自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

口蹄疫感染とウイルス排出と抗体産成の関係

2011-07-31 10:32:01 | 牛豚と鬼

1.口蹄疫の感染はウイルス排出量の増加による。抗体は感染を証明するが、このとき感染力はない。(基本認識1)

 口蹄疫に感染するとウイルスは食道,咽頭で増殖し、その後血流に侵入し全身へと移動して、さらに増殖します。この血中にウイルスが出現するウイルス血症の時期に体温も上昇し、口蹄疫の症状も出ます。また、ウイルス排出量も多くなります。ウイルス血症の期間は平均4日間で血中ウイルスが早く出現すると症状も早く出ます。しかし、感染後7~9日に抗体ができると、血中ウイルスは消失し、感染してから10~14日でウイルス排出もなくなります(スライド3(pdf),表1)。

2.2000年に日本で92年ぶりに発生した口蹄疫ウイルスの感染試験

 スライド3(pdf),表2は。2000年に日本で発生した口蹄疫ウイルスの感染試験の報告14)をまとめたものです。舌皮内および皮下にウイルス接種したホルスタイン(3ヵ月齢)はウイルス接種後8日目に発熱し、6日目頃に抗体が認められましたが、口蹄疫の症状は認められませんでした。また、遺伝子検査(PCR検査)で血中ウイルスが確認でき、ウイルス接種後4~6日目にウイルス血症となっていますが、ウイルス接種して1日後から3週間同居させた牛には伝染しませんでした。
 黒毛和種(2ヵ月齢)はウイルス接種した翌日から血中ウイルスが認められ、3日目から4日間認められ、接種後4日または5日目に発症し、抗体は接種後4日目に陽転しています。ウイルス接種した黒毛和種に同居させた黒毛和種は接種した場合よりやや遅れて、同居後5~6日目の2日間血中ウイルスが確認され、6日目に発症し、抗体は8日目に陽転しています。
 一方、豚はウイルス接種豚および同居豚は感染から発症まで2、3日と早く、典型的な口蹄疫の症状が認められました。血中ウイルスもウイルス接種の翌日から10日間、ウイルス接種豚と同居した豚は同居2日目から4日間検出され、抗体は接種後4日目(発症後2日目)、同居後5日目(発症後3日後)に陽転が確認されています。このウイルスは感染力が弱かったと言われていますが、牛と比較して豚に対する感染力は強かったのではないかと思われます。また、ウイルス接種した黒毛和種と同居した豚は感染していませんが、これは牛のウイルス排出量が少なかったためと考えられます。

 本報告では体温、血中ウイルス濃度、抗体価等の実験データが表に示されていませんが、貴重な情報なので公開すべきです。また、2010年に宮崎に大惨事をもたらした口蹄疫ウイルス(O/JPN/2010)についても感染試験の結果を早く報告すべきです。この場合に1試験区2反復以上とし、ワクチン接種の効果を含めて詳細な実験データを公表すべきです。

3.英国動物衛生研究所の口蹄疫感染試験の実験データ

 最近、口蹄疫の感染時期に関する研究報告15)(2011年5月)が詳細な感染試験の実験データ16)とともに公表されました。その実験データの一部をスライド4(pdf),表3)に示しています。実験方法につきましてはスライド5に紹介していますが、口蹄疫ウイルスを接種して48時間後の牛と湿度99%の部屋で確実に感染する条件で24時間同居させて感染させたドナー牛の2週間の血中、食道咽頭粘液および鼻汁の口蹄疫ウイルス量の推移、抗体価、インターフェロン、体温、四肢、鼻汁、舌、口腔等の症状発現、跛行、ドナー牛に2日目、4日目、6日目、8日目に健康な牛を8時間同居させた場合の感染の有無等が示されています。

 VQ05牛はウイルス接種牛と同居1日後には咽頭にウイルスが検出されていますが、血中ウイルスは2日目から6日目まで認められてます。体温上昇と症状発現は4日目に認められ、このとき同居牛も感染しています(T)が、他の時期には感染していません(NT)。VQ06牛は8日目に口腔内に症状が認められ、同居牛も感染していますが、体温の上昇が明確に認められたのは10日目でした。このようにウイルス感染が確実に起きる条件でウイルス接種牛と同居させても感染後の状態には個体差が認められています。

