彦四郎の中国生活

中国滞在記

香港の十年後の未来を描く5つの短編映画「十年」―映画の悪夢、現実に?変わらないでと願う未来

2019-12-04 20:22:53 | 滞在記

 香港で、中国政府などへの抗議行為などを禁じる「国家安全条例」についての議論が再び活発化しそうだ。1月11日の台湾総統選挙後には具体的な提案がされるのではないかと危惧をする。この条例が成立すれば、警察は政府への抗議活動をこれまで以上に容易に取り締まれるようになる。この法案が提案されれば、再び100万人単位の抗議デモが起きる可能性もある。

 香港の英国領事館前で市民がガソリンをかぶり、自らの体に火を放つ―。2015年に香港で大ヒットした香港映画『十年』で描かれた壮絶な場面は今も、多くの香港市民に焼き付いているという。『十年』は、2015年から10年後の2025年の香港を舞台に、中国による統制が強まった社会を描く5本のオムニバス(短編集)で構成されている。「焼身自殺者」はその一つ。香港独立を主張する青年が国家安全条例違反で逮捕されたことに抗議して、市民が焼身自殺するというストーリーだ。『十年』は中国本土では上映禁止となったが、香港版アカデミー賞とも言われる「香港電影金像奨」で最優秀作品賞を受賞した。

 香港の5人の若手監督がメガホンをとり、総製作費約750万円の自主製作映画としてわずか1館で公開されたものの、口コミで人気を集め、上映館を香港全域に拡大したという短編映画集。日本では2017年に公開された。私は、インターネットを通じて予告編を見ただけなのだが、本編をぜひ見てみたいと思っている。

 普通話(標準語)の中国語習得が必須となった香港のタクシー運転手の奮闘を描く「方言」。小学生を連れた母親の乗客が、「広東語を使わないで!」と運転手に釘をさす場面が…。そして前述の「焼身自殺者」。

 香港産の卵を売る青年を描いた「地元産の卵」。その卵の売り場に書かれた”香港地元産卵”という文字を見た小学生が言う「地元産という言葉がダメなんだよ」という場面。終末世界の香港で失われていくものを黙々と標本にし続ける男女を描く「冬のセミ」。労働節の集会で騒ぎを起こすよう命じられたチンピラ2人組を描いた「エキストラ」。以上の5話で構成されている『十年』。「変わりゆく現実と、変わらないと願う未来」をメッセージとした映画でもあるようだ。

 香港という地区の歴史や文化や言語に対して国家が規制をして一つの文化圏を消滅させることなども描かれているようだが、現在、中国の新疆ウイグル自治区で起きていること(100万人の拘束施設収容、言語や文化への規制とウイグル族・文化圏の漢民族化政策)を考えると、香港でも現実味を帯び始めている感がする。

 11月上旬に、中国共産党の重要会議、第19期中央委員会第4回総会(4中総)が公表した決定で、香港に「国家安全を守る法制度と執行の仕組みを確立する」と明記した。これは、中国本土と同じように、香港に「国家安全法」を制定させるという意志を強く打ち出したものだ。

 香港で大ヒットした『十年』の日本版として、10年後の日本を題材に、5人の若手監督がメガホンをとったオムニバス映画が『十年 Ten Years  Japan』。2018年に公開された。プロデュースは是枝裕和監督。「高齢化と安楽死」、「デジタル社会」、「原発」、「AI教育」、「徴兵制」などがテーマとなった5作品だ。