1例目のみを調査した。この農場は他の農場から離れた場所にあり、農場に通じる道は大型車両が入れない狭い道であり、周りを杉林と竹林に囲まれている。初発は出入口付近の牛舎で発生しており、牛舎の構造も甘いため、色々なものが接触してもおかしくない。聞き取りによると、飼料は、自車で購入に行っていたとのことで、飼料配送車による汚染ではないと考える。この発生が初発なのか続発なのかを確認するためには、さらに細かく情報を集め、発症例を時系列に結んで整理する必要がある。 つづいて資料3-1であるが、今回の発生は1、2例目のウイルスはどちらも、変異が激しい領域であるVP1遺伝子の塩基配列が一致した。トポタイプはSEA(東南アジア)、遺伝子型はMya-98(ミャンマー98)であり、宮崎県で2000年に発生した際のタイプとは異なる。今回のウイルスは、2010年に香港で分離されているO型ウイルスに近縁であり、同じグループに現在、香港、韓国で分離されたウイルスが含まれる。 現在国内に備蓄されているワクチンは今回分離されたウイルスと近縁であり、中和試験の結果からも、国内備蓄ワクチンは今回の発生に使うことは可能と考える。 (ページ終わり)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーナ:) 会議では、家畜の殺処分の他、ワクチン接種についても話し合われていました。また、「国が備蓄しているワクチンは、今回のウイルスのタイプと近いため効果がある」と、専門家が報告していました。・・しかし、一方で、農水省の担当者から慎重な意見が出されました。「手当金については、もっとつめなければならない。」・・ワクチン接種をした後の補償をどうするか、もっと検討する時間が必要だというのが、発言の意図でした。・・この後、ワクチンについての議論は立ち消えになり、会議は終了しました。・・手当金について発言したのは、国の口蹄疫対策の指揮を執る動物衛生課の川島課長でした。課長「健康な家畜にワクチンを接種して、それを殺処分すると、いったことについて、そのー、手当て、支援金を支払う、といったような、そのー、枠組みは、あのー、残念ながら、ありませんでしたので、そのー、やっていくためには、そういうまあ仕組みが、あー、できていないといけない。」(「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針(平成16年12月1日農林水産大臣公表)」の表紙の映像) (ナ:) 国が定めていた口蹄疫の防疫指針。・・感染が拡大した場合には、ワクチンを検討することになっています。しかし、接種したときの農家への補償については、何も決められていませんでした。課長「(ワクチンの)備蓄はですね、いざというときのために、そのー、していた訳ですけれども、実際にそういう使用をですね、そのー、するというような状況をですね、まあ、あー、想定をしていなかった、されていなかったんじゃあないかと。口蹄疫の、おー、まあ、世界的な発生状況等々を、えー、よく、うー、我々自身が、もっと分析をして、準備を、おー、万端にしておくべきだったと。(ナ:) 赤松大臣が農家たちの提案を拒否した翌週、恐れていた事態が起こります。 (5月11日~16日) 感染拡大の勢いがさらに増し、平田川の南にある大型農場も次々と感染、ついに周囲の町にも広がり始めました。そのとき感染の疑いがある家畜は、9万頭近くに達していました。危機感を強めた農家たちは、国に再びSOSを発信します。全国の生産者団体を通じて、山田副大臣に面会を取り付け、訴えました。「ウイルスが爆発的に増え、毎日数千頭の牛豚がバタバタ倒れています。感染は川南町の外へ広がり始めています。県外に広がるのは、時間の問題です。」農家たちから現地の惨状を報告された山田副大臣は、大きな衝撃を受けました。大臣「(現場の)生の状況を、直接お聞きしてみた。で、これはもう容易ならざる段階まできていると。このままでは、もう本当に、南九州というか、九州の畜産が、これじゃあだめになってしまう。去年5月21日(発生から1ヵ月)(ナ:) 数日後、国は県と抗議の末、ワクチン接種を行った上で殺処分する計画を発表しました。具体的な補償額は決まっていませんでした。・・知事「断腸の思いでありますが、ぜひともご理解とご協力をお願いしたいと思います。」・・ワクチンを打って殺処分の対象となったのは、発生地域とその周辺の12万頭、すべて健康な家畜でした。(畜産農家のワクチン接種の映像)・・「あーー、ああ、かわいそう。」感染拡大を食い止めようと、農家たちは国の決定に従いました。「いやだよ、あー、ああー」「国のためじゃが、国の、国のためじゃが」「いやだー、どうして、あん、あああー」(ナ:) ワクチンが接種され、しだいに感染拡大は収まっていきました。