自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

地方をどう創生するか~アベノミクスと日本経済の未来③

2014-10-18 21:29:58 | NHK

地域経済の活性化を考える

      『日本経済“未来型モデル”を求めて』 第2部(動画)

司会「本日、ご出演のシューマンさんは、今VTRでご紹介したアメリカでの地域経済活性化の試み、「スモールマート革命」を提唱していらっしゃいますが、シューマンさんは「スモールマート革命」は高齢化社会でも適したシステムだとお考えでしょうか。」

以下は意見の概要を示します。ことにシューマン氏の[冒頭部分]は私の理解で解説的に意訳しました。

シューマン「その通りです。スモールマート革命とは地域と結びついた中小企業が、地域資源を地域で循環的に活用することでお金も地域で循環し、地域経済の自立性と競争力を高め、新たな資産を生み出す効率の良い経済にできることです。アメリカでは「地域で地元の中小企業が多ければ多い程、雇用を生み出すことができる(小さな企業の大きな雇用創生力)」という研究(ハーバードビジネスレビュー)や、「地域企業が多い程、一人当たり所得の伸びも多い」という調査報告(FRB)があります。地元の企業は社会の分配の平等性のために重要です。」

「VTRで紹介されたベリングハム市では、地元の人が地元でお金を落とすと、そのお金の経済的価値が高くなることが示されています。オーストリアのギュッシングにおいても自立の重要性が示されました。よく地域経済についてグローバル経済から離れていると勘違いしますが、そうではありません。ギュッシングはエネルギー自給によって経済力が高まり世界とつながる。皮肉かも知れませんが、地域経済を強化していく中で、グローバル貿易は実は拡大する可能性があるのです。何故かというとスモールマート革命は資産を生み出す戦略であるからです。」

司会「藻谷さんはオーストリアの試みを「里山資本主義」と呼ばれていますが、オーストリアの試みが高齢者が増加する日本の地方においてどのように生かされていくとお考えですか。」

藻谷「『里山資本主義』はNHK取材班と一緒に書かせていただいた本の題名なのですが、去年、私の予想と違い非常に評価していただき、よく売れました。これは今まで無価値の資産、山に生えた木だとか退職された方とか、そういう金銭的に価値がないと思われている資産を活用することによって、一つには思わぬ輸出産業を生みます。オーストリアの場合は木材ボイラーの競争力が高くなっている。他方で、競争力がないとしても水や食料や燃料とある程度自給できる人がいることで、GDPは増えなくても、実際には豊かな生活を営む人が増えると社会的安定性が増す。この2つを社会の保険のようなもの、サブシステムとして導入したらどうかということを言っています。
 ちなみに、スイスとかシンガポールといった国は、これらをうまく組み合わせていて、国際競争をしているようでいて実は非常に地元産のものを大事にしている。スイスフランは今、非常に高いですからドイツより物価が高くなります。はるかに高いのに、スイス人が市場競争の中でスイス製品を選んでいる。このことでスイス経済が強化されて、チーズとか時計のように非常に競争力のある製品が生まれいる。実はローカルな経済とグローバルな経済をうまく組み合わせる方が、グローバルだけよりは強いのではないかというのが、「里山資本主義」の発見です。」

ベネシュ 「二人のとっても良い発想、仰る通りだと思います。ただ、スイス、オーストリア、アメリカは連邦政府で、州の方に財源、権限がある。日本のように東京一極集中型、官僚主導型の経済圏では、そういう方法が成功しますか?」

藻谷「仰る通りです。ただ、経済規模的にはオーストリアは日本では東北地方とか中国5県と同じ規模、九州はもう少し大きい。東京とは違う地方独自でローカルマーケット相手にやって行くと、ヨーロッパの一国と同じようなパワーを持つ企業は生まれてくる。政治的には難しいが、地域を市場とする民間企業の活力には大いに期待しています。彼らが東京に出てこずに世界に直接売りに行くケースが少しづつ出てきている。まだ小さい動きですが、それが出来ていくと日本の政治が地方分権に向かう。よういう順番かなと思います。

シューマン「アメリカは政治的には地方分権しているかもしれない。しかし、経済は集中化しています。アメリカ経済の一つの問題は経済の半分以上が地元の中小企業に依存していますが、長期投資の大半、99%がフォーチューン500社の株に投資されています。これは効率が極めて悪い。長期投資のシステムを塗り替えなくてはなりません。これができれば地場産業はさらに成長します。」

大田「日本の中央集権は特に財政がそうですね。日本の地方で、地方税で賄う比率は平均して3割から4割で、地方交付税とか補助金でかなり中央から移転しています。どこかの誰かが払った税でザービスのかなりの部分を担われているとすると、本当に経済を立て直して行こうとする真剣さが失われていくと思う。ですから、財政の地方分権化を合わせてやっていかねばならない。これが一つの問題。
 それから、地域軸、環境軸が経済に出てきているのは確かで、このこと自体は素晴らしい。しかし、日本では小さいから弱者で保護しないといけないとか、地方は財政支援で守らねばいけないと、弱いところを弱いまま守る発想になりがちだった。
 先程来、シューマンさんも藻谷さんも言われているように、本当の強さを持つためには、消費者に受け入れられなくてはいけない。ニーズにしっかり答えていくダイナミズムを創意工夫が必要である。その点は十分に確認しておかねばならない。地方のものをそのまま活かせばうまくいくという程甘くはない。」

司会「財政面の自立というところまで持っていけるかがポイントかと思うのですが。」

藻谷「財政に関して言うと、東京も2020年までに70歳以上の高齢者が34%増える。その一方で納税する方は微減または横ばいです。ですからどこも財政はきつくなっていきます。そのためにはトータルで支出を減らさねばならず、そのためにも財政の分権が重要ですよね。この範囲内でやってくれ、細かい指示はしないから帳尻を合わせなさいということを地方、地方に考えさせる。太田先生の仰る通りだと思います。」

浜田「今、太田先生の仰った弱いから助けるのではなく、むしろそこに強みがあるというのは日本の農業について最も言える。日本の花は世界的に珍重されている。それから日本食は世界的で、良い食材は日本料理だけでなく中国料理、その他についても日本の野菜でなくてはいけない。TPPで日本の農業を守るのが勝ちだと言われているが、農業の日本の強いところを輸出産業として伸ばす環境を作ることが、コメに700%の関税を掛けて守ることより有効だと思う。」

続いて「和食」や「観光」の問題が日本を売り出す方法として取り上げられ、日本の未来の産業について語られるている。ただ、私には輸出だとか財政だとかを語るのは仮想現実の世界であり、ニッポンの里山で豊かに暮らす価値を見出して欲しいと思う。

初稿 2014.10.18 更新 2014.6.3

地方をどう創生するか~アベノミクスと日本経済の未来②

2014-10-13 17:37:01 | NHK

日本の高齢化社会への人口推移予測と地域経済のあり方

  『日本経済“未来型モデル”を求めて』 第2部(動画)

司会「第2部です。今日は、『日本経済“未来型モデル”を求めて』と題して議論をしています。 第1部ではアベノミクスの1年を振り返り、今年、2014年、日本の経済は順調に成長していくことができるのか議論をしてきました。第2部は長期的に日本の経済を見据えた場合に持続可能な未来型の経済モデルとはどんなものなのか考えていきます。」

司会「長期的な視点から日本を取り巻く状況を見たときに、考慮に入れて置かねばならないことが2つあります。グローバル化と高齢化の二つです。まず、加速するグローバル化、これは成長のチャンスでもある反面、1握りのグローバル企業に富が集中してしまって傘が拡大してしまうのではないかという懸念もあります。そして私達、日本の社会に今、深刻な影響を及ぼすのが少子高齢化ですね。こちらのデータをご覧頂きましょう。日本の将来の人口を予測したものです。

         

