自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

宮崎口蹄疫事件から5年~誰も責任をとらない中空構造⑦

2015-04-20 11:58:51 | 中空構造
 口蹄疫対策検証委員会の委員であった郷原信郎弁護士は、衆議院農林水産委員会(2010年12月8日)に参考人として出席し、宮崎口蹄疫の「徹底した殺処分」は、「家畜の健康」を守るためなのか、あるいは「人の健康」に影響が生じるからか、そうではなくて、清浄国という一つの評価を維持することの経済的なメリットが重要なのか、関係者で問題の本質の認識が一致していないことを指摘しています。(このことは我が国の口蹄疫対策と海外専門家の評価(2010.12.13)でも指摘しています。)

 この認識の不一致は多数決で決められる問題ではありません。まず、ワクチン接種して殺処分したことは口蹄疫の発生源を隠蔽するために実施した国と県の犯罪であり、欧州家畜協会からの緊急声明「生かすための緊急ワクチン接種を!」を無視した最低最悪で、あってはならない言語道断の防疫措置です。次に口蹄疫は人の健康には被害を与えませんから殺処分の理由からは除外できます。また、感染防止のために殺処分することは、規模拡大が進んだ今日の経営では時間が掛かり、感染阻止はできないで被害を大きくするだけなので、これも、「家畜の健康」を守る理由からは削除できます。さらに家畜用のワクチンは人間用よりも感染阻止の効果は大きいので、ワクチンバンクを使用できる今日、殺処分を少なくするためにワクチンを速やかに使わない理由はありません。

 次に口蹄疫清浄国への復帰を急ぐ経済的なメリットについて検討してみましょう。
 2010. 4.30 香港への牛肉輸出再開
 2010. 5.11 マカオへの牛肉輸出再開
 2010. 6.30 ワクチン接種畜の殺処分・埋却終了
 2010. 7.27 全ての移動制限解除
 2010. 9.22 清浄性確認終了
 2010.10.16 OIE清浄国復帰申請
 2010.11.12 シンガポールへの牛肉輸出再開
 2011. 2. 5 OIE清浄国復帰認定
 2012. 4.25 カナダへ牛肉輸出再開
 2012. 8.18 アメリカへ牛肉輸出再開

 OIEコードでは、清浄国で口蹄疫が発生した場合の清浄国復帰の条件として、(a)感染・疑似患畜をすべて殺処分した後3ヶ月、(b)感染・疑似患畜とワクチン接種家畜をすべて殺処分した後3ヶ月、(c)感染・疑似患畜とNSP抗体陽性家畜をすべて殺処分した後6ヶ月という3つの選択肢を示しています。今回の宮崎口蹄疫では(b)を選択したことになりますが、6月30日から3ヶ月後が清浄国復帰の条件になります。なぜ、清浄国復帰の申請が10月16日と遅かったのでしょうか。清浄国復帰を急ぐならば何故、7月27日の移動制限解除までに清浄性の確認を終了しなかったのでしょうか。しかも口蹄疫清浄ステータス回復と輸出再開でも山内一也先生が指摘されたように「OIEによる清浄国復帰が認められても、国際貿易では世界貿易機関(WTO)のSPS協定(衛生と植物防疫のための措置)にもとづいて、輸出相手国と個別に協議して清浄性を認めてもらわなければなりません。」

 香港、マカオ、シンガポールには、OIEが清浄国復帰を認定する前に輸出を再会していますが、アメリカはOIEの清浄国認定後輸出再開まで1年半も必要でした。すなわちOIE認定条件の(b)と(c)の差は3ヶ月しかありませんので、ワクチン接種して全殺処分をしてOIE清浄国復帰を急ぐ効果は認められていません。ましてや輸出依存国ではない我が国が予防的殺処分で2000億円以上の被害を出してまで、清浄国認定を早く回復する経済的なメリットは全くありません。
 
