tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

ヘイフラワーとキルトシュー

2007-05-13 15:22:23 | cinema

児童映画は、子供や若年者の成長への感化を念頭に置いた、教育的な意図、配慮がその根底にあるものが多い。この作品も、2人の姉妹のがんばり屋の7歳のヘイフラワーと5歳の小さな猛獣キルトショーの夏の終わりの数日を描いている。まったく実在感のない大人たちの描き方が、この映画が児童向けの映画であるの証であり、ヘイフラワーに共感することで子供の感性を育てることを狙っているのだろう。ところが、脚本家の意図しない部分で、心に訴えてくるところの多い映画だ。

全編にあふれる生活の音、自然の音。音を通してやさしさが溢れてくる。そして、部屋の調度の色合い。ナチュラルな白木の家具に、指し色で鮮やかな原色を用い、大柄のファブリックや小物を使ったスタイリングは、映画を見た人に爽やかな印象を与える。日本では、数年前から北欧スタイルブームだが、冬の間寒く暗い日が続く北欧だからこのような色調が選ばれるのだろう。同じヨーロッパでも、光あふれるイタリアの家具とは対極をなす。家の中が、色彩にあふれた夢のような空間であるが、家の外側に目を転じれば、古い窓枠に白のペンキを何度も塗り重ねたであろう建物の歴史が目に入る。古きものとの調和。かの地の人たちの生活がしのばれる瞬間だ。
この映画に舗装された道路がひとつも出てこない。広大な庭には緑があふれ、庭のリンゴの木には真っ赤なリンゴが色づいている。
これまた正体不明のお隣は、森の小道を抜けてようやく着く。数十年前の日本の田舎もこんな感じだった。雨の日にはぬかるんでどうしようもない砂利道だったけど、そこにはやさしさが満ち溢れていた。

国を超えて、小さな子供達の好物は、パスタなのだろう。フィンランドでお握りやさんを開いた「かもめ食堂」では、トナカイの肉をどうにかアレンジしようとしていた。学生のころ北欧を訪れた時は貧乏旅行だったので、パンと牛乳とじゃがいもばかりを食べていた気がする。トナカイどころかニシンですら、物価の高い北欧では口にできなかった。フィンランドのパンは健康志向が高く、それゆえ全粒小麦のパン。素材の味が味わえる、噛み応えのあるパンで、かめばかむほどって感じ。イギリスで売られているものにはない、独特の風味や食感のあるものだった。

「お姉ちゃんでしょ」
今まで頑張って頑張って頑張り通したヘイフラワー。
かけっこでずるした妹のキルトシューに負けて、仏頂面のヘイフラワーはお母さんに言われる。
「皆楽しんでいるんだからそんな不機嫌な顔しないの」
不機嫌な時に不機嫌な顔して何が悪いの。そんなことも我慢しなくちゃならいの?
とうとう堪忍袋の緒が切れる。
部屋にこもってだんまりを決め込むが、最終的にはおねえちゃんが折れちゃう。
そうやって我慢していって成長していくと、ひがみっ子になるか人生に対して諦めるように長男・長女はなっていくのかもしれない。自分の主張なんか言ってももどうせ無駄、みたいな。一方、下の子はその辺には無頓着だ。
楽しかった夏の日が過ぎ、小学校に入学して登校がはじまる。長女のヘイフラワーは、一人で森を抜けて小学校へ通っていく。・・・・・・ちょっと待てよ。親はついていかねえんだ。北欧って、小さい頃から家事を含めてすべてを自分の責任でやらせるんだね。だから、国際学力調査(PISA)において、北欧の国は読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーで上位を占めるんだ。・・・・・・で、日本の教育の中身って何?