彦四郎の中国生活

中国滞在記

アフガニスタン・中村哲氏の銃撃殺害事件とイスラム過激派集団の資金源・麻薬生産―水と緑か麻薬か

2019-12-17 20:03:56 | 滞在記

 12月4日、アフガニスタン(アフガン)で長年にわたり医師として、またこの国の灌漑用水路や井戸などの水利施設づくり、緑化事業などの活動を行ってきていた中村哲さん(73歳)が複数の何者かによって銃撃され暗殺された。犯行に及んだ数名の銃撃犯たちのうち、9日までに2人が逮捕され取り調べを受けているようだが、「武装グループによる計画的犯行」ということは判明しているが、いまだその犯行を行った組織などや背景の解明には至っていないようだ。

 事件が起きたのは、パキスタンとの国境に近い州都シャララバード市内。ここからは、アフガニスタンとパキスタンの国境でもある「カイバル峠」も近い。自動小銃や拳銃で武装し、2台の車で中村さんの乗る車を追走。行く手を遮ったあと、一斉に銃撃を加えた。このため、中村さんと同乗していたボディカードや運転手なども含めて6人が殺害された。

 アフガニスタン全土では、中村哲さんの死を悼み、多くの人々の悲しみに包まれた。遺体の入った棺をアフガニスタン大統領も担いだとも聞く。遺体はアフガニスタンの空港から飛行機の特別便(LAL)で日本に輸送され、生まれ故郷の福岡県に戻ってきた。アフガンのカーム航空では、自社飛行機の尾翼に中村哲さんの肖像画を急きょ描き追悼を行った。また、多くの在日アフガニスタン人が日本の空港につめかけ、哀悼の意を表明していた。

 2016年9月、NHKEテレで放送された中村さんたちの活動を紹介した「武器ではなく命の水を」は、今でも心に残っている番組だった。中村哲さんは1948年に福岡県の北九州市若松区に生まれた。昆虫が大好きで、大学は農学部にすすみたかったが、家庭の事情もあり、九州大学医学部に進学。1973年に卒業後、福岡県大牟田市内の労災病院に10年間あまり勤務している。

 日本キリスト教海外医療協会の医療海外派遣事業を勧められ、1984年にパキスタンのペシャワール市内の病院勤務を始めている。中村哲さんの活動を支援する「ペシャワールの会」(NPO法人)ができたのはこの頃だ。昆虫の中でもチョウが大好きだったらしく、幻のチョウといわれる種が、パキスタンやアフガニスタンの山中に生息していることも、この地への派遣に応募した動機の一つだったとも本人は語っている。その病院の看護婦をしていた人と結婚。その後、パキスタン情勢の急変のため、国内での活動が難しくなり、アフガニスタンの病院や診療所での医療活動を行うこととなった。

 アフガニスタンは1973年にソビエト連邦軍の侵攻を受け、それに抵抗するゲリラ活動が起きていた。その抵抗の中心組織となったのがアルカイダである。ソビエト軍の侵攻は10年以上にわたって続いたが、ソビエト軍はついに撤退することとなった。荒れはてたた国土の中で人々の生活は、食料的にも医療的にも大変な状況だったかと思う。

 医療活動に従事しながら、「100の診療所より1本の用水路」と中村さんは語ったことがあるが、貧困から国民の生活・命を守るためには緑の農地の拡大と穀物生産や農産物生産の増大が必要なことを痛感し、井戸堀りや河川から水を取り入れる用水路づくりの活動にも力を入れ始めた。このころの中村さんの著書に『医者 井戸を掘る』がある。「カカ・ムラ」(ナカムラのおじさん)とアフガニスタン人に親しまれ敬愛を受けていた中村哲さん。

 今回の事件を起こした組織については、イスラム原理主義過激派組織の「①アルカイダ、②タリバーン、③IS(イスラム国)、そして④水利を巡る問題をかかえる組織」の4つの説が犯行組織としてささやかれている。

 タリバーンは中東各国を中心に世界的に原理主義運動を行っている組織で、2001年にアメリカのニューヨークで飛行機をビルに突っ込ませた同時テロでよく知られている。そのリーダーだったオサマ・ビン・ラディン氏はパキスタンにおいて米軍特殊部隊によって殺害された。しかし、新しいリーダーのもと現在も中東を始め、パキスタンやアフガニスタンなどで活動を行い、アルカイダ組織と連携をしながら勢力を広げている。

 ISは、シリア・イラクで勢力をはり、2015年に日本人の後藤健二さんや湯川遙菜さんを斬首したことでもよく知られている。この10月27日、リーダーのバクダディ氏が米軍特殊部隊により殺害された。

 イスラム原理主義組織の主な資金源は麻薬の原料であるケシ(芥子)の栽培とアヘンから精製したヘロインなどの麻薬の販売ルートであると言われる。麻薬を製造できるケシの栽培は、中央アジアや東南アジア、そして中南米などで行われてきている。タイとラオスとミャンマーが国境を接する「黄金の三角地帯」が有名だったが、三国の政治的安定と経済の発展によってこの地域での麻薬生産は減少してきているようだ。そして現在では、アフガニスタンが世界の麻薬製造の70%を占めていると言われている。

