早朝の市営バスの中で、受験用の参考書に目をやる高校生らしき人。6月6日(火)の光景だ。中国ではバスの中でも電車の中でも、本を読んでいる(読書)をしている人を見ることはほぼないので、「ああ、珍しいなあ‥そうか、明日から中国の大学入試"高考"が始まるんだ‥」と改めて気が付いた。
翌日6月7日(水)早朝の中国のインターネット記事には、「2023 高考今日開考、1291万考生 奔赴考場! 6月7日」、「剛剛官宣!今年考時間定了 🔴6月7日 9:00 至11:30 語文 15:00至17:00 数学 🔴6月8日 9:00至11:30 文科総合/理科総合 15:00至17:00 外語」(※「語文」とは日本における「国語」、「外語」は「外国語」)などの見出し記事。日本のネット記事でも、「"高考"受験申込数1291万人 昨年より98万人増」などの見出し記事が掲載されていた。
中国の大学統一入試「高考(ガオカオ)」の正式名称は「普通高等学校招生全国統一考試」という。受験生は年々増加し、昨年(2022年)より約98万人多く、全国で約1291万人(過去最高)が受験した。試験会場は全国の約33万箇所、試験会場の担当者・試験官は約102万人に上る。「一発勝負」「親子の人生をこの日にかける」「現代中国の科挙」とも呼ばれるこの「高考」だ。ここ数年は外国語科目を、比較的短期間の学習で高得点がとりやすいとも考えられている「日本語」で受験する学生も増えているようだ。
約1300万人余りの大学受験生だが、試験結果によって、4年制や3年制のどこかの大学に入れるのは約750万人余りなので、受験生数に対しての大学入学者の割合は約60%余り。つまり、10人中、6人が大学生になれることとなる。大学に入学できなかった人の多くは、専門学校などに入学するようだ。
(※中国には現在、約2800余りの大学がある。そのうちの多くが国公立だが、約600余りの私立大学もある。2年~3年制の専科大学と4年制の本科大学がある。受験生たちは、試験後、自分の試験結果の総合点数を計算・予測して、昨年度の各大学や学部・学科の最低合格点数なども参考にして、第一志望から第五志望くらいまでの大学・学部・学科などを地元教育局に申請する。各省や重点市の教育局が、どの大学のどの学科、どの学科に入学させるのかを決定し、本人にその結果を伝える。)
昨年6月7・8日の「高考」は、3月末から5月末までゼロ・コロナ政策でロック・ダウンされていた上海市では、7月7・8日に実施されることとなった。(※昨年の「高考」では、全国的に、受験生は48時間以内のPCR陰性証明が必要で、かつ、試験会場での体温チェックやマスク着用が求められた。)
今年の「高考」が始まった6月7日、日本のテレビでも「中国全国統一大学入試"高考"始まる ゼロコロナ後 初の実施」と題されて、このことが報道されていた。報道では、「子どもは十何年も勉強して大人になりました。今日は人生の分かれ道です」と会場で我が子を見送った母親の声も‥。「マスク着用義務廃止 48時間以内の陰性証明も不要に」「縁起をかつぐ赤いチャイナドレスを着る母親も多い」ことなども報道されていた。
別の日本のテレビ報道では、「ゲン担ぎのアイテムである赤いチャイナドレス」、「応援に会場前に来ていた横断幕には、"全力を尽くせ。失敗すれば、エリートにはなれないというような意味の横断幕が掲げられてもいた」「外国語を日本語で受験する人が増加。(昨年は約25万人)。その理由は、漢字でなんとなく意味がわかることや、英語に比べて難易度が低く、比較的短い期間で高得点がとりやすいためだ」などの報道もされていた。
2013年9月より中国の大学に赴任し、学生たちに高校時代の思いでを聞くこともあったが、学生たちはほぼ全員が「勉強、勉強のけっこう大変な3年間、特に高校3年の1年間は辛かった」の声だった。
以前に、学生の母校の高校(福建省泉州市)に、学生とともに行ったことがあった。「先生、この教室が、私が高校3年の時の教室です」と案内された。教室の生徒一人一人の机の上には教科書や参考書が高く積まれ、教室の黒板周辺には「あと高考まで🔴🔴日」と書かれた日めくりも。高考に向けたスローガン・標語がでかでかと書かれてもいた。高校3年生の時は、午前7時頃から午後10時ころまで、学校での正規授業の他に、補習などがあったのだという。だから家には眠りと食事に帰るだけで、教科書などは机の上に置きっぱなしとのこと‥。また、たまたま通りかかった先生がいて、学生は、「あの先生は、高校3年生の時の学年主任の先生だった人‥。学校で一番怖い先生が、毎年、高校3年の学年主任をしていたわ‥」とのことだった。
私が2017年の7月から暮らしているアパートの部屋も、私の前には、高校3年生の女子生徒が母親と一緒に1年間暮らしていた部屋だった。家は福州市内にあるのだが、在籍している高校からは少し遠いため、高校3年間の1年間だけ、高校近くの場所に部屋を借り、母と娘が二人で生活していた。そして、週末の土曜日の夕方に平日は父親が一人暮らしをする家に戻り、日曜日の夜にまたアパートに母親とともに戻るというような生活だったようだ。
中国で生まれ、幼少期(2歳~9歳)は日本で育ち、それから再び中国で生活している「かいし」さん(現在は、漫画家・デザイナー・通訳者)による、かいしさんが体験した「中国の大学受験事情」より
○「只要学不死 就往死里学」(勉強くらいで死なないから、死ぬほど勉強しろという意味)の言葉があるくらいの中国受験事情。○中国の中学・高校では成績別にクラスを分けている所が多い。○毎月末にテストの個人結果が成績順にクラスに配られる(最下位まで)。高校3年生になると、これが毎週ごとになる。○成績が落ちたら、担任教師から、「あなたのこの点数がクラス全員の平均点を下に引っ張っているのよ。分かってんの!」と言われたこともある。公開処刑のようで、辛かったし、悔しかった。○中国で高校を過ごした私の高校三年間の思いでと言えば90パーセント勉強。○受験に向けての多大なストレスの要因―「自分の未来?」「親の期待」「自尊心」「学校からのプレッシャー」「チャンスは1回のみ」
中国の青少年は睡眠不足が世界的にも顕著だと、最近、報告もされていた。
5月30日の夜に、四川料理などの辛い料理を一緒に食べた閩江大学卒業生の林さんは、現在、福建省福州市の日本語学校で教員をしている。この5月末には、日本語学校に通っていた高校3年生たちは日本語学校を修了していったという。1週間後の6月7日からいよいよ「高考」が始まるからだ。彼等高校3年生たち(上記4枚の写真)は、「高考」での外国語は、日本語を選択して受験するのだが、男の方が女よりもかなり多いそうだ。「どうして?」と聞くと、林さんは「英語学習は男子学生の方が苦手意識を持つ子が多いからのようです」とのことだった。
■そんな、中国の「高考」だが、私は2017年~19年までの3年間、この「高考」初日の試験会場前に行き、そのようすを眺め続けていた。そして、3年ぶりにこの6月、アパートに近い試験会場の一つに足を運んだ。次号にそのようすを伝えます。
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