しかし、行政の対応が遅れ続けた結果、犠牲となった家畜は30万頭に膨れ上がったのです。遠藤「我々の意見をね、もっと少し早く、聞いていただければ、そんな、そんなにね、(口蹄疫に)かかる必要はなかったはずですよ。そうとうね、あのー、牛豚の命はね、救えたんですよ。政治家の判断は相当に大事なことだと思いますね。」山田「もっと早く(ワクチン接種を)やっていれば、もっと被害は、少なくてすんだろうけどね。まあ、当時、法律も不備だったし、まあ、後手に回った、というところは、否めないかも知れないね。(スタジオにて)司会「あのー、農家のですねー、いわば自己犠牲を伴うSOSも、なかなか国には届かなかったと。当時ですね、農家のみなさん、いらだちも激しかったんじゃあないでしょうか。」本木「そうですね。VTRに登場した農家の遠藤さんなんですけども、当時ですね、本来は陣頭指揮を執るべき国の姿がいっこうに見えてこないと、嘆いていたんです。口蹄疫は感染度が強くて、対応を誤りますと国中に感染が広がりますので、海外ではテロ対策並みに政府が先頭に立つことが少なくないんですね。しかし、宮崎では去年どうだったかと言いますと、国が現地対策本部を作ったのは発生からおよそ一か月後、まあ、ワクチンを決める直前だったわけです。まあ、確かに状況が刻々と変わる中で、現場から離れた場所で的確な判断をするのは難しいと思います。その意味で、発生直後から国は現地に入って対策本部をつくって、地元の意見を聞きながら対策を主導する、そうすべきだ、これが去年の経験を踏まえた宮崎の声なんです。司会「そういった声が上がっているということなんですが、白井さん、国のワクチンの決断のタイミングですけど、なんであんなに遅れてしまったんでしょうか。白井さん、どうお考えですか」白井「えーっと、VTRも出てきたんですけど、ワクチン使うつもりは全然なかったと思います。とにかくワクチンを使わずにですね、殺処分で対応する、というのが2000年にもそうであったし、そういうつもりでしてきたこと、それとワクチンを使う体制になってないですね。」司会「体制になってない?」白井「はい、ワクチンを接種した家畜に対する補償を決めていないのに、ワクチンを打って農家にどう説明するか。ワクチンを打って殺処分しますよ、補償はありませんよ、では話にならないと思います。」司会「なるほど、ただ、指針にあるのに、備蓄しているのに、使うことは想定していない、なかなかこの不可思議さというのは感じてしまうのですが、このワクチンについてなんですが、世界的には、どういう風に使われている、見られているものなんですか。」白井「えーっとですね、2001年のイギリスの口蹄疫の大発生まではですね、やはり殺処分ということが主流に、あのー、来たんですけども、2001年、645万頭殺処分ということがありましてですね、あのー、世界の主流としては、ワクチンを使って感染拡大を防止しよう、という流れになっていると思います。」司会「はい、どんな国でですか。」白井「そうですね、とにかく発生したらワクチンを使うと、いうのがオランダなんですけども。オランダは海抜が低いこともありますし、土地の面積も少ないということでですね、とにかくワクチンを使うと、発生したら、あの、2km圏内の家畜に全部、ワクチンを使ってですね、打って、それで、できるだけ殺処分する家畜の数を減らしていこうという取り組みがなされています。」司会「VTRでも、今の白井さんの話からもですね、法的な不備が指摘されていますけども、先ほど、先日ですね、家畜伝染病予防法の改正が日本であったんですけど、この不備についてはどのように、なっているんでしょうか。」本木「そうですね。先月の法改正によって、国が口蹄疫の蔓延を防ぐために、ワクチンを接種して、家畜の殺処分を行う場合に、家畜の評価に見合う金額を補償するという仕組みがようやく整いました。」司会「補償制度ができたと。」本木「はい、さらに、宮崎県も今月、防疫マニュアルも見直しまして、発生直後に、まず半径1kmの農場の家畜の検査をやることになったんです。これは何かと言いますと、去年、家畜に異常がないかという確認を、現地、農場に入らずに、電話で済ませてしまったんですね。その結果、初期の感染の広がりに気付かずに、さらにその後のワクチン接種の遅れにもつながったという、反省があるんです。それを踏まえまして、今後は初期の検査で、感染の同時多発的な広がりが見つかったような場合は、県が国に速やかにワクチン接種を要請すると、そういう形になります。」司会「発生から1年がたちました今、法律やマニュアルの改善は見られるわけなんですけども、口蹄疫被害による教訓は行政や地域の現場で、どう生かされているんでしょうか。」