 家畜の命を救いたいという庶民の声を政府は聞かないでしょうから、貿易に有利なルールとして「遺伝子検査陰性、抗体検査陰性、ワクチン接種否定」の3条件を証明できれば輸出できるようにOIEコードを改正したらいかがでしょうか。アメリカは大量輸出していますから反対するでしょうが、この方法で口蹄疫発生中でも輸出はでき、貿易を防疫より優先させる馬鹿げた理由はなくなります。BSEの全頭検査よりも容易なこの方法を日本のブランドにすれば、OIEコードに採用されなくても日本の牛肉ブランドの信頼を高めることにもなるでしょう。ワクチン接種したら感染源を隠すことになるのではなく、ワクチン接種して殺処分をしたら感染源を隠すことになると思いますが、こんな論争はもうしたくありません。視点により同じ言葉でも180度意味が違ってきます。積極的平和主義を強調すると敵と想定されて警戒する相手を積極的に増やすだけです。世界の正義だと過信して世界に敵を多く作ってきたアメリカに従属して戦うことは、憲法を改正して日本人の命と信頼が奪われることになると心配していますので、これからはそちらのつぶやきを続けさせていただきます。

「宮崎口蹄疫事件」から5年を意識して下記の「誰も責任を取らない中空構造」シリーズを投稿しておきました。また、畜産システム研究会報にも論文を投稿しています。このブログの移転に伴う更新が必要なブログの箇所や文字化けの箇所はゆっくり訂正させていただきます。

猛威を振う鳥インフルエンザ、そして口蹄疫~誰も責任を取らない中空構造①
国・県の水牛農場冤罪事件を許すな!~誰も責任を取らない中空構造②
備蓄ワクチンと国費の無駄遣い~誰も責任を取らない中空構造③
病性鑑定資料のねつ造と国・県の共同謀議~誰も責任を取らない中空構造④
世間と社会~誰も責任を取らない中空構造⑤
「武士道」と「茶の本」 ~誰も責任を取らない中空構造⑥

畜産システム研究会報
口蹄疫の被害最小化対策を考える.畜産システム研究会報第34号,11-45.(2011.2) 引用文献
口蹄疫被害最小化のためのマネジメント -遺伝子検査とワクチン接種- 畜産システム研究会報第35号,39-63.(2011.12) 引用文献 16. Charleston Online Material

初稿 2015.4.20 2015.4.21 更新









「武士道」と「茶の本」~誰も責任を取らない中空構造⑥

2015-02-24 18:00:29 | 中空構造
 新渡戸稲造「武士道」は、新渡戸稲造をよく知らなくても「サムライ」の国・日本として世界に知られ、今の日本でも、生きる規範かのように受け入れられているところがある。岡倉天心「茶の本」は、横山大観の師匠として岡倉天心という名は知られていても、「茶の本」 のことはあまり知られていない。手のひらに収まるこの小さな本が、私の求めてきた「自然とデザイン」の全てを教えてくれているだけでなく、日本人の心の世界が広く深いことを見事に物語っている。「茶の本」を古希を経て知り、世界がつ一つにながって見えてくることを喜び、岡倉天心が日本にいてくれたこと、そして出会えたことに感謝している。

 『茶の本』『武士道』は明治時代にアメリカで英語で出版されていて、原著まで遡るには「神谷武夫とインドの建築」が勉強になる。この中に「東大の常識は世間の非常識」という一文があるが、僭越ながら私なら「東大の常識は世界と社会の非常識」としたい思いに駆られる。
 社会は憲法によって守られているが、支配者意識の強い人ほど憲法を無視する。今日では国民が主君で公務員はそれに忠義を尽くすのが「武士道」であるはずだが、世間に「武士道」を美化させる一方、自分は権力にあぐらをかく無教養さと下品さが目に余る。「世間と社会」の関係からついつい「世間」に疑問符をつけ、「まあ大将、ゴルフの時間があるなら一服して『茶の本』の深い味を知ろうよ」と言いたくなる。