2010年に1億2800万人程だった人口は減少を続けていきます。2048年には1億人を下回り2060年にはおよそ8600万人にまで減少してしまう。15歳から64歳までの働く人口、所謂、生産年齢人口ですけれど、赤で示した所、ご覧のように減少を続けていきます。2010年に8000万人を上回っていたのですが、2060年にはおよそ4400万人にまで減少する。一方、65歳以上の老齢人口が、青い部分ですが、2030年まで増加し、2060年には総人口に占める割合が4割にまで達すると予測されています。こうした状況では目覚しい経済成長を遂げるというのは難しいという指摘もあります。」

--- 高齢化社会における経済のあり方を議論した後に ---

司会「本当に、年を取って私達が安心して暮らしていくことができるかどうか、それは足元の生活、地域社会や地域の経済をどうやって維持をしていくかが非常に大事になってくるということだと思います。このヒントになる取り組みをご覧いただきたいと思います。」

VTR①:ギュッシング(オーストリア東部、人口4000人余りの町)
         

オーストリア東部、人口4000人余りの町、ギュッシング。有力な産業もなく財政難に苦しんでいたこの町は、地域で見過ごされてきた豊かな森林に着目しました。まず、木材を燃料とするバイオマス発電で、町で使われるすべての電力をまかなうことを実現。さらに、発電に伴う熱で作った熱湯を住宅や事業所に供給。給湯や暖房に利用し、今や町で必要なエネルギーの7割以上を自給しています。

     

ギュッシング町長「利用されない木材が何千トンも森で朽ちていくのに、なぜ、数千キロも離れた所から石油やガスを運ばなくてはならないのでしょうか。私達は疑問に思ったのです。」

年間6億円もの燃料費が不要になった上、余ったエネルギーを売ることで町の財政を再建することが出来たのです。   

オーストリアは木材を燃料として利用する技術開発を積極的に進めています。

ボイラー会社研究員「30年前、薪を使っていた頃の燃焼効率は60%でした。これに対し最新のボイラーは90%以上にまで達しています。」

燃焼効率は劇的に向上し、エネルギーコストは石油の半分にまで抑えられています。この安いエネルギーを求めて、ギュッシングにはドイツなどから50社程の企業が進出、多くの雇用が生まれています。

VTR②:べリングハム(アメリカ、ワシントン州、人口8万)
     

アメリカでも地域に根ざした経済モデルの試みが始まっています。
ワシントン州、ベリングハム市の人気レストラン。名物メニューの材料は全て地元産。フルサークルバーガー、地域循環バーガーと銘打っています。地元の人の店で地元の商品を買い、地元にお金を落とすという意識を根付かせることで、地域経済を活性化させる試みです。

      

市民「大型チェーン店でお金を使っても、この地域には残りません。株主への配当になってしまうだけです。」

こちらのスーパー、人気の秘密は新鮮で安心な地元産の品々。売り上げが伸びたことで、毎年のように地元の従業員を増やしています。こうした企業が多いこの地域の失業率(7.1%)は全米平均(7.7%)を下回っています。

市民「ここで買い物をすれば、私が支払った代金から多くのお金が地元に還元されるのです。」

地元の商品の購入を12年前から呼びかけてきたNPO代表デレク・ロングさんは、地元の企業を結びつけることで、より多くの富が地域にもたらされると言います。
「これまでの経済のあり方が変わり始めています。環境を重視し、地域に密着したものへと姿を変えつつあります。地元での取引を増やしていけば、地域の経済は一層強化されるでしょう。」

自治体も後押しをしています。地元企業のソーラーパネルを使用すれば発電量に応じた報奨金(1キロワット/時当たり0.54ドル [1年間で最大5000ドル] )が州から支払われます。その為、価格面で中国製にかなわなくても普及は進むと言います。

ソーラーパネル製造会社部長「低コストで製品を作ることが出来ればもっと多く売れるという経済性の理論はできるでしょう。しかし、私達にとって重要なことは、このように小さな会社でも地域に根ざしていることで、地元の業者、地元の自治体、そして地元の人々から、実に様々なサポートを得られるということなのです。」

この会社はNPOと協力し、収入の少ない人が家を購入した際、電気料金が安く済むようソーラーパネルを寄付することにしています。企業の利益が地元に還元され、それが人々の地元商品を購入する動機になっているのです。こうした試みが続くベリングハム市は10年で経済規模が2倍になる成長を見せています。

初稿 2014.10.13 更新 2017.12.21 

地方をどう創生するのか~アベノミクスと日本経済の未来①

2014-10-11 21:30:01 | NHK
 2014年1月25日、NHK,BSの「グローバルディベートWISDOM」という番組で「日本経済“未来型モデル”を求めて」 が放送された。
 司会 20年以上にわたり停滞し、デフレが続いてきた日本経済。安倍政権の経済政策「アベノミクス」で、今年景気は本格的に回復するのでしょうか。さらに、長期的な視点から超高齢化社会を迎える日本にはどのような経済モデルが必要なのでしょうか。今日は「日本経済“未来型モデル”」と題して議論していきます。
  賃上げ(動画)), 財政問題(動画), 構造改革(動画), 生活インフラ(動画)

 NHKでオンラインの双方向番組が多くなってきているように、視聴者にとっては電波もインターネットも同じ環境となりつつある。全番組の公開と受信料を考慮したNHKオンデマンドになって欲しいものだ。それはNHKがそれぞれの時代に何をどう報道したかの軌跡を歴史に残すことでもあり、それによって政治家等がNHKを批判したり支配しようとしてもその痕跡を国民が知ることが出来る。国は国民に対して、NHKは視聴者に対してある意味での情報開示の義務がある。

 藻谷氏の「里山資本主義」は、地方(里山、里海)再生の動きの事例をNHKの番組を通して紹介されてきた。藻谷氏は、マネー資本主義から里山資本主義への転換を主張され、アベノミクスも批判されているが、「アベノミクス有害」の批判に首相が激怒(湯沢平和の輪,2014.9.30)しているそうだ。地方再生の動きを知ろうとしないで、どのような地方創生を目指すのであろうか。

 実は、首相が激怒する前に、冒頭に示した番組「日本経済“未来型モデル”を求めて」で、安倍内閣の官房参与としてアベノミクスを指導している浜田宏一氏(エール大学名誉教授)が藻谷氏とは初対面、白川元日銀総裁は大学の教え子ながら、両者ともに経済学を知らないと激怒している。経済の一面しか表せない経済学が現実の経済より優れていると言うのであろうか。ここでは浜田氏の発言を中心に書き起こしておいた。私も経済学は学んでいないので、浜田氏の発言、ことに単語には聞き取れないところが多い。その場所は(○○○?)としている。

参考:白川方明・日本銀行総裁への公開書簡(浜田宏一氏から)
    :市場を思い通り動かそうとする政策に危うさ=退任会見で白川日銀総裁

以下は番組から浜田氏の発言を書き起こしたものです。
アベノミクスの1年(動画)

司会 アベノミクスが打ち出されてから1年、まずは皆さんにこの1年を振り返ってその評価を出していただきたいと思います。始めに、アベノミクスで日本経済はどのような変化を見せているのか、そこから見ていきたいと思います。

VTR:日経平均株価は16291円と56.7%上昇、1ドルは87.65円から105.31円と20円の円安、GDP成長率は0.7%から 2.6%に増加、完全失業率は4.3%から4.0%(11月)と減少。

安倍首相講演(一部)「日本経済は長引くデフレからぬけだそうとしている。今年は春に賃上げもある。久しぶりの賃金上昇で消費が伸びる。日本の財政状況も着実に改善し、財政健全化の軌道に乗りつつある。」  参考:外務省:安倍総理大臣のダボス会議出席(概要)
司会 安倍総理大臣は今週ダボス会議で日本の総理大臣として初めて基調講演を行い、アベノミクスの成果を世界に向けてアピールしました。  安倍総理大臣の基調講演と浜田氏の評価(動画)