  この研究は口蹄疫に感染した牛から健康な牛に伝染する期間は短く、症状発現後2日以内であることを推計学的に明らかにしたものですが、このデータを感染防止のためのマネジメントにどう活用できるでしょうか。血中遺伝子検査が防疫対策にどのように活用できるかスライド5と6(表3~5)で検討してみました。

2011.7.31  開始 2011.8.4 更新1 2012.1.3 更新中


マネジメントと論理的、科学的な基本認識の共有

2011-07-20 06:21:14 | 牛豚と鬼

1.マネジメントとは

 わが国の口蹄疫対策は殺処分を前提にしか説明されませんが、被害は殺処分により発生しますので被害を最小にするには殺処分を最小にする必要があります。「殺処分をしないで欲しい」という被害者側の願望は、「殺処分するしかない」とする処分側のドグマと権限により無視されていますが、その迷妄なドグマから解放されると、殺処分を最小にする知恵が関係者それぞれに沸いてきます。それぞれの知恵と仕事を結集するのがマネジメントの真髄です。迷妄なドグマから解放されるためには、科学的事実に対する真摯な態度が必要です。
 人は一人では生きられないように、組織も社会から遊離しては生きていけません。マネジメントとはチームから組織、国に至るまで、自己中心的な目的や方法ではなく、社会に開いた目的と方法で人々の知恵と仕事を結集することです。社会に開くとは、仕事を自己の利益を中心にして部分的に考えるのではなく、生命を大切にして地球から太陽、人間から社会へと全体的なつながりの中で考えることです。地域(地球)とのつながり無くして、私たちは生きていけないことを忘れてはいけません。また、自己の利益のために自己と他者との境界を引き、閉鎖的な集団の一員として意思決定に参加してもいけません。

 人は自問自答しながら意思決定をしています。自問自答のつもりが「他聞他答」である場合が多いにしても、自問自答の意識を失うと思考停止してしまいます。そして自問自答の判断基準の中に神(お天道さん)や科学的事実が必要です。特に「神は死んだ」と思う人々にとっては、神に替わり真摯に従うことができる絶対的他者が必要です。しかも現代科学の宣教師として社会的に信頼を受ける立場にいる学者、専門家はドグマを否定し、真摯に科学的事実と向き合う責任があります。また、行政や政治もドグマに陥り、「よらしむべし、知らしむべからず」とならないように、科学的事実に謙虚にならなければなりません。

 マネジメントの目的と方法は関係者が合意し、お互いに信頼して自主的な活動をしていく源泉となる必要があります。そのためには一部の利益を共有する自己と他者の関係を超越して自己を律する絶対的他者として、論理的、科学的な基本認識を真摯に共有する必要があります。知識があればマネジメントができるものではありません。現在は常識と訳されているコモンセンスはもともと共通感覚という意味なのです。明治以来、脱地域、脱自然を目指してきた東京時代にある日本では、単なる知識ではなく真摯な共通認識と命に対する共通感覚こそが人々を共感させ、人々の知恵を結集する源泉となるのではないでしょうか。

 一方、独占的、閉鎖的な仕事は、自己の利益を優先し、自己にとって都合の悪い情報は隠蔽し、メンバーの主体的活動を認めないので、いずれ腐蝕が拡がり破綻します。この世(宇宙と現象)を説明してきたのは神と科学ですが、宇宙は未知の暗黒物質で占められているように、科学では説明できないことが多いので、未だに迷妄なドグマが信じられる場面が多くあります。経済成長が命や生き方より優先されるのも経済成長神話(ドグマ)に支配されているからです。原発の安全神話も原発推進で利益を得る人々が作り出したものでしょうが、口蹄疫は殺処分しかないとするドグマは誰によって作られ固執されてきたのでしょか。そして何故ドグマを固執するのでしょうか。口蹄疫の感染を阻止するために家畜を殺さない方法はないか、何故真摯に考えようとしないのでしょうか。真実に近付くには命を大切にし、命を守るために、現象の理解を論理で埋めていく真摯さが必要です。そして口蹄疫禍と原発震災を地域と自然を取り戻す時代への転換としなければなりません。