 ここでは「茶の本」をこれから学ぶ私自身のメモ帳として記しているが、「茶の本」のことを調べれば調べるほどいろんな人、いろんな世界に出会えて勉強する喜びに今、溢れている。このメモは岩波文庫「岡倉覚三著 村岡博訳 茶の本」とその英語版「The Book of Tea(IBCパブリッシング)」、そして「茶の本」のことを私に教えてくれたNHK「100分de名著」の解説者大久保喬樹先生の新訳版(角川文庫)を手元に、ネットで検索して知ったことを加えてまとめている。
 まずは青空文庫の「岡倉覚三 村岡博訳 茶の本」の目次に英語版名、現代語訳兼解説版の大久保喬樹先生の目次を加えて示しておく。

Chapter 1: The Cup of Humanity 人情の碗
第1章 茶碗にあふれる人間性
    さまざまな文化が凝縮された茶
    東洋と西洋は互いに誤解をとかねばならない
    西洋はどのように茶を受け入れてきたか
    一杯の茶を - 荒廃した現代世界の再生を待ちながら
Chapter 2: The Schools of Tea 茶の諸流
第2章 茶の流派
    茶の三段階 - 団茶、抹茶、煎茶
    茶経 - 文化としての茶の誕生
    日本において茶は完成される
Chapter 3: Taoism and Zennism 道教と禅道
第3章 道教と禅
    茶は道教を根底とする
    絶対は相対にほかならない
    道教から禅へ
Chapter 4: The Tea-Room 茶室
第4章 茶室
    異端の建築
    茶室は禅の精神の結晶である
    好き家 - 好みの家
Chapter 5: ArtAppreciation 芸術鑑賞
第5章 芸術鑑賞
    琴には琴の歌を歌わせよ
    謙譲の心で芸術を鑑賞する
    芸術への敬意
    鑑賞者の器量
    現代芸術の意義
Chapter 6: Flowers 花
第6章 花 
    花への哀歌
    花をいつくしむ
    花をいけるとは
    華道の歴史
    茶と花
Chapter 7: Tea-Masters 茶の宗師
第7章 茶人たち
    茶人がもたらしたもの
    茶人の死

 各章についてはこれから勉強し、「自然とデザイン」あるいは「理性と感性」との関係で私なりに教えられたことを書き続けていきたい。
 なお、天心は覚三の本名を日本でもアメリカでも使っていたが、神谷武夫氏の『茶の本』の紹介によると、『岡倉天心 人と思想』(橋川文三編、1982)の中に、「釈天心」の戒名を提案した彫刻家平櫛田中先生の文があり、「岡倉本人は『天心』の名を 正式には用いなかったけれど、弟子や家族の間では 親しまれていたのでしょう」とある。
 また、昭和36年4月の岩波文庫の改訂版では英文学者福原麟太郎先生の解説が末尾を飾っている。彫刻家平櫛田中も英文学者福原麟太郎もわが郷里が誇る数少ない偉人であるが、岡倉天心との関係で出会えたことは驚きであり、誇りもいや増す思いがする。


世間と社会~誰も責任を取らない中空構造⑤

2015-02-16 15:39:19 | 中空構造
 国・県の口蹄疫防疫に関する犯罪によって、30万頭の家畜を殺され、その埋却によって環境を破壊され、地域の生活も犠牲にし、2千億円以上の償いようのない補償に本来は使う必要がなかった税金の無駄遣いをされた。しかもその犯罪的な口蹄疫防疫指針遺伝子検査やワクチン接種等の科学技術の進歩を取り入れようとせず、今も国・県は頑としてこれを変えようとしていない。しかし、これに異議申し立てする声は大きくはならない。