司会「まずはダボス会議に出席していらっしゃる浜田さんに伺いたいと思います。今、VTRでご覧いただいたように、ダボス会議に安倍総理大臣が出席して日本経済の復活をアピールした訳ですけれど、海外の受け止めはどうなのでしょう。」

浜田1「私も会場におりましたし、皆の言うところによれば大変力のこもった講演である。特に第3の矢、構造改革に対して日本政府の決意がちゃんとあるんだよということを示された、ということで海外のメディアからも非常に高い評価を得られていると思います。つい総理の施政方針演説等では、お役所の人の書いた文章というか、非常に硬ぐるしい形の講演が多いが、この場合は聴衆の心に迫る講演であったということです。
 あの、靖国のことについても、僕はアメリカの知人にちょっと聞いてみたんですけれど、自分の思っておられることを非常に素直に真剣に訴えかけられたということで、靖国問題に対しては賛否両論のある方面からも着実にメッセージが伝わったという風に反響が帰ってきているようです。」

注:唐突に靖国とは何だ?と思ったが、首相の基調講演後にシュワブ会長が、「安倍晋三首相は講演でアジアの安定の話をしたが、首相の靖国参拝によって近隣国との関係を悪化させているのではないか」(2)(3)と質問したことに対する首相の回答の評価のようだ。それにしても浜田氏は、この番組における発言からは質問に誠実に答える学者というよりも、自分の考えや主張が先に出る自己主張の強い人に見える。

司会「ちなみに浜田さんはこれまでのアベノミクスの成果をどう見ていらっしゃいますか。」

浜田2「これは半ば冗談でもありますが、金融政策は当然効くことである訳ですが、それが思った以上に効いている。そういう意味でA+であろう。財政政策は財政を使うということは財政長期収支にマイナスにも効くから、まあ、AではなくてB。そして問題は第3の矢になりますけれども、これは政府のできることは今限られていて、一番なすべきことは規制改革である。しかし、規制があるので喜んでいるのはどちらかと言えば官僚である。そういうお役人に自分が利益を得ているようなことを止めさせることは、侍に鎧を脱げと言うことでなかなか厳しいということで私はEとつける。そうするとA,B,Eとなってアベノミクスがまた戻ってくるというのが私の評価です。」

注:第3の矢(構造改革)の評価は、官僚の反対で規制改革ができないのでEとし、「アベノミクスがまた戻ってくる」と言うのは内閣官房参与として無責任な発言である。それこそ「政府のできることは今限られていている」のではなく、役人が利益を得ているようなことを止めさせることは、「政府がやるべきこと」ではないか。冗談にしても、これではアベノミクスの失敗を始めから認めているようなものだ。

VTR:アベノミクスの評価について出席者や内外からの意見を聞いた後に

司会「はい、世界の声でも様々な課題が指摘をされてきている訳ですけれども、果たして今年、2014年、アベノミクスに死角はないのでしょうか。」

VTR&司会:アベノミクスの今後を左右する賃上げ、財政問題、構造改革。日本経済はこの3つの課題を乗り越えて順調に成長できるのか議論していきます。

賃上げ(動画)
司会「まずは、賃上げについてです。安倍総理大臣はダボス会議の基調講演の中で、先ほどお聞きいただいたように、今年の春には賃上げもある。久かたの賃金上昇で消費が伸びると述べています。賃金の上昇は経済の好循環につながるというのは分かるんですが、問題はそれが一部に留まらず広く拡がっていくのかどうかだということだと思います。そこで、浜田さんにお伺いします。浜田さんは日本での賃金上昇の動きが拡がっていくとお考えでしょうか。」

浜田3「はい、思います。もし、アベノミクスが証券市場とか円の為替市場だけに留まっているのであれば、それはいろいろ投資家の心理とかそういう問題にも影響されるので、本当に回復に結びつくとは必ずしも考えられません。しかし、現在、有効求人倍率、どのくらいの雇用が求職者に対してあるかというのが1を越えるような状態になってきている。それからデフレギャップが1.5%以下になってきている。そういう実質に移っている訳です。ですから、(マツノ?)さんがよく言われるように(トリックダウン?)の政策であることは事実なのですが、それが滴り落ちているということが、だんだん実際のデータから出ている。特に(FT?)で読んだんですけれど、景気の先行指標であるところの「機械受注」というのは大幅に昨年度もだし、今もずっと伸びている。そういう事実を見るとアベノミクスに対する批判者の方は事実を見ているのであろうかどうだろうかと考えます。理屈でいろいろ言ってそれが働かないと、言われることは勝手ですけれど、20年間近く続いた不況気味の日本経済が変わって、それで世界の主要(新聞?)、ニューヨークタイムズとかウオールジャーナルで安倍首相の演説の効果もありますけれども、全面的に取り上げられる。そういう時代になってきたということは積極的に評価していただきたいものだと思います。」

注:(マツノ?)、(トリックダウン?)、(FT?)は、素人には聞き取れない言葉。「マツノ」は民主党議員の松野信夫氏、「FT」は「フィナンシャル・タイムズ」のことか?「トリックダウン」と聞こえたのは司会者が説明している「トリクルダウン」のことで、続く話にも聞き取れない言葉が多く出てくる。

司会「今、トリクルダウンという言葉が出てきましたが、(これは、)まずは富裕層中心に富を得て、それが次第に低所得者層にも拡がっていく。つまり、大企業がまずは利潤を手にして、それが賃金という形で、最終的には中小企業、中小企業で働いている人たちも拡がっていくという考えですけれども。」

財政問題に関する論争(動画)
--- 賃金問題、財政問題について出席者から意見が出た後に ---
司会「(藻谷さんの考えは、賃上げは大切だが、現場はそうはなっていない。また、国債発行して景気対策をするより、)財政再建、規律(医療・社会福祉システム)をしっかりすることが先で、(安心社会になれば)消費が回復するということですね。」

注:藻谷氏と浜田氏の意見がつながるように、()にまとめておいた。

司会「浜田さんはこの藻谷さんの考えをどう思われるのでしょうか。」

浜田4「よく現実は違うんだ。学者の考えていることは空論だと強く言われるが、逆に言うと経済学200年以上の歴史を全く無視して自分の考え方を述べておられる、という点で、経済は分かっているかもしれないが、経済学を分からないでしゃべっておられると思うぐらいおかしい。それからですね、今日も私、(ロゴフ?)とかジェイコブ・フランケルとか会って来ましたが、そういう人達と僕は何十年と研究している訳ですから、経済学をそんなに軽蔑しないでもいいじゃないかということを強く、初対面ですが申し上げたいと思います。しかも証拠はアベノミクスで経済の活況があるということは、・・・『藻谷:経常赤字ですけどね』・・・ 経常赤字も(ジジカーブ?)のことが分かっていないのですね。時間が経てば治るということはどこの経済学の教科書にも書いてある。・・・『藻谷:どのくらいの時間が経てばね』・・・それから銀行は確かに経済成長の重大な問題ですけれどもデフレに関係あるなんてのは、・・・『藻谷:今そのことを話していない』・・・(スリーウィ?)以下の知識だと思う。そういう知識を一般の人に向けて、しかも日本銀行元白川総裁がそれに乗って自分の言いたいことを言ったというのは大変不幸なことだったと思います。
 財政問題に変わりますが、僕も今日は興奮しないで来るつもりだったんですが、まあ議論が高まるのは良い。財政はIMF(国債通貨基金)にも行きますし、それからEC(ヨーロッパ委員会、すなわちEUの政府)にも行きました。日本は皆240%大変だ、大変だと言っている。しかし実際は、日本の財務省の考える財政収支というのは資産の点を全然考えないグロス等の概念で、純概念にすると日本の財務部門の状態はアメリカとあまり変わらないというのが、財務省を出た高橋洋一さんとか昔、財政政策をしていた宮本さんなんかが、そういう問題を実際に内部に(いてて市場?)で説明している。」その悪宣伝というか非常に巧妙な秀才技みたいな人が多い訳ですから、それが世界に過ぎている。過剰宣伝みたいなものがあると国民の皆さんには分かってもらいたいと思います。」

注:(ロゴフ?)はケネス・ロゴフ、(ジジカーブ?)はJカーブのことか?(スリーウィ?)は意味不明だが3流に近い意味か?「経済は分かっているかもしれないが、経済学を分からないでしゃべっておられる」というところに現場より理論が重要だという浜田氏の考えがよく出ている。しかも事柄よりも知人の名前が出てくるのもこの人の特徴だ。しかし、後半の(いてて市場?)は、高橋洋一さんとか、宮本一三さんが、内部にいる時は「巧妙な秀才技」で悪宣伝をしていたという意味なのか?