(ナ:) 口蹄疫で大きな被害を受けた川南町、今、町は畜産農家を対象にした研修会を始めています。この日は、ウイルスが何を媒介して農場に入る可能性があるのか、専門家が説明を行いました。狙いは、口蹄疫を正しく理解し、発生農場に対する偏見をなくすこと、そして地域が一体となった感染防止体制をつくることです。さらに町は、出席する度にポイントが加算されるカードが配布されました。ポイントが高くなれば表彰し、低ければ補助金を減らすなどの規定を設け、積極的な参加を農家に呼びかけていく考えです。役場「みなさん、同じようなレベルで、あの、防災意識をもっていただくためには、必ずやはり、そういう研修会に来ていただく。まあ、加害者・被害者という意識じゃなくって、みんなで、その(口蹄疫を)撲滅しようと。」(2011年4月20日)(ナ:) 口蹄疫の被害を受けた農家たちも動き始めています。発生から1年を迎えたこの日、国と県の担当者を地元に迎えて、再発防止に向けて話し合いました。担当者「どうすれば(復興の)背中を押せるのか」。遠藤「批判だけしても仕方がないわけですから、今後どうやって、やっぱり、今の(復興の)効率というのかな、これを高めていくか、ということだと思うんですよ。」今後も、行政との対話の機会を設けることで、農家の声が届きやすい環境を作りたいと考えています。彌永「現場の声、現場の意見、現場の要望、まあ、やっぱり、どんどん行政にも伝えていかにゃいかんじゃろうから。伝えるためにも、こういう組織づくり、連携作りも大事かなあ思うてね。」(スタジオにて)司会「はい、彌永さんなどにご意見をいただきましたけれども、こういった動き出した取り組みを、白井さんはどのようにご覧になりましたか?」白井「まあ、取り組みとしてはですね、非常に良いことだろうと思うんですけど、でも、僕から見ますとですね、なんか、あくまでもですね、なんか農家の人を集めて、研修をすると、農家側に立ってないような、僕が印象を受けています。」司会「行政側が、農家側に立っていない。」白井「行政側がですね、集まってもらってポイントを稼いで、それで参加者を募るんではなくてですね、もう少し農家の側に立ってですね、会場を大きくするとか、機会をたくさんやってですね、農家の方にそれを伝えていく姿勢が必要なんじゃないかと僕は思います。」司会「なかなかこう、集まってくださいと言っても、お忙しかったり、お年をめしていたり、難しい方もいらっしゃいますよね。」白井「はい、ですから、もう、その何回もやるし、会場もたくさんやるし、それから農家の人だけじゃあなくてですね、町の人も含めてですね、みんなで口蹄疫に対していこうと、いう姿勢が必要じゃあないかと思います。」司会「そうやって、まあ本当に実際的にですね、体制づくりをする、あの、作っていくためにはですね、成功例というものが欲しいなと思うんですが、実際に実現できる、している所はあるんでしょうか。」白井「同じ宮崎県内でも、えびの市がですね、市全体がですね、口蹄疫に対するということを、農協を中心にやりまして、それができるようになりました。それで、成功、ほんとうに成功している。」司会「それはキーポイントになっているのは、どういうことでしょうか。一言でいえば。」白井「それは、みんなで畜産を守ろう。とにかく、えびの市からこれ以上広げない。畜産農家を守っていこうと、いうことだったと思います。」司会「キーマンになっているのは、行政、もしくは、JA、どちらですか。」白井「JAですね。」司会「組織づくりをして、」白井「はい、それで、なんですけど、最終的にそういう取り組みを指揮するのは、行政の方ですね。はい。」司会「さあ、こうやって口蹄疫から1年見てきましたけれども、今、東アジアでは口蹄疫が蔓延している中で、この九州の畜産、いわば地域の宝物だと思うんですが、どのような姿勢で守っていくべきか、白井さんはどうお考えですか?白井「エーとですね、まず、水際ですね。どのくらい流行しているかということを、まず危険であるということを伝えると、水際で押さえると、同時にですね、やはり、九州全体でですね、畜産は本当に宝なわけですから、そこをですね、みんな、畜産農家、そうじゃない人、にかかわらずですね、あの、取り組んでいこうと。とにかく、みんなで、敵は口蹄疫なんだと、それで出た農家というのは、みんなと一緒になって守ってあげようと、被害者であると、そういう認識の下にですね。この大事な九州の畜産、いろんな、そのおいしい肉牛とか、みんな銘柄ありますんで、それを守っていこうと、いう姿勢が僕は大事だと、いうふに思います。」司会「まず、水際で、まず口蹄疫を対策して、皆さんの意識づくりも、併せてやっていく、ということですね。どうもありがとうございました。東京農工大学教授の白井淳資さんとともにお話ししました。今日は、この辺で失礼します。」