2.口蹄疫ウイルス、遺伝子検査、ワクチン、抗体検査の基礎知識

 口蹄疫に関する「最新の科学的知見と国際動向」について基本認識を共有するため、口蹄疫ウイルスと遺伝子検査とワクチンと抗体検査の関係について図(スライド2)に示しておきました。
1)口蹄疫ウイルス
 口蹄疫ウイルスは核(カプシド)の中にRNA遺伝子が1本入っている最も小さなウイルス粒子で、蹄が2つある偶蹄類(牛、羊、ヤギ、鹿、サイガ、豚、猪等)に感染して増えます。感染とは偶蹄類の咽頭等の細胞でウイルス粒子から脱核してRNA遺伝子が出てきて、細胞にある蛋白合成経路を乗っ取って,ウイルスの増殖を始めることです。このとき細胞で合成される蛋白質はウイルス本体の蛋白質とは違うので、非構造体蛋白質(NSP)と言います。
2)遺伝子検査
 咽頭で増殖したウイルスは数日後に血中に増えます。このウイルスは微量でも遺伝子検査で検出できます。遺伝子検査とはウイルス遺伝子の断片を増幅してウイルスを特定する方法で、口蹄疫ウイルスを最も早く(45分)、最も簡単(チューブと恒温槽)に、検出する方法は我が国で開発されています 12)。口蹄疫の遺伝子検査を現場で実施するのは危険だとする立場がありますが、遺伝子検査はウイルス遺伝子の断片を増幅するから危険ではありません。それより日常的な病性鑑定に取り入れることで、口蹄疫ウイルスを早く閉じこめることが感染拡大を阻止するために最も大切なことです。
3)ワクチン
  ウイルスに感染するとウイルス本体(カプシド)にある蛋白質と宿主細胞で作られる蛋白質(NSP)を抗原として抗体ができます。ウイルスを人工的に増殖して、RNA遺伝子を不活化し、精製してNSPを除去し濃縮した抗原がワクチンバンクに保管されています。いろいろなウイルスの抗原が保管されていますし、世界で流行しているウイルスの情報もありますので、ワクチン接種を決定すれば、最適な不活化ワクチンを必要に応じて1週間程度で入手できるようになっています。
 ワクチンは抗体によりウイルスの増殖を防ぐ自然で安全な抗ウイルス剤です。これに対してNSPの産制を阻害する抗ウイルス剤13)が開発されていますが、この抗ウイルス剤は殺処分を前提に使用されるようです。なぜ殺処分を前提にするのか。一つには抗生物質に対する耐性菌ができるように、抗ウイルス剤に抵抗するためにウイルスが遺伝子変異する心配があること、もう一つには蛋白合成を阻害することから、人の健康にも悪影響を与える可能性があります。ワクチン接種しても安全に食用にできるのに、なぜ、ワクチンを使わないで殺処分を前提にしたウイルス増殖阻害剤を利用しようとするのでしょうか。
4)抗体検査
 ウイルスに感染すると抗体ができますが、NSPを除去していないワクチンを使うと、その抗体が感染によるものかワクチン接種によるものか識別できません。しかし、最近は精製してNSPを除去したワクチンが使用されていますので、NSP抗体検査をすればワクチン接種をしていても感染していることを証明できます。
 なお、抗体検査は感染を確認する方法ですが、抗体が確認できた家畜はウイルスを排出していませんので感染拡大の恐れはなく、殺処分して埋却する必要はまったくありません。食用に安全に利用できるのに、なぜ埋却しなければならないのでしょうか。この問題についても検討する必要があります。、

 スライド2

2011.7.20 開始 2011.8.4 更新1 2012.1.3 更新中


「口蹄疫禍」を新しい時代の夜明けに

2011-07-16 17:28:58 | 牛豚と鬼

 山田前農林水産大臣が「口蹄疫レクイエム 遠い夜明け」 2)を出版されました。殺処分してしまった29万頭の家畜への鎮魂の記で、副大臣として陣頭指揮をしたワクチン接種までの経緯や口蹄疫疫学調査チームの中間報告 3)への疑問等について、知りうる限りの事実を記録で残しておきたいと実名小説となっています。小説とされていますがノンフィクションであり、そこに登場する人物の言葉の引用に嘘はないでしょう。しかし、「遠い夜明け」と記されているように、前大臣の良心として知りうる限りの事実を調べてみても、なお真実は闇の中にあるようです。