司会「かなり学問的に入り込んで来たなと感じがします。3つ目の課題「構造改革」に行かせていただきます。」

構造改革(動画)
--- 3人がサービス産業や労働市場の問題を指摘したが、浜田氏は指名されず。浜田氏の「構造改革」に関する意見は、浜田2「官僚が邪魔をしているので困難とE評価にした」ことに尽きるのか。

 ここまではアベノミクスの評価について浜田氏の考えを紹介してきた。アベノミクスはマクロ経済学の理論が正しいことが前提になっているようだが、経済学者の間にもリフレ政策を批判する人もいる。また、現場は理論についてくると考えて良いのだろうか。さらに、マクロ経済学と消費税増税の関係はどうなっているのであろうか。

 どのような日本経済“未来型モデル”であれば、「地方創生」ができるのであろうか。続けて「日本経済“未来型モデル”を求めて」を紹介しながら考えていきたいが、アベノミクスについては「アホノミクス」と明快な批判をされている浜矩子教授の動画を紹介させていただく。

参考:
アベノミクスの真相と国民本位の行財政のあり方:浜矩子
「何をどう選ぶのか:岐路に立つ我ら~「日本の今」の中にある福音:浜矩子
安倍政権の正体 - 妖怪は女性にしか倒せない - 浜矩子
浜矩子 (はま のりこ)さん アベノミクスについて語る

初稿 2014.10.11 更新 2017.12.21

平和への不安を煽るNHK報道部

2013-09-23 14:18:56 | NHK

NHKスペシャル「戦後68年 いま、"ニッポンの平和"を考える」を考える

問題提起  (平和への不安が高まる中、ニッポンの平和をどう守るのか)  前篇(35分)

司会A「世論調査で日本が戦争や紛争に巻き込まれたり、他の国から侵略を受けたりする危険があると答えた人は69%に上りました。」 : NHK世論調査(全国20歳以上、男女2500人。うち、1503人が回答)
自衛隊行進の映像、
司会A「日本の平和を守るために、防衛力の強化が必要だと考える人も増えています。」

岩田「戦後60年間、我々が平和であったのは平和憲法があったからではなくて、自衛隊が一生懸命働いていただいたこと、それと強固な日米同盟があった、要するに軍事力があった、ここに尽きていると思います。」

岡本「外交が大事なのはもちろんですね。だけど防衛と外交は二者選択ではなくて、まず外交でやるべきですよね。危なくなった時のセーフティーネットとして防衛力がある、抑止力がある。抑止力とは何かというと、端的に言えば、例えば、横須賀に置いてあるアメリカの第7艦隊ですよ。あれはジョージ・ワシントンという航空母艦を含めて全体が3~4兆円のお金がかかっているんですね。もっとかも知れません。そういう巨額の金を投じた艦隊が日本の首都のすぐ隣に置いてあるということが、周辺諸国に対して自分たちは日本を守るぞという強い決意になっている。だから、仮にどっかの国が日本の自衛隊は怖くないと言って来たって、アメリカと戦争する、アメリカから報復されるのはいやだからどこも日本にチョッカイをださない。そういうメカニズムがある。」

この番組への疑問

 「平和への不安が高まる」ことを前提に、「どう平和を守るか」と問うことは、軍事力の強化を望む答えを求めているようなもの。最近の原発事故の報道も真実に迫るのではなく政府の広報機関に堕していたが、この番組はそれをさらに逸脱して軍国主義化を煽った戦前と同じNHKではないかと思いました。

 ここでは、世論調査の扱い方、討論参加者の人選(シナリオと番組の編集)、世論を代弁していない市民討論等の疑問点を指摘したいと思います。

1.世論調査の扱い方

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 「日本が戦争や紛争に巻き込まれたり他の国から侵略を受けたりする危険」があると答えた69%はマスメディアの報道の影響を受けたものであり、「安全保障や外交に関して日本人の意識は変わってきている」と答えた65%とほぼ一致しています。むしろ危険と思っても、安全保障や外交に関して日本人の意識が変わったと思う人は4%少ないと読むこともできます。

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  自衛隊の防衛力についても、増強したほうが良いと答えたのが24.8%に増加していることを強調していますが、今の程度で良いが60%あり、平成21年度の65%より5%減少しているにすぎません。危機感を煽っても自衛隊の防衛力は60%が今の程度で良いと答えているのです。
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 また、日本と中国の人の中で、相手国に「良くない印象」を持っている人が2013年に90%を超えたとしていまが、2010年の中国は56%と日本の72%より低く、2012年までは日本より低かったものが、2013年に93%と日本の90%より高くなったものであり、日本の尖閣諸島の国有化が中国を刺激したものであり、中国の脅威が増していると言うのは、むしろ日本政府に問題があります。

 与那国島の町長選挙の先頭に自民党の小池議員がいて、菅官房長官が「自衛隊の与那国配備というのは、私たちは必要だと考えております。」と断言している政府の前のめりな姿は、尖閣諸島の問題は政府の責任が大きいことを示していると言えましょう。

2.報道の基本を踏み外した取材

 我々には尖閣諸島周辺で何が起こっているのか分かりません。それを正確に伝えるのが報道の基本です。この番組では、「島では漁業関係者の間で、自衛隊の配備を望む声が高まっていました。去年、日本が尖閣諸島を国有化して以来、中国の監視船と頻繁に遭遇するようになったからです。」 というナレーションに続いて漁民Aが仲間から聞いた話「尖閣に行っている仲間がいるんで、すごいと言っていましたね。日本の漁船を見ると追いかけ回してくるって。」を紹介しています。まず、聞いた話ではなく直接経験した本人を登場させるべきですし、それよりも。「中国の監視船が日本の漁船を追い回すことはない」という情報もありますので、中国の監視船が日本の漁船を追い回している映像を紹介するのが報道の鉄則です。また、漁業権で中国と台湾を分断するために、地元の漁業者に相談することもなく『日台漁業取り決め』が締結されて以降、台湾の漁船が急増しているニュースは無視しています。

 尖閣諸島の歴史的問題については、岡田充著『尖閣問題―領土ナショナリズムの魔力』が、最も信頼がおける情報だと思いますが、これを推薦しているブログでは、『NHKなど自らが手を染めた「国民の右傾化」を白々しく「世の中が右傾化していますね」などと他人事のように話す無責任極まりないオトボケぶり。自らの無能さを隠すための属米外務官僚らの世論誘導そのまま垂れ流す始末。いま、マスメディアを中心とし歴史的事実を捻じ曲げようと行われているのは、心理学的にあるそうだが、事実でないことでも延々と言い続けると、それがあたかも「事実」であるかのような錯覚に陥るマインドコントロールである。国民を洗脳するための「ウソ」を言い続ける』と論じています。

3.討論参加者の人選(シナリオと番組の編集)

 司会者は論議の冒頭で「今夜は生放送で議論していきます。」と言っていますが、自由な論議を時間内にまとめることはできません。しかも報道と市民討論を挟んでの論議であり、NHKが政府の広報機関であるという立場からも、政府の政策に直接異議申し出ないよう討論者の選抜を含めて、シナリオが作成され編集されたと考える方が自然でしょう。