 なぜ、このようにアフガニスタンでの生産が急増してきたのだろうか。上記の4つのグラフを見ると分かってくる。人口が急激に増加してきた(2018年人口は、1990年の4倍、2000年の2倍)が、一人当たりの食糧がやや減少していることである。用水路づくりや井戸を掘り、緑地化を図り、農産物の生産を増加させることが追いつかず、また、灌漑面積も減少している。食料を得るには、資金があれば海外から輸入した方がいいという考えもあり、食料自給率も低下してきたのがアフガニスタンだ。食料を海外から輸入する資金に充てられているのがアルカイダの支配地域での「麻薬製造」で得た莫大な資金である。

 現在、反政府組織でもあるイスラム原理主義組織「アルカイダ」は「タリバーン」と連携しながら、国内での支配地域の拡大を近年は急速に広めている。その支配地域はアフガン国内の40%以上におよび、国の約半分を支配下におき、その存在力と影響力は2001年以降最大となっている。より多くの土地を支配し、より多くの人々を支配下におけば、より多くの資金を得て、武器や食料や兵士を増生できる。

 年間何億ドルにものぼるタリバンの主な収入源は、麻薬の製造と販売(主にアヘンの栽培とへロインの製造)だ。他にも、支配地域における鉱山資源の販売、人質をとって身代金をとる、そしてサウジアラビアの富豪など世界各地からの寄付などである。2016年の記録ではアフガニスタン国内で約1700人が誘拐されたとされる。国連の報告によれば、およそ300万人のアフガニスタン人が、直接的あるいは間接的に麻薬産業に携わっているとされる。アフガニスタン全体の労働人口が約800万人なので、すくなくても3人に1人以上にのぼり想像を絶する数字だ。

 犯行組織はまだ解明されていないが、土地に水をひき、大地を緑化し、農産物や食料をつくり、自給率を伸ばしていくという、本来の国づくりや国土に必要な まっとうな方法をおこなっていたのが中村哲さんたちだ。一方、そのような中村さんたちが推進している方法に人々の将来の可能性を向かわせることを苦々しく思っているのが、イスラム原理主義組織だ。だとすると、今回の事件の背後には、アルカイダやタリバンなどの組織が関与していると考えることは自然でもある。2008年には、ペシャワール会所属の医師・伊藤和也さん(当時31歳)がタリバンによって殺されてもいる。(※「人々に西洋の文明を植え付けようとしている」とタリバンは殺害理由の声明をだした。)

 現在、アメリカ軍1万3000人がアフガニスタンに駐留しアフガン政府軍と共にアルカイダやISやタリバーンとの戦いを行っている。トランプ大統領はこの駐留軍のうち約4000人を撤退させることを近づいて近くに発表予定だ。さらに、タリバーンの攻勢が続いていき、支配地域の拡大をはかるかと思う。

 ここ10年間あまり、日本国内での麻薬使用の広がりが危惧されている。最近では沢尻エリカが合成麻薬の所持と服用で逮捕された。LSDなどの合成麻薬を手軽に使用する芸能界での麻薬使用も広がりをもっていて、さらなる大物芸能人といわれる人の逮捕も噂されている。毎週日曜日に放映されている「サンデー・ジャポン」(爆笑問題が司会)では、最近では毎週この芸能人の麻薬問題について取り扱われている。元国会議員だった杉村太蔵氏などは麻薬使用者への社会的に厳しい対応・世論づくりを主張している。一方、ホリエモンこと堀江貴文氏などは、麻薬の一定の合法化を主張している。いずれにしても、「麻薬使用」「麻薬販売」に関しては かなりあまい風潮が日本国内ではあるように思える。アルカイダによりアフガニスタンで製造された麻薬も多く日本に入っていることかと思う。

 麻薬には、①覚せい剤②大麻③コカイン④ヘロイン⑤アヘン⑥LSD⑦MDA(エクスタシー)などの種類がある。大別すると神経を興奮させ「そう状態」を導く作用を特徴とするものと、神経を抑制し恍惚感や陶酔感を体感するものの2種類だ。LSDなどは合成麻薬とも呼ばれ、化学的に製造される。ケシから製造されるものはヘロインとアヘンだ。末期がん患者には、麻薬・モルヒネで痛みを抑え、苦しみを軽減させる医薬品として麻薬は医薬品として必要なものではあるが。

 中国では、麻薬使用者や麻薬販売に関わる犯罪者への刑法はとても厳しい。2013年に中国広東省広州の空港で、約3.3キログラムの麻薬を所持していた(手荷物から)として逮捕拘束されたのが愛知県稲沢市の市議・桜井琢磨さんだ。逮捕・拘留されて5年後の今年の11月8日、広州市中級法院(地裁)で初めての公判が行われ、無期懲役の実刑判決が下された。公判で「知人から商品サンプル入りのスーツケースを日本に運ぶことを依頼されたが、覚せい剤が入っているとは知らなかった」として、無罪を訴えたが、判決は桜井さんの主張を退けた。現在76歳なので、死刑に相当する判決である。この裁判が正当に行われたものなのかは疑問ではあるが。知人のアフリカ人は逮捕さすでに死刑となっている。

 中国では、50g以上の麻薬を販売したりする犯行の場合の量刑は、懲役15年(実刑)か無期懲役か死刑である。麻薬の販売にはとりわけ極刑だ。インドネシアやマレーシアなども刑罰はかなり厳しいと聞く。関西国際空港などで、チケットカウンターの列の中で、知らない中国人から、「荷物重量が重すぎて困っています。あなたのスーツケースに少し預かってくれませんか。お礼はします。」と頼まれたこともあったが、親切心でもこれは絶対に預かってはいけないことだ。