【文責/解説】三谷克之輔 口蹄疫発生時、宮崎県知事は「疑似患畜が確認された」と報告している。口蹄疫ウイルスの感染を遺伝子検査で確認しての重要会見なのに、感染している可能性がある家畜(疑似患畜)が確認されたとは、科学的にも日本語としてもおかしなことだ。患畜では補償金が少ないからこう言ったのだそうだが、それなら患畜の補償金を、早く変更しておくべきだった。科学より政治を優先してそのままにするおかしな世界が、日本の家畜衛生の伝統らしい。この報道番組は、口蹄疫発生確認から1年という節目に製作されたが、素朴な疑問である「ワクチン接種をして、なぜ殺処分するの?」という視点がない。この素朴な視点から、この報道で明らかにされた問題点については、次回から検証していくことにする。 それにしても、国の口蹄疫対策の指揮を執る動物衛生課の川島課長は、ワクチン接種が遅れた理由として、「ワクチンを接種して殺処分するための、手当金が準備されていなかった」と説明している。いつ、誰が、どこで、殺処分を前提にしたワクチン接種を決めたのか?この報道番組では、誰もそのことを指摘しない。2001年、イギリスの口蹄疫大惨事から、ワクチン接種で感染拡大を阻止するのが世界の流れとなったと紹介しながら、日本でなぜ、ワクチン接種をして殺処分したのか、根本の問題が問われていない。日本の専門家たちは、殺処分を前提にした日本の口蹄疫対策の問題点についてはタブーのように触れない。素朴な疑問を追求しないで、報道まで国の対策の問題点をタブー視してどうする! 農家は専門家の説明を理不尽とは思いつつ、そこにウソがあるとは思わないのであろう。なぜワクチンを早く打たなかったのかと問わないで、ワクチン接種後の殺処分は国のためにやむを得ないと断腸の思いで承認したのに、なぜその措置が遅れたのかを追求している。感染拡大中は行政の措置に苛立ったであろうが、今は復興に行政の力が必要だ。いつまでも行政の責任を追及する余裕もメリットもない。市民もおかしいと思いつつ、嘘の情報の中で、「ワクチンを打ったら汚染国になって大変なのだろう」と納得する。こうして、殺処分を前提にした日本の口蹄疫防疫指針は、見直しがされないまま生き続けている。 日本の関係者から口蹄疫対策について取材しても真実は明らかにされない。NHKの報道の使命は、世界の最新の口蹄疫対策と技術革新について取材し、その真実を国民に知らせることではなかろうか。



