MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

お知らせ

来月からこのサイトをMITIS(水野通訳翻訳研究所)ブログに変更します。研究所の活動内容は、研究会開催、公開講演会等の開催、出版活動(年報やOccasional Papers等)を予定しています。研究所のウェブサイトは別になります。詳しくは徐々にお知らせしていきます。

『同時通訳の理論:認知的制約と訳出方略』(朝日出版社)。詳しくはこちらをごらん下さい。

『日本の翻訳論』(法政大学出版局)。詳しくはこちらをごらん下さい。

Facebookはこちらです。

描き直しはなかった

2008年07月25日 | 翻訳研究

エントリーがひとつ飛んでしまったが、それにしてもHouseの立論は破綻しているのではないだろうか。翻訳的普遍がないといった後で、あるようなことを言っている矛盾については、言語的普遍の一部として翻訳的普遍なのであろうと好意的に解釈してみるにしても、肝心の「翻訳的普遍は言語的普遍universals of languageが翻訳に適用されたものである」という主張の説明がないし、そもそもどう説明するのだろうか。言語的普遍は最も一般的な言い方をすれば、すべての言語に共通に見られる現象のことである。他方、翻訳的普遍はすべての翻訳に共通して見られる現象のことであろう。Houseの論理では前者から後者を導き出さなければならないはずである。そこがどうも分からないのである。

 

16日にちょっと触れた『うる星やつら』の北米版翻訳 (Rumiko, Takahashi (1989). Lum: Urusei-Yatsura 1, (translated by Gerard Jones and Satoru Fujii), San Francisco: VIZ Communications) であるが、今日届いたのでさっそく見てみた。その前にRota論文の該当箇所を見ておこう。
In the very first episode of this series Ataru, one of the main characters, is scared by the sudden appearance of an oni, a traditional Japanese demon. In the Japanese tradition, oni are kept away by beans, just as garlic is said to keep away vampires in Western folklore. Ataru throws a handful of beans in the face of the oni, in an attempt to chase it away. In the US translation of the comic, however, the beans were re-drawn and replaced with candies, and the oni was turned into a monstrous Halloween mask: Ataru, then, in the US version simply tries to use candies to keep away a more familiar (for the American public) Halloween-masked character. (89-90)
はっきりre-drawnと書いてあり、translated as (into)... ではない。ところが、比べれば分かるように、絵は描き直されていない。豆はどう見ても豆のままだし、鬼もハロウィーンのマスクにはなっていない。書き直されたのはあたるの「お、鬼は~外~!!」のせりふの方で、「WAIT! I GET IT! TRICK OR TREAT, RIGHT?」「OKAY, HERE! CANDY! CANDY!」となっている。英語版であたるの2番目のせりふが入っているふきだしは日本語版では「鬼」=ラムの父親の「いやや!あんさん…」というせりふが入っている。(なお、ごらんのようにこの父親は関西弁であるが、特に翻訳で工夫してはいない。)よく見るとそのふきだしには話者を示す出っ張りが2つある。ひとつ消し忘れてしまったようである。確かにdomesticateされてはいるが、それは絵ではなくせりふ(言語表現)の方である。Rotaがなぜこう書いたのかは分からない。現物を見ていないということは考えられないから単なる勘違いかもしれない。(英語版のversionやeditionが違うということもありえない。間違いなく同じものなのである。)
という報告なのだが、他にもこの翻訳、いろんなことをやっていて、実際、絵にも手を加えていたりするのである。たとえば日本語版ではちゃんと描いてある女性の体の一部を消してしまったり。このあたりも性表現に関する規範の違いが見えて面白い。時間があればさらに詳しく検討してみたい。


ニュース3つ

2008年07月25日 | 雑想

10月17-18日にポルトガルのリスボンでTRADULINGUAS International Translation Conference on Health Sciencesという会議が行われます。通訳のセッションもあるようです。興味のある人は直接サイトをご覧下さい。より詳しいプログラムなどはこちら

7割の人が「憮然=腹立て」と誤用、文化庁の国語世論調査。 文化庁のサイトではまだ要点しか発表していないようだ。 毎年やっている調査で、たいしたものではない。「さわり」「煮詰まる」「檄を飛ばす」「琴線に触れる」などの誤用の調査もしている。「檄を飛ばす」が意外に正用率が高い。こういうものは使った方が勝ちという側面があって、最近は目くじらを立てても仕方がないと思うようになった。やがて誤用が正用になるものもあるだろう。ただその途中の期間は、どちらを使うかで教養の程度が判断されたりもするから、とりあえず「正しい」ほうを使っておいた方がいい。あとは個人的好悪の問題か。「真逆」とか「地頭」とかは何とかしてほしいが。

しかし今日は、また余計なことを…と思うニュースもある。マイクロソフトが自社製品やサービスに使っている外来語やカタカナ用語末尾の長音表記を変更することにしたというのである。 「ブラウザ」は「ブラウザー」、「プリンタ」は「プリンター」にするという。この変更によって、用語が「より身近に感じられる」ようになるというのだが、これは他社やこういう用語を使うコミュニティの追随がなければ無理だろう。もうほとんど定着してしまっているから、パラメータをパラメーターとは誰もしないと思うが。詳しくはマイクロソフト社のサイトを参照。