 今流行りとなった家畜の福祉を専門とする学者からも「家畜を虐待するな」と異議申し立ては一切聞こえない。口蹄疫に関係すると思われる獣医や畜産の分野の学者も官僚も地方公務員も100年に2度の発生で、2度とも真実が隠蔽されているために現実を知らないからか、ワクチンを使わないで予防的殺処分を行ったことに疑問を持てない程、現場に無知無関心なのか、それとも畜産を守るよりも「自分には関係ない」と、この災難が自分に降り注がないようにじっと身を守っているのであろうか。

 一部の強欲な利益の追究により、国益も真実も科学も粉々にされている。「天空は富と権力を求める巨大な闘争によって粉々にされている。世は利己、俗悪の闇に迷い、知識は心にやましいことをして得られ、仁は実利のために行われる。」(岡倉天心)(一部、「茶の本」,岩波文庫より引用)

 人と人が顔の見える関係でつながり、その中の有力者が他者を支配するのを世間とすれば、人が人を尊重し、憲法のもとに人を守るのが社会だと思う。本来は世間に規範はなく、私たちが生きていく規範は憲法が与えてくれる。誰も責任を取らない中空構造の日本で憲法が日常は見えないのは、憲法は個人の自由を束縛するものではなく自分を守ってくれているから。その自覚があれば憲法は見えてくる。自律した個人により社会は成立するが、自我を強めた個人では社会は守れない。人と人の関係の中では強者が生まれ、強者に従わねば自分の立場が失われると思うとき、その空気を読み従うのは弱い人間の性である。人間の弱さを責めるより周囲をカメレオンにさせる貪欲な強者の支配行為の追求が必要である。

 大地を一所懸命に守り生きる武士の鎌倉時代に、仏教は貴族の世界から大地に生きる民衆に伝わったとされている。武士の暴力が世間を支配することで、民衆は恐れ、あきらめ、そして仏とともに生きることを生きがいにしたのではなかろうか。その武力により民を支配する時代は戦前まで続いた。明治維新は我が国を文明開化させた素晴らしい功績と教えられるけれど、明治憲法(帝国憲法)発布の1889年2月11日からわずか66年(現在は戦後70年)でお国のためと言いながら、他国を侵略し、沖縄を犠牲にし、おびただしい人命と都市を失い破壊しつくして敗戦に至った。戦後の日本国憲法のもとで軍備に金を使わず、敵を作らず、産業の成長にひたすら邁進し、平和を守ってきたことを忘れてはいけない。

 帝国憲法
 発布;1889年2月11日・・・現在は建国記念日
 施行;1890年11月29日

 日本国憲法
 発布;1946年11月3日・・・現在は文化の日で,明治天皇の誕生日
 施行;1947年5月3日・・・現在は憲法記念日

 人の命は地球より重い。テロであれ戦争であれ、人の命を奪う行為を放棄すべきは人間として当然の責務。日本国憲法は戦争放棄を宣言した人類の宝。その宝を磨かずに修正させたのは、朝鮮戦争(1950年~1953年)を契機にしたアメリカである。歴史的事実を無視して、憲法はアメリカに押し付けられたと自主憲法の制定を強調する一方で、敵の多いアメリカ、しかも力が弱まりつつあるアメリカと行動をともにしようと、憲法改正を踏み絵にして議員の立候補を認めている政党があるとすれば、どのような議員を育てようとしているのか恐ろしいことだ。国民の命を守り世界の平和に貢献するという「積極的平和主義」も口蹄疫の感染拡大を防ぐという「予防的殺処分」も、かえって被害を拡大させるまやかしの同根異語、聞きなれない正義ぶった言葉や行動には注意が必要だ。

 例えば、「イスラム国」のテロ行為を非難する決議の採択を棄権した山本太郎議員が非難されている。しかし、非難されるべきは日本人を救おうとしなかった政府であり、テロとの戦いを公言することで敵を作り日本人を危険にさらしている政府であり、「イスラム国」のテロ行為を集団的自衛権などの自衛の根拠に利用しようとしている政府である。