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初稿 2013年2月16日

 動画追加 2020年7月7日

「ワクチン接種したら、殺処分しかない」という非情な虚構

2013-02-11 13:10:23 | ワクチン

「ワクチン接種して殺処分」、なぜ?
誰もが思う素朴な疑問を、NHKのドラマ「命のあしあと」は次のように表現してくれました。

役場「ワクチンを打った牛は、肉牛としては出荷できんとですよ。」
修平「それはどういうことですか!ワクチン打つとでしょう!」
・・・
遥花「そんなのおかしいて!そしたら、これが人間やったらどうなるの?みんなにうつさないために、かかった人を殺すの?」

これはドラマですが、役場は農家に、このような説明をしていたのでしょう。
宮崎県知事の非常事態宣言(2010年5月18日)を報道したANN NEWSにおいても、「ワクチンはウイルスの拡散防止につながる反面、接種した牛や豚は、最終的に殺処分につながる」と説明しています。ウルグアイや台湾は予防ワクチンをしていますから、ワクチン接種が殺処分につながることはありません。なぜ、このような説明がなされたのでしょうか?
 ここでは口蹄疫の専門家(村上氏)が、NHKの報道番組「追跡!A to Z  口蹄疫“感染拡大”の衝撃」で、質問に答えている説明の内容を検討して見ましょう。なお、番組での発言はすでに忠実に書き起こしていますので、ここではできるだけ簡潔に、表現させていただきます。

1.感染が拡大した理由

司会「村上さん、10年前にも口蹄疫が発生しましたが、その時と比べて今回は被害が格段に大きい。これはどうしてなんでしょうか?」
村上「前回のウイルスもOタイプで同じですが、遺伝学的には少し違っている。広がりを見ると、感染力が強いというふうに思える節もある。」
司会「前より、感染力が強いのではないか、ということですね」
村上「はい、それから、口蹄疫に感染した牛は、少しのウイルスで感染して、症状をはっきり見えるということから、感知器と呼ばれています。豚は、少し量はいるけれど(牛より感染するウイルス量が多く必要だが)、いったん感染すると大量のウイルスを放出する(豚は増幅器の図)。しかも発病する前から出している。前回は、その豚に感染しなかった。」
司会「前回は、牛だけだったということですね。」
村上「はい、今回は豚に感染している。それから、前回に比べて今回は、畜産農家の多い地域に発生しているということが、あげられるかも知れませんですね。」
司会「その、多い地域だと、集中しているわけですから、これは広がりやすい。」
村上「はい、広がりやすい、ということになりますね。」
司会「まあ、そういう理由が考えられるということですか。」
村上「はい。」

まず、今回のウイルスが、「広がりを見ると、感染力が強い」という見解ですが、村上氏は表現を曖昧にしています。これは、畜産農家が集中している地域で感染が広がり、ウイルスが異常に増殖したことが原因で感染力が強くなったのであり、ウイルスの感染力が強いから感染が広がったことを、必ずしも意味していません。この畜産農家が多いことが感染拡大の明らかな原因ですが、これについては「(原因に)あげられるかも知れませんですね」と曖昧な表現をしています。牛より感染しにくい、感染には多くのウイルスが必要な豚に口蹄疫が発生したことからも、畜産農家が集中して、ウイルスが異常に増殖したことは明らかです。しかし、村上氏の曖昧な表現を、司会者が明確に伝えるために言い直して、「前より、感染力が強い」という印象を強く与える結果となっています。
 口蹄疫の感染に関する詳細な解説は、口蹄疫の伝染時期と防疫対策を参考にしていただくことにして、このような話法の問題点は他にも多くありますが、ここではワクチンの問題に焦点を合わせて説明することにします。

