MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

お知らせ

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『同時通訳の理論:認知的制約と訳出方略』(朝日出版社)。詳しくはこちらをごらん下さい。

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Hirschの読解力向上論

2005年02月27日 | Weblog
面接試験(口頭試問)の最中なのだが、なぜか時間ができたので書いておきます。

あのE.D. Hirsch, Jr.が面白いエッセーを書いている。
Reading Comprehension Requires Knowledge - of Words and the World (American Educators, Spring 2003)
アメリカではthe Fourth-Grade Slumpという現象があるという。これは3年生から4年生になると、低所得層の生徒の読解力が急に低下することをいう。Hirschはこの問題に対応するためにはこれまでのようなformal comprehension strategies、つまり予想したり、分類したり、メインアイディアを探すといった方略では不十分であり、語彙と(背景)知識の増強をとりいれるべきだと主張している。これは有名なCultural Literacy以来の主張だが、面白いのはその裏付けのために援用されている認知心理学的な議論だ。

 彼は生徒たちの読解力を向上させるためには少なくとも3つの原則があると言う。一つは「流暢さ」fluencyである。(読みが)流暢であれば生徒は理解に集中できる。第二は「幅広い語彙力」。語彙力は理解を促進しさらなる学習を容易にする。第三は「ある分野の知識」domain knowledgeである。これが流暢さを向上させ、語彙を拡張し、より深い理解を可能にする。結局三番目のdomain knowledgeが論理的にも時間的にも最初に来ることになる。もちろんいきなり知識を与えるわけではなく、initial decoding instruction(文法的説明のことだろう)が必要になる。

 彼のこの議論の基礎になっている主要な概念はワーキング・メモリと「自動化」である。知識→語彙→流暢さという流れで、最後の流暢さとは「自動化」とほぼ同義になっている。玉井さんのシャドーイング研究のキーである構音速度仮説も一種の自動化と考えられなくもないから、このあたりに何か面白い可能性があるような気がする。

 Hirschの議論に問題がないわけではない。一つは読解と聴解の関係がよく分からないこと、もう一つは依拠している知見がやや古い(たとえばMillerのMagincal Number Sevenなどをまだ使っている)ことである。しかしこれは大きな瑕疵とは言えない。このエッセーはもちろんアメリカの小学生のことを書いているのだが、第二言語習得にも参考になると思う。

翻訳論の新刊が出るようだ。
安西徹雄・井上健・小林章夫(編)『翻訳を学ぶ人のために』(世界思想社)
柳父章も1章書いている。