 例えば、岩田氏や岡本氏の発言は明瞭にして論理不在の感がありますが、半藤、伊勢崎氏はこれに明確な反論を与えず、論理あれども不明瞭な印象を与えています。このことから改憲に疑問を抱く若手の宇野氏から、「保守の人は明確な回答を持っている。改憲して、国軍を作って、重武装化してという回答を持っている。これに対抗するリベラルの人達の処方箋が全然ない。とりあえず反対とかで具体案がない。その差が世論調査にも出ているのではないか」 と言わせる結果となったように思います。「保守は改憲と国軍の重武装化という明確な回答を持つ」けれども、それは手段の明確化であり安全の解決には決してなりません。しかも、手段は「絶対に戦争はしない」ために選択すべきです

 NHKの報道や今回の論議のシナリオの危険性はここにあります。安全の解決に関する個々の論点につきましては、後半の論議で検証したいと思います。

4.世論を代弁していない市民討論

 市民討論は18名で実施されています。世論調査では自衛力を増強した方が良いのは25%であったので、世論を代弁するなら4~5名が自衛力増強派で残りはこのままで良いか縮小派となるはずです。しかし、市民討論の結果「国の守りを強化すべきかどうか議論が分かれた」とし、「意識の変化をどう考えるか」から議論に入っています。このシナリオで議論を誘導することは、世論を誘導こそすれ、世論を代弁するものではありません。

 日本の世論の実態はどこにあるのでしょうか。不安を煽れば強くありたいと願うでしょう。しかし、銃で身を守るアメリカ社会は市民が市民を殺し、他国からのテロ攻撃の対象とされています。軍事力を行使して強くなろうとすることが、他国に嫌われこそすれ安全を守ることにはつながっていないことが、アメリカの悩みであり、平和を考える確実な第一歩ではないでしょうか。


戦後68年 いま、"ニッポンの平和"を考える(2)

2013-09-23 08:12:38 | NHK

NHKスペシャル 「戦後68年 いま、"ニッポンの平和"を考える」

アメリカとの関係は (後編 40分)

司会A「ここで日米同盟を巡る両国の最新の動き、そしてそれを受けた市民の討論をご覧いただいて、再び話をしようと思います。」

ナレーション「今年6月、自衛隊とアメリカ軍による大規模な上陸訓練が行われました。今回は陸上自衛隊に加え、初めて海上自衛隊が参加。過去最大のおよそ千人の隊員が派遣されました。離島の防衛に必要な作戦のノウハウを学ぶのが目的です。背景にあるのは台頭する中国の存在です。見直しが進む防衛計画の大綱。その中間報告では、中国の軍事力の急速な近代化や海洋活動の活発化が、地域の安全保障上の懸念となっている、としています。現在、安倍総理大臣はこれまで歴代の政府が憲法解釈上許されないとしてきた集団的自衛権の行使について、それを可能とする憲法解釈の見直しに意欲を示しています。第一次安倍内閣の時に設けた有識者による懇談会を5年ぶりに再会しました。」

安倍首相「東シナ海や南シナ海の情勢も変化している。日米同盟の責任はますます重たくなってきている。」

ナレーション「有識者懇談会では、共同で活動中のアメリカ軍の艦艇が公海上で攻撃された場合、自衛隊が守れるようにすることなど様々な検討を進めています。こうした日本の動きを同盟国アメリカはどう見ているのか。ケリー国務長官に政策提言を行っているケント・カルダー氏、日本が集団的自衛権の行使を可能にすることは日米同盟を強化するために重要だと考えています。」

ケント・カルダー「実際の紛争でアメリカ軍が攻撃を受けた時に日本の自衛隊が助けてくれるかどうかは、日米同盟の根幹に関わる問題です。それができないとなれば、日米同盟はうまく機能しなくなると思います。」

ナレーション「一方、アメリカにとって国際社会での影響力を強める中国は無視できない存在になっています。中国との新たな関係を模索するオバマ政権はアジア外交の重要なパートナーである日本が中国と過度に対立することを望んでいないとカルダーさんは指摘します。」

ケント・カルダー「日本はアメリカにとって重要な同盟国で、アメリカのアジア戦略において大きな役割を果たす要石です。ただ、アメリカとしては国益にそれほど関係のない理由で不必要な紛争に引きずり込まれることを望んではいないのです。

ナレーション「国際情勢が大きく変化していく中、アメリカとの同盟関係をどうしていくのか。番組が行った世論調査では、今より強めるべきが26%、今のままで良い50%、今より弱めるべきが8%、解消すべき5%という結果でした。」

Heiwa18 司会B「アメリカとの付き合い方、どういう風にしていったら良いと思いますか。」

Aさん・同盟関係を強化すべき(66)「今、アメリカの発言をみると、日米同盟もこのままでは危ないんじゃないかと思う。アメリカも自分の国の国益が一番だと思う。日米同盟ももう少し深化させていく努力が必要。」

Lさん・このままでよい(22)「今日まで自衛隊の戦死者がゼロであったのは9条のお蔭というよりも、米国との同盟関係に守ってもらっているということも忘れてはいけない。」

司会B「Mさんはアメリカにお住まいだったのですね。」

Mさん・同盟関係を弱めるべき(48)「私ごとになりますが、テロに巻き込まれて主人は亡くなっている。テロ事件が起きてからのアメリカの迷走ぶりというか、一気にアメリカの名の下に我々は集結していくんだという感じで、殆ど戦争ムード、もしかしたら本当に大きな戦争が起きて日本も巻き込まれていくんじゃないかという恐怖感が今でも残っている。本当に道を誤って欲しくないと、それはものすごく感じた。」

Nさん・同盟関係を弱めるべき(58)「アメリカに、しっかり自立したというか距離を置くことが必要だ。例えば、中国と韓国、周りの国々との関係をきっちりと作っていくことが、アメリカとの対等な関係を作ることに重要なことだと思う。」

Oさん・このままで良い(65)「結局、アメリカともアジアとも仲良くしていかねばならないということですね。」

Nさん・同盟関係を弱めるべき(58)「もちろん、そうでないとダメだと思います。」

Pさん・同盟関係を強化すべき(36)「正直、アメリカしかないんじゃないの。いろいろやらかしているし、100%信任はできないけど、周りを見たときにしょうがないからアメリカを選ぶという、そういった使い方をしていくしかないと思っている。」

Heiwa19 司会B「現実的な選択肢として日米同盟の強化が必要なのではないか、という声の一方でアメリカの戦争に巻き込まれる恐れもあるのではないかという声もありました。アメリカとの関係をどう考えていくべきか、岡本さん、どうお考えですか。」

岡本「日本の防衛費はGDP比では世界で130番目以下です。本当の軽負担で済んでいる。日本は戦後、防衛費にお金を使わないで、その分を全部、経済発展につぎ込んでくることができたから今日の繁栄がある。それはアメリカ軍という抑止力があるから日本は誰からも攻撃される心配がなかった。でも今の集団的自衛権というのは、同盟国としてやらないといけない最小限のことはある。例えば、今も議論していますが、今の法制局の見解では、北朝鮮がミサイルを発射した。日本に向かっている。撃ち落そうかと思ったら、あれはサンフランシスコに向かっている。アー、万歳。と言って日本は何もしない。行ってらっしゃいてなもんですよ。そんなことで同盟関係が成り立つ訳がない。だって、結局は人間の心理の問題ですからね。我々は安全というものを痛みを伴うことなく貰うことはずーっと慣れてきていますが、少しでも痛み、つまり集団的自衛権に関わる部分が出てくるといやだいやだと、それは通用しなくなってきている。それくらい国際情勢が今、緊迫化してきているということだと思います。」