10kmの範囲内、全頭殺処分の理由

司会「それにしても、10kmの範囲内については、全頭処分という対策なんですが、これどうなんでしょう、この大規模な対策、農家の人の気持ちも分かるんですけど、これ、やっぱりやむを得ないということなんでしょうか?」
村上「はい、はい、どうしても。この病気は、ワクチンをとりましても完全に感染を防ぐことはできないであるとか、そして、生きた細胞で増殖するウイルスだものですから、動物が生きていれば、そこでどんどん増殖してウイルスの濃度が高まるということがありますので、清浄国で、この病気がない国で発生した場合には殺処分するというのが、一つの国際的なルールになっている。」
司会「国際的なルールということですか。」
村上「はい。」
司会「そうしますと今回のこの措置というのは、まあ言ってみれば、そういう国際的なルールに則って、ということですか。」
村上「はい、そうですねしかも最短コースで、早く元の口蹄疫がない国に復帰するということを目指していると思いますね。」

村上氏は、ワクチン接種をした家畜は、どうしても殺処分する必要があるとし、その理由として、1) ワクチンは完全に感染を防ぐことができない、2) 動物が生きているとウイルスが増殖して濃度が高まる、3) 清浄国で口蹄疫が発生した場合は殺処分が、一つの国際的なルールだと説明しています。その理由を司会者が確認するために、「今回の措置は、国際的なルールに則っているということですか。」と確認すると、「はい、そうです」と肯定し、しかも4) 最短コースで清浄国に復帰することを目指している」と追加しています。

村上氏の説明を解説すると、「ワクチン接種では感染した家畜が残り、それが感染を拡大するので、ワクチン接種した家畜は安全のために、全頭殺処分をする」ということなのでしょう。しかし、感染した家畜はNSP抗体検査で確認できますから、検査をして感染した家畜を殺処分すれば感染が広がることはありません。日本のようにワクチン接種した家畜を全頭殺処分した場合は、清浄国に3ヵ月で復帰できます。一方、NSP抗体検査によって感染した家畜を殺処分した場合は復帰に6ヵ月が必要です。最短コースで清浄国に復帰することを目指すというのは、ワクチンを使った場合に、全頭殺処分することを目指すということです。清浄国復帰を3ヵ月早めるために、健康な家畜を全頭殺処分するのは、やむを得ないことでしょうか。司会者は「10km圏内の全頭殺処分はやむを得ないのか」と確認しているのです。これに「はい、そうです」と答えるのは、ペテンではないですか!村上氏の話法は嘘に気づかせない非情な虚構と言えるでしょう。しかも、実際には清浄国復帰に6ヵ月必要でした。農家はお国のためと、理不尽な殺処分に従うしかありませんでした。これは農家を騙し、裏切った国の犯罪的な防疫措置ではないでしょうか。
 この「ワクチン接種したら、殺処分しかない」という非情な虚構を、理不尽だと思いつつ、ほとんどの関係者が信じたことこそが、口蹄疫を大惨事にした根本原因だと思います。
 