 世界が敵味方で戦った帝国主義の時代、「お茶でも一服して、しばらくの間はかないものを夢み、『美しくも愚かしいこと』に思いをめぐらせよう」と岡倉天心は言った。山本太郎議員の棄権、斉藤隆夫議員の演説、そして千利休の最期の茶の湯は、私にとって「美しくも愚かしいこと」、これを非難するは「醜くも小賢しいこと」と思える。

 「イスラム国」は国ではないので、そう呼ばないとNHKは決めたそうだ。アメリカも日本も国と認められている。そして国による戦争という殺人は認められ、テロによる殺人は国の戦争の口実にされる。しかも、アメリカの発言として聞こえてくるのは、利害が一致して発言力を強めた議員関係者からの個人的発言である点では日本の世間と同じこと。大統領さえ暗殺するアメリカが世界で戦争を起こしている裏にはアメリカの軍産複合体があり、その代弁者の議員がいる。その人と人のつながりが日本の外務省ともつながった。国同士の話し合いのように見えて、その裏には私的な利益を強欲に追求する人々がいる。

 選挙に敗れてテロで日本を支配しようとしたオウム真理教には「農水省」はなかった。オウムのテロが物質的な豊かさが生んだ「こころの飢餓」だとすると、イスラエル国のテロはアメリカの支配が生んだ「命の飢餓」のような気がする。安倍首相は「日本の農業を改革する!」と声高に叫ぶ一方で里山資本主義に憎しみを隠さない。TPPを受入れて邪魔な農業をつぶし、まさか農水省を「食料輸入省」に改名するのではなかろうか。だとすれば、これは地方の生活に対する国のテロだ。

 戦後、アメリカの余剰農産物で推進してきた輸入飼料に依存した日本の畜産も、飼料を日本に輸入するシステムとしてのメリットは消えてきた。獣医も軍馬から家畜を経て今ではペットが需要を支えてくれる。学者も公務員もカメレオンのように容易に変身して生き延びる。空気に染まって目立たず、自分には関係ないこととして、「見ざる言わざる聞かざる」の処世訓が世間の生き方なのかもしれないが、・・・・。

 今、我々を守るために具体的に出来ることは、生き方は違っていても皆で協力して、自分たちを守ってくれている憲法を守ることしかない。若い人たちに憲法の価値を伝えるしかない。憲法を守る1票を増やす行動は、誰もが憲法の価値を知ることから始まる。さあ、お茶で一服して「美しくも愚かしいこと」の深い味わいを楽しもう。



病性鑑定資料のねつ造と国・県の共同謀議~誰も責任を取らない中空構造④

2015-02-09 19:09:06 | 中空構造
 農水省は情報開示請求に対して黒塗りの資料しか開示していないが、個人情報には関係ないと思われる「口蹄疫陰性の判定」資料までも隠蔽・ねつ造している。

 宮崎で口蹄疫が発生した期間(2010年4月〜11月)の口蹄疫陰性判定に関する文書の情報開示請求に対して、平成21年9月の豚の資料(第21090904号)が開示されている。先頭に不自然なデータを入れるのは農水省流のやり方なのであろうか、動物衛生研究所報告(p.35 口蹄疫を疑う病性鑑定の一覧)にも同様の手口が認められる。
 図をクリックすると拡大します。
 この表のNo.1で4/118 23:30に98頭の肉繁農場(資料では黒塗り)から同居牛に異常を認めないのに1頭のみの口蹄疫を疑って、緊急に夜中の検査を受付けている。宮崎県から公式の検査依頼の検体が持ち込まれる前日である宮崎県では複数の農場で複数の牛に異常の届出があったにも関わらず検査を受け付けていなかったはずなのに、突然不思議な現象が起きたものだ。この病性鑑定はどこの県からの依頼なのか。宮崎県の口蹄疫発生を非公式に国・県で確認するための検査ではなかったのか。今回の口蹄疫防疫対策は随所で国と県が隠蔽の謀議をし、病性鑑定資料までねつ造している

