(以下、読売新聞から転載)
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聴覚障害者の権利保護
「手話は言語」認知 法で
手話を正式な「言語」と位置づける手話言語条例を鳥取県が10月、全国で初めて制定したのに続き、北海道石狩市も12月議会に提案する。
手話に対する無理解は日常の様々な場面で見られ、「国でも手話言語法を」とする聴覚障害者らの願いにどう応えるべきか。
鳥取県は元々、障害者が困っている時に手助けを行う県民運動を展開、「福祉先進県」を掲げる。条例は1月、大学時代に手話通訳を経験した平井伸治知事に全日本ろうあ連盟の聴覚障害者らが陳情したのを機にトップダウンで進んだ。
条例の柱は〈1〉手話は「独自の言語体系を有する文化的所産」と意義づける〈2〉県と市町村は手話を使いやすい環境を整備する責務を持つ〈3〉聴覚障害児が通う学校は学習機会の提供に努める〈4〉聴覚障害者が働きやすくする事業者の取り組みに県は支援する――など。県は知事に意見を述べる施策推進協議会を設け、小中学校で手話教育に乗り出す。
「世の中の先を行く条例」とする平井知事は8日の全国知事会議で手話言語法も提案。安倍首相は「せっかくのご提案。考えて参りたい」と手話を交えて答えた。条例制定を検討する自治体も数か所出てきて、波及効果が見える。
条例の前文には、相手の唇の動きから言葉を読み取る口話法がかつて世界的に支持され、戦前に国内のろう学校で手話が締め出された歴史も記された。口話法の妨げになるとの長年の偏見から、ろう学校で手話で教えられる教師は少なく、聴覚障害者で手話を使う人は2割程度とされる。公的資格の手話通訳士も手話を使う障害者17人に1人の3000余人しかいない。
ろうあ連盟は全国調査で手話を巡る「差別事例」1214件を把握している。▽完全看護の病院なのに手話を看護師がわからず、家族が泊まりの付き添いを求められた▽ろう者夫婦とわかったら、不動産屋に物件を1件も紹介されなかった▽警察に突然、家宅捜査された時、頼んでも手話通訳をつけてくれなかった――などだ。特に東日本大震災では、避難の呼びかけや防災無線が聞こえず、逃げ遅れた聴覚障害者が少なくなかった。避難した人も携帯電話の不通で孤立した。
「緊急時には命にかかわる。手話を『言語』と認められない限り、聴覚障害児が学ぶ場も広がらない」。ろうあ連盟の西滝憲彦理事は手話言語法を求める理由を話す。連盟は21条の独自の法案を策定。22日、東京で平井知事や田岡克介石狩市長、国会議員らの参加でパネルディスカッションを行い、理解を広げる。
手話を法的に言語と認めるのは国際的には突飛ではない。2006年に国連で採択された障害者権利条約で、障害者に保障するコミュニケーションとしての言語に手話を含めた。多言語国家を中心に憲法で言語と認知したり、手話言語法を制定したりする国が増加。1995年に憲法を改正したフィンランドは無料・時間無制限で手話通訳を利用できる権利を定めている。
今国会中に障害者権利条約批准を目指す政府は、11年に改正した障害者基本法で「全て障害者は可能な限り、言語(手話を含む)その他の意思疎通のための手段の選択の機会が確保される」と定めた。だが、具体的な施策はこれからだ。
内閣府や厚生労働省、文部科学省は、条例を「先進的な取り組み」と評価しつつ、手話言語法には「施策を一歩一歩積み上げるのが先」とする。「手話通訳者を備えられない企業が法の制約を恐れ、聴覚障害者の雇用を控えれば元も子もない」との見方もする。
一足飛びに手話言語法といかずとも手をこまぬいてはいられない。手話だけでなく、点字や通信機器など障害者の情報アクセスを確保するには何をすべきか。障害者の声に耳を傾けるのが条約の理念にかなう。
(2013年11月19日 読売新聞)