10~20km圏内早期出荷、なぜ進まない

司会「藤原さん、空白地帯、農家の人は緩衝地帯とも言っていますが、この方針は決まったけど、実際にはこの早期出荷は、うまくいっていないようですね。」
藤原「はい、まず、ここで早期出荷される牛や豚は、そもそも感染も、感染の疑いもないんです。けれども、この地域の家畜たちは、万が一にもウイルスを外へ広げないためにも、20kmより先に生きたまま持ち出すことはできません。牛の処理場がないという問題については、国は現在閉鎖されている10km圏内の処理場を、特例で再開して対応しようとしていますが、ここでも牛は1日に60頭程度しか加工できません。農林水産省では、このままでは全てを加工するのに、8ヵ月以上かかる可能性もあるとしています。
・・・・・
司会「村上さん、この対策ですね。これどのようにご覧になりますか?」
村上「食肉処理場が少ないということで、なかなか進まない、大変苦労をなさっていると思います。その背景には、統廃合だとかも、あるかもしれませんね。」
司会「処理場の統廃合とか?」
村上「はい、ただ、感染の拡大を防ぐ緩衝域を作るという意味は、大変良いことだと思う。あまり例のない方策ではあるが、うまく感染を防いで、むつかしいかもしれませんが、早く出荷が進むことを期待致します。」
・・・・・・
司会「村上さん、山田副大臣は感染拡大に対して、きわめて強い危機感を持っていますが、この点は、どのようにお考えですか?」
村上「はい、宮崎では、大変厳しい情勢が続いていると思います。ワクチンで感染拡大を防ぐという方策も打たれました。もうしばらくしないと、まだ効いてこないかもしれませんけども、まだまだ依然として厳しい情勢が続いてると、いうふうに思います。」
司会「やっぱり安心するわけには、決していかないということですね。もう一つ、20km圏内の早期出荷についてなんですけれども、豚については急ぐ、というふうに言っているんですけど、牛についてはですね、これなかなか追いつかないですね、難しいという認識だったんですが、これについては、どのようにお考えですか?」
村上「あのー、豚の方から早期に出荷するというのは、先ほど申し上げましたように、ウイルスを大変たくさん放出する動物ですので、大事なことだと思いますね。だが、牛については、なかなか、食肉処理場の不足であるとか、現実上、皆様方が大変苦労なさっていると思います。が、なんとか早く、緩衝地域を作って拡大防止をするという方策が、うまく機能することを祈っております。
司会「ですから、牛についても、対策はとっていかねばいけないということですね。」

10km圏内の全頭殺処分・埋却に加えて、10~20km圏内は早期出荷して肉用にと殺するという防疫措置は、ワクチンの使い方と現場を知らない「専門家」達によって作成されたのでしょう。食肉処理場が少ないのは計画の段階で分かっていたはずですし、食肉処理場の統廃合で少なくなったというレベルの話ではありません。物理的に実現不可能な防疫措置を、「大変良いことだ、早く出荷が進むことを期待する」と夢遊病者のような発言をし、その一方では、「ワクチンで感染拡大を防ぐという方策も打たれた」としています。それなら、どうして早期出荷ではなく、ワクチン接種をしなかったのでしょう。そもそも搬出制限区域の家畜を早期出荷すること自体に、今回の防疫方針に矛盾があることを示しています。このような地域は欧米では監視区域とされて、必要ならリングワクチンを接種して緩衝地帯とします。リングワクチンは日本のように殺処分しません。この程度の知識で防疫対策が決められ、農家の宝である家畜を安易に殺すシステムそのものの責任が問われます。犠牲は豚の一部に出たのかと思っていましたら、 牛も殺されたようです。本当に国は理不尽で惨いことを安易に実施するものです。

“感染拡大” どう防ぐ?

日本だけでなくて、アジアでも蔓延している口蹄疫をどう防いでいくのか、という司会者の質問に対して、村上氏は「結論から申し上げますと、危機意識を持つことが大事だ」と答えています。そして、「初期の対応の問題点があれば、もしあればそれを見直す」とも発言しています。
危機意識を持たねばならないのは、口蹄疫対策の権限を持つ「専門家」達です。しかも、初期の対応に問題があったことは自明なことです。司会者は「なぜ、今回、感染拡大を防ぐことができなかったのか。システムの問題も含めて検証することも、今後、求められているのです。」と、番組を閉じています。口蹄疫発生から1年、この口蹄疫の惨事の問題点を追及した「特報フロンティア なぜ”SOS”はとどかなかったのか」が放送されました。次回は、この報道番組を録画をもとに書き起こして、問題点を検証して見ましょう。

初稿 2013年2月11日