 「夜明けが遠い」のは、一つには口蹄疫は殺処分しかないと信じているためであり、もう一つは科学的事実が闇に隠されたままだからです。ウイルス感染症はワクチンで根絶 4)してきました。また、2001年の英国の口蹄疫大発生以来、大量殺処分を回避するためのワクチン接種へと世界は動いています 1) 。なのになぜ、ワクチン接種した家畜を殺処分・埋却しなければならなかったのでしょうか。

 口蹄疫対策検証委員会報告書 5)は、今回のワクチン接種・殺処分が適切であったことを前提にしていて、その問題点について科学的検証をしていませんリンク。殺処分を前提にしたワクチン接種だから実施の了解が得られず、殺処分に対する手当金を法的に準備する緊急事態となりました。しかし、ワクチン接種だけなら手当金も必要なく、ワクチン接種を早くすることができ、感染の拡大を防止できたのではないでしょうか。この防疫指針の問題点が問われなかっただけでなく、ウイルスの遺伝子検査やワクチン接種に関する誤った説明 1) p27-35をしています。「最新の科学的知見と国際動向」を無視した獣医学の学者や専門家の見解 6)が被害を大きくしたのではないでしょうか。2010年6月7日に欧州家畜協会(ELA)から農水省家畜衛生課長宛に、日本の防疫対策を危惧して生かすためのワクチン接種をするよう忠告した手紙 7,8)が届いていますが、この手紙に示された科学的事実に日本の獣医学の学者や専門家は真摯に向き合おうとはしませんでした。

 「口蹄疫は感染が確認されたときには、その農家の家畜はすべて感染していると判断しろ。口蹄疫を撲滅するには殺処分して埋却するしかない。」という獣医学の学者や専門家の御託宣に従えば、感染の疑いがある農家の家畜全頭を殺処分し、埋却するしかありません。また、感染を食い止めるために健康な家畜まで防火帯のようにワクチン接種するのは理解できますが、「ワクチンを接種した家畜については、早急かつ計画的にとう汰するべきである」 9)としたのは何故でしょうか。これも御託宣に沿った決定なのでしょうか。

 科学は仮説を疑い、あるいは仮説を証明する真摯な知的行為です。不都合な情報は無視し、疑われず、証明されることもない御託宣(ドグマ)に固執することは破滅をもたらします。殺処分を前提にしか説明しようとしない口蹄疫対策は、安全を前提にしか説明しようとしない原発推進と同根であり、前提として命より一部の利益を大切にしたドグマが破綻をもたらしたのではないでしょうか。

 29万頭の家畜への鎮魂は、現在の口蹄疫対策を科学的に検証することから始めなければなりません。第11回家畜衛生部会議事録(平成23年5月25日) 10)によれば、「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針 11)」の変更が検討されているようです。改訂されたばかりの家畜伝染病予防法には、防疫指針は「最新の科学的知見及び国際的動向」を踏まえて検討すると明記されていますが、どのように踏まえて何を見直すのでしょうか。

 口蹄疫対策は国や県の権限で作成、実施するものではなく、民間の英知を結集して問題解決にあたるべきです。口蹄疫は現場で発生するので、関係者一人一人がマネージャーとして官民一体となり、真摯に取り組むべきマネジメントの問題です。このため国や県や現場の関係者が、「最新の科学的知見と国際動向」に対する認識を共有し、現場で実現可能な対策を実現し、実践していく必要があります。「口蹄疫禍」を新しい時代の夜明けにできれば、家畜への真の鎮魂になるでしょう。

 スライド1-2 ,スライド14

畜産システム研究会第25回大会
口蹄疫に関するシンポジウム「口蹄疫禍を繰り返さないために」(リンク10)
15:00 - 15:45 口蹄疫被害最小化のためのマネジメント -遺伝子検査とワクチン接種-
               畜産システム研究所  三谷 克之輔