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聴覚障害者の権利保護
「手話は言語」認知 法で
手話を正式な「言語」と位置づける手話言語条例を鳥取県が10月、全国で初めて制定したのに続き、北海道石狩市も12月議会に提案する。
手話に対する無理解は日常の様々な場面で見られ、「国でも手話言語法を」とする聴覚障害者らの願いにどう応えるべきか。
鳥取県は元々、障害者が困っている時に手助けを行う県民運動を展開、「福祉先進県」を掲げる。条例は1月、大学時代に手話通訳を経験した平井伸治知事に全日本ろうあ連盟の聴覚障害者らが陳情したのを機にトップダウンで進んだ。
条例の柱は〈1〉手話は「独自の言語体系を有する文化的所産」と意義づける〈2〉県と市町村は手話を使いやすい環境を整備する責務を持つ〈3〉聴覚障害児が通う学校は学習機会の提供に努める〈4〉聴覚障害者が働きやすくする事業者の取り組みに県は支援する――など。県は知事に意見を述べる施策推進協議会を設け、小中学校で手話教育に乗り出す。
「世の中の先を行く条例」とする平井知事は8日の全国知事会議で手話言語法も提案。安倍首相は「せっかくのご提案。考えて参りたい」と手話を交えて答えた。条例制定を検討する自治体も数か所出てきて、波及効果が見える。
条例の前文には、相手の唇の動きから言葉を読み取る口話法がかつて世界的に支持され、戦前に国内のろう学校で手話が締め出された歴史も記された。口話法の妨げになるとの長年の偏見から、ろう学校で手話で教えられる教師は少なく、聴覚障害者で手話を使う人は2割程度とされる。公的資格の手話通訳士も手話を使う障害者17人に1人の3000余人しかいない。
ろうあ連盟は全国調査で手話を巡る「差別事例」1214件を把握している。▽完全看護の病院なのに手話を看護師がわからず、家族が泊まりの付き添いを求められた▽ろう者夫婦とわかったら、不動産屋に物件を1件も紹介されなかった▽警察に突然、家宅捜査された時、頼んでも手話通訳をつけてくれなかった――などだ。特に東日本大震災では、避難の呼びかけや防災無線が聞こえず、逃げ遅れた聴覚障害者が少なくなかった。避難した人も携帯電話の不通で孤立した。
「緊急時には命にかかわる。手話を『言語』と認められない限り、聴覚障害児が学ぶ場も広がらない」。ろうあ連盟の西滝憲彦理事は手話言語法を求める理由を話す。連盟は21条の独自の法案を策定。22日、東京で平井知事や田岡克介石狩市長、国会議員らの参加でパネルディスカッションを行い、理解を広げる。
手話を法的に言語と認めるのは国際的には突飛ではない。2006年に国連で採択された障害者権利条約で、障害者に保障するコミュニケーションとしての言語に手話を含めた。多言語国家を中心に憲法で言語と認知したり、手話言語法を制定したりする国が増加。1995年に憲法を改正したフィンランドは無料・時間無制限で手話通訳を利用できる権利を定めている。
今国会中に障害者権利条約批准を目指す政府は、11年に改正した障害者基本法で「全て障害者は可能な限り、言語(手話を含む)その他の意思疎通のための手段の選択の機会が確保される」と定めた。だが、具体的な施策はこれからだ。
内閣府や厚生労働省、文部科学省は、条例を「先進的な取り組み」と評価しつつ、手話言語法には「施策を一歩一歩積み上げるのが先」とする。「手話通訳者を備えられない企業が法の制約を恐れ、聴覚障害者の雇用を控えれば元も子もない」との見方もする。
一足飛びに手話言語法といかずとも手をこまぬいてはいられない。手話だけでなく、点字や通信機器など障害者の情報アクセスを確保するには何をすべきか。障害者の声に耳を傾けるのが条約の理念にかなう。
(2013年11月19日 読売新聞)
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