 国と宮崎県が公表している病性鑑定No.は大きく異なっている。宮崎県は口蹄疫検査陽性のもののみを公表し陰性のものは欠番(作成した下表では赤字で示している)としているので、この欠番のものを情報開示請求で提出された資料の飼養頭数と、動物衛生研究所報告(p.35 口蹄疫を疑う病性鑑定の一覧)を照合して埋める作業をした。しかし、資料No.22043005は「鑑定材料及び添付調査については差し替え依頼中」とあり、受理時刻9:05、現地調査9:25と不自然である。また、資料No.22043006も手書きで、届出9:38、現地調査10:55と時刻が不自然であり、飼養頭数281頭は、動物衛生研究所報告(p.35 口蹄疫を疑う病性鑑定の一覧)にはない。デタラメの作業を強制された誠実な職員の反乱の印なのであろうか。

口蹄疫の発生は委員会で確認後に農水大臣が発表する重要事項だと思っていたが、担当官僚で処理した後に委員会が開催されている。しかも、「感染経路追究チーム」を「疫学調査チーム」に訂正している。

 ここでは国の口蹄疫病性鑑定に関する資料に、宮崎県報告「疫学調査の中間とりまとめ」資料7(感染順の図)、さらに水牛農場(6例目)口蹄疫検査結果を加えて下表を作成し、国、県の口蹄疫発生に関する報告の矛盾を指摘したい。

   国・県の口蹄疫病性鑑定(No.1~No.27)(クリックしてください)
 口蹄疫病性鑑定は県が国に連絡して、検体を動物衛生研究所・海外病研究施設(小平市)まで職員が空路持ち込んでいる。このことは口蹄疫鑑定陰性であったNo.9に明示されている。
 ここでは国の鑑定結果は陰性を含むのでNo.で、県の公表は陽性のみなので○○例で示すことにする。

 口蹄疫発生の公表順は1例目6例目を除く2例目から7例目までは半径200mの近い位置にあり、8例目9例目は7例目の関連農場で、10例目の豚に感染した時にはこの地域にはかなりウイルスが蔓延していたと考えられる。

 また、口蹄疫発生が公表された4月20日以降に届け出たのも、公表順に、2例目:共済獣医(所長)3例目:地区獣医支部長4例目:共済獣医5例目:町役場からの届出で、いずれも県とつながりが深い。ことに2例目の獣医は19日に届け出ているにも関わらず、県は検査の結果が20日に出るまで待てと届出を受理しなかったので、大臣記者会見の前の早朝に届け出ている。これでは県は感染源と感染経路を早く把握する義務より公表の準備と感染源の隠蔽を優先し、10例目までの疫学調査はできないのではなく、しないのであり、1例目と6例目は感染源にするために利用されたと考えられても仕方がない。

 2例目は7例目の道路向かいで一番近い公表された7例目の現地調査表には、「4月24日9時、届出者:農場の専属獣医師より、口蹄疫様症状を示す牛がいると通報」とあるが、発生農場の欄には2例目の疫学関連(飼料運搬)ともある。しかも、この公表された現地調査表には、別の2通の現地調査表があり、「届出者: ○○主査(都城家保) 疫学調査■ 農場の餌関係)」と2例目との疫学関係で立入調査をしたことは明記されている。7例目が2例目の疫学関連農場なら、県は何故24日まで放置していたのか。また、3例目の届けでは20日10時で2例目より2時間遅かっただけで、立ち入り調査も13時にはしている。なぜ検体受付は1日も遅れたのであろうか。すでに口蹄疫発生は把握していたので、7例目が初発農場であることを隠蔽し、県と関係が深い届出を優先させ、国への検体送付も操作した疑いがある

