tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

雪山の道化師

2007-05-22 20:06:06 | 日記

もう、2ヶ月以上も過ぎたから、話題にしたところでヤバイ状況にはならないと思う。かなりローカルな話で登場人物が特定されたとしても、あくまでも本作品はフィクションだ。実際のイキモノとは関係がない。
個人情報の守秘義務に関する苦情は一切受け付けない。また、どんな圧力にも負けずに表現の自由を守る・・・・・・守りたいです・・・・・・守 れ ん の か よ。

3月に入って間もなくのことだ。3月いっぱいで退職する職場の先輩へ、お餞別として旅行ギフト券を贈ろうと帰宅途中に駅前のJTB窓口へ寄った。春休みの旅行シーズンを控え、JTBの店の中は学生やら帰省客やらで激混みだった。窓口にずらーと並んだ行列。夕刻の買い物時スーパーのレジや銀行のATM、はてまた人気のすし屋やラーメン店に並ぶ人々による行列は、現代日本の風景と言ってよいのかもしれない。列車の切符に限らず、ほとんどのモノがネットで買えるこの時代において、わざわざ行列に並んでチケットを買うのは、窓口でしか得ることのできない情報を求めるためなのだろう。
以前は、JTBやみどりの窓口でチケットを購入する場合、それぞれの窓口に人が並び、窓口の数だけの行列を作っていた。並ぶ方は、当然、短い行列を瞬時に見極めて最後部に並ぶ。ところが、窓口で抱えた物件により列の進行速度が異なる。後から来て隣の列に並んだ人が用事を済ませて店から出ていくのに、自分の順番はまだ数人待ちなどといった事態が起こった場合は、・・・・・・ひたすら泣く。なんて、オレは不幸な星の下に生まれてしまったんだろう。いや、泣くよりも前に、窓口カウンターで長々とあーでもない、こーでもないとワガママを言っていそうなヤツに対し、そのケツのアナをめがけて2本の人差し指をまとめてつき立て、<テンチュウー!>と叫びたい要求に駆られる。・・・・・・人もいるだろう。もちろん、理性のあるオレはじっとがまんするが。
まあ、行列で待たされるのは日本に限ったことではなく、イタリアの主要駅の窓口などは<カンチョー!>の声がかれてしまうぐらいものすごい強敵である。
ところが、この行列は進化した。いわゆるフォーク型の列の発現である。行列民主主義と言えるのかもしれない。このフォーク型により自分の運の悪さをひたすら嘆く機会がなくなった。ただし、この行列民主主義と引き換えに、かわいい女の子が受け付けている窓口をねらっていても、いつも、自分の番が来ると<え゛ー。おっさんかよ!>と自分の運の悪さをひたすら嘆く機会が新たに増えてしまった。

それで、この3月のJTB。店の自動ドアの前に、その2人の女の子がいた。通りすがりの誰もが珍しそうに、あるいは懐かしそうに2人を見ていた。そして、その子たちにジロリと睨み返されるとあわてて目をそらすそんな感じだった。彼女達のまだらに光る白色のヘアーが、より一層、ガングロをよりガングロにひきたてている。口紅の白は、縁辺対比で唇に立体感を強調しまさにメダツ。ミニスカートにお馴染み「厚底ブーツ」のいでたち。あの渋谷で死に絶えた山姥ギャルが、どういうわけか会社帰りの人であふれた駅前のJTBの入り口にいたのだった。彼女たちをかき分けてJTBに入っていく度胸はない。やはり、未知の生物と遭遇する恐さが先に来る。
どうしたものかと迷っていると、なんのことはない。ヤツらはJTBの店の中へ。そして、フォークの柄の元に2人が並んだ。続いて店に入ったぼくは、その後に並ぶことになる。もし、話しかけられたらどうしよう。あいさつは<ジャンボ!>だったけ?などと非常に心細い想いをしていた。
結論を言えば、順番待ちの間ぼくは彼女たちから喰われて命を落とすこともなく、無事に用事を済ませることができた。並んでいる間、彼女たちの会話が聞こえていた。彼女たちの会話は理解が可能な日本語だった。・・・・・・あたりまえか。

「バスツアーって、チョー、ダルくねー?」
「ヤスいし、ネてりゃあ、スキー場にツクからラクじゃん」
「ショシンシャでもスべれんの?」
「たぶんスクールつきのツアーがあるからダイジョウブ。ボードもレンタルできるしー」
「バイト代、ウエアー買ったらナクなっちゃうよ」
「えー、まじ?そんな高いのかうの?」
「で、モチモンはあとなにが必要なの?」

どうやら、彼女達は、東北方面でスノボかスキーのバスツアーを探しているようだ。歳のころからすると、ヤツらが地球の生物で日本の学校に行っているとした場合だが、高校の卒業旅行なのだろうか。一生懸命バイトして貯めたお金で卒業旅行とは、なかなか感心な生物たちだ。
ぼくは、思わず、必需品として<ケツパッド入りのスパッツ>を彼女たちに勧めたくなった。こけたときに衝撃が和らぐし、暖かいし。が、下手に声を掛けても、厚底のブーツでケリを入れられるのがオチなので、踏みとどまる。
そうか、ヤツらバスツアーでスノーボードしに行くんだ・・・・・・。ぼくはその光景を思い浮かべていた・・・・・・・。

東京駅発の3泊5日のそのツアーバスに乗ろうとすると、バスの中央はすでにヤツら地球外生物で乗っ取られていた。天井に光る車内灯にまだらの白髪やらピンクの髪が反射する。その生物達は4つの個体でコロニーを作っていた。顔が異様に黒いため、車内灯が消されるとヤミに紛れて分からなくなるかもしれない。ただ、異様にデフォルメされたようなパンダ目だけがヤミの中で光るだろう。一晩同じバスで夜を明かすことになるオレは自分の不幸をのろった。

ゲレンデに到着すると、ヤツらは滑るより雪合戦とかに燃えていた。スクールのインストラクターは、恐る恐る・・・・・・すべり方を教える。でも、さすが初日はいくらやっても滑れなくて、段々とスピードがついて、ついに転倒。それも前方1回転!気を取り直してさらに滑ると、今度はあまりに勢いがなさ過ぎで途中のコブの上で立ち往生して、斜面のど真ん中で途方に暮れている。下にも滑れないし上に引き返せもしない・・・・・・。スノボのインストラクターから突き落とされて、ゲレンデを転がるヤツら。転がって転がって、最後は大きな雪玉から顔と手足だけが出てる・・・・・・。

しかし、アイツらのガングロは、意外と雪山にマッチするかもしれない。ゲレンデでスキーウェアって、誰でもかっこよく見える。俺もゲレンデではいつも、自分で「今ならいけるんじゃないか」って思ってしまってる。バカンス効果ってやつなのだろうか。

「次の方・・・・・・。お客さん!お客さん? お き ゃ く さ ん!!」
JTBの窓口のおっさんが、ぼーっとしていたぼくを呼んだ。少し怒った口調だった。見ると、地球外生物達ははじっこのカウンターで、窓口のかわいいねーちゃんと和気あいあいで相談中だった。その隣りのイスが空いていて、くたびれたネクタイのおっさんがこちらを見ていた。
・・・・・・なんて不幸なオレなんだ。