司会A「一方、市民討論でも、アメリカに巻き込まれていくんではないかという心配が出ていましたが、半藤さん、いかがお考えですか。」

半藤「私は集団的自衛権というのを、何のためにやるのかいつも思っている。岡本さんの話は、よく例にあがる話ですからそうだろうなとは思いますが、安保条約をよく読んだってアメリカが日本を守ることは書いてありますが、日本がアメリカを守るとは1行も書いてないですよ。アメリカ議会は上院も下院も批准している。アメリカは安保条約を見る限り日本に守ってもらおうということなんて何も考えていないと思いますよ。ですから例としては分かり易いが、本当に日本が集団的自衛権をやるとなると決めると、一番喜ぶのは中国だと思います。中国の軍部が一番喜ぶんではないか。日本はやっと昔の日本らしく平和主義を棄てたと中国国民に言える訳ですよ。大ぴらに、今度はね。」

司会A「岡本さん、今の指摘どうでしょうか。アメリカを守るとはもともと書いてないし、アメリカも納得していたんではないかという指摘ですが。」

岡本「事実としては、その通りですね。韓米相互防衛条約はアメリカと韓国の間、あれは両方共が集団的自衛権を持っていますからお互いに守り合う。日本は集団的自衛権を持っているけど、それを憲法のもとで行使しない、という不思議な法制局の結論がありますから日本はアメリカを守れない。その代わりに日本はアメリカに120ヵ所以上の施設区域 、基地を提供して日米の義務と権利をバランスさしているというこういう感じですね。日本は全然お腹を痛めることなくアメリカにやっぱり守ってもらっている、とこういう仕組みですね。これは別に悪いことではない。日本が守られているという意味では大変に得な制度だと思います。」

司会A「伊勢崎さん、如何でしょうか。」

伊勢崎「アメリカは火力(兵器)という意味で日本に貢献を期待しているかどうか、それは政治的な局面では、これは外交ですから、絶対それを要求してきますが、現場のレベルではあまりそういう感じは億は受けていない。」

司会A「どういうことですか。」

伊勢崎「海上自衛隊(海自)を例にとっていますが、日本はご存知のように単年度予算でイージス艦一隻も作れませんよね。ご存知のように、防衛庁の枠がありますから。それを一番分かっているのはアメリカで、だから海自は米をいかに補完するか、例えば哨戒能力は日本は大変優れていますから、それは米も頼っている。偵察能力ですね。そういった意味で米が持っていないものを、日本も現場では海自も補完して来ている。それで同盟を築いて、このままいくことに何も不満はない。米も日本が防衛費を今以上に何十倍も割いてイージス艦を一杯持てとか、原潜も作れ、空母も作れという風にはなっていない、現場の人間の理解では。」

司会A「半藤さんは協力していくことそのものに心配しているということですが、伊勢崎さんはちょっと違っていて、もっと日本にできることが日米関係の中でもあるかもしれないということですね。」

伊勢崎「そうですね。」

司会A「今の指摘はどうでしょうか。」

半藤「まあ、あると言えばあるかも知れませんね。でもなにも日本の国そのものを不利にするような拡張をする必要はない。」

伊勢崎「そうです、そうです。」

司会A「岡本さん、今の指摘、いかがでしょうか。」

岡本「例えば、インド洋に日本は海上自衛隊の補給艦を提供して給油活動をした。あれはアフガニスタンにいるタリバンやアルカイーダが麻薬を持ってイエメンとかソマリアとか対岸にインド洋を越えて行こうとする。それをインターセプト(遮断)するというミッション(使命)を持ったのは日本の補給艦ではなくて、各国がやっている警備部隊なんですね。日本は安全なところにいて、その警備部隊に油を提供する。これだけでも各国は非情に喜んだし、日本自身はテロとの戦いに安全な形で参加したんですね。ですから伊勢崎さんも仰ったように、日本ができる範囲で、もちろん憲法なんかと全く抵触しないやりかたで、国際的な協力に参加することはいくらでもできる。」

司会A「伊勢崎さん、アメリカとの関係を強めるということが、他の国の人達が日本を見る目にどういう影響を与えると思いますか。」

伊勢崎「これは僕の個人的な経験ですが、アフガニスタンでの対テロ戦で米軍(後にはNATO軍)による占領政策に国の代表として2002年、2003年頃関わったが、その時の現場レベルでの感覚ですが、僕の付き合いのある米軍の将軍の人達は、日本の良さを火力での期待ではなくて、日本の持っている平和的なイメージを米が占領政策、人心掌握のためにうまく使ったという例がある。それが武装解除だったんですけど、これが対米協力という意味で非情に米が利用した。これも米が持ってない資質なんですね。米は火力を圧倒的に内在しているから現地社会では嫌われる。それをいかに受け入れさすかで日本を使った。その補完関係が非情にうまくいった例が一番アフガニスタンなんですね。

司会A「それでも相手から見れば日本とアメリカが一体と、いうそういう感じは。」

伊勢崎「一応、米の占領下ですから、アフガニスタンは。米と仲がいいとは分かっている訳です。だけど沖縄の状況、アフガニスタン人を沖縄につれていくとびっくりするでしょうね。日本はアメリカの軍事基地ですから。あそこに連れて行けば分かっちゃう訳ですが、そういう感覚は彼らは知らない。米の司令官が僕に言ったことですが、日本は美しく誤解されていると。」

司会A「美しく誤解されている?」

伊勢崎「はい、実態は知らなくて日本のイメージがある訳ですね。」

司会A「半藤さん、アメリカと一緒になる、それは世界から見られることは、半藤さんはどう思われますか?」

半藤「だってもう、世界はそう見ていますよ。私がどう見るより何よりも、伊勢崎さんが言うように世界中がアメリカのために働いているというのは見てますよ。それは良いですよ。日米同盟というか条約を評価するためには悪いことではないので、それは結構だと思いますよ。だけど、今度は日本自らが条約の先を言って、条約以上のことをやって、日本が世界中に嫌われるような形になる不利なことをする必要は全くないということなんです。」

司会A「条約以上のことをやると何故嫌われる?」

半藤「だって、日本が平和国家であるということを止めることを表明するみたいなもんですから。」

司会A「・・・・」

半藤「つまり集団的自衛権を行使するということは、例に上がりましたように北朝鮮の弾が(ミサイルが上がって)くるかどうかは別にして、日本は攻撃的になる訳ですから。」

司会A「・・・・」

半藤「日本は攻撃国家になる訳ですから。」

司会A「宇野さん、どう受け止められますか。」

宇野「皆さんの議論を聴いていて、この問題って本質的な対立はないですよ。どう考えても短、中期的にはアメリカとの同盟を前提にしながら、どうやっていくかの問題だけですよ。かと言って100%言いなりになるのは馬鹿じゃないですか。だから9条でもなんでもいいし、カードを使いながら駆け引きをして、どう日本人の安全と国際平和への貢献を獲得していくかという問題があるだけですよ。長期的にはアメリカだけではなくて中国とか韓国とかを含めて包括的な東アジアの安全保障の枠組みを作っていきましょうという問題があるだけで、あとは技術論だと思うんですよ。逆に言うと、なんでこういう議論を今まで70年近く出来てこなかったのかという問題ですね。」

司会A「岩田さん、どう思いますか。」

岩田「今、宇野さんが仰った通りだと思います。これは技術論だと思いますけど、技術論も大事な部分で、先ほど岡本さんが仰った通りミサイルが飛んできた時に、これを日本が打ち落とすというのは、半藤さんが攻撃的と仰ったが、飛んできたミサイルは飛ばした方が攻撃的なのであって、打ち落とす方は攻撃的ではないと思う。集団的自衛権をアメリカに巻き込まれる巻き込まれると極端な議論だけが先行していて、現実的にどういう風に貢献できるかをリアリズムの立場で考えることが一番大事だと思います。だから技術論といば技術論です。」

半藤「技術論なんです。今、仰るように。ですから、あんまりやっても意味がないんです。」

司会A「そこのところが次の重要な議論のテーマになると思います。これまでは、冷戦時代はアメリカと一緒にいることが一番大事な選択肢で疑いがなかったと思いますが、テロが多発していますし、世界が不安定化しています。