2011.7.16 開始 2011.8.4 更新 2012.1.2 更新中


口蹄疫の伝染時期と防疫対策

2011-07-11 23:51:04 | 牛豚と鬼

 口蹄疫は感染が確認されたときには農家の家畜はすべて感染していると判断すべきとし、口蹄疫を撲滅するには殺処分して埋却するしかないとする獣医学の20世紀型ドグマにより、感染が見つかった農家の牛や豚、羊等は全頭殺処分されています。
 しかし、その科学的根拠はどこにあるのでしょうか。感染することと、感染させること(伝染力)は違いますし、個体による違いや飼育規模や飼育環境の違いもあるでしょう。個体によっては感染しても他を感染させないのもいるでしょうし、感染させる場合にも感染してから他の家畜に伝染するまでの時間は個体によって違うでしょう。
 重要なことは、1頭の感染が確認されたときに全頭が感染していると判断することではなく、どの程度の頭数が感染しているか遺伝子検査で調査することであり、感染の発見と処理が早ければ早いほど感染の拡大を小さくできることです。
 英国の動物衛生研究所が最も感染しやすい条件下でホルスタイン-フリージアン牛の感染実験をした報告15)によると、感染牛のウイルスが健康な牛に伝染する時期は、症状発現0.5日後から平均1.7日と短いことが明らかにされました。また、このことから健康な家畜を予防的に殺処分する必要はなく、早期発見と早期処置が感染防止のために重要であることに科学的根拠を与えています。ウイルス接種牛と同居させて作出した感染ドナー牛8頭の実験データは表3のように1頭毎に示されていますが、これを表4~6にまとめてみました。

1.口蹄疫の伝染時期と症状発現時期
 表4は感染ドナー牛8頭が同居牛を感染させる時期と血中ウイルス、症状発現時期、体温の関係をまとめたものです。いずれの感染ドナー牛も感染1日後には咽頭にウイルスが認められていますが、血中にウイルスが検出されるのは感染2~5日後と個体差があります。血中ウイルスの検出が遅い牛は症状の発現も遅くなっています。また、感染ドナー牛と同居させた健康牛が感染する時期と、感染ドナー牛の体温が上昇し、症状が発現する時期は近接しています。そしてこの伝染時期は血中ウイルスが検出されている時期と重なります。
 一方、No.8号牛は体温は上昇して症状も発現し、抗体も認められていますが、血中ウイルスは検出されず、同居牛も感染していません。すなわちNo.8号牛は感染しても伝染力はありませんでした。また、残り7頭では同居感染が成立しましたが、2日毎に健康牛を8時間同居させたうち感染したのは感染牛の症状発現後0.5日後から平均1.7日と短い期間であり、他の時期に同居させても感染しませんでした。この感染実験では口蹄疫ウイルス接種牛と24時間同居させると確実に感染することを確認していますので、同居時間を長くすれば感染したのかも知れません。しかし、少なくとも口蹄疫ウイルスが存在すれば無条件に感染するのではなく、ウイルス接種量と時間と感受性が同居感染に影響していることを示しています。

2.血中ウイルス検出時期と症状発現等の関係
 個体別に口蹄疫の伝染および症状発現時期と2週間の血中ウイルス濃度、抗体価(表5)および体温(表6)の関係をまとめてみました。
1)血中ウイルスは感染後2~6日目に検出された(5頭)が、感染後5日目から7・10日目までと遅く検出されたものもいた(2頭)。
2)抗体価は全頭上昇した。一般に感染後8~10日目に上昇した(6頭)が、1頭は6日目から上昇と早く、1頭は血中ウイルスが遅くまで検出された翌日の12日目から上昇と遅かった。
3)血中ウイルス検出日は症状発現時期より早く、3日前(1頭)、2日前(1頭)、1日前(4頭)、当日(1頭)であった。
4)血中ウイルス検出日は体温上昇期より早く、2日前(1頭)、1日前(5頭)、不明(体温39℃:1頭)であった。
5)血中ウイルス検出日は伝染時期より早く、3日前(1頭)、2日前(3頭)、1日前(2頭)、当日(1頭)であった。