 7例目(大型農場)は感染の疑いを届けなかっただけでなく、近所の農家は感染源であることに確信を持ち、内部告発もあり、口蹄疫感染を隠蔽したことは確実である。普通なら川南町の感染経路は重点的に疫学調査するのが常識であるが、人里離れた水牛農場を国の責任である疫学調査では「来訪者が海外からウイルスを侵入させた可能性がある」として強引に初発農場とし、川南町の感染経路については不問にした

 初発農場とされた獣医師の記録p.14を下表に抜き出した。
図をクリックすると拡大します。
 6例目は早くより検査依頼をし、3月31日、4月14日、4月22日と検体採取し、殺処分した4月25日には豚の検体も採取している。このうち4月22日に3月31日と4月22日の検体について病性鑑定している。しかし、4月14日の検体が陽性であったことは農場主には知らされているが、どこにも公表されていない。だが、病性鑑定資料はあるはずだ。また、豚2頭については陰性であったので公表されていない。そこで情報開示請求資料で調べたら、4月29日に現地で開催された第1回疫学調査チーム検討会の翌日に、一挙に9農場の病性鑑定、を受付(資料整理のための表)、豚2頭の検査もされていた

 7例目は4月24日に2例目に関係した疫学調査として立入検査をしているが、2例目が陽性と判定されたのは4月20日であるので、21日には立入検査をしないとおかしい。県側も検査の遅れに手を貸している。しかも、8例目以降の届出は4月27日からであり、県と国が病性鑑定を調整している。これらのことは疫学調査は県と国の共同謀議のもとになされた証拠となろう。

 3例目の地区獣医支部長は水牛農場が初発農場の可能性が高いと地元議員がよく出るテレビにわざわざ出演して嘘の証言をした。川南町役場は発生農場を全て把握しながら、口蹄疫発生で不安な農家や町民に知らせなかった。これらを独自の考えで行ったとは考えられない。地元議員は延岡の今山大師祭(2010年4月16日~18日)に参加し、4月20日早朝の便で上京の予定を変えた。7例目の大型農場の責任者(○○専務)も17日には宮崎入りしている。この大型農場の宮崎への誘致に熱心であったのは故江藤隆美議員であり県内の飼料関係者とのつながりも強かった。その後継者である江藤拓議員が地元から口蹄疫について相談されていないはずがない。国、県、町の関係をつなぐ議員として何を打ち合わせたのであろうか。

 2010年12月8日、衆議院農林水産委員会 が開催され、宮崎県で発生した口蹄疫について、発生前後からの国や県の対応に問題がなかったのか調査する「口蹄疫対策検証委員会」の報告と議員との質疑応答が行われた。この疫学調査チーム長の説明と江藤議員との質疑応答に私は疑惑を感じたが、皆さんはどう受け取られるであろうか。

2015.2.11 一部追加更新







備蓄ワクチンと国費の無駄遣い~誰も責任を取らない中空構造③

2015-02-05 17:11:13 | 中空構造
 前回のブログ「国・県の水牛農場冤罪事件を許すな!」で、「口蹄疫発生確認後1週間以内に使用しない国内備蓄ワクチン購入は、明らかに不法な予算要求である。また、口蹄疫発生確認後1週間以上経過して緊急ワクチンの輸入をしていないとすれば、これも備蓄抗原の保管に違法な予算を使用していることになる」と指摘したことについて質問をいただいた。ワクチンについてはウイルス感染とワクチン等多くの解説をしてきたが、この指摘については私自身も最近気がついたことで、関心の向け方がちょっとズレると物事は見えなくなるものだ。ここでは重複になる部分が多くなるが、備蓄ワクチンと国費の無駄遣いに視点を向けた解説をしたい。

