彦四郎の中国生活

中国滞在記

香港区議選の衝撃❹「香港人権・民主主義法案」の成立―「人権・民主主義・自由」を巡る文明衝突に

2019-12-02 23:12:07 | 滞在記

 11月19日と翌20日に米国上院・下院は「香港人権・民主主義法案」をほぼ全会一致で可決した。(下院のみ反対1) この法案にトランプ大統領が署名すれば法案は成立することとなった。もしトランプ大統領が署名しないと判断しても、再度、米国議会で3分の2以上の賛成があれば法案が成立をすることとなる。はたして、トランプ大統領は署名するかどうかに注目が集まっていた。

 共和党・民主党など米国の国会議員全員が「中国の人権と民主」の問題に対して米国は徹底的に戦うということを表明し、中国に対して強力な警告を発したこととなった。貿易問題での米中対立には「自国ファースト」で熱心に取り組んできたトランプ大統領だが、こと人権や民主主義という問題には関心が薄いとされる。米国議会はこの大統領と中国に対して「人権・民主主義」という近現代の歴史を経て「人類の普遍的価値」として培ってきた価値の大切さを迫ったこととなった。

 中国のインターネット記事やCCTV(中国中央テレビ局)でも、この法案を巡って、「香港各界堅決反対美国公然違反国際法干渉中国内政」(香港の各界はアメリカの国際法的違反の国内政治干渉に断固として反対している)、「渉港法案己到特朗普手里 签不签?特朗普这么説」(香港法案にトランプは はたしてサインするかしないか?)などと報じていた。

 11月27日、トランプ大統領はこの法案についに署名をした。この日の日本のNHK報道では、「トランプ大統領、香港人権法に署名 中国は反発」「香港人権法 人権抑圧に関与の中国当局者への制裁可能に」「議会超党派議員が早期の署名求める声に 書名に踏み切ったか」「中国外務省 北京駐在の米国大使を呼び出し"中国への著しい内政干渉強く抗議するものだ"と」「中国、報復辞さない考え」などと報道された。

 この法案は、香港に高度の自治を認めた、中国政府の「一国二制度」が守られているかどうか、また、香港の人権状況に関して、毎年の検証を米国政府機関に義務付けるとともに、香港の「基本的自由・自治・人権」が損なわれたりした場合、その事態を招いた責任者や当局者、加担した企業などに制裁を科するものだ。

 米中の対立が米中貿易戦争という経済問題のみならず、人権・民主主義・自由という価値観の問題へと、本格的な「人類の普遍的価値観」の問題へと拡大。世界の対立構造が新たなステージに突入した世界情勢となった。価値観や文明を巡る衝突が本格的に展開されることとなった。そしてこれは、台湾問題にもつながっている。

 これに対して、中国当局は28日、「極めて大きな憤りと最も強烈な非難」(駐香港連絡弁公室)を表明するなど強い言葉で米国を非難し、報復措置をとる考えを示した。

 香港区議選挙結果判明から1週間が経過したが、この1週間に香港でもさまざまな動きがあった。日本のテレビ報道では、「民意を真摯に受け止めると25日に語った林鄭月娥長官だったが、その後 普通選挙など他の4つの民主派の要求には応じない従来の方針を強調し、香港市民の多くは「民意をなんら受け止めていない香港政府にうんざりだ」との思いを持つこととなった。

 またその報道では、「期待!米・香港人権法成立―抗議活動に弾み」、「内政干渉で香港をさらに混乱させる行為に断固として反対する(中国国防省報道官)」、「中国側の報復によって貿易交渉が暗礁に乗り上げ 中国経済にさらなる悪影響のおそれ」、「中国、報復措置の内容・発動の時期!慎重に検討か」と報道されていた。

 香港人権民主主義法案の成立を歓迎して、携帯電話のライトを灯して集まる多くの人々。昼休み(※中国では通常2時間ほどの昼休みがある。)時間などを利用したフラッシュモブ(flash mob)が多く行われ始めた。