司会B「そういった不安定化している中で、ニッポンはこれからどうしていくべきか。宇野さん、どう思いますか。」

宇野「その点ですか。今、僕言ったと思いますが。ひとつ前に言ったことをそのままコピーして貼り付けたら答えになると思うけど。」

司会B「じゃあ伊勢崎さん、いかがですか。」

伊勢崎「あのー、テロとの戦いですね。テロというのは、これは概念との戦いなんですね。テロリストというのは、多分僕自身明日なるかも知れない。アメリカ自身の中にもいますし、、同盟諸国の中にもいますし、これは概念との戦い、やっかいな戦争に今、我々は突入して、多分これから半世紀ぐらいは続くのかなと思いますね。これに一番苦しんでいるのはアメリカなんです。で、同盟諸国もその被害を受けている。アメリカ自身が苦しんでいる例としてスノーデン事件がありましたね。国内に脅威があるからホームセキュリティと対テロ戦が一直線上にある。それが暴露されたのがスノーデン事件です。そういう問題です。概念というのはこういう厄介な問題、アメリカが一番考えているのは、いかに過激化を防ぐか、ご存知ですね、「Counterinsurgency」と言ってアメリカの軍事マニュアルにもなっている。つまり、人心をどう掌握するか、火力を使わないで、いかに信頼を増して対アメリカの激しい憎悪を抑えるかがアメリカの基本戦略なんです。でもアメリカにはできない。何故かというと火力を内在しているから。見えない訳ですね。これをセキュリティジレンマ、ジレンマとして捉えている。つまり自分たちの内在している実態と自分たちがやりたいことのギャップ、これをジレンマとして彼らは戦略的に意識している。」

司会A「そこは、日本はどうなんです。できるんですか?」

伊勢崎「日本は同盟国でありながらその対極にいる訳です。我々は火力を使わないで外交をやる、戦争はやらないと言っている訳ですから、そもそも日本みたいな国に国境問題がある方がおかしい訳です。この辺は外交して来なかった。半藤さんの意見に大賛成ですけど。とにかくアメリカが一番苦しんでいる。ジレンマを抱えながらジレンマを意識しながら今苦しんでいる問題がテロとの戦いで、これはこれからずーっと続く。その時に日本の立ち位置はどうなるのか。日米同盟を強化するのは当たり前、強化と逆の方になりようはないじゃあないですか。日本はアメリカの基地なんだから。そうではなくて、今、大切な同盟国が今、本当に苦しんでいる。その苦しんでいることをどうしたら良いかは彼らは分かっている。でもできない、この現実を我々が一番重要な同盟国としてどう理解するか。この感覚が政治家には全然達足りていない、右も左も全然足りていない。」

司会A「平和を看板にしてきたものだからできることがあるという今の指摘、土井さんどう受け取られます。」

土井「対テロ戦争まで話が広がるとは思っていませんでしたが、対テロ戦争の原因、テロの原因は人権問題ですよ。カシミール問題あり、パレスチナ問題あり、国内の問題もありましたが、どこにもかしこにも全部に不正義があり、人権の問題がありなので、そこを解決するべきですね。日本はその能力がありながら戦後、残念ですが外交の力をほとんど発揮してこなかったと私も思います。ただ、我々が今、現実に脅威として直面しているのは中国と北朝鮮ですよね。この国がもし自由と民主主義を基盤とする国であれば、日本にミサイルを飛ばして来たり、衝突をして来たりするでしょうか、多分しないでしょう。とすればこの国の人々が、まさに人権や民主主義や法の支配をすごく欲しているのですよ。中国の防衛費はすごく大きいですが、中国の治安、維持費、国内に向けて銃を向けている、この費用の方が高い。そういう国な訳ですね、中国の国民が欲している平和を日本が作る手助けすることこそが、新しい積極的平和外交とでも言うべきでしょうか、戦後もっとやって欲しかった。しかし最近、結構外務省も始めていますが、少しずつ。中国の民間に 働きかけ、中国で民主主義を欲し、法の支配を欲して闘っている人達がいますから、この人たちを支援する民間外交とへっぴり腰にならずにちゃんと中国政府に対して人権、民主主義をしっかりやりなさいと言う外交、二つの外交が本当は平和に直結すると思いますけど。」

司会A「岡本さん、日本の新しいありように対する提言だと思いますけど。」

岡本「テロの原因が人権問題というは僕は必ずしも賛成しない、それだけではない。アルカイダが9.11にワールドトレードセンターを攻撃したのは、文明というものに対する彼らの見方ですよ。預言者ムハンマドが来てからの千何百年間かの今の文明というのは全て悪であると彼らの書いたものにも出ていますけどね。そういうことで来ている。だけども人権問題を一生懸命やらなきゃいけない。それはその通りだと思いますね。中国の間でもそれをやらなければいけない。まあしかし、中国との間でもう40年以上日本はソフトパワーを一生懸命やってきたけど、どんどん状況が悪くなってきたから・・。」

土井「まだ、やって来てない。」

岡本「まだやって来ていない?そうですか。」

土井「だって、そういう風に言うべきでしょ。」

岡本「日本の生きていく道というのは、いろいろ安全保障も大事です。だけども自ずから制約がありますから、なんといっても経済協力が大事ですよ。ところが日本は軍事的な面では協力できないが平和的にやりますと世界に胸を張っていた。事実、1997年は日本は世界最大の援助供与国だったんですね。それがまあ、どんどんどんどんアメリカに抜かれ、イギリスに抜かれ、フランスに抜かれ、ドイツに抜かれ、当時の当初予算ベースでみれば半分になっている、日本の経済協力予算は。まずは日本は経済を復活させて強い日本になること、それが大事だと思いますね。そうするとさっきから申し上げているような軍事的な面での集団的自衛権で憲法に抵触しない部分も、いろんなことができるようになっていくと思います。」

司会A「日本は平和を表看板に掲げて外交で何か出来ることがあるんではないかという指摘、半藤さん、どう思われますか。」

半藤「その通りだと思います。外交は本当に岡本さんには申し訳ないが、もう少し磨いて欲しいですよ、外交力を。そうすれば武力ではなく経済力を背景において、もっと平和外交は出来ると思うんですよ、日本は。少々、不安であっても日本人は、不安であってもそれに耐えながら、戦後ずーと持ってきた平和主義、平和国家というものの理論を世界に広めていくと、それぐらいの意欲を持って、理想論かも知れませんが世界に発言していった方が日本の平和を守るためにもっと良くなると思います。」

司会A「岡本さん、いかがですか。」

岡本「全くその通りだと思いますね。でも、僕は別に外務省の代表ではないですが、彼らの気の毒なのは主要国の外務省の規模に比べて人員は半分以下なんですね。本当に苦労して良くいろんな所で良くやっていますよ。もう少し予算を増やして、人を増やしてやってください。」

司会A「日本の良さを生かす道というのが、あるかも知れませんね。」

司会B「それではここで市民討論をご覧ください。」

ナレーション「議論の終盤、市民の一人から日本という国の在り方をもっと考えるべきだという声が上がりました。」

Qさん・沖縄在住(41)「僕は細かいことは分かりません。ただ沖縄に住んでいるというだけですが、「私たちは何を目的に、日本という国を運営していきたいのか」、もっとそこの所を話し合わないと手段の部分がずれてくるんではないかと思う。「本当の日本らしさとは何なのか」、ここをもう一回戻った方が良いのかなと。難しいかも知れないけど、「絶対に戦争はしません」ここが基本じゃないかなと私は思います。」

Rさん・元船員(71)「あのー、ちょっとよろしですか。私の職業的体験から言いますと、海上輸送がないと日本という国は成り立たない。資源はない。資源を輸入して加工して輸出する。日本の生きる道はこれしかない。だから安全をどう維持するかを考えていかないといけない。」

Mさん・主婦(48)「ぶれない部分、ぶれない部分を持ってなさすぎるのが日本なのかなと、お話を伺っていて思ったのですが、日本って何をしたい、どうしていたい国際社会でというと、何か今一つはっきりしていないような気がするんですね。」