 まず、2007年英国の口蹄疫発生時の対応について、前回は疫学調査と全頭殺処分の問題に視点を向けた解説をした。今回は備蓄ワクチンの解説としても読んでいただくために、口蹄疫発生確認後5日でワクチン接種が可能な待機態勢に入っていることを、8月発生と9月再発生の部分を赤字で強調して日付も本日に変更しておいた。2007年当時に英国を含むEUでは、口蹄疫発生確認後に直ちにワクチン接種を準備している。ところが2010年の宮崎口蹄疫では口蹄疫発生確認(4月20日)後1ヶ月も経過(5月18日)して、牛豚等疾病小委員会ワクチン接種と殺処分を決めている。

 英国でワクチン接種態勢に5日で入るのは、口蹄疫発生を確認したら直ちにウイルスの遺伝子検査を1日で実施し、ウイルス増殖を最も抑制(感染拡大を阻止)できる効果の高いワクチンを英国にあるワクチンバンクに世界共有で保管してある濃縮抗原から選択して3日程度で製造できるからである。これに口蹄疫発生周辺にワクチン接種をする態勢を準備する日を加えても5日程度でできる。日本では空輸の期間を加えても1週間程度でワクチン接種態勢は準備出来るはずである。実際にワクチン接種をするかどうかは、疫学調査で感染拡大の状況を把握して決めるが準備だけはしておく必要がある。

 ワクチンと濃縮抗原の違いについては、動薬検ニュースに次のような説明がある。口蹄疫ワクチン(口蹄疫予防液)の製造過程において、濃縮・精製された不活化濃縮抗原の段階のものを予防液(ワクチン)に調整することなく液体窒素に長期保管するのがワクチンバンクであるとし、ワクチン製造の次の工程を説明している。
 ①口蹄疫ウイルス浮遊液の調整
 ②口蹄疫ウイルス浮遊液の不活化
 ③不活化ウイルスの濃縮・精製
 ④口蹄疫不活化濃縮抗原の保管(ワクチンバンク)
 ⑤口蹄疫予防液の調整

簡単に言えば口蹄疫ウイルスを培養、不活化、濃縮・精製したものが濃縮抗原で、これを保管しているのがワクチンバンクであり、使用前にオイルや乳化剤で調整したのが予防液(ワクチン)である。濃縮抗原は保存期間が長いので、あらかじめワクチンを製造しておくのは、口蹄疫発生後に直ちに使うため以外に理由はない。

 備蓄ワクチンとは日本に保存しているワクチンのことで、英国のワクチンバンクに保管している備蓄抗原とは違うことを認識していただきたい。しかも、口蹄疫発生確認後1週間でウイルスの増殖を抑えて感染拡大を阻止できる最適なワクチンを英国のワクチンバンクから輸入できるので、口蹄疫発生確認後1週間以内に使用しない備蓄ワクチンの購入は必要ないし予算の無駄遣いである。その一方で、緊急ワクチンの製造、輸入をしていないとすれば、備蓄抗原の保管を日本が分担していることも予算の無駄遣いとなる。

 現在、口蹄疫について科学的に解説しているのは、山内一也先生の連載が削除された時期があり、動物衛生研究所の報告の一報だけとなっていた。これは日本獣医師会雑誌Vol.58 No.3 (2005)から転載されたものだが、現在は動衛研報にさらに転載されたためかWebからは削除されている。しかも最初は山口獣医学雑誌.第24号,1~26頁,1997(Yamaguchi J. Vet Med., No. 24: 1~26.1997)に掲載されたものであり、20年近く前の知見である。

 その論文の「おわりに」で、「口蹄疫には、伝染力が強い、宿主域が広い、早期発見が難しい、及び、ワクチン効果に限界があるなどの防疫上の基本的な問題があり、--- ワクチンを使用しない完全な口蹄疫清浄国の立場を保つことが、国内畜産業の安定の前提になっている」とあるが、この口蹄疫防疫方針は今も化石のように変わらず、世界の動向を無視した研究と行政の遅滞が国民に大きな被害を与えている。


初稿 2015.2.3 2015.4.5 更新