tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

愛より強く/Gegen die Wand (against the wall)

2007-05-30 20:14:35 | cinema

もし、日本で偽装結婚をテーマにした小説を書くなら、どんなシチュエーションを想定するのだろう。やはり、日本で「合法的」に働く事を望む外国人を入国させるためというのが最初に思いつくことかもしれない。偽装結婚は、お互いに絶対に愛し合わないという点で契約結婚とは異なる。<偽装結婚も契約結婚も、やってることは同じだろう>と思うのかもしれない。しかし、偽装結婚は相手に束縛されないという点で契約結婚とは大きく異なるのだ。契約結婚では契約により相手を束縛できるし、相手が契約不履行なら契約は成立しない。束縛されるのを嫌うのなら契約結婚の前提がくずれてしまう。

この映画で取り上げられたのは偽装結婚だ。場所はドイツのハンブルグ。都会にありがちな、パンクミュージック、アルコール、ドラッグ、セックスであふれた街。男と手をつないだだけで兄に殴られて鼻を折るような、厳格なイスラム教徒の家庭を逃げ出して自由な恋愛を得ようとするトルコ人移民の女と、愛する妻を亡くし人生を捨ててドラッグに明け暮れるトルコ系ドイツ人の男の物語だ。
"I wanna live Cahit. I wanna live,wanna dance, wanna fuck, not only with one guy. Do you understand?"
<たくさんの男と自由にファックしたいの>と女は言う。そして偽装結婚により、誰に憚ることなくドラッグやクラビング、セックスに耽る「自由な生活」を謳歌する。
しかし、お互いに相手を束縛しない2人だったはずなのに、やはり相手をよく知りたいという欲求が起こる。
2人がようやく結ばれそうな、雰囲気になりやれやれと思うと
"I can't! I can't! If we do it, you are my husband, and I'm your wife."
男はこの瞬間に、自分が女を愛していることに気づき、女は男を愛しているからこそ男とのセックスを拒む。いい男を見ればだれとでも寝る女なのだが、男を束縛したくなる自分が恐いのだ。

2人がようやく結ばれるまさにその時に、女の気が変わって・・・・・・というパターンは、オリバー・ストーン監督の「U turn」で、あのジェニファー・ロペスが射精瞬間のショーン・ペンを拒むシーンを思い出させる。感情移入して観ていると、ものすごいフラストレーションを抱くことになる。

女を愛してしまった男は、嫉妬に駆られて女を侮辱した女のアヴァンチュール相手を撲殺してしまう。ムショに入れられた男に面会する女。
"I will wait for you." 「待っているわ」
女は愛する男から遠く離れ、イスタンブールという「異郷」で生きる意味もなく一人で日々を過ごすものの、次第に懶惰な生活に身を持ち崩していく・・・・・・。
出所した男が、女に会いにイスタンブールへ。
"Are you strong enough to stay between me and her?
- Are you strong enough to destroy her life?"
俺達の仲を引き裂くほど、お前強いのか?
-女の人生をぶっ壊すほどあんたは強いの?

原題「Gegen die Wand」は(壁に対して/against the wall)の意味だ。この映画には様々な壁が描き出されている。きびしいイスラムの戒律や、トルコの家族制度、底辺労働しか生きる道のない移民を取り巻く環境など。日本語の題の「愛より強く」は、どうしようもない壁が強く立ちはだかることを意味しているのだろうか?
この映画、愛について語るセリフが切ない
"Love is a carousel! Always in a circle, but you only have a wooden horse!"
愛は回転木馬だ。木馬しか持たずにいつもサークルの中だ。