1週間前の11月24日(日)、世界中が注目する中、香港区議会議員選挙が行われた。(午前7時半〜午後10時半)この日の午後8時半頃、中国のインターネット記事には、「午後7時30分時点で投票率が66.5%にも達している(すでに274万人超が投票)、香港での6カ月間にもわたる暴徒・示威の蛮行に”NO!”を示すために多く人民が投票所に足を運び、”暴徒NO!NO民意!!”が集まるか―」という記事があった。この時点では、まさか民主派が80%超の議席を獲得するなど、中国の報道各社(※この日、24日夜には、各紙とも「親中派圧勝」の原稿しか作っていなかったとも言われている。)も中国政府も思いもしていなかったようだ。なぜこのような結果、事態となったのだろうか。
翌日25日の早朝4時に起床して、日本でのインターネット記事やテレビ報道などを〇〇なルートを通じて閲覧・視聴すると、前日の区議会議員選挙の開票の途中結果がかなり入っていた。それによると投票率は71%(前回は47%)、選挙の午前5時の途中結果は、「民主派253議席(90%)、親中派27議席(10%)」となっていて、ようやく香港市民の民意が強烈に そして正式に表れたという印象だった。私も少なからず この中間選挙結果報道には驚いた。
午前8時過ぎにアパートを出て大学の授業に向かう。この日の授業は「日本概況」(3回生)で、この日のテーマは奇(く)しくも「日本の政治体制―政体の日中比較」だった。大学のバスの中で中国のインターネット記事を閲覧する。香港関連の記事・ニュースはとても多いが、選挙結果は投票率以外は、どの記事も議席数に関しては一切の報道がされていなかった。
午前中の「日本概況」の授業を終えて、午後3時ころにアパートに戻って、日本のインターネット記事やテレビ報道などを再び閲覧・視聴した。この日の夜、日本から発信されたニュース等では区議会議員選挙の議席数などの最終結果が報道されていた。ちょうど、日本の安倍首相と会うために来日していた王毅外相は、選挙結果を受けての日本でのインタビューに「何が起ころうと香港は中国の一部、米国の内政介入は絶対許さない」と、議席数結果にはまったく触れずにコメントしていた。この王毅外相のコメントは、「王毅強烈警告!」と、中国のインターネットでも報道されていた。
この日から翌日26日の二日間にかけて、中国のインターネット記事で50以上の香港関係の記事を閲覧したが、どの記事も選挙の議席数にはまったく触れていなかったのには、改めて中国という国家体制下での報道規制のもの凄さに驚かされた。
選挙から一夜あけた25日(月)の午後8時から、日本の報道番組・BSフジ「プライムニュース」(キャスター:反町隆・竹内友佳)を見た。この報道番組は日本の報道番組の中でもかなり優れた番組だ。この日のテーマの一つは「香港区議会選挙―民主派が圧勝」。コメンテーターとして、小野寺五典(元防衛相・自民党安保調査会会長)、富阪聡(拓殖大学教授)、手嶋龍一(外交ジャーナリスト)が出演。それぞれが的確なコメントを述べていて、とても香港時局に関しての参考になった。
他の民放局においてもこの日の夜、「香港問題」に関しての報道がされていた。「この日、香港トップ・林鄭月娥行政長官、”選挙結果を真剣に受け止める”とコメント」「選挙前、民主派120(27%)・親中派293(65%)➡選挙後、民主派385(85%)・親中派59(13%)、投票率71.2%」「林鄭月娥―社会の現状に対する市民の不満が反映された 市民の意見を謙虚に聞き真剣に受け止める」、「王毅外相―香港でいかなることが発生しようとも 香港は中国の一部であり特別行政区だ。香港を混乱させたり発展や繁栄を損なったりする どんなたくらみも達成しない」「香港人権民主主義法案が米議会で可決」「中国政府指導部は 本音はびっくりしているのではないか」「(行政長官の選挙などで)普通選挙させたら親中派が負けることが証明された」などのテレップ(字幕)が。
