<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
宇宙エンタメ前哨基地



米国SFテレビドラマ「スター・トレック」で通信士官のウラ中尉を演じていた二シェル・ニコルスが先月末、亡くなった。
享年89歳。
私の母より1つ年下なのであった。

日本ではあまり報道されていないが、このニシェル・ニコルスは米国では非常に影響力のある女優さんであった。
というのも、彼女が演じたスタートレックのウラ中尉という役どころが1960年代終盤の米国社会に於いて非常に重要な立ち位置にあったというところが実に大きかった。
彼女は黒人であり、女性であり、若く知性があり、極めて有能である、という設定だった。
異星人との接触に押すれること無く任務を遂行。
ブリッジのメンバーとして地味だが常に冷静で大きな役目を果たしていたのだ。

このドラマが放送された当時の米国は、そうではなかった。
黒人はやはり差別の対象であり、重要な役どころにつくことはできない。
女性もそう。
そんなリアル社会の中にあってウラ中尉のキャラクターは若い女性、とりわけ黒人やマイノリティーの人々に大きな影響を与えたのだ。

宇宙をパトロールする宇宙船という設定ながらも黒人女性が活躍する姿は他のドラマや映画には未だ無い時代で、そんな彼女の役割が人々に勇気を与えないはずはなかった。
女優のウーピー・ゴールドバーグは彼女を見て女優になることを決心した一人だ。
またサリー・ライドを始めとする女性宇宙飛行士たちもその影響を受けウラ中尉と同じ職場を目指したのだ。

スタートレックは彼女のキャラクターだけではなく、そこに登場する多くのテクノロジーの具現化を目指して、多くの科学者や技術者が影響を受けながら一つ一つ実現してきている。
米国の技術立国の側面を支えているドラマの1つと言えるのだ。

ふりかって日本にはそういうドラマがほんとんど存在しないことに気がつく。
あのドラマを見て医者を目指しましたとか、政治家を目指しました、ということをなかなか聞くことがない。
踊りに影響を受けて家族で踊ってみました、というのはあるけれども社会現象にまでなるようなものがなかなかない。

ドラマ、映画、文学、その他。
社会に与える大きなインパクを持つ社会問題解決への方法やテクノロジーへのイマジネーション。
そういうものが、コンテツに求められるのではないか。

ニコルスの死去で改めて考える、ドラマや映画の存在は、そういうところに本当の価値があるんじゃないかと思えるのだ。


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