3.口蹄疫の早期発見は血中ウイルス検出で
 これらの結果から、血中ウイルスを遺伝子検査で検出することが口蹄疫の早期発見につながることが明らかにされました。また、血中ウイルスが検出されるときは伝染の可能性が高いときなので、感染を防止するためには遺伝子検査陽性畜は速やかに隔離(殺処分)する必要があることが認められます。このために現場で簡易遺伝子検査を実施し、陽性畜は速やかに処置する必要があります。県レベルで病性鑑定に簡易遺伝子検査を導入し、陽性の場合は殺処分するとともに周辺の遺伝子検査を実施して、検査結果を国に届出る防疫指針について検討する必要がありましょう。
1)口蹄疫の遺伝子検査は動物衛生研究所でしかできない?
 口蹄疫の簡易遺伝子検査は恒温槽さえあれば検査でき、チューブに検査キット試薬をいれて45分間一定温度で加温し、白濁すればウイルスが検出できますので熟練の必要もないので、家畜保健衛生所で検査はできます。ウイルスの断片を増幅するので危険でもありません。病性鑑定は病気を診断するために必要であり、これまでも口蹄疫の診断は家畜保健衛生所に持ち込まれていますが、簡易遺伝子検査が病性鑑定に組み込まれていないために病名の特定ができなかっただけです。口蹄疫は症状が疑われるときには感染が広がる危険性が高いので病性鑑定で早く診断して閉じこめる必要があります。むしろ、「口蹄疫の遺伝子検査は動物衛生研究所でしかできない」という考え方こそが、口蹄疫の早期発見を遅らせ、感染を拡大させています。
2)簡易遺伝子検査の結果を採用するには手当金の問題がある?
 簡易遺伝子検査は一次検査であり、感染拡大の範囲を調査するために実施しますが、確定検査は国(動物衛生研究所)がこれまで通り実施する必要があります。一次検査で陽性が出たら国に献体を送付するとともに、農場周辺の遺伝子検査を実施する必要があり、多くの頭数の遺伝子検査を実施するので検査誤差は問題になりません。検査誤差が問題になる検査法は実用化できませんから、検査法の信頼性について早急に試験するべきです。いつ侵入するか分からない口蹄疫への対策を、なぜ準備しようとしないのでしょうか。
3)遺伝子検査における国と県の役割
 国は口蹄疫ウイルスが確認されたら遺伝子の塩基配列を分析しなければなりません。遺伝子検査による現場での感染拡大の情報は県レベルで把握し、殺処分は伝染の可能性がある家畜に限定して早急に感染拡大を阻止すべきです。殺処分は国と連絡しながら進めますが、多くの家畜の中には陰性の家畜を陽性と判定して殺処分するものがいたとしても、科学的根拠もなく疑似患畜として農場全殺処分するよりは被害ははるかに小さくなります。また、遺伝子検査結果は殺処分に先行して前日に実施する必要があり、検査をしていたら殺処分が遅れるということはありません。むしろ全頭殺処分は埋却地の問題を発生させ、殺処分を遅らせるので感染拡大を阻止できないことはすでに経験済みではないですか。
 ここで紹介しています英国の研究報告16)が出された今日では、口蹄疫が確定された農場の全頭殺処分や健康な家畜を殺処分することの科学的および法的根拠が問われることになるでしょう。科学的でない疑似患畜による全殺処分が法的に認められるはずはありません。

4.遺伝子検査でワクチン接種の範囲を決定
 早期発見により国に届出た段階で口蹄疫は終息しているのが理想ですが、周辺の遺伝子検査で陽性が多い場合はワクチン接種を含めた防疫対策が必要です。また、周辺の遺伝子検査の情報を基にして制御区域や監視区域を設定しますが、常に遺伝子検査による疫学調査を先行させて、農場全頭殺処分ではなく、遺伝子検査陽性のものを隔離(殺処分)していく必要があります。国が殺処分の権限を行使する場合は、殺処分に対する科学的根拠を示す義務も果たさなければなりません。2010年宮崎口蹄疫で殺処分した家畜の検査結果も公表の義務があります。

5.情報の原データの公開を
 研究は目的のためにデータを集めて分析し、対象とする現象を説明する根拠を示して簡潔に仮説を証明する行為です。データは様々な情報を含んでいますが、対象とする現象以外の情報はノイズとして切り捨てられます。しかし、同じデータを視点を変えて見ればノイズとして切り捨てた部分に貴重な情報が含まれています。情報が電子化される今日、英国の研究報告のように情報の原データを公開することで、情報が得られない人々に研究材料や判断材料を提供することができます。国や研究者は情報の原データを自由に収集する権利はありますが、成果を報告した後に収集した原データを独占する権利はありません。むしろ公開を義務とすれば、システム研究は飛躍的な発展をして、市民生活に貢献できるでしょう。

2011.7.11 開始 2011.8.5 更新1 2012.1.4 更新2 2012.11.9 更新中 2012.12.7