 このフラッシュモブとは、インターネットや口コミで呼びかけた不特定多数の人々が申し合わせ、雑踏の中の歩行者を装って通りすがり、公共の場に集まり、前触れなく突如としてパフォーマンス(ダンスや演奏や演舞など)を行って、周囲の関心を引いたのち解散する行為だが、ここ香港では、全員が一斉に手を挙げるパフォーマンスを行っていた。「覆面禁止法など」、中国・香港政府の締め付けに対して、さまざまな方法を駆使して対抗しているようだ。

 12月1日(日)、香港では38万人デモが行われた。10月20日の35万人デモ以来の大規模なデモ行動だ。区議会議員選挙での圧勝や香港人権民主主義法案の成立に後押しされるように、再び多くの人々が立ち上がり始めたという印象がする。12月8日(日)には再び大規模なデモが予定されている。

 11月28日、中国外務省副報道局長は「中国政府は、香港に干渉するいかなる外圧にも断固反対し、一国二制度を実行し、国家主権、安全保障、開発利益を守る決意を固めている。米国は独断専行を慎むべきだ。でなければ、中国は断固とした報復措置をとるだろう」とアメリカに警告した。香港に近い中国・珠海付近では中国武装警官や人民解放軍による大規模な対テロ訓練が最近は行われ始めている。

 そして今日の12月2日(月)、中国外務省報道局長は、「深刻な内政干渉に対し 中国側は断固とした態度わ示す」として、米国への第一弾「報復措置」を発表した。内容としては、「米国軍艦船の香港寄港の拒否、米国人権NPO団体への制裁」となっていた。 

 香港からほど近い広東省茂名市で、11月28日・29日の二日間にわたって、公園予定地だった場所に火葬場が建設されることを知った数百人の地元の人々の街頭抗議活動が行われ、これを鎮圧するために警察隊が出動し、衝突、負傷者や約50人が逮捕されたことを日本の産経新聞が伝えていた。(産経新聞インターネット記事)

 記事によると、抗議活動に参加した住民らは、広東省に隣接する香港でのデモスローガン「時代革命(革命の時代だ)」を叫んでいたという。インターネット上には一時、横倒しにされた警察車両や催涙ガスを浴びてせき込む住民らを写した映像が拡散したという。中国当局は香港の混乱が本土に飛び火することを厳戒している。この衝突は中国本土では一切報じらておらず、関連の書き込みなども次々と削除されているようだ。

 11月28日、台湾の「中華民国外交部」(外務省)の欧江安報道官は、「米国の香港人権民主主義法案」の成立を高く評価すると述べ、「自由や民主主義を追求する香港人を支持する決意は不変だ」と述べ、北京と香港の両政府に対し、民意に応えるよう呼びかけ、台湾は自由や民主主義における米国の強いパートナーだとし、香港を応援していく立場を示した。また、台湾の蔡総統は、11月26日、「香港法案」を推進した米国共和党議員2人と面会をしている。

 台湾総統選挙は来年1月11日投開票と、あと1か月余り後に迫っている。現在の世論調査では、民進党の蔡英文氏が国民党の韓氏を一歩リードしているようだが激戦となっている。「自由と民主主義、人権を巡る文明の衝突」の帰趨がかかる重要な選挙であり、中国共産党政府も「中台統一の積年の悲願(核心)」に向けて「大選」という表現をしている。

 香港情勢は今後もさまざまな形での中国政府側の攻勢も続くだろうが、中国政府の中国人民解放軍や武装警官隊のデモ鎮圧への導入がされるとしたら、おそらくこの台湾総統選挙後に動きがある可能性がある。また、中国本土で施行されてい「中国共産党の政策に反対した場合に取り調べや拘束ができる」法律を香港でも施行する動きがあるとすれば、台湾総統選挙以降になるだろう。1月11日までは、台湾の人々の極度の中国政府への警戒心を増幅したくないからだ。