この日午後9時のNHKの「ニュースウオッチ9」でも選挙結果報道がされていた。この番組は11月11日に、香港市民の間で”喝采”を浴びた日本メディア。同番組は、11月11日、香港の林鄭月娥・行政長官が激化するデモについて「香港を破壊しようとする暴徒たちに厳しく言いたい。あなたたちが政治的な要求を手に入れることは絶対にできない」と厳しい表情で語った会見のもようを放送した。
中国側の主張を報じた内容にもかかわらず、デモ支持派が注目した理由は「字幕」にあった。長官の名前の「娥」が「蛾」と「虫偏」の誤表記なっていたのだ。かって「鉄の女」と言われた彼女を、「蛾」呼ばわりとなる誤表記してしまったのである。報道終盤でキャスターの桑子真帆アナが謝罪したが、香港では意外な大うけの反響となった。「日本の国営放送がよくやってくれた」と話題にも。香港ネットではその後、林鄭氏を蛾のように加工して、殺虫剤を吹きかけるコラージュが出回っているとも伝えられる。(※「娥」は伝説上の女性で、船の航海の安全を空から見守る女神である。中国南部の媽祖教寺院では、船に乗る「七福神」とともに絵馬に描かれている。)
26日(火)の日本の民放テレビの午前中の報道番組。「香港区議選 452争われ 民主派が全議席の80%超獲得し圧勝」「民主派政党トップ―この6カ月間の抗議活動があったからこそ 選挙で市民の意見が爆発的に表れた」「当選したばかりの民主派議員50人余 香港理工大学近くで、構内にとどまっている若者たちを即座に解放するよう訴え」「民主派、政府への圧力強めた形」とのレテレップ(字幕)。
また、26日朝刊の日本の大手各新聞の一面の見出しが紹介されていた。「毎日新聞」―「香港デモ支持民意鮮明―民主派85%圧勝385議席」、産経新聞―「香港民主派圧勝8割超 区議選 行政長官”不満反映”と発言」、「朝日新聞」―「民意強烈 香港区議選 民主派8割超す」など。
新聞の記事では、議席数的には民主派が85%と圧勝だが、香港区議選は「小選挙区制度」のためこのような議席数となったのであり、実際の得票率は、「民主派が57%、親中派が41%」であったことも伝えていた。
選挙後の最終の党派結果として、452議席中、民主派は389議席が確定(87.9%)。一方の親中派は61議席が確定(11.9%)。独立派と言われる区議が2議席(0.05%)となった。投票者数は約294万人(1997年の香港返還後最高の71.2%の得票率)。「議席的には民主派が9割、親中派が1割」で民主派の圧勝となり、中国政府も親中派も「仰天したとも 呆然(ぼうぜん)とした」とも言われる。しかし、「投票率的には、民主派が6割、親中派が4割」と香港市民の世論は2分されているのが実情だ。
著名な親中派の現職政治家、何君嶤氏は、投票日の24日、「投票率が高いのは、最近のデモ隊の暴力事件を受けて、沈黙していた市民たちが目覚めた結果だ」と主張、民主派の暴力に異議を唱える市民たちが投票所に向かった―と強弁していが、現職だった何氏自身、まさかの区議落選をしてしまったのは親中派惨敗の象徴的な出来事として語られている。(※何氏は、7月21日、暴力団構成員とみられる集団がデモ参加者を襲撃した事件の黒幕とも言われ、民主派の人々からは目の仇にされていた。選挙後、何氏は「異常な選挙だった」とコメントした。)6月9日の100万人デモ、6月16日の200万人デモの衝撃に匹敵する今回の香港区議会議員選挙の結果となった。
11月25日(月)、選挙の結果を受けて、さまざまな外国メディアから取材を受けた民主活動家の周庭氏({民主の女神}とも言われるが、中国国内では黄之鋒氏とともに暴徒・凶徒の首領と呼ばれる)は、「これはけっして終わりではない。これからも警察による暴力を解決し、民主主義を実現するために戦わなければならない。民主派がもらった一票一票はすべて市民が流した血だ。たくさんの人が負傷し、暴行され、実弾に撃たれ、亡くなった人もいる。仲間たちのことを忘れずにデモに参加していきたい」と語っていた。
次号は、11月25日(月)〜26日(火)の2日間の「香港」に関する中国国内での報道について記したい。