司会B「今の市民の方々の声をどうお聞きになったでしょうか、岩田さん、いかがですか。」

岩田「大変重要な指摘だと思います。これからの日本はどうあるべきかと言いますと、先ほどらい議論してきましたが、アメリカに助けてもらうことを前提として話してある。これは戦略戦術論として正しいのはその通りですが、基本的に独立自尊、自分の国は自分で守るという精神を持つことが第一に大事だと思う。第二にナショナリズムを正面から見直すことです。ナショナリズムが変な形で今の日本では出ているのではないかと思えてなりません。本来あるべきナショナリズムは何かと言ったら、私は今の日本では二つあると思う。一つは福島県民に対する思いはもう忘れているのではないかと思います。もう一つは沖縄です。沖縄は大東亜戦争で地上戦までやった。最期に後世格別のご高配をと言った。現在、現地にあるのは米軍基地ですよ。後世格別のご高配が米軍基地で良いのかというのは、日本人として心のどこかに持っているべきだと思う。したがって独立自尊の心を持つことと、健全なナショナリズムを復権させること、これが大事だと思います。」

司会A「土井さん、いかがですか。」

土井「日本の国を守るということは、最低限のことですよね。それにプラスして、日本が今後どういう国になるべきかという意味では、世界の平和、世界の人々の幸福に貢献する国でなくてはならない。そういった意味では先ほどもちょっと申し上げましたけど、今までの日本は自分が戦争をしなければ良いという発想でしたね。それだけでは全然足りなくて、何故なら世界中には本当に多くの紛争があって、今日もエジプトでは何百人も撃ち殺されたということもありました。シリアでも紛争が起きています。我々のビジネスマンが沢山行っているミャンマーでも内戦が続いています。北朝鮮では20万人の人が政治犯収容所にいます。様々な問題がある訳です。これに対して行動する新しい積極的な平和外交を、これは外務省ももちろんやるべきですが、民間もできることですね。民間の交流もあります。そして人権や民主主義について、今まで日本政府は基本的には黙っている、公の場ではあまり言わないという立場でしたが、そうではなくてしっかり現地と手を結んだ上で、はっきり声に出して世界に向かって政治力を使っていく外交、それが新しい日本の姿ではないかと思っています。」

司会A「外交に目を向けるべきだと皆さんから出ているのですが、宇野さん。」

宇野「今日ここに来て、特に左のお三方の話を聞いて、こんなに外交とか国際貢献でポジティブなことを日本はやってきたんだと勉強になった。もっとこういう話を伝えるべきだと思う。ジャーナリズムとか言論が、今までの日本の外交とか軍事に関する議論を硬直化させてきた。最たるのは憲法とかナショナリズムの論議で、僕は憲法もナショナリズムも道具だと思う。獲得すべきは日本人の安全とか日本社会の秩序とか、あとは国際平和だと思う。なのに、いつの間にか憲法を守ったり変えたりすることが目的になっている。そして文化論になってしまう。9条を守ること、変えることが自分探しと結びついていて、精神論ばかりして喧嘩して、ぐちゃぐちゃになって、結局、話は何も進まないことをこの50年とか、戦後ずっと繰り返してきた気がする。僕はゼロから考えれば良いと思う。今日も言ったように軍事と外交は一択だと思う。特に短期、中期的には。それをどう実現していくのははっきりしているので、そこから逆算して9条が使えれば残したら良いし、足を引っ張るのなら変える変えないの議論をしても良いし、そういうことをゼロからやらないで、かくあるべし、こうしないと日本人の誇りがといったところから入ると、また同じ形態を繰り返すと思う。」

司会A「大事な議論だけど、そういう議論がなかったよねというのが、宇野さんの指摘ですね。伊勢崎さん、どうですか」

伊勢崎「日本の領海内の平和の維持に関して、日米の協力は日本は補完、米も日本が経済的発展を犠牲にしてまで火力を増強するということは望んでいないと思う、そこまでは。いかに米がないものを補完していくか、そして日本の周辺を守っていくか。もちろん同盟国として一番大切なのは世界戦ですね。米が一番頭を悩ましている。アフガニスタンからも軍事的勝利なしで逃げ出したんですからね。これほど苦しんでいる。」

司会A「この国にとって何が国益かという議論がなかったのは、何故だ思います。」

伊勢崎「多分、リベラルとか左とか護憲派に属する我々の責任だと思う。国益という言葉を使うと、お前は右翼かという話になってしまうので国益の話を忌諱していた。そうではなくて、僕は9条をこのまま保った方が国益になるという議論を今しようとしているのですが、9条を失うことによって日本のブランディングの力が弱まることによって失う国益、そこをちゃんと国民に見せて最終的に判断してもらうことを我々がしないとダメですね。そこは半藤さんの意見と同じだと思うが、具体的に見せないといけない。それは私のアフガニスタンの小さな体験ですし、同盟国のアメリカが一番苦労していること、そこを補完するとうこと。」

司会A「なかなか議論がなかったということ、岡本さん、番組の始めの方で戦争を見つめ直すことがちゃんとできていないと仰ったが、私たちはどういう国にするかの議論がないのも、そこに関係していますか。」

岡本「はい、そう思います。皆さん、外交の重要性を仰るが、外交を推し進めても壁が常にあるのは、まず二つある。一つは戦争をどう総括するかという問題ですね。あの戦争、名前すら我々はつけてない。先の大戦とかね。第2次大戦とは言われるが、あれは第2次大戦のほんの一部ですからね。例えば、私はあれはアジア・太平洋戦争と命名すべきだと思いますが。皆が、なんとなくあの戦争のことはとね、先の大戦ということで、それ以上中に入っていかない。何が本当に悪かったのか、悪くなかった部分は何なのか、じゃあそれは今でも使っていいじゃあないか。それはいろんなことがあると思いますよ。そこを総括しない。それともう一つは歴史認識の問題なんですね。2006年に日本が安保理の常任理事国に立候補したときに、中国はアジア諸国に大キャンペーンを張って、日本を安保理の常任理事国にしてはいけないと、彼らの血には好戦的な血がDNAとして流れていると大キャンペーンをやったんですよね。それを聞いてしまったアジアの諸国もある。我々はそれに対して有効が反論できるように、歴史認識についても国論が割れているが、事実は一つなんですから、きちっともう一回見直すべきですね。」

司会A「半藤さん、一言、今私たちに一番求められていること、なんだと思いますか。」

半藤「私は歴史を一生懸命に学べ学べと言っている。日本の近代史をきちっと学べば自ずから日本がどう進めば良いのかは出て来ると思う。本当の話。世界中の国が日本は昔と同じ国かと思わせないためにもしっかりと学んで、平和主義を世界に拡げていく、国民がそういう気持ちになった方が日本の平和はまもれると思う。」

司会A「今日は市民の皆さんの議論も受けて、平和を守るためにどうしたら良いか話をしてきました。根源的な問いかけがあったと思います。ありがとうございます。」

司会B「ありがとうございました。最期に土井さん、母親でもありますが、今日の議論をどうお聞きになりましたか。」

土井「平和主義というのは非情に尊いもので、私のように世界を見ているものからしますと68年前だけではなくて今この瞬間にも、自分の子供の命を亡くしている母親、父親は沢山いるんですね。そのために日本ができることはたくさんある。平和的手段で今すぐできることもある。今、いろいろ議論されていることもありますが、それに向けて行動が必要なのが今だと思います。」

司会A「宇野さん、一言。」

宇野「リベラルの人達はもっと頑張るべきですね、僕らも含めて。重武装だけが答えではないというポジティブなビジョンが圧倒的に足りないですよ。」

司会A「そうですか、ありがとうございます。どういう国を目指すべきか、みんなの議論が問われている、ということが分かったと思います。今日はどうもありがとうございました。」

2013年8月15日  終り