MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

お知らせ

来月からこのサイトをMITIS(水野通訳翻訳研究所)ブログに変更します。研究所の活動内容は、研究会開催、公開講演会等の開催、出版活動(年報やOccasional Papers等)を予定しています。研究所のウェブサイトは別になります。詳しくは徐々にお知らせしていきます。

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『日本の翻訳論』(法政大学出版局)。詳しくはこちらをごらん下さい。

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3つの邦訳

2005年06月22日 | 翻訳研究

これは橋本福夫訳・J.D.サリンガー『危険な年齢』の表紙。著者名、タイトルからはわかりにくいが、サリンジャーのThe Catcher in the Ryeの初の邦訳なのだ。原著は朝鮮戦争のさなか、1951年の発行だが、橋本訳は早くもその翌年に出ている。その13年後の1964年に野崎孝訳『ライ麦畑でつかまえて』が出て、名訳としての評価を得て広く読まれた。そして約40年後の2003年に村上春樹訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』が出版される。橋本訳からは半世紀以上経過しているわけだ。
村上訳についてはAmazonの読者書評でも圧倒的な支持があるようだが、これが果たして翻訳評価につながるかどうかは疑問符をつけたいところがある。支持している読者はただ「村上春樹」を読んでいるだけなんじゃないか、と思うからだ。(それに、なぜ今新訳なのか?という疑問は村上春樹のあちこちでの説明にもかかわらず、残る。)受容する側はそれでいいのだが、それでは翻訳の評価にはならない。翻訳研究の手法で多面的に比較分析する必要があると思う。切り口は、訳語、罵倒語、個人語ideolect、modal particle、ノームなど、いろいろ考えられる。先行研究は、すでにスエーデン語訳やポルトガル語訳などについていくつかある。しかし半世紀にわたって3つの翻訳があるのはおそらく日本語だけだろう。(もちろん古典の翻訳は事情が異なる。)ほんの2ページほどチェックしてみた。見にくいかもしれないが、左が橋本訳、真ん中が野崎訳、右が村上訳だ。

鳥打帽子  ハンチング  ハンティング帽
耳垂れ  耳あて  耳あて
手袋をくすねた  手袋をかっぱらった  手袋をかっぱらった
押入れ  押入れ  クローゼット
おりやそんな物はいらん  おれは用はねえや  そんなもの俺はいらないんだからさ
一撃くれてやるべき  一発くらわす  がつんと一発くらわして
きもつたま  度胸  ガッツ
ぬすつと  ぬすっと  こそ泥
 × この汚らしいゲジゲジ野郎め  この薄汚ねえこそ泥野郎が!
決着させよう  かたをつけようじゃねえか  話をはっきりさせようぜ
愉快なことじゃないよ  イカさないもんさ  愉快なことじゃないんだよ
一向むとんちゃく  あんまり気にしないんだな  そんなに気にしない
カンカンに怒らせた  怒らしたもんさ  逆上させた
かもしれん  かもしれない  かもしれない
やつてのけるべきだ  ぜひそれをやるべきだよ  そうするべきなんだ
グデングデンに酔っぱらった  めちゃくちゃに酔っぱらった